Ⅱ いさましいちびの素浪人罷(まか)り通る

Ⅱーⅰ 南街道中膝栗毛

(1)


 翌朝、カルと家族に見送られ、ご機嫌なミィと共に家をでた。


 大路を南大門に向かう。

 魔法使いギルドで契約を済ませているから、魔法収納庫が使用できる。

 そのため、いたって身軽だ。


 俺は昨日買った古着にサドルバッグ、それとカルにもらったマントを羽織っている。


 ミィはポーラ、カルの奧さん、に選んでもらった空色の動きやすいワンピースにバックスキンのブーツ……軍装のウエストポーチで台無しだ。


 と言うより、ワンピースの下には打撃軽減が付与された全身タイツ状の道着を身につけたのでワンピースだけが浮いているの方が近い。


 自然と昔の話題になる。

 初めて会ったとき、ミィは浮浪児だった。

 当時は俺の胸くらいだったかなぁ。今は少し見上げないといけない。


 なぜかは覚えていないがしばらくして俺が保証人になり、住民として登録させた。


 この国に住む、いや存在する人々は大きく二つに分けられる。

 貴族と平民ではない。

 戸籍を持つ定住者とそれ以外だ。


 それ以外とは、


 まず手に職を持つ『流れ』と言われる人たち。

 例えば、研ぎ師、鍛冶職人(鍋釜の修理が主)料理人など。

 それから、形のないものをあつかう者。

 旅芸人、サーカス、軽業師、楽師、歌手、踊り子、吟遊詩人、傭兵、広い意味では巫女舞や修行僧なども含まれる。


 住人たちに尊敬されるわけではないが、村々では必要とされる職業であり、身につけた技術や芸を関所で示し承認を取ることで、以後その関所を簡単に通過できるようになる。


 ある意味では移動に手形が必要な定住者より自由と言えるかもしれない。



 ミィの年齢は不明だったが、彼女が少しでも働いて稼ぎたいと言ったので見習いとして働ける年令12才として登録した。


 当初、俺もカルも運が向いていたときで、俺は大店の用心棒や剣術道場の師範代代などの(間違いじゃない師範代の代わりに道場破りと戦うので代代)、カルも城壁修理の人夫として稼げていた。

 しかし、運のない時が来る。

 財布をひっくり返してもホコリさえ出なくなると、食堂の下働きをしていたミィに助けらることになった。

 ミィには災難だったのだと思うけど、どうやらそれほどでもなかったようだ。


「あのときカルがさあ、量を増やすって、お店の残り物のシチューを水で薄めたでしょう」

「あれは食えなかったなあ」

「泣きながら捨てた覚えがあるわ」

「しかも、あれはもう仕官する直前だったな」

「そうそう、最初のお給金のとき三人でシチュー食べすぎてさあ」


 昔を懐かしんでいる間に、門が見えてきたので、再確認をした。

 ミィは今回は俺と同じ退役軍人として王都を出る。


 店の番頭としてなら、店に所属している店主の証明書と商工者ギルドの通商証明書(目的地や取扱品が書かれている)が必要になる。


 名は似ているが商人ギルドとは別物だ。

 商人ギルドは国の規制をなるべく排除して国際取引を盛んにするのが目的で入会に規制はない。商工ギルドは国内の組織で特権大商人の力が強く、ある程度の大店になるとほぼ強制的に入会させられる。

 俺はカルの商会の共同出資者だが、店を持たない個人商店としても登録しており商人ギルドに参加していた。

  

「それから、改めて言うが隊長殿は禁止な」

「了解であります。た、た……大変良くわかりました……えーっとルネ様?」

「まあ、それでも良いが――そうだ」


 幼馴染も同然のミィならファーストネームでもかまわない気もするが、書類上は26才の女性にルネ様と呼ばれのは軍人育ちにはおもはゆい。


 セカンドネームを使ってもらうことにする。

 言っておくが『黒ちゃん』ではない。


「では、ノアールさま?」

「上下関係はないだろう。そうだな、ノアにしてくれ。様もなし」

「ノアノアノアノアノアノアノア」

「やめろ!」

「イエッサー」

 間違いなくミィに、からかわれているな。


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