(6)
「おや、デュマスくん。隊長自ら僕の勧誘に?」
笑うしかない。
「いや、君と同じさ。俺は浪人中だよ。それで剣を抜くのかな。えーっと天の川の渡し船だっけ」
「その煽りも久しぶりだな。名刀天之浮橋さ」
「先生、その名刀とやらで早く切ってください。お知り合いでも、契約優先でお願いしますぜ」
オウムくん、いたんだ。
「契約は僕が王国一の使い手ってことでされたろう」
「そうです。ですから負ける者なしなんでしょう」
「僕が十ならデュマスくんは九と少しだな」
結構評価が高いな。
「では、バッサリと」
「親分は勘違いをしている」
「何がです」
「デュマスくんは魔法使いなんだ」
「え?」
「後ろで固唾を飲んでいる子どもたちがいなければ、この街は消えクレーターになったと思うな」
ハガードが手を振ると子どもたちもおずおず返す。
少しは丸くなったのかな。
「先生の居合なら。先手必勝ですぞ」
「やるなら、相手するぞ。ハガード」
「一度で十分だよ。ところで金貨十枚で僕を雇わないかい。一日契約で」
「あの親分とやらは一日十枚だしたのか?」
「いや、十日ごとに」
「高いじゃないか」
「酒と女は無料だった」
付きまとわれる方が面倒そうだ。
「だすよ」
金を渡すとさっそく交渉が始まる。
「さて、親分。金貨十枚を返す。俺はただ酒で得、親分は命拾いし得、デュマスくんは面倒事を避けることができて得。三方丸く収まったわけだ。ほら」
俺の負担が過大な気がする。
親分は受け取りながら、
「本当に出ていくんだな。先生も、あの二人も」
「責任持って連れ出すよ」
「それで、子分の治療費の」
「じゃまなら止めを刺していこうか」
「もう良い。とっとと出ていけ」
「なんだかつれなくないか」
三文芝居にあきたのでゲールに合流する。
ゲールは子どもたちにお菓子や安価なおもちゃを配っていた。
初めての街ではおまけで子供を集めておとぎ話をし、商売を始めるのをセオリーにしているそうだ。
「ゲール、行くぞ」
「はい。でも」
ここに、現金はない。
「予定より遅れているからな」
「はい」
「強くなるのはどうしたら良いですか」
八人いる子どもたちの最年長の女の子、ハガード登場で一番心配そうな顔をしていた子だ。
「王都の道場で修行するのが近道だな」
「でも、お金が……」
「まず金を稼げばいい」
「えー」
サドルバッグから特殊な魔木製カードをだし、署名を入れた。
「君の名前は」
不思議そうにカードを見ながら、
「ユナ、ユナレイ」
名前を入れてわたす。
「握って魔力を流せ。それで登録が終わる。一度だけ使える通行手形だ。王都のガレキ問屋街のラカノン・クライン商会を訪ねろ。もう一人だれか」
ユナの横にずっといた娘が手を上げたので同じことを繰り返す。
「親の許可と街の長の推薦ももらえるならもらっておけ」
他の六人は少し不安そうにしていた。
「まず二人が頑張れ。そうすれば次の二人が行く。手続きは店の主人がしてくれる。言っておくが王都の暮らしは大変だぞ」
気合を入れてやろうと思ったが、ゲールが裏切った。
「王都には美味しいお菓子や面白いものがいっぱいあるよ」
皆の顔が輝いたところを見るとゲールが正解なのかもしれない。
「親分」
「ヒィ! なんだよ。旦那」
「この金貨五枚は路銀だ。自宅には持って行けないだろうから預ける。街を出る時、小銭で渡してやってほしい。言っておくが」
「ネコババなんてしねえよ。黒森の熊が約束する」
「また来るからな」
「ヒィー」
街を出るまで口を開くものはなかった。
「デュマスくん、守備範囲を拡げたのかい」
面倒なことになりそうだ。
「なんの事だ」
「ゲール君はなかなか可愛い」
ゲールが真っ赤になっている。
「俺の好みが変わったと?」
「考えれば、それはないか――しかし、相変わらず手が早いな」
「ちょっと待て、ここにはゲールがいるんだ。身内の冗談は通じないぞ」
「さっきのユナ君だっけ? 十二歳くらいだろう」
「奉公に上がれる年令だな」
「君のキースカ少尉、元少尉もそのくらいだったろう」
なんだよ、俺のって。怒るのはミィに任せるけど。
「俺が入隊したときは十四才だったから少し遅れて入隊した」
「知り合ったのはもっと前のはずだ。カルから聞いたぞ」
「悪いが、話の筋が見えない。だったら、どうしたとしか言えん」
「メランサーガのヴィオレ姫のようにさ。自分好みに育てて、喰……」
「そんな気はなかったし、今もない」
「じゃあ、なぜ金をだす」
「今回、お前にも出したぞ。金貨十枚」
「友人だからな」
宣誓、友人権を放棄します。
「デュマス、今回は真面目な質問だ。なぜだ」
「訓練期間も含めばキースカとは六年共に過ごし、二度命を助けられた」
「それは、僕も同様というか、五回だな」
「俺の命二つ、お前の命五つ。いくらまで出す」
「うーん。それだと君には未来が見えていたと」
「まさか。しかし、商いと考えるなら大当たりの投資だろう?」
「じゃあ、さっきの二人も?」
面倒くさくなってきた。
「お前はコンディとマーベラと合わせて近衛騎士隊の三強、ザ・トリオと呼ばれていただろう」
「どう関係が」
「男一人に女二人、後には三人になったろう? 世間ではハーレムとか」
「待て待て待て。実力は認めるし、最高の戦友だが……」
「まだ終わってないよ」
「相変わらず口は立つな」
「計算して組んだのか。そして三人を口説こうとか」
「おいおい、君は知って……」
「俺はキースカに何かを強いたことはない。それは君も」
「分かったよ」
「それは良かった」
「君には理屈では勝てないということが」
「それより、ここにいるゲール君は吟遊詩人でザ・トリオのサーガをつくってくれるそうだぜ」
「な、なんだってぇ~!! それを先に言え。き、君」
「は、はい」
ユウバに着くまでの間、ゲールは三人が出会い俺と知り合うまでの状況を順序よく聞いていた。
街角で歌う曲は十分から十五分の一話完結になる。客の反応を見ながら筆を入れて完成されるという。
本名を使わない点をハガードは残念がったが、電光石火のウキフネという名は気に入ったようだ。
街に入り、ハガードは別れた。
懐具合を心配すると逗留先にあてがあると言っていた。
案内で少し上級の宿を紹介してもらいゲールとチェックインした。
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