第5話

陽菜ちゃんとあたしの差は、それだけじゃない。



陽菜ちゃんは幼稚園のころから男の子にすごく人気で、いつも何人かに取り囲まれていた。



そんな陽菜ちゃんは女の子からも人気で、たとえクラスの王子様みたいな男の子と一緒にいても『陽菜ちゃんなら似合うよね』と、みんなからうらやましがれる存在だった。



あたしにとって、そんな陽菜ちゃんは自慢のお姉ちゃん。



時々、どうして陽菜ちゃんばっかり?



と、思ったりもしたけれど、妹のあたしにもすごく優しい陽菜ちゃんはやっぱりみんなのアイドルなんだと思った。



豚肉を炒めてすり下ろしたショウガを絡めていると、陽菜ちゃんがお風呂から出てきた。



「今日はバイト早かったのね?」



あたしの隣でキャベツを千切りにし始める陽菜ちゃん。



「今日、早退しちゃった」



「だと思った」



「わかってたの?」



「お風呂のお湯がちょっと冷めてたからね」



陽菜ちゃんの言葉に、あたしは無言になってしまった。



やっぱり、陽菜ちゃんには隠し事はできないみたいだ。



「バイト先で何かあった?」



「……言っても、信じてくれないもん」



「言う前から決めつけれらちゃうなんて、お姉ちゃん悲しいな」



そう言って、陽菜ちゃんはちチラッとあたしを見た。



おいしそうなショウガ焼きの匂いがしてきて、あたしは火を止めた。



「言わなきゃだめ?」



「そうね」



「笑わない?」



「誓う」



あたしもチラッと陽菜ちゃんを見てそして口を開いた。



「陽菜ちゃん、妖精って信じる?」



「え?」



あたしの口から発せられた予想外の単語に、陽菜ちゃんが包丁を持つ手を止めた。



「小さな妖精が、いたの」



「どこに?」



「レジの中」



そう答えると、陽菜ちゃんはキョトンとした顔をして、それから柔らかく微笑んだ。



「そっか。レジに妖精がいたんだ?」



また、トントンと心地よい包丁の音が響きだす。



あたしは戸棚からお皿を取り出しながら「そうなんだよね」と、答えた。



「で、それが原因で早退?」



「うん。きっと疲れてるんだよね。それで、幻覚が見えたのかも」



「そう? 本当にいたのかもしれないよ、妖精」



「陽菜ちゃん、あたしの言ったこと信じてるの?」



「『言っても信じてくれないもん』って仏頂面してたのは誰? 別に、妖精がいたっていいと思うけど?」



それはそうだけど。



そんなにアッサリ受け入れられると、なんだか拍子抜けというか。



それなら、笑ってくれたほうがマシだったかも。



「スープ作るから、盛りつけてね」



「はぁい」



明日は変な妖精が見えなければいいな。



そんなことを思いながら、あたしは晩御飯の準備をすすめたのだった。

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