第32話 禁忌を重ねる
「く、そ――」
大男からの氷柱の攻撃を防ぎ切ったと思ったら、死角に隠れてた五本目の氷柱が僕を襲う。
このままじゃ五本目を防げない!当たる!
当たる覚悟で、少しでも致命傷を避ける為に回避行動をとる。
少しでも、あの大男を倒す勝ち筋を残す為に――
けど、その前にキサラギが僕と氷柱の間に入って、爪を使って氷柱を弾き飛ばした。
『お兄ちゃん大丈夫!?』
「ありがとうキサラギ、助かった。でも、大丈夫か?」
『これくらい大丈夫だよ!そんなことより、来るよ!!』
「――!!」
安心しているのもつかの間、キサラギに注意されて前を向くと、男が【アイスショット・ガン】と魔法の呪文を唱えていた。
すると、さっきとは比べ物にならない量の氷柱が出現して、襲いかかってきた。
「くそ!多すぎる!!」
大量に襲いかかってくる氷柱を、僕とキサラギで協力しながら対処していく。
でも、これは本当にまずい。
このまま場当たり的に対処しても、こっちが対処できないほどの氷柱を出されたら、それで終わりだ!!
何としてもこの状況を打開しないと……賭けてみるか。
「キサラギ、お願いがある」
氷柱の攻撃を防ぎながら、キサラギに話し掛けると、キサラギも氷柱を防ぎながら応えてくれた。
『どうしたのお兄ちゃん』
「僕と【ヘルツゼーレ】をしてくれ」
『ーー!!何言ってるのお兄ちゃん!今、あの飛龍さんと【リンゲージ】をしてるんじゃないの!?それなのに更に私と【ヘルツゼーレ】するなんて自殺行為だよ!!』
キサラギの言う通り、僕が言っている事は自殺行為だ。
ムツキとキサラギに一遍に【ヘルツゼーレ】をした時も死にかけたのは覚えてる。
でも、それでもこの状況を打開できる手を、僕は他にもってない……だから!!
「自殺行為なのはわかってる。それでも数分なら大丈夫だよ。君たちと始めて【ヘルツゼーレ】した時でも数十秒は持ってたし……」
そう、キサラギに言い聞かせるように、自分に言い聞かせていた。
でも、本当に【ヘルツゼーレ】と【リンケージ】を同時に繋げるなんて、自殺行為だ。
しかもその一つは魂を繋げる【ヘルツゼーレ】だ……【リンケージ】と違って、負担はデカいし、失敗すれば初めて【ヘルツゼーレ】をした時みたいに死にかける。
しかも今は戦闘中。
あの時と同じ事が起これば、確実に死ぬ……けれど――
僕なら、出来る。
何故かそう、根拠のない自信が僕にはあった。
「今なら、大丈夫だよ」
キサラギに向かってそう笑いかけると、キサラギは険しい表情を僕に向けて来た。
『わかったよ、お兄ちゃん。でも何かあった時はすぐに【ヘルツゼーレ】を切るからね』
「ありがとう」
『うん!!』
これからの方針を決めて、氷柱の対処に集中する。
そして、しばらくすると氷柱の連射も終わり、大男は青い顔で笑っていた。
「ガハハ。中々やるじゃねぇか。けどな、もうこれで終わりだ!!」
大男がそういうと、完全に氷に包まれた左腕を突き出す。
すると、先程と比にならない程の大きな氷柱が数十本出現させて、攻撃の準備を始める。
「こっちも終わらせてやるよ!キサラギ!!」
『うん!!』
僕は、キサラギの頭に左手を置き【ヘルツゼーレ】と唱えて、キサラギとの繋がりを作っていく。
サルワートとの【リンケージ】とは違う。
キサラギと魂で繋がりあう感覚がしてくる。
お互いの魂が反発することなく、溶け合って、纏まる感覚がする。
そして――
「…………」
僕は自分の体を確かめた。
体に異常は感じない。
それよりもいつも以上に力が溢れて来る。
……これなら勝てる!
「キサラギ、下がって」
『うん、お兄ちゃん頑張って』
キサラギが後ろに下がるのを確認して、僕は大男に向かって走り出すと、それを見た大男は笑い出す。
「ハハハ、そう焦るなよ!死にたがり!【アイスショット・ラケーテ】!!」
大男は魔法を唱えると、周りに出現させていた氷柱を目の前で合体させて、何倍もの大きさの氷柱を射出して来た。
氷柱の大きさは洞窟内一杯に広がっていて、避ける隙がない。
「うおおおお!!」
サルワートの魔力を四尺棒に注ぎ込み、改めて炎をまとわせる。
そして、更に注ぎ込んで、爆発させず、準備をする。
……さっき、サルワートの魔力を使った時、僕の力が足りなくって、サルワートの魔力に振り回されたけど、今は大丈夫だ。
キサラギと【ヘルツゼーレ】をしたおかげで、力は上がってる。
これなら、腕を持っていかれる心配はない。
十二分に、サルワートの力を発揮出来る!!
四尺棒を先端の方に持ち直して、サルワートの魔力を爆発させる。
その勢いを利用して、氷柱に向かって四尺棒を横に振るい――
ガシャシャンと大きな音と共に巨大な氷柱を粉々に砕いた。
……やった。あとはあの大男だけ、だ!!
振り抜いた四尺棒をしっかりと持ち直して、大男に向かって改めて突撃する。
「はぁ!?そんなデタラメな!!化け物が!!!【アイスショット・ガン】」
大男は僕が氷柱を粉々に粉砕したことに動揺していたけど、すぐに複数の氷柱を召喚して、僕に向かって射出してくる。
でも、大男は焦っているのか狙いは定まっておらず、明後日の方向に飛ばしていた。
そしてそのまま突撃しながら、僕は四尺棒にサルワートの魔力を流して炎を纏わせる。
「チッ!クソが――」
四尺棒が炎を纏うのをみた大男は、慌てて氷柱を出すのをやめて、地面に置いてあるメイスを取ろうとするけど、もう遅い。
メイスと取る為にしゃがむ大男に、サルワートの爆発の魔術を利用して、僕は更に加速する。
「くらえぇ!!」
そして、僕は加速した勢いのまま、大男の脳天に四尺棒を叩き込んだ。
「――ガッ!!……く、そ」
大男は、最後に僕を睨みながらそう言って、倒れた。
「…………」
僕は倒れた大男を見ながら、構え直す。
相手を油断させるために、わざと倒れたと思ったから。
……でも、一向に動こうとしない大男に、四尺棒の先端で突っつく。
「……勝った」
突っついても起きない大男を見て、肩の力を抜くと同時に、出し続けていた角も閉まってしまう――
「――!!」
すると繋げたままだった【リンケージ】と【ヘルツゼーレ】が唐突に切れて、僕は膝から崩れ落ちて倒れてしまった。
『お兄ちゃん!!』
倒れた僕の所まで駆けつけてくれたキサラギに笑いかけながら、頭を撫でてやる。
「大丈夫だよ。キサラギ、今立ち上がるから――いでっ!」
立ち上がろうとするけど、左腕が【リンケージ】と【ヘルツゼーレ】が切れた影響で、また痛み出す。
くそ、魔力を流して無理やり直した時よりも痛い……それもそうか、痛みを無理やり感じない様にして、動かしていたらこうなるか……それでも――
また左腕を直そうと思って、僕は左腕に魔力を流す。
だけど、左腕に魔力が上手く流れずに乱れて、上手く治らない。
クッソ、これはもしかして【ヘルツゼーレ】の影響か?
……気合で立ち上がろう。
左腕の痛みを気合で我慢して立ち上がり、四尺棒を杖代わりにする。
「それじゃあキサラギ、アドレットの所まで案内して」
『うん、でもそのままじゃお兄ちゃん動けないでしょ?私に乗って!』
「それは……いや、ありがとう」
キサラギもボロボロだから大丈夫だよ。と言おうと思ったけど、キサラギが強い瞳で僕を見ているのに気付いて、僕は素直に甘える事にした。
「でも、その前に……」
キサラギに乗り込む前に僕は、大男がもし起き上がった時のために、せめてあの氷柱の攻撃魔法が出せる魔道具だけでも、回収しようと思い、大男の左腕を見た――
「……これは、無理だな」
けれど、魔道具の腕輪が付いてる左腕は、完全に氷に包まれていて、取る事が出来なくなっていた。
この状態じゃ、氷が溶けるまで腕輪は取れないか。
無理して取る必要はないし、このままにしてアドレットを探しに行こう。
……それにこれは、どう見ても失敗作だよな。
使用者の腕が凍るなんて……そう考えてみれば山賊が持ってるのも納得がいく。
軍の失敗作の魔道具を誰かが闇市に流して、それをこの山賊が手に入れたのかな。
『お兄ちゃん。どうしたの?いこ?』
「うん、そうだね」
キサラギに言われるままに僕はキサラギの背中に乗った。
……大男以上の山賊は居ないと思うけど、大丈夫かな…………早く、アドレットを見つけて、脱出しないと
「キサラギ、急ごう」
『うん、分かってる』
キサラギは僕を気遣ってくれながら、洞窟の奥に向かった。
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