第4話

結局、その後早退させてもらったあたしは家に帰ってすぐお風呂に入る準備をした。



ゆっくり暖かいお風呂に入れば、きっと疲れも取れるはず。



早めに休憩を切り上げてレジに入ってくれた和心は、レジの中を見ても普段と変わらない様子で、あたしには見えているイケメンが見えていないようだった。



「でも、あの妖精かっこよかったなぁ」



美影と名乗った小さな妖精を思い出し、クスッと笑う。



やっぱり、疲れがたまっていたから自分の願望というか、欲望がそのままの姿になって現れたんだろうか?



普段からイケメンと関わることなんてめったにないから、衝撃的な出会いを期待していた部分はある。



きっと、それがあんな形で現れたんだ。



「あんなイケメンがレジの中にいたら、バイト毎日頑張っちゃうしねぇ」



ごろんっとソファに寝転んでそうつぶやく。



そのまま真っ白な天井を見上げていると、徐々に睡魔に襲われてきた。



そっと目を閉じると、ちょうどお風呂のお湯がたまったと知らせるアラームが鳴り出した。



でも、あたしは起きなかった。



お湯は勝手に止まるし、せっかくの睡魔を逃したくなかった。



「おやすみ、美影」



夢と現実のはざま、あたしは小さくつぶやいた……。


☆☆☆


玄関を開ける鍵の音で目が覚めた。



まだ寝たりないのか体が重たく、ごろんと寝がえりをうったら見事にソファから落ちてしまった。



「いたっ!」



落ちた拍子にテーブルにぶつけた足を抑えて、ようやくしっかり目がさめた。



壁掛けの丸い時計に目をやると、時刻は夕方5時。



昼過ぎに帰ってからすっと寝てしまったらしい。



「ただい……あんた、なにやってんの?」



会社から帰ってきた2つ年上の陽菜(ヒナ)お姉ちゃんが、床に転がっているあたしを見下ろした。



「お……かえりぃ……」



あははっと照れ笑いをすると、陽菜ちゃんはけげんそうな表情で首をかしげた。



「あんた、晩御飯の準備は?」



つぎにそう言われ、あたしは慌てて起き上がる。



「寝てたから、なにもしてない」



と、素直に言いながらリビングとつながっているキッチンの冷蔵庫を開ける。



いつも、帰宅が一番早い人か、休みの人が晩御飯の準備をすることになっている。



「お風呂のお湯はたまっているのね? 先に汗を流してくるから、適当に作っていて? あとで手伝う」



「うん、ありがとう」



答えながら、あたしは冷蔵庫から豚肉とショウガを取り出した。



陽菜ちゃんはあたしよりもずっとしっかり者で、高校卒業前にちゃんと就職も決めていた。



そんな陽菜ちゃんを見ていたから、あたしも当然陽菜ちゃんと同じように就職できるものだと思っていた。



だけど、現実は違った。



学力や生活態度の差はもちろん、就職難という最大の壁があたしの前には立ちはだかっていたんだ。

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