第29話 山賊の頭領との戦闘 ☆

☆  ★  ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)


「さぁて、侵入者。覚悟はできてるんだろうな!!」


「…………」


 速攻が失敗した。


 竹を構えながら、僕は目の前の敵に集中する。


 この大男、他の山賊と違って強い。


 ここまで来る道中。何度か山賊には会って来た。


 だけど、その時の山賊達は僕達を見ると何故か呆然としてた。


 だから、簡単に速攻を掛けて、相手を気絶させる事が出来た。


 たまに防がれた事もあったけど、その時はキサラギがカバーしてくれたおかげで、何とかなってきた。


 それに、入り口で竹を短くしたおかげで取り回しがらくになって、攻撃を仕掛けやすかった。


 けど……目の前の敵は違う。


 僕が速攻を掛けた時、キサラギは動かなかった。


 いや、動かなかった。


 それだけ相手には、隙が無かったってことだ。


 大男の構えを見るだけでも分かる。


 この男はその他の山賊に比べて断然に強い。


 どう戦えばこの男に勝てる?


 どうすればこの大男に勝てるかどうか、思考を廻らしていると――


「どうした?そっちから来ないなら、こっちから行くぞ!」


「――!!」


 大男から仕掛けて来た。


 僕がどうするべきか考えているうちに敵は、一気に距離を詰めて来た。


 くっそ!!


 敵の攻撃にいつでも対処出来るように姿勢を低くする。


 けど、それをみた敵が上段に構えていたメイスを下段に構え直して、僕に向かって振り上げる形で攻撃を仕掛けて来た。


 でも急遽構え直したこともあって振りが甘く、僕はなんとか横に回避することが出来た。


 僕は回避した勢いのまま、大男の後ろに回り込もうとするけど、敵はそれを許してくれない。


 敵は振り上げたメイスの勢いを殺さないまま、僕にメイスを振り下ろそうとしてきた。


「ガゥア!!」


「――!!――クッ」


 それをさせまいと、キサラギが襲う。


 敵もキサラギが横から襲ってくるのを察して、振り下ろした途中のメイスを無理やりキサラギに向かって、横なぎに振るう。


 その行動を予知していたのか、キサラギは爪を立てて、爪で威力が乗ってなかったメイスを受け止めて、拮抗する。


「もらったあぁぁ!!」


 その状況にチャンスを感じた僕は、大男の後ろに完全に回り込んで、上段から敵の頭に全力で竹を振るおうとした。


「ふん!!」


「ギャウン!」


「おりゃあ!!」


 でも、敵はそんなに甘くなかった。


 拮抗していたキサラギに対して、前蹴りを放って拮抗状態を解除する。


 そして、そのまま無理やり僕に向かって、横なぎにメイスを振るう。


「――!!」


 僕は横なぎに振るわれたメイスを竹で防ごうとするけど、さすがに勢いと質量に耐えきれず、竹は粉々に砕けた――


「――グッ!!」


 けど、メイスの勢いは止まらない。


 咄嗟に致命傷を避ける為に左腕で防ごうとしたけど、防ぎきれずに勢いに負けて僕は横に吹っ飛んだ。


「グッガアァア!!」


 横にふっ飛ばされた先は、壁じゃなく扉があり、僕はそのまま扉を突き破って、部屋の奥に飛んで行った。




☆  ★  ☆ (???)



『お兄ちゃん!!』


エルリーヒが飛ばされたのをみたキサラギは、エルリーヒが飛ばされた部屋に追いかけようとする。


けど、それを遮るように頭領が前に出る。


「おっと、どこに行くんだ犬っころ。ご主人の前にお前を先に殺してやるよ!」


『殺す!』


こうして、キサラギと頭領の戦闘は激化していった。




☆  ★  ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)



「――がはぁ。イテテ。とんでもない馬鹿力だな」


 あの大男に、通路の横にあった部屋の奥まで、僕は吹っ飛ばされてしまった。


 体中に痛みが走るけど――


「……早く、戻らない……と」


 僕は何とか立ち上がろうとするけど、何故か上手く体が動かない。


 しかも、左腕はほとんど感覚がない。


 でも――


「ほらほらどうした!」「ガウ」「こんなもんなのか!?」「ガウァ!!」


 部屋の向こうでは、まだ戦闘が続いてる……行かなきゃ。


 気力で何とか痛みを誤魔化して、左腕を庇いながら立ち上がる。


 ……骨折も魔力を流せば治るのかな?


 そう思った僕は、試しに魔力を流してみると、少し左腕の痛みが和らいだ気がする。


 凄いな……こんな事も出来るのか。


 ……違和感はあるけど、腕を動かすだけなら、何とか動かせる。


 ある程度の所で、魔力を流すのを止める。


「……何か武器になる物は」


 僕は、さっき砕けた武器の代わりになる物はないかと部屋を見渡す。


 すると、この部屋の異様さに気が付いた。


 なんだここは……武器庫?


 僕の右側には、数多くの種類と量の武器が整頓されて置かれていた。


 武器庫にしても、異様に量と種類があるな。


 山賊達が使うには多すぎないか?


 まるで、これから戦争を起こすかの量だ。


 ……それにあのタペストリーはなんだ?


 この山賊団のマークなのか?


 赤い布地に三つの頭を持つ竜が刺繍されている。


 しかもその三つの頭がそれぞれ違う気がする。


 一つは飛竜なのはわかるけど、もう二つはなんだ?


 一つはヒレの様な物が付いてるから海竜?


 で、もう一つが岩の様な硬そうな皮膚をしているから地竜かな?


 ……気のせいかな。


 この三つの頭を持つ竜のマーク、何処かで見た事がある気がするけど……いや、今はそれどころじゃない。


 ……それよりも。


 僕は、部屋の左側をみる。


 そっちには大きな木箱や布を被されている小さな箱みたいなのがある。


 一見、ただ資材を置いてるようにしか見えないけど、僕にはわかった。


 あの布を被されてる小さな箱……いや、檻の中には、飛竜の子供が捕まってる……だって――


『おかあさん、こわい。たすけて』


 飛竜の子供のすすり泣く声が聞こえるんだから。


「…………チッ」


 自分でも分かるほど、眉間にしわが寄っているのが分かる。


 この子以外にも、今までにこんな子供や、外にいた飛竜達を山賊達は捕獲して……そして、それを売りさばいて来たのか――絶対に許さない。


 怒りのあまり、左腕の違和感も忘れて、右側にある数多くの武器が並べられている右側に向かった。


「山賊ども、あの大男も絶対に許さない。二度とこんな事出来ない様に――」


 冷静にならなくちゃいけない事は、僕も頭の片隅で分かってる。


 でも、それ以上こんな事をしていた奴らに対する怒りが収まらない。


 それでも、今は大男を無力化するんだ。


 今もキサラギは戦ってる。助けに行かなきゃ。


 だから、僕にも使えそうな武器は……


 剣……はダメだ。まともに使った事がない。


 それじゃあ、ただの鈍器と変わりない。だったら鈍器系……メイスや鈍器なら。


 僕はいくつかの飾ってあるメイスや棍棒などの鈍器を手に取るけど、どれもしっくり来ない。


 筒状の棒状の武器もあるけど、太すぎてまともに持てない……それにしても。


「武器を集めるのが趣味なのか?ここの頭領は……」


 山賊にしてはここの武器の種類は豊富すぎる。


 品質は確かに最低限だけど、山賊の人数と武器の量が釣り合わない気がする。


 いや、今はそんなのは関係ない。


 早く武器を決めないと、適当な棍棒にしようか……でも、やっぱり棒術が使える棒や棍の方がいいな。


 それか、折れにくそうな適度な長さの棒でも構わないけど……


 と色々と見ていると少し離れた場所にある。


 指輪や腕輪、装飾過多な剣が飾ってある場所に、太い棒が飾ってあるのが見えた。


 どうして、あんな装飾品系が飾られてる場所に、あの棒が置かれてるんだ?


 鈍器系の所じゃなくって?


 そう疑問に思いながら僕は、太い棒の所に向かった。


「……なんだ、この棒は?」


 近くでその棒を見て驚いた。


 石をそのまま粗削りしたような凹凸がある棒。


 武器として扱う事を考えると、まともに使える物じゃない。


 でも、この場所で僕が武器として使えそうな手頃な棒はこれしか見当たらないし……贅沢は言ってられないか。


 僕は右手で棒を取って、軽く振ってみる。


「――!!なんだ、これ……」


 この棒、異様に手に馴染むし、振りやすい!!


 普通、こんなに凹凸があったら持ちにくくて、まともに触れたもんじゃないはずなのに……それに、この長さは洞窟の中なら使いやすい。


 ……たしか、棒術を教えてもらった時の師匠が使ってた棒が、たしかこれぐらいの長さだったと思う。


「不思議だな。これは……これ多分、戦闘用の棒だ。たしかこの長さの棒は……四尺棒って言うんだっけ?」


 四尺棒は確か、大体120cmの長さの戦闘用の棒。


 普通は木や金属で作られてるはずだけど……この四尺棒はなにで作られてるんだ?


 重さ的に石ではなさそうだけど……じゃあ、この石の中は、なにで出来てるんだ?


 それに何で、わざわざ表面を石みたいので覆ってる?


 けど……少なくとも竹と違って持ちやすいし、振りやすいし、重さもちょうどいい。


「……凄く使い易いな。これ」


 こんなに使いやすい四尺棒が、なんで装飾品とかと同じ場所に置かれていたのか分からないけど、使わせてもらおう――


「おら、これで終わりか!!」


「キャウン」


 ガシャンと重くて低い打撃音が、部屋の外から聞こえてくる。


「――!!早く行かないと!キサラギが危ない!!」


 今すぐ、キサラギの所に向かおうと、左腕の違和感を気合で誤魔化して走り出そうとした時――


「――!!」


 背中に悪寒が走った。



 でも、今回の悪寒は洞窟に入ろうとした時と比べて、比にならない程、強い。


まるで、真後ろに死神が立っている様な、強烈な死の予感と焦燥感を感じる。


「…………」


 足を止めて、慌てて後ろを振り返る。


 だけど、やっぱり後ろには誰も何もない。


 ……それでも悪寒は走り続け、足が鉛のように重い。


 この、悪寒はなんだ?……もしかして、本能的に察してるのか?


 このままキサラギの所に向かったら死ぬかもしれないって……いや、でも!それでも!!


 今キサラギは戦ってるんだ!今助けに行かずにどうするんだ!!


 無理やり足を動かそうとするけど……それでも足は動かない。


 お願いだ!動いてくれ、俺の足!じゃないと……キサラギまで……


 まったく言う事を聞かない自分の体に、絶望感を感じていると、四尺棒を持ってる右手の甲にある加護の紋章が、淡く点滅しているのに気付いた。


 ……紋章が光ってる。なんでだ?


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