魔女と世界の隠し事

紫風

魔女

 空には、竜が隠れている。

 空には、天使が隠れている。

 空には、鳳凰が隠れている。


 そして、空には、宝物が隠れている。


「スピリットアニマルというのよ」

「へえ?」

 見習い魔女・ユリーカは、師匠の万能魔女・フローライトを見上げた。

 日課の薬草摘みで地面ばっかり見ていたユリーカに、夏の青い空を背景に立っている師匠は眩しかった。願わくば、もうちょっとお日様からはずれた位置か完全に太陽のレーザービームを遮る場所に立ってほしい。

「スピリットアニマルってなんすか?」

 人間がロボットを作り、人工知能を作り、空を飛行機が飛んでドローンが飛んでいく、地球の西暦2021年にだって、片隅に魔女くらい居る。

 文明なんてそんなもんだ。科学だって世界の全てを解き明かしてなんぞいない。

 魔女だって居ていいだろう。

 少なくとも、ふと思い立ったユリーカが、万能魔女・フローライトを探し出して、弟子入りを申し込んで受理されるくらいには。

「スピリットアニマルっていうのはね、竜とかユニコーンとか、普通の人には目に見えない動物のことよ」

 ユリーカはポケットからスマホを取り出して、『スピリットアニマル』を検索した。ブラウザには、セレブが自分の守護獣とか、自分の例えでスピリットアニマルが狼だのペットの犬だのカラスだのと言っている。

 ユリーカはブラウザを、無言でフローライトに見せた。

「ちょっと違うのよねぇ……」

 フローライトいわく、龍とかユニコーンとかの、普通の人間の目には見えないけれど存在する、エネルギー体のことなのだそうだ。

「雲の中とかによく居るわよ」

「うへぇぁ?」

「………ユリーカちゃん、そんな声出さないのよ」

 お行儀が悪いわねぇと言いながら、手をひらめかせたフローライトは、その手に大きなつばのとんがり帽子をつまんで、頭に載せた。

「じゃあ見に行きましょう」

 フローライトは、これまたいつの間にか握っていたホウキの柄で空を指した。

「あ、ちょっと待ってください」

「なぁに?」

「薬草置いてきます」

「その現実的な思考、嫌いじゃないわ」

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