第31話 頭領のお守りとは――
☆ ★ ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)
「キサラギ、よく頑張ったな」
キサラギの頭を撫でてあげながら、キサラギの体の状況を確認する。
こんなにボロボロになってまで、ありがとうキサラギ、ここまで頑張ってくれて、それにしてもあの時は驚いた。
僕が放った不意打ちの一撃。
……まさか、耐え切られるとは思わなかった。
何とか大男の態勢だけでも崩そうと思って、サルワートの魔力を体に循環させていたら、四尺棒にも魔力が流れ込んだ。
驚いたけど、それでもお構いなしで魔力をながしたその時、四尺棒が大男と接触してる場所が爆発した。
大男は何が起きたのか分からず、驚いていたけど、爆発させた僕の方が驚いた。
まさか四尺棒が、サルワートの魔力を利用して爆発の魔術を起こすなんて、思ってなかった。
でも、そのおかげで大男が偶然体制を崩した。
だから、僕は止めを刺す為に同じように四尺棒に魔力を流したら……同じように爆発した。
……これはサルワートの魔力の力?それともこの四尺棒の力なのか?
僕がそう考えていると――
「へへ、すげぇな。こりゃあ」
『「――!!」』
さっき倒したと思った大男が、笑いながら立ち上がっている!!
立ち上がっていた大男に向かって、僕たちは急いで身構えて大男の出方を伺う。
「お前、こんな隠し玉を持っていたのかよ?」
「…………」
……くそ、やり切れなかった。
僕が放った不意打ちの一撃。
あの攻撃なら、確実にこの大男でも倒せたと思っていたのに。
なのに平然とそれも笑いながら、こちらを見ている。
どんな体をしているんだこの男……!?
「ガハハ。ヒョロガキだと思っていたが中々骨があるじゃねぇか」
大男はそう言いながら、背中に背負っていた鉄の筒と、箱の様な物を投げ捨てて、下半身だけの甲冑を脱ぎ始めた。
「…………」
相手が甲冑を脱いでいる隙に攻撃しようと思ったけど……距離があって、この距離から攻撃を仕掛けても、時間がかかって不意打ちにならない……
だったら、相手の出方を見る為にもこっちの体制を整えよう。
「……キサラギ、離れて」
『うん、分かった』
僕達はお互いにある程度距離をとって、相手の出方を伺っていると、甲冑を脱ぎ捨てた大男はメイスを構えて、僕に向かってニヤリと笑う。
「ハハ!戦いの礼儀っていうもんを分かってるじゃねぇか。……さぁ、第二ラウンドと行こうかね」
大男はそういうと、一気にさっきとは比べ物にならないほどの速さで、僕に向かって距離を詰めて来る。
「――!クッ!!」
遅れたけど、僕も待ち構える事はせずに僕も距離を詰める。
「クック」
「……?――!!」
笑いながら距離を詰めて来たから、何か仕掛けて来るかと思って、大男を注意深くみていると、大男は距離を詰める過程でわざと加減速したり、後ろに飛んだりし始めた。
……なんだこの男は!?
ふざけてるとしか思えないけど……でも、この男が突撃して来るタイミングが読みにくい。
……でも読みにくいだけだ。
しっかりと見て対処すれば、引っ掛かる事はない。
そうやって男の出方をしっかりと観察してけっして自分からは、攻撃や防御の姿勢を取らない様に気を付けて対処していると――
「……くっ、おりゃあぁ!!」
先に痺れを切らした大男が、攻撃を仕掛けて来た。
「ふ、ぐっ」
上段から仕掛けられた攻撃をそのまま受けるような事はせずに、攻撃を四尺棒で流しながら、サルワートの魔力を込めて、先端の方を爆発させる。
そして、その勢いで大男に攻撃を仕掛ける――
「グ、ハァ!」
けど、すぐに引き戻されたメイスによって防がれてしまう。
「くっ」
「ハハ、こんなもんか?」
「まだまだ!!」
この後も僕とこの大男との同じ様な攻防が続く。
僕がサルワートの魔力を使うごり押しに対して、大男は意外にもガタイに似合わず力押しで戦わずに、戦闘技術で戦ってくる。
この大男、山賊なのに、なんでこんなに技術力があるんだ!?
そのせいで力押しで行けそうなのにいけない。
そんな少しでも均衡が変われば、一気に押し切られそうな攻防を何度続けたか。
息が切れかけてきて、今すぐに状況を変えないとつぶされる。
と思っていた時、鍔競り合いになった時大男から声を掛けられた。
「いいね。いいよお前!!気に入った。どうだ、お前。俺達の仲間にならねえか?」
「だれが!!お前らの仲間になるか!!」
「――!!」
大男からの問いかけについイラッときた僕は、怒りのままに鍔競り合いを解いて攻撃を仕掛けた。
けど、大男はそれをなんなく避けて距離を取る。
「ガハハ、そう感情的になるんじゃねぇよ。せっかくだ。お前にいいもんを見せてやるよ!」
そういうと大男は、メイスを地面に置くと自分の左腕に付いている腕輪を触る。
あの大男は何をしている?
もしかして、あの腕輪は魔道具?
いや、ありえない。ただの山賊が持っているはずがない。
そう僕が高を括っていると大男の腕輪から白い煙が出始めて、左腕が凍り始める。
「なんだ!!何が起きてる!?」
「そう驚くのは早いぞ!!おりゃ!!【アイスショット】」
大男が魔法の呪文を唱えながら、左腕を横に振ると、その軌跡線上に氷柱が出現して、僕の方に飛んできた。
「――!!」
意表を突かれた攻撃に戸惑いながらも、飛んできた氷柱が一本だけというのも幸いして、何とか叩き落すことは出来た。
でも、僕は大男がやった行動を信じられずにいた。
どうして山賊が魔道具を……!?
しかも、しっかりとした戦闘用魔道具を!!
なんで!?ありえない!!
そう、普通はありえない。
魔道具はどんなに安い物でも、最低で平民の一か月の食費の平均と同じぐらい。
しかも、そう言った魔道具は、明かりを付けるとかの簡単な魔術や、神さまの加護の紋章を人工的に刻んでいる物。
でも、今大男が使った様な氷柱を出す魔法を刻んでたり、氷の女神や戦闘の神の二柱以上の加護の紋章が、人工的に刻まれている戦闘用魔道具は、どんなに安くても、家が買えるほどの値段になりかねない。
しかも、戦闘用魔道具は何の訓練もしてない一般人が簡単に魔法が使えて、人を殺す事が出来る武器。
だから普通は、軍が許可した人物しか持てないはずなのに、どうして――
「ガハハ。どうだ、驚いたか!!これが魔法学の力だ!!」
「――!!……」
いや、今はそんなのはどうでもいい。
今はとにかくあの氷柱の攻撃を何とかしながら、あの山賊を無力化しないと。
「さぁ受け取りな!俺の魔法を!!【アイスショット】!」
大男は先ほどと同じように左手を振るい、氷柱を出現させると僕に向かって、何度も打ち出して攻撃してくる。
「――ク゚ッ」
そして僕は、サルワートの魔力を四尺棒に流して、炎を纏わせながら、爆発の威力を使って四尺棒を振るい、なんとか氷柱を防ぎ続ける。
だけど――
――!!これはキツイ、四尺棒に魔力を注ぎ込むのは大丈夫だけど、爆発の力を使うのは僕が持たない。
さっき大男に仕掛けた時もそうだけど、爆発の威力に振り回されて、制御が効かない。
サルワートの魔力に振り回される。
……サルワートの力は、いざって時にしか使えない。
そう思った僕は四尺棒に魔力を注ぐのを止めて、四尺棒だけで氷柱を受け流す。
……なんとか、このペースなら受け流す事は出来る。
だけど――
このまま防ぎ続けても何にも変わらない。
なんとか相手の隙をついて、攻撃を仕掛けないと。
そう思い、大男に隙がないかと氷柱の攻撃を防ぎながら観察していると、徐々に左腕が氷に包まれつつあるのが見えた。
……あの魔道具は、氷柱を出せば出すほど、所有者を凍らせていくのか!?
だったら時間を掛ければ掛けるほど、相手が不利になる!
その隙をついて――
「さぁ!これで終わりにさせてやるよ!!【アイスショット・フェンフ】」
大男は大きく左腕を振るい、そう魔法の呪文を唱えると、さっきと比べ物にならないほどの大きさの氷柱が四本出現し、僕に向かって射出された。
僕は何とかして四尺棒とサルワートの魔力を使って受け流したり、爆散させる。
そして、最後の四本目を爆散――
「――!!」
すると、爆散させた四本目の氷柱の後ろに、五本目の氷柱が出て来た。
くっそ!!わざわざ氷柱を大きくしたのはこの為か!?
四本目を爆散させた反動で、四尺棒は振り抜いたままだ!
このままじゃ五本目を防げない!当たる!
「く、そ――」
当たる覚悟で、少しでも致命傷を避ける為に回避行動をとる。
少しでも、あの大男を倒す勝ち筋を残す為に――
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