第30話 角が赤紫色に光る ☆
「……紋章が光ってる。なんでだ?」
謎の悪寒のせいで、身動きが取れなくなった時、右手の飛竜神さまの加護の紋章が淡く点滅しているのに気が付いた。
加護の紋章が点滅するなんて、聞いた事が無い……何が起こってるんだ?
僕は恐る恐る加護の紋章に魔力を流してみる。
すると、何かと繋がる感覚がして――
〔 やっと繋がった!おい、主人何処に居る!? 〕
サルワートの声が頭の中に響いた。
これは【コネクト】!?
……サルワートの方からも繋げる事が出来たんだ。
じゃあ、あの点滅はサルワートからの【コネクト】申請って感じなのか……
〔 サルワート。目を覚ましたんだね 〕
〔 目を覚ましたんだね。ではないわ!!主人、何処に居る!?まさか、洞窟の中に居るのではないのだろうな!! 〕
〔 ……よく分かったね〕
〔 馬鹿じゃろ主人!!敵が居たらどうする!せめて、リンケージをしてから行くじゃろ! 〕
【コネクト】越しに大声を出されて、軽く頭が痛くなったけど、頭を押さえながら僕は、気になった事を聞いてみる。
〔【リンケージ】をしてからってどういう事?【リンケージ】をしてもサルワートに触れてないと魔力を送る事も、力を借りる事も出来ないじゃないか!〕
〔確かに主人が言っている事も半分正解じゃ。でも、正しくはない。【リンケージ】は、あくまでお互いの繋がりを作って、その繋がりを経由して力のやり取りをする――〕
〔やっぱり触れてないとダメじゃないか!今は――〕
〔そう焦るな!話しはしっかり聞け!後悔するぞ!!〕
サルワートのその言葉に僕は押し黙った。
でも、こうしているうちにもキサラギが戦ってる。
気持ちは焦るけど……今は落ち着こう。
〔ごめん、続けて〕
〔よろしい。では、続けるぞ!さっきも言ったが、リンケージはあくまでお互いに触れあっている必要はない〕
〔……え?どういう事?〕
〔察しの悪い奴じゃな!つまり我と【リンケージ】をした後で意識的に繋がりを保ち続ければ、いつでも力のやり取りが出来ると言う事だ!!〕
……なるほど、なんとなくサルワートの言いたい事は分かったけど……そんなことが出来るなんて、今まで聞いた事がない……だけど今は――
〔主人分かったなら早く我の所に戻って【リンケージ】を――〕
〔ごめん、それは出来ない。今戦闘中で――〕
〔それを早く言わんかぁ!バカ者が!!〕
サルワートの怒鳴り声に、僕はまた頭が痛くなって、頭を抑える。
〔 チッ。……そうやって落ち着いて話しているって事は、今は大丈夫なのだろう。早く蹴散らして戻らんか 〕
〔 それはちょっと無理かな。今キサラギが相手してくれてるんだけど。相手がかなり強いから……それは難しい 〕
〔 クソ。チッ、どうしたものかの 〕
僕も焦る。
ここからだと戦闘がまたどうなっているか分からないけど、戦闘音が激しくなってる。
今すぐ駆けつけたいけど、今の僕の状態だと、完全に足手まといになる。
どうすれば……
〔 ……サルワート 〕
〔 なんじゃ、主人よ 〕
〔 【コネクト】越しで【リンケージ】って、出来ると思う? 〕
〔【コネクト】越しでじゃと!?……確かに【コネクト】はお互いの意思を繋げる術じゃ……理論上は、上手くいくかもしれんが……出来る保障など、我は出来んぞ?〕
〔……それでも理論上出来るなら、やってみる価値はあると思わないか、サルワート〕
〔まったく、無茶をする主人じゃな。いいぞ、我も協力する〕
〔ありがとうサルワート…………【リンケージ】〕
サルワートにお礼を言った後、僕は角を出してから【リンケージ】と呪文を唱えて、加護の紋章に魔力を流す。
けど、【コネクト】の繋がりを辿ってサルワートとの【リンケージ】の繋がりを作ろうとするけど、その繋がりが中々成立しない……
まだ魔力が足りないのか?
……それもそうか、普通にリンケージをするのに比べて物理的な距離が離れてる【コネクト】の繋がりを利用しているおかげで【リンケージ】の繋がりが出来そうだけど、あと一押しが必要だ。
僕は更に意識を集中して、魔力を加護の紋章に流していく。
角に過剰な負担が掛かっているのか、少し小刻みに震えている気がするけど、気にしていられない。
……今はサルワートとの繋がりを作る事だけに集中するんだ。お願いだ!!繋がれ!!
〔――!繋がったぞ、主人!!〕
そんな僕の願いが通じたのか、サルワートとの〔リンケージ〕の繋がりが出来た。
――でも、まだ弱い。
そう、繋がりが出来たのはいいけど、まだ繋がりが細い、これではちょっとでも気を抜いたら繋がりが切れてしまうし、力のやり取りも、これでは十分には出来ない。
繋がりを強くするために僕は、更に魔力を強める。
でも、離れているせいなのか、中々繋がりが強くはならない。
アドレットを救うために!
今戦ってるキサラギを助けるために!!
ここにいる飛竜の子供を親元に返すために!!!
必ず――
一体誰だ!こんな荒技をやっているのは!!
――突然、そう怒鳴る声がした。
何処かで聞き覚えのある声。
……えっ?飛竜神さまの声?
……まぁアイツしかおるまい。
だが、ことがことだ。今回は許可してやろう。
僕がどういう状況なのか把握する前に、飛竜神さまの声が途切れて、サルワートとの【リンケージ】がしっかりと繋がった感覚を感じる。
……飛竜神さま。ありがとうございます。必ず飛竜達をお助けします。どうか、お見守り下さい。
〔 サルワート! 〕
〔 分かっておる!受け取れ主人!! 〕
僕が声を掛けると早速、サルワートから魔力が流れて来た。
自分の物ではない、深く暗く燃える様な魔力。でも不快には感じない。全身から力がみなぎる。
僕は、その魔力を魔術に使うんじゃなくって、体に廻らせる。
体が熱い……でも、これでいい。
でも、足らない。
〔サルワート、もっとくれ!〕
〔なぬ!?主人これ以上魔力を流したら体が持たぬぞ!!〕
〔だい、じょうぶ。やってくれ!!〕
〔……分かった。もしもの時は我の方でサポートする〕
〔ありがとう、サルワート〕
〔礼なら、こっちに来てから言え!では……行くぞ!!〕
サルワートがそう掛け声をすると同時に、サルワートの魔力が、さっきよりも流れ込んで来る。
「うぐ……いける!」
僕は一気に密度が上がって暴れ出そうとする魔力を制御しながら、全身に廻らせて、角にもサルワートの魔力を流し込む。
すると、角にも軽く熱を帯びるのを感じる。
そして、自分の淡く光る角が魔力を流し込む程に光が増し、その光が徐々に赤紫色に染まっていくのを横目で確認して、笑う。
……うん、いい感じにサルワートの魔力が循環してる。
これなら戦える。
僕は右手に持っていた四尺棒を両手に構えて、強く何度も振るう。
そして、よどみなく動いた自分の体に満足げに頷く。
……うん、いける。
左腕の違和感も、サルワートの魔力を流しているおかげで感じない。
これなら十分に戦える。
「待っててキサラギ今すぐ行くから!」
僕は急いで、部屋の外で戦闘を続けているキサラギの元に走って向かう。
☆ ★ ☆(キサラギ 視点)
「ハハハ、どうした?さっきまであった威勢がなくなってるぜ。犬っころ」
「ガルルル!!」
目の前の大男は、ボロボロの私を見て、余裕の笑みを浮かべている。
対する私は、正直立っているのがやっとで、こうして威嚇する事しか出来ない。
悔しい。
あの男……私が、まともな反撃が出来なくなってから、わざと止めを刺さずにいたぶって遊んでる!!
ここが洞窟じゃなくって、もっと動ける森の中なら、あんな奴絶対に勝てるのに!ここじゃ、私の強みの俊敏性が生かせない。
う~そうすれば。
「もう終わりか、犬っころ」
目の前の大男は下卑た笑みを浮かべて近寄って来る。
けど、私はつい嬉しさで笑ってしまっていた。
大男はまだ気付いていない。
私をどの様にいたぶる事しか考えていないから、注意力が散漫になっていたんだろうけど、それが致命的だ。
後ろから走ってくる人物に気が付く様子がない。
私は嬉しさのあまり尻尾が揺れる。
お兄ちゃんが無事だったこと、そして――これで勝てることに!!
「おい!お前!!」
「あぁ?――!!」
怪訝そうに振り返る大男は驚く。
さっき吹っ飛ばして、もう戦闘脱落したと思っていた人物が居たんだから、大男は構えを取ろうとするけど、もう遅い。
「ぐ、がぐぁぁああ!!」
大男が構えを取るよりも早く、お兄ちゃんは走って来た勢いを利用して、棒で大男の横腹を殴打していた。
けど、大男はお兄ちゃんの殴打を気合で耐えきる。
そして、大男は笑った。
大男が、この硬直している間に攻撃を仕掛けようと、メイスを振り上げたのが見えた。
――!!お兄ちゃんを守らないと!
そう思って体を動かそうとしたけど、その必要はなかった。
「うぁあああ!!」
お兄ちゃんが雄叫びを上げると、持っていた棒が赤く、鈍く発光しだす。
すると大男を打撃している部分が突然爆発した。
「ぐぁ!?何!!」
「おりゃあ!!」
攻撃を仕掛けようとしていた大男は、突然の爆発に驚き、爆発の勢いで態勢を崩した。
その隙をお兄ちゃんは逃さずに爆発の勢いを利用して、大男に深く打ち込む。
そして、更に追い打ちとばかりにもう一度爆発させて、大男を吹き飛ばした。
バゴッンと洞窟内が響くほどの大きな音を立てながら、大男は吹き飛ばされて洞窟の壁にぶつかって倒れ込んだ。
「はぁはぁ……やった」
『お兄ちゃん!お兄ちゃんだいじょうぶ?』
「キサラギこそ、大丈夫?」
声をかけながらお兄ちゃんの所に近付くと、お兄ちゃんは優しい笑みを浮かべながら私の頭を撫でてくれた。
「キサラギ、よく頑張ったな」
へへ、お兄ちゃんの手だ。お兄ちゃんは強くてカッコイイから大好き!!
お兄ちゃんは私をナデナデしながら、私が怪我をしてないか見て来る。
正直、体はボロボロだけど、お兄ちゃんに撫でられるだけで、元気いっぱいになる!!
はぁ~ずっとこのまま――
「へへ、すげぇな。こりゃあ」
『「――!!」』
お兄ちゃんのナデナデを堪能していると、お兄ちゃんが倒したと思った大男が笑いながら、立ち上がった。
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