第33話 アドレットの救出

「キサラギ……ほんとうに、ここにアドレットがいるの?」


『うん、そのはずだよ。この部屋の中にアドレットさんの匂いがしたから』


「そっか……」


 僕は今、キサラギの案内で山賊のアジトの洞窟の一室に入った。


 これでアドレットを救えると思ったのもつかの間……この部屋には誰もいなかった。


 あるとすれば、部屋の中央に色んな場所が点滅して、光る板が付いてる鉄の箱。


 それも、天井の高さまである巨大な箱。


 その鉄の箱から色々な管が出ていて、その管が別の鉄の箱に刺さってる。


 この鉄の箱。もしかして、魔動機械っていう魔力を動力で動く機械?


 ……どうしてこんな物を山賊が持ってるんだ?


 それに、山賊達はこれで何を………いや、今はアドレットを探さないと……アドレットは何処にいるんだ!?


 目を見開いてアドレットの痕跡を探していると、キサラギが不思議そうな顔で僕を見ていた。


「キサラギ、どうかしたの?」


『……おにいちゃん、甘い匂いがする』


「甘い匂い?」


 甘い匂いという、この場所に合わない匂いがすると言われて、僕は疑問に思った。


 どうしてこんな所で甘い匂いがするんだ?


 もしかしたら、そこにアドレットの手がかりがあるかもしれない。


「キサラギ、甘い匂いのする場所に行ってもらってもいい?」


『うん、いいよ』


 キサラギは鼻を鳴らしながら、歩いて行く。


 そして、キサラギは中央にある魔動機械だと思われる巨大な鉄の箱の後ろ側、部屋の奥に向かった。


 部屋の奥には木の扉があり、キサラギの言う通り甘い匂いがしてきた。


 ……あの扉の向こうから、甘い匂いがしてるのかな?


 だとしたら、どれだけあの扉の向こうは、この匂いで満たされて……えっ……もしかしてこの匂い!!


「キサラギ、ストップ!!」


『う、うん』


 僕は慌てて、甘い匂いがする扉に向かおうとしているキサラギに、静止を掛けて止まってもらう。


 ……これ、僕が思ってる匂いが一緒なら、この匂いは、ワイバーンを繁殖させるために使うお香の香り。


 ワイバーンを強制的に発情させる媚薬のお香の匂いに、凄く似てる。


 いや、それ以上に甘ったるい匂いがする!?


 ……でも本当にこの匂いが、飛竜用の媚薬のお香の匂いで、この中にアドレットがいるとしたら……大変なことになるぞ!!


 このお香は男性には効かないけど、女性には何故か効いて、嗅ぎすぎるとワイバーンと同じ様に発情状態になる。


 しかも噂では、人によっては廃人になる劇物だぞ!!


「は、早く中を確かめないと」


『おにいちゃん、ダメだよ!!』


 急いでキサラギから降りて、扉の方に向かおうとすると、キサラギが体を使って止めて来る。


『お兄ちゃんはボロボロなんだよ!!大人しく、私の背中に乗って!!』


「ごめんキサラギ、ここは僕一人で行かせて、それとキサラギはちょっと離れて、あの匂いはあんまり嗅がないほうが、いい匂いだから」


『……』


「キサラギ」


『うん、わかった』


 すごく心配そうな顔で、見つめて来るキサラギの頭を撫でながら、説得するとキサラギは渋々と言った感じで、体をどけてくれた。


「ありがとうキサラギ……よし」


 キサラギが遠くに離れるのを確認して、四尺棒を杖代わりに、扉に向かって行く。


 扉に近付けば近付くほど、匂いが濃くなっていくな。


 それに近付いて分かったけど、ピンク色の煙が扉から漏れ出てる。


 間違いなく、ワイバーンの繁殖用のお香だ。


 扉の前に近付いて扉に手をかける。


 鍵が掛かっていなかったのか、簡単に扉が開いた。


 ……?鍵が掛かってすらなかった……まぁ今はいいか。


 そして開くと、ピンク色の煙が雪崩のように部屋の中から出て来る。


「ゴホゲホ……煙の量が凄いな。それで、アドレットは……アドレット!!」


 ピンク色の煙が晴れてきて部屋を探索しようとした時、扉の前にアドレットが倒れているのを見つけた。


 僕はすぐにアドレットに近寄って、状態を確認する。


 よかった!!アドレットがここに居てくれた……見た感じ外傷はないかな?


 よく見ると手首に手錠をした後があるけど……自分で外すことが出来たのかな?


 軽く見渡すとアドレットのすぐ近くに、解錠された手錠があった。


 ……そっか、手錠を外して脱出しようと扉まで近付いたけど、ここで力尽きたのか。


「よく頑張ったね、アドレット……でもそろそろ起きて、帰ろ」


「う、う~ん。……エルくん?」


 僕が声を掛けながら肩を揺らすと、アドレットはまだ眠そうな声を出しながら起きてくれた。


 ……良かった。まだ意識ははっきりしてるみたいだ。


「あれ?エルくん?夢?」


「夢じゃないよ、アドレット。助けに来たよ」


 そうアドレットに呼びかけたら、アドレットは目を大きく見開くと、頬を赤く染めて僕に抱きついてきた。


「エルく~ん。エルくんだ!えへへ~助けに来てくれた~」


「ぐっ……おう、よしよし」


 アドレットは問答無用で抱き着き、僕の胸をグリグリとしてくる。


 そのせいであの大男と戦った傷や左腕が痛むけど、気合で我慢して僕はあやすようにアドレットの頭を撫でてやる。


「ふふ~エルくんのナデナデ、気持ち~」


「ハハ、ありがとう、アドレット。でも、ここは危ないから、外に行こうか」


「え~……分かった」


 アドレットが了承してくれて助かった。


 このまま抱き着かれたままだと、気力が持たない所だった。


 ヨロヨロとアドレットが酔っ払いみたいに立ち上がるのを確認すると、僕も四尺棒を使って立ち上がる。


「それじゃ、行こうか」


「うん!」


「――!!」


 僕が声を掛けると、アドレットはいつも通り僕の左側に来て、手を握って来た。


 怪我をしている左腕に、痛みが走ったけど、僕は気合で何とか耐える。


「どうしたの?」


「なんでもないよ。行こうか」


 僕達は手を繋ぎながら、部屋の外に出て遠く離れていたキサラギのもとに向かう。


「お待たせ、キサラギ」


『うん、大丈夫……その人がアドレットって人?』


「うん、そうだよ。アドレットこの子は……アドレット?」


 僕がキサラギの事を紹介しようかと思って、アドレットの方を見ると、アドレットはキラキラした目で、キサラギを見ていた。


「わぁ~大きなワンちゃんだ~!すご~い」


『……お兄ちゃん』


「うん、ごめん。今回は許してあげて」


『……分かった。〝お兄ちゃん〟のために今回は我慢する』


「うん、ありがとうキサラギ」


 やばい、キサラギが犬扱いされて、静かにキレてる。


 今回は許してくれたけど、もう一度言ったらマジでキレるかもしれない。


 ……自己紹介は外でも出来るし、急いで洞窟を出よう。


「とりあえずキサラギ、僕とアドレットを乗せられる?無理なら僕が歩くから」


『……二人ぐらい大丈夫だよ。乗って』


 キサラギは伏せて、僕達が乗りやすいようにしてくれる。


「ありがとうキサラギ。ほらアドレットこの子に乗って」


「え?ワンちゃんに乗っていいの?わ~い」


 そう言ってキサラギの背中に乗るアドレット。


 ちらりとキサラギの方を見ると、今にも怒り出しそうな雰囲気を出していたので、僕も慌ててアドレットの前に乗る。


「……アドレットしっかり掴まってて」


「うん、わかった~」


「……キサラギ、ごめんね。お願い」


『ふん、わかったよ。〝お兄ちゃん〟の為に頑張るから』


 キサラギはお兄ちゃんと強調しながら立ち上がって、洞窟の外に向かって歩き出してくれた。


 ……よかった。本当に良かった。


 アドレットも無事に救出できた……このまま無事に家に帰れればいいけど……



◇ ◆ ◇



『主人、やっと帰って来たか』


「サルワート、ただいま」


 僕達はなんとかキサラギの背中に揺られながら、洞窟の外に出ることが出来た。


 洞窟の外に出る道の関係で、大男が気絶している所を通らないといけなかったけど、幸い大男はまだ気絶していた。


 その時に、飛竜の子供を助けようと思ったけど……さすがに僕の怪我とこのアドレットの状況じゃ、檻から出すことも出来ないし、出せたとしても落ち着かせるのに時間がかかる。


 その間に大男が起きたら目も当てられない。


 飛竜の子供達には、後で助けに行くと声を掛けて、その場を後にせざるおえなかった。


『主人、かなり激しい戦闘だったようだな。魔力が一気に持っていかれた後に、いきなり【リンケージ】が切れた時はかなり焦ったぞ』


「あはは、ごめんねサルワート。……他の飛竜達は何処に?」


『他の飛竜どもか?それなら、我が首輪と手錠を鎖ごと噛み砕いてやったら、自分の住処に帰って行ったぞ。その時に主人にお礼を伝えて欲しいと言っていたぞ』


「そうか、良かった」


 どうやら他の飛竜達も鎮静剤の効果が切れて、元気に自分の家に帰ったみたいだ。良かった。


『それで残ってるのは……』


『ちょっとまって、私に話しをさせて。……私とご主人のアドレットを助けて下さって、ありがとうございます』


 そう落ち着いた声で、僕に話しかけてくれたのは琥珀色の飛竜、ムートだった。


「いや、気にしないでください、僕もアドレットを助けたかっただけですので」


 ……なんだろう。


 なんかムートから異様な圧力を感じて、つい丁寧に話してしまう。


『メディ――いや!ムート。あんまり圧を飛ばしてやるな。主人がガチガチになっているではないか』


『何言ってるの、エクスプロード……いや、今はサルワートという名を頂いたんでしたね。あなたは昔から――』


『い、いやあれは――』


「…………」


 ……やばい、なんかよくわからないけど、ムートがサルワートに向かって、なんか理詰めし始めた。


 ……この二匹、昔に何があった?



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