第3話

そう決めて、まだ何か言いたそうな美影をそのままに、レジを閉めた。



休憩室にいる角中和心(カドナカ ワコ)を呼びに行こうとしたとき、自動ドアが開いて中年男性の客が入ってきた。



あたしはしぶしぶ「いらっしゃいませぇ……」と、覇気のない声を出す。



今の時間は昼過ぎだからお客さんのピークは抜けているのだけれど、時々思い出したように買い物に来る。



そのサラリーマンは少し遅いお昼らしく、ガラガラになってしまったお弁当の棚の前に立って小さく舌打ちをした。



こちらに顔をむけて、なにか文句を言いたそうな表情を浮かべる。



そんなことをされても、商品が届く時間は決まっているからあたしにはどうしようもない。



いくら睨みつけたって増えることのない商品棚を睨んだあと、サラリーマンはおにぎりとお茶を持ってレジへやってきた。



「あ、いらっしゃいま……」



「フライドチキンとポテト」



あたしの言葉をさえぎり、レジ隣のホットケースをゆびさしてそう言った。



無愛想で、不機嫌なお客さん……。



苦手だなぁ……。



そう思いながら、言われた商品を取り出す。



「ポイントカードはお持ちですか?」



マニュアル通り尋ねると、サラリーマンはカードをレジの上に投げてよこした。



カードをスキャン後、商品バーコードをスキャンしていく。



コンビニ内の狭い空間に、サラリーマンが持ってきた重たい雰囲気が充満し、息がつまる。



「480円です」



蚊の鳴く声で言うと、サラリーマンはキャッシュトレイを無視し、500円玉をあたしに投げ

てよこした。



小銭は勢いよくカウンターを乗り越え、あたしの手をすりぬけて音を立てて床に落ちた。



「あっ」



と、慌ててしゃがみ込んで拾おうとするが、床に落ちた500円玉はそのまま転がり、カウンターの下に入り込んでしまった。



狭い隙間に手を入れてみるけれど、とても届きそうにない。



「すみません、500円玉が落ちてしまって……」



そう言いながら立ちあがると、そこにはもうサラリーマンの姿がなく、駐車場から車が遠ざかる音だけが聞こえてきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る