風に乗るように軽やかに空を滑っていくフローライトのホウキの横で、よたよたとミミズののたくったように辛うじて進んでいくユリーカのホウキ。

「おわっ!」

 たまにホウキを中心に、くるりと1回転半する。つまりぶら下がる。

「落ちたら危ないわよ~」

「わかっとります~~」

 すいーっと円を描くように先行しては戻ってくるフローライトに、ユリーカは何やら既視感を覚える。そうだ、小さい頃スケートで、こんな光景見たことある。こっちは初心者で一歩進んじゃあコケるもんで、へっぴり腰のよちよちなのに、やたら上手い人がこんな感じでくるんくるん回ってたっけ。

「ユリーカちゃんね、最低でも 30Km/h くらいで走ってくれないと」

「教習車ですかい」


「気持ちいいわね~~」

 良く晴れた空。青空の下、白い雲の上。風を切って進むホウキ。

 気持ちいいと言えば気持ちいい。ただ。

「暑い」

「まあ、夏よね」

「サングラス欲しいっす」

「目にはちょっと悪いかしらね」

「紫外線浴びまくりっすよ」

 暑いはずだよ、雲の上なんだもん。

 場所から考えると、この辺りは寒いはずだ。しかし暑い。というか熱い。直射日光バリバリなんだから。

 遠くに、飛行機が飛んでるのが見える。フローライトは、スマホで何かを話している。

「どこに掛けてるんすか?」

「管制塔よ」

 管制塔?

「ホウキ飛行も、プライベートジェットと同じ扱いなの。届け出とか通信とか。ホウキ飛行の間、繋いでおかなきゃいけないの」

「つーことは、レーダーには?」

「専用のレーダーがあるの。飛行機とぶつかったら、お互い危ないものね~」

 ホウキにぶつかって大惨事は避けたいよね。


「ほら、そろそろ見えたわよ」

 青い空に、細長い白い雲が、何本も伸びていた。言われてみれば、龍に見えなくもない。よく見ると、頭らしきものが見える気がする。

「こんにちは。ご機嫌いかが」

 フローライトが声を掛けると、雲の中にぱちりと目が開いた。ユリーカに声は聞こえなかったが、ご機嫌は悪くなさそうだった。

「こんな風に、雲の中にはいっぱい隠れてるの」

「へえ~~」

 こっちは龍、あっちは天使だ。慣れると幾つも見つけられる。

「どこに言ってるんですかね」

「さあ。それは分からないわ」


「そういえばね。雲には宝物も隠れてるのよ」

「ほわ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る