第3話 誘い
一目惚れともいうべきその女性の連絡先をゲットしたのはいいものの、どう進展させればよいかわからない。
なぜなら、僕は生まれてこの方まともな恋愛なぞしたことが無いからである。
恋愛相談できる親密な友人や知人も特にいない。
孤独に生きるのは気楽で有意義であると思っているが、いざというときに頼れる人がいないのは考えものである。
時は夕方、曇り空のした。
濁った川沿いを散歩するのがルーティンになっている僕は椅子に腰をかけてスマホを開く。
ひとまず、3,4年ぶりに手にいれた女性の連絡先に自己紹介文を打ってみた。
「先日、人生初の勇気あるナンパをさせていただいた、赤石竜と申します。覚えていただいてますでしょうか?」
送信した。
僕はよく、変人と言われる。
このSNSで打った文章からもにじみ出ているのだろうが、別にイヤな気はしない。
むしろ、普通、凡人と言われるよりはよっぽどマシである。
だが、返信が来るとは限らない。
連絡先を聞いたあの日から1週間は経っていたからだ。
単純になんて送っていいか迷っているうちに時間が経っていたのだ。
今日は土曜日。
僕の予想が正しければ、女性も休日。
ブーッ
スマホのバイブが音を鳴らす。
「もちろん覚えていますよ笑 先日は大切なハンカチを拾っていただきありがとうございました。青戸優子と申します。」
きたぁーーー
返信きたぁーーー
落ち着け。
落ち着け俺。
このあとの返信の文書が重要なのだ。
「優子さんからの返信とても嬉しいです。ありがとうございます。よかったら今度のお休みご一緒にお茶でもいかがですか?」
俺の脳みそではこんな文章しか思い付かない。
いいのか?
これでいいのか?
考えても考えても
これ以上の文章が出てこない。
いきなり優子さんだなんて
キモいか。
わからない。
しかし。
名前を呼ばれて嬉しくないなんてことほとんどないだろう。
なにより、俺は元ホストだ。
自信を持て。
顔も悪くない。
むしろ、上位5%以上のイケメンだ。
ジョークです。
送信
やっちまったー。
通知オフにしよっかなー。
誘っちゃったよ。
デートじゃん。
断られたらどーしよ。
いろんな思いが渦巻いていた。
気づいたら、太陽が沈んで、辺りは
薄暗くなっていた。
それでも雨は降る気配はない。
街灯や、家々の明かりが少しずつ増えていく。
ブーッ
通知がきた。
「是非、お茶できるの楽しみにしています。竜さん明日はお休みですか?」
絶句した。
なんと、優子さんの方から明日のご提案。
なにより、僕の名前が呼ばれていることが凄く嬉しい。
名前の通り優しい方なんだなと思いながら、
文字をフリックしていく。
「明日はお休みです。優子さんもお休みでしたら、明日お会いしましょう。」
送信。
なんて幸せなんだろう。
気になる異性と、SNSを通じた恋の駆け引きとはまさにこのことでらなかろうか。
よく、恋人になるまでの過程が面白いと聞いたことがあるが、このことか。
ブーッ
はじめは不快にも思えた通知音が今では癒しの音に変わっていた。
優子さんからURLとともに文章が送られてきた。
「前から気になっていた、パンケーキ屋さんなんです。甘いものが苦手でなければどうですか?」
相手への気遣い。
そして、甘いものが好きだなんて、気が合うではないか。
「甘いもの大好きです。そこにしましょう!現地に11時でどうですか?」
即返信した。
ブーッ
「良かったです。(^^) よろしくお願いします!」
こうして、僕に今までにないような
ビッグチャンスが到来した。
空にはほとんど雲がなく、きれいな月が顔を出していた。
明日が来てほしいと願ったのはなん年ぶりだろう。
人生に楽しみを作ることがいかに重要か、
思い知らされたのだった。
満面の笑みで、鼻唄を歌いながら、帰宅した。
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