第34話 森の主からの殺気が込められた問い
『あなたは昔から――』
『い、いやあれは――』
「…………」
アドレットをなんとか救出した僕は今、洞窟の外でムートがサルワートに向かって、理詰めしてる姿を見せられていた。
僕達は一体何を見せられてるんだろ……それに、これは理攻めというよりは、痴話喧嘩じゃないか?
これ……いや、今はそんなことより――
「二匹とも話してる途中、ごめん」
『お、おう!いいぞ主人!!』
『ちょっと、サルワート……仕方ないですね』
僕が声をかけると、サルワートが嬉々としてムートとの会話を中断して、僕に近付いて来た。
それをムートは仕方なさそうに、優しい瞳で見てる――って二匹とも、本当に前はどんな関係だったの!?
いやいや、今はそれよりも。
「サルワート、村の人達にここの場所を伝えたいから、ここの場所がわかるように空に向かって、ブレスを放ってもらってもいい?」
『あぁ、わかった!!』
サルワートはそう勢いよく返事をすると、空に飛びあがっていった。
えっ?どうして飛んでいった?ここでブレスを放てばいいんじゃ……
と疑問に思っているとサルワートが一定の高さまで上がると、空に一瞬波紋が広がるように空が揺れた。
え!?なに今の……そっかこの場所結界みたいなので、ブレスの攻撃を防いでいたんだった。
だからサルワートは、結界に邪魔されない様に、結界の外まで出たのか。
すっかり忘れてた。
……そうか、洞窟の奥にあった魔動機械らしきものは結界を発生させる魔動機械か……でも、だとすれば動力の魔力は何処から――
僕がそう色々と考えていると、サルワートは結界よりも高い位置で静止して、火球を空高く打ち出す。
するとドカアァン、と大きな音を立てて火球は爆発した。
そして、続けてサルワートは空に向かって、炎のブレスを吐いて火柱を数秒立たせる。
うん、ここまで派手なことをすれば、村の人達も来てくれるはず……とりあえず、一安心だな……あっ。
「そういえば、外に転がしていた山賊達は何処にいる!?特に拘束もせずに放置してたんだけど!!」
アドレットを救えた安心感で、すっかり忘れてた!
村の人達が来る前に、拘束とかをして無力化しないと!
そう慌てて山賊を探しているとムートが――
『あら山賊ですか?山賊なら私たちの代わりに檻に入ってもらってますよ』
と言って翼で檻の方を指して言った。
慌てて檻をみると、そこには確かに山賊達が転がっているように見えた。
「ありがとうムート。でも、なんで山賊達はあんな所に?」
『それは私が眠らせて、あの檻に放り込んだからです』
「え?」
ムートに状況を聞くと、僕達が洞窟にいる間に外にいた山賊達は、目を覚ましたらしい。
その時に目を覚ました山賊達は、解放されている飛竜達をみて捕まえようとしたけど、ムートが癒しの魔術を使って、山賊達を昏睡させてあの檻に放り込んだらしい。
『私の魔術ですから、あと数時間あのまま眠った状態です。だから気にしないで下さい』
「そ、そっかありがとうムート」
この飛竜、さらっと凄い事を言ったな……癒しの魔術で昏睡させる事が出来るってなんだ?
そんな事ができるなんて聞いた事ないんだけど……これからはムートとアドレットを怒らせない様にしよ。
『それで、サルワートのご主人――』
「あ、はい!エルリーヒです!!」
『ふふ、エルリーヒさんですね。…………あそこにいるのはお知合いですか?』
「え?」
内心で戦々恐々としていると、ムートは僕の後ろの森を翼で指していた。
翼で指されてる方向を見ると、そこには白銀の3mはある巨体の狼とそれを小さくしたような狼――そう、森の主さまとムツキがそこにいた。
「主さまにムツキまで、どうしてここに?」
『……そうですか、お知り合いですか』
『あっ、お母さんだ!!』
キサラギは自分の母親に会えてとても嬉しそうだけど……
僕達はそんな楽観的には、いられなかった。
何故なら、主さまが異様な殺気を僕達に向けて、飛ばしていたから……
どうして?どうして主さまは僕達にこんな殺気を向けている!?
『エルリーヒ』
「は、はい!!」
『一度だけ、問う。どうしてここに居る?』
返答によっては、お前を殺す。
そういう意味が込められた質問を主さまから問われた。
……これは正直に話して大丈夫なのか?
でも、主さまがどうしてここまでの殺意を出しているのか分からない状態で、疑問を問いかけるのも危ない。
だったらここは素直に言おう。
「えっと……実は」
僕はここに来た経緯。
アレスタ山に向かう途中でアドレットが攫われたのを目撃した事。
そのアドレットを助けるために、キサラギに助けてもらって、ここまで来た事。
洞窟の中で戦闘はあったけど、なんとかアドレットを助けだせた事。
そして今、村の人達にこの場所を伝えるために、サルワートに空に向かってブレスを放ってもらった事などを端折りながら話した。
それを聞いていた森の主さまは、聞いているうちに殺気も消えて、僕の話しを呆れながら聞いていた。
『なるほど、大体の流れはわかった。という事は後ろの檻に入っているのは山賊で、エルリーヒとは全く関係ないんじゃな』
「はい!そうです!!」
『そうか!それを聞けて一安心した――』
主さまは、そう言って安心したようにため息を付いているのを見て、僕も肩の力を抜く。
よかった、どうやら誤解は解けたみたいで安心した。
でも、どうして主さまがここに居るんだろう。
そう疑問に思っていると主さまの方から応えてくれた。
『じつはなエルリーヒ。私達がここに来たのは私が守ってるこの森で、飛竜狩りなどをしている人共がいると聞かされてな。……その話しをした者から、そいつらの壊滅と捕まっているであろう飛竜と子供を助けてくれと頼まれて、ここに来たんじゃよ』
「なるほど……ちなみにそれは――」
『誰に頼まれた?などと無粋な事は聞くなよ。エルリーヒ』
「あ、はい!!」
僕が聞く前に先回りして釘を刺されてしまった。
でも、主さまに頼みごとが出来る存在って、誰だろう?
『それとさっき村の人を呼んだと言っていたが……エルリーヒ。お前は村人を呼んで、どうするつもりなんだ?』
「え?それは村の人達にこのアジトと山賊達の事の説明と洞窟の中に飛竜の子供が居るので、保護してもらおうかと……」
どうしてそんなことを聞いたのか、疑問に思いながらそう答えると、主さまは呆れたような声で話した。
『それで、その説明とやらは、私や娘達の事を話さずに言える事なのか?』
「…………」
僕が何も言えず目を泳がせていると、何かを察したのか今度こそ呆れのため息を付いた。
……そうだ。いつもは意識なんてしたことがないから、すっかり忘れてた。
僕と主さまは、初めて会った時に約束と言う名の契約……いや、呪いを受け入れたんだった。
……内容は、主さまが許可した以外の人物に、主さまやムツキとキサラギの事を話すと、二度とこの森の地を踏めなくなる呪い。
実際にはもし話してしまったとしても森の中には入れる。
けど、入った途端に森の主の権限で森中の脅威が僕に襲って来るらしい。
だから最初この呪いを受けた時は決して言わない様に気を付けていたけど、最近では特に気を抜いても言うような事がなかったから、油断してた……
さっきも、アドレットにキサラギの事を紹介しかけてたし危なかった……あ、改めて気を付けよう。
そういえば、アドレットは今主さまを見てるけどこれはどうなる!?
と思って、チラリと後ろを確認すると、アドレットは安心しきった顔で、僕にしがみ付きながら寝ているのを確認して、ホッと胸を撫でおろした。
そんな僕の姿を見た主さまが、ため息を付いたのが視界の端で見えた。
すみません、今度はもっと気を付けます。
『その様子では後ろの娘に、私達の事を言いかけたのだろ?それなのに、ここの状況を説明するのにキサラギの事を言わず、言えるのか?私は必ずボロが出ると思うぞ?』
密かに思っていた事を改めて言われて、ぐうの音も出なくなってしまった。
僕を見て、主さまは言葉を続ける。
『安心しろ。飛竜はエルリーヒの方で解放したみたいだが、子供は私が責任を持って親元に返す。元々頼まれていた事じゃしな……あとは山賊達の処遇は――』
「主さま待って下さい!!殺すのは止めてください!」
僕は主さまの言葉を聞いて思わず、そう口に出していた。
僕は……何を言っている?
……でも、何故か、山賊たちの命を取っては、ダメな気がする。
…………それに、少し、背中に悪寒が走ってる。
今まで僕を助けてくれたこの感覚。
……僕は、この感覚を信じたい。
『……なぜだ?私はこいつらの壊滅を頼まれている。殺さないわけにはいかない』
……主さまの言う通りだ。僕もどうしてこんな事を言ったか分からない。
でも、何か理由を付けないと……そうだ!
「それでもまってください!!……この山賊達はこれまでに飛竜達を売って来たはずです。なら、こいつらを生かして今までどこに売って来たのか尋問する必要があります!」
とっさに出たにしては、いい言い訳なんじゃないか!?
内心で自分に関心していると、険しい顔をした主さまが問いかける。
『それになんの意味がある?尋問した所で、その飛竜達は帰ってこないだろ?』
「確かにそうですけど。でも、もしここで売り買いしてる場所や人物がわからないと、また同じように山賊が来ます!それじゃあ、飛竜狩りをしてる山賊を壊滅できたとは、言えないはずです!」
『……たしかにエルリーヒの言ってる事は一理ある。……でも、それはこれからの事を人に託すと言う事だぞ……人がそこまで動くのか?』
主さまにそれを言われて、一瞬言葉に詰まった。
でも、ここで何かを返せないと山賊達は確実に殺される……それはなんとか避けたい……だから!!
「……信じて下さい。人を僕の事をどうか、信じて下さい!!」
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