第35話 腕の中にいる幸せ ☆
「……信じて下さい。人を僕の事をどうか、信じて下さい!!」
『…………』
主さまに僕の思いを伝えたけど……主さまは反応しない。
確かに、こんな感情論。
説得力はないかもしれない。
……だけど、僕の口からではこれが限界。こんな感情論しか口から出なかった。
どうかお願いします。主さま!!
そう願いを込めて主さまを見ていると険しい顔を緩めて、ため息を吐いた。
『……わかった。人全体を信用することは出来ないが……エルリーヒのことは、信用しよう。……もしもの時は、お前が責任を取ると言う事じゃろ?』
「…………はい」
……つい、言い切ってしまった。……でもこれで、山賊達の命は救える。
『ならいい。だが、ここのアジトが二度と使われない様に、この洞窟は破壊するがいいか?』
「はい、構いません……でも、破壊する前に、中に数人の山賊達がいるので、外に出してもらってもいいですか?」
『……わかったよ。飛竜の子供を助けるついでに助けてやるさ。キサラギあなたも手伝いなさい』
『はい、お母さん!!お兄ちゃん、ごめんね。降りて』
「ごめんねキサラギ、今回はありがとう」
『いいよ。これぐらい』
お礼を言いながら、伏せてくれたキサラギからアドレットを滑らせる様に降ろして、僕もまともに足に力が入らなかったから、滑る様にキサラギから降りる。
そして、キサラギは僕達が降りるのを確認して、主さまの所に向かう。
キサラギが合流すると、主さま達は駆け足で洞窟の中に入って行った。
それを見送っていると、ムートといつの間にか降りてきたサルワートが近寄って来ていた。
『お疲れさまです、エルリーヒさん』
『主人……すごいな。あんな奴とまともに話せるとは』
「ありがとうムート、サルワートはお疲れさま。……まともに話すって、主さまは優しいよ?」
僕がそう返すと、サルワートは渋い顔をしてため息を吐く。
『いや……聞いた我が悪かった。それより早く行った方がいいのではないか?下手すれば、すぐにでも村人達が来るぞ?』
「そうだった……イデ」
サルワートに言われた通り、すぐにこの場から離れないと
そう思って、四尺棒を杖代わりに立ち上がろうとした時、左腕と両足に激痛が走った。
「……くそ」
左腕を見ると、左腕は青色を通り越して黒くなっていた。
両足は、戦闘による筋肉痛みたいな物だろうけど、まともに立ち上がれないほどに痛い。
僕がこれからどうしようかと思っていると、ムートが顔を近づけて来る。
『これは酷いですね。私に任せて下さい』
ムートがそういうと、僕とアドレットに向かって、キラキラと光るブレスをゆっくりとかけてくれた。
すると、忽ち左腕の痛みが消えて、ほとんど黒くなっていた肌も、もとに戻ってくる。
……これが、癒しの力を持つ飛竜の力か、凄いな。
「うっ……うん」
ムートの力に関心していると、アドレットが目を覚まし始めた。
「アドレット、良かった。起きたんだね」
本当に良かった。ムートのおかげで、媚薬の効果も――
「エルくんおはよう~。えへへ~」
無くなってなかった。
「……ムート。媚薬の効果って消せないの?」
『さすがの私も怪我は治せても、精神は直せません』
「……そっか、とりあえずここから離れよう。アドレットをムートに乗せて――」
『あら?まさか殿方が、意識が確かではない女性を一人で飛竜に乗せるのですか?』
「いえ、サルワートお願い」
「お、おう」
ムートの圧のある言葉を否定出来ずに、僕は乗りやすいように伏せてくれるサルワートの背中に、アドレットを乗せる。
手に持ってる四尺棒は、尻尾の付け根に取り付けてる、荷物を取り付ける為のベルトに括り付けて、僕はアドレットのその後ろに乗り込む。
そして、アドレットを包む形でサルワートの手綱を握る。
「サルワート、ごめんだけど――」
『分かってる。ゆっくり上がる』
「――!!」
……僕はサルワートの言葉に内心驚いた。
サルワートなら、問答無用で急上昇すると思っていたけど……良かった。
アドレットを気遣って――
『後が怖いからな』
と、ぼそりとサルワートが呟くのが聞こえた。
なるほど、ムートか。
確かにあの飛竜を怒らせると怖そうだもんな。
「そ、そっか。それじゃあサルワート。改めてアレスタ山に向かって、ムートも僕達に付いて来て!」
『あぁ、わかった』
『えぇ、しっかり後ろから付いてきます』
「よし、サルワートゆっくり飛んで!」
僕がそう号令をかけるとサルワートは宣言通り、ゆっくりと上昇しながらアレスタ山に向かって飛んで行ってくれる。
後ろを見ると、ムートも付いて来てくれている。
一時はどうなるかと思ったけど……こうして五体満足で救出できたのは、今に思えば奇跡みたいなものだな……でも、こうしてアドレットを救出できてよかった。
僕はそう思いながら腕の中にいる幸せを噛み締めて、アレスタ山に向かった。
☆ ★ ☆(アドルフ・イデアール)
「……酷いなこれは。洞窟が崩れたのか?」
「おい!!こっちに山賊らしい奴らが檻の中に入っているぞ!!」
……ここで一体、何が起きたんだ?
さすがにここまでの事は、予想外だった。
俺達は今、フォルト山脈の崖の麓の切り開かれた場所に来ていた。
……俺達がここに来た理由は、突然フォルト山脈方面で上がった火柱の調査とその原因の究明。
フォルト山脈の付近を調査するために、飛竜に軽い武装を付けて飛行している時、この場所を見つけて驚いた。
まさか崖の麓にこんな切り開かれた場所があって、こんな惨状が広がっているとは思ってなかった……
崩落している洞窟、その洞窟の入り口だった場所には、四人の男達がいた。しかも、一人は左腕が氷に包まれてるせいか、顔が青紫色になっている。
そして、洞窟の離れた場所には、おそらく飛竜を捕まえていたであろう3つの檻。
その檻にはそれぞれ、男達が檻に閉じ込められている。
この状況を少し離れた場所から観察していると、村長達も飛竜に乗ってやって来た。
「これは……皆!そこに転がっている男や檻に居る男達をロープで縛って、出来るだけ1つの檻に放り込みなさい!!」
「はい!!」
村長は着くやいなや、瞬時に状況を察して、村人達に的確に指示を飛ばして行く。
流石村長。昔の優柔不断だったあの頃とは全く違うな。
と感心していると、村長が俺の所に近寄ってきて、小声で話す。
「アドルフくん……これどう思う?」
「……トリーブ。もうちょっと威厳のある村長を演じたらどうだ?他の奴らに舐められるぞ?」
「別にいいじゃないか。ここには俺達しかいないんだから……それで、どう?」
村長を務めてる親友の一人であるトリーブにそう問われて、俺はあらためて見渡す。
村人達は村長の指示通りに男達を縛って、飛竜と協力しながら檻の中に入れたり、手持ちぶさたな奴らは、近くにこいつらの仲間や痕跡はないかと、森と空からで分かれて、探しに行ったり。
崩落してる洞窟の前で何か話しあってる。
そして、俺の足元には捕獲用の網らしき物と、それを射出するであろう小さな手持ちできる大砲。
これを総合して考えるなら、一つしかない。
「十中八九こいつらは山賊だろうな。しかも飛竜を専門に狩ってる奴らだ」
「アドルフくんもそう思うか。年々飛竜の儀に集まる飛竜の数が減っていると、話しは聞いていたから、もしかしたらと思って調査していたけど……どうして、今までここに山賊が居た事に気が付かなかったんだ?」
「さぁあな?それは、あの山賊を尋問でもして問い詰めるしかないさ。アイツらのアジトだった場所は崩落したんだからな」
「それもそうだね……いや、この話しは長老達を交えての会議だな。その後で相談に乗ってくれないか」
「わかったよ」
「ありがとう……皆!!山賊達を檻にいれたなら、次は崩落した洞窟を調査だ!!丁寧に岩を取り除けよ!!」
トリーブは村長の顔に戻って、村人たちに号令を飛ばしながら、崩落している洞窟に向かっていった。
……あいつの切り替えの早さは、いつ見ても驚くな。
……さて、俺も村長の所に向かいますか。
不意に俺は、空を見上げて時間を確認した。
空は少し赤く染まりかけてる。
もう夕方の時刻だ。
…………アドレットもエルリーヒもそろそろ村に着いた頃かな。
アドレット達の到着を一番に祝いたかったが……仕方ない、これも仕事だ。
その後、俺はため息を付きながら村長達の所に合流して、瓦礫の撤去をしていったが、洞窟の中は入り口だけでなく中まで瓦礫で埋まっていた。
村長はこれ以上瓦礫を撤去しても収穫はなく、危険しかないと判断して、瓦礫の撤去は中止した。
そして、薄暗くなり始めたので村に帰ろうとした時、山賊達をどうするべきかと話し合った結果。
村に運ぶのは危険と言う事で、ここに放置。
処遇は長老会議で決めると言う事で決まった。
俺達は結局、当初の目的の火柱の原因が分からずに解散した。
まぁ、話しあった時に、山賊達がへまをして飛竜達を逃がした時に反撃を受けた。
それがあの火柱と言う事で話しは終わったけど、俺はいまいち納得は出来てなかった。
でも、これを掘り返しても水掛け論になるだけで意味はない。
何処かモヤモヤした気持ちで俺は家に帰った。
そして、居間に入るとプリッツ一人で夕食の準備をしていた。
「ただいま」
「あら、お帰り。あなただけ帰ったの?」
「……はぁ?四人ともまだ帰って来てないのか?」
まさか、火柱の調査に行った俺よりも帰るのが遅いとは思ってもみなかった。
どこで油を売ってるんだ?
俺が内心呆れていると、プリッツが眉尻を下げて話した。
「……えぇ、帰って来てませんよ。さっきエーデルが松明を取りに帰って来ましたけど……アドレットとエルリーヒくんは、まだ帰って来てません」
「…………え?」
プリッツのその言葉に、俺は衝撃を受けた。
この状況で何かに巻き込まれてないとは言い切れない。
「俺、広場に行って来る」
「はい……いってらっしゃい」
俺は、慌てて灯した松明を持って、村の広場に向かった。
どうか二人とも広場に居てくれ!
俺の勘違いだと笑ってくれ!!
だが、広場に着くとそこには灯した松明を持ったリリとエーデルが、薄暗くなった空を見つめていた。
「リリ、エーデル!!エルリーヒとアドレットは!?」
「…………」
「…………」
呆然と空を見上げている二人に俺は話しかけるけど、全く反応を示さない。
一体なにが!何が起きてる!!
「おい――」
「まだ。戻って来てねぇよ、アドルフ」
「――!!」
リリのその一言に、思考が凍り付く。
どういうことだ!?
まだエルリーヒとアドレットが戻って来てないなんて!!
もしかして、あの二人に何かあったのか!?
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