第28話 アジトの洞窟に突入―― ☆
「――!!サルワートが倒れてる!いくぞ、キサラギ!!」
『うん、分かってる!!』
飛竜達を解放するように頼んだサルワートが何故か倒れてる!
どうして、こんな事になったのか分からないけど、早くサルワートを助けないと!!
「サルワート、大丈夫!?」
急いでサルワートの所に駆け寄ると、サルワートは今にも寝てしまいそうな虚ろな目をしていた。
「サルワートどうした!何があった!!」
『わからん、ここに、来た途端、眠気が……』
眠気?とりあえず、命には別状はなさそうだけど、どうしてこんな事に……
そういえば、僕達が戦闘してた時も飛竜達は異様に大人しかった。
檻に捕まってる二匹の飛竜は寝てるし、ムートも虚ろな目で、視点が定まってない。
どうしてだ?ここになにか……
こうなった原因を探していると、飛竜達が捕まってる檻の中心に、穴が開いてる特殊な大釜から、青い煙が立ち上ってる。
「あの大釜から出てる煙……もしかして飛竜用の鎮静剤の煙?」
僕は穴が開いてる特殊な大釜に近寄って、中を覗き込む。
大釜の中は煙で満たされていて、よく見えないけど、大量の調合されてるであろう薬草が入ってる。
原因は確実にこれだな。
放置するわけにもいかないし、消火しないと!
大釜を左右に揺らして、反動を付けて大釜を倒す。
その大釜の中に土を入れて消火しようとしたけど、僕だと時間が掛かり過ぎるな。
『……?お兄ちゃんこの中に土を入れればいいの?』
「あぁ、頼めるか?」
『任せて!』
横で僕がやっている事を不思議そうに見ていたキサラギは、僕のやりたいことが分かったのか、大釜に土を入れる作業を手伝ってくれた。
「……キサラギ。ちょっと、このままこれを消火してて」
『うん、わかった』
「……さて」
消火作業をキサラギに任せて、掴まってる飛竜達をみる。
……ここに充満してる鎮静効果がある空気をどうにかしたいけど……このままにしておこう。
キサラギなら、ここにこもっている空気を風の魔術で飛ばすことが出来る。
だけど、飛ばした結果、この場所以外で何か被害が起こるかもしれないし、このまま時間が経てば、鎮静効果のある空気も霧散するはず。
なら、お香の消火はキサラギに任せて、その間に檻の飛竜達を解放したい所だけど……檻の鍵って誰か持ってるのか?
僕は、さっき倒した山賊達を起こさない様に気を付けながら、鍵を持っている人が居ないかどうか、探していく。
もしもの時は、すぐに竹で迎撃できるように構えながら、慎重に山賊達から鍵を探して行くと、最後の方に倒した大男から、檻の鍵らしき鍵の束が見つかった。
「よかった。それらしい物がみつかった。……これで檻が開くといいんだけど」
僕は急いでその鍵の束を拾い上げて、飛竜達が捕まっている檻に鍵を合わしていくと、一つの鍵が檻の扉を開けた。
「よかった開いた!!次……」
そのあとも、順調に他の二匹の飛竜の檻と、アドレットのパートナーのムートの檻の鍵を開けていった。
……檻は開けられたけど、首と手足の錠の鍵は、さすがにこれには付いてないか……アジトの中に鍵があるのかな?
『お兄ちゃん消したよ!!』
「ありがとうキサラギ……洞窟の中に行くよ」
『うん!アドレットさんを探さないとね!』
「うん、ありがとうね。サルワートは……まだ、鎮静剤の効果が残ってるみたいだね」
サルワートに目線を向けると今すぐにでも寝てしまいそうな程、虚ろな目をしている。
他の飛竜達もまだ、鎮静剤の効果が残ってるのか、力なく床に伏せてる。
君たちもすぐに助けてあげるからね。
……アドレットを探しながら錠の鍵も見つけないとな。
「よし!キサラギいくよ!!」
『うん!!』
早まる気持ちを抑え切れずに、山賊のアジトらしき洞窟に入ろうとした――けど、僕は洞窟の入り口で、足が止まった。
『え?どうしたのお兄ちゃん』
「……」
キサラギに声をかけられるけど、僕にも今の状況が説明出来なかった。
洞窟に入ろうとした途端、何故か悪寒が背中に走って、足が鉛のように重くなった……足が、動かない。
どうしてだ?…………何故か、このまま洞窟に入ったら、取り返しのつかない事になる気がする……どうして?
自分でもどう説明すればいいか分からない状況に戸惑っていると、何気なく自分の武器にしてる竹と洞窟の入り口を見比べた。
……もしかして、この長さのまま洞窟内で戦闘したら、引っ掛かるから?
「キサラギ、この竹ちょっと短くしてもらってもいい?」
『うん?わかった』
僕の意図が分からなかったみたいだったけど、キサラギは竹を短くしてくれた。
その途端、さっきまでしてた悪寒がなくなって、足も軽くなった。
――!!なんだ、一気に悪寒がなくなった……行けるか?
僕は、慎重に洞窟の中に入る。
さっき感じた足の重みも感じない、むしろ軽く感じるほどだ。
……これならいける。
でも、あの悪寒は何だったんだ?野生の感ってやつなのかな……だとしても、これでアドレットを助けられる!!
「よし、もう大丈夫だ。キサラギ!アドレットの所に案内してくれ!!」
『うんわかった!付いて来て!!』
キサラギは、地面に鼻を付けながら、ゆっくりと洞窟の奥に進んで行く。
待ってて、アドレット。今すぐ助けに行くから。
☆ ★ ☆(山賊の頭領 視点)
「上からアイツを使えって言われた時は、どうしたもんかと思ったが、頭は狂ってるが使えるやつだ」
今俺は、私室でクレーエ博士の野郎が書いた資料を酒の肴にして、酒を呷っていた。
「ずっと同じ白衣を着てニヤニヤしてる以外は、本当に優秀な奴だな。ククク、この資料が本当なら、来年から楽しい事になるな」
俺はグラスに残っている酒を一気に呷り、次の酒を入れる。
「今年の収穫は上々。まだ時間はあるし、まだまだ稼がせてもらおうじゃないか」
新しく継いだ酒を楽しみながら、今後の事に思いをはせて、ほろ酔いになっていると、ダンダンダンと部屋の扉が慌ただしく叩かれた。
「チッ、誰だ!!」
ほろ酔いでいい気分だったのを邪魔をされた怒りのまま、扉に向かって声を掛けると、クレーエ博士と同じタイミングで入団した新人のリスティーヒが扉を勢いよく開けて入って来た。
「頭領、大変っすぅ!」
「あぁ?どうしたんだそんなに慌てて」
「アジトの入り口が飛竜の攻撃を受けてるっすぅ!!」
その報告を聞いた俺は思わず立ち上がった。
その時、手に持っていたグラスを手放して地面に落ちて割れたが、気にしてる暇はない。
「はぁ!クレーエ博士は何をやっている!どうしてうちのアジトの場所がバレてるんだ!」
「わかりません。でも、明確に存在をわかって攻撃をしてる感じっすぅ」
「チッ。わぁかった。リスティーヒ、お前はクレーエ博士にこの事を伝えてこい!」
「了解すぅ」
リスティーヒは俺の指示を聞くとすぐに俺の部屋から出て行った。
それを確認した俺はすぐに棚に置いてある飛竜捕縛用の装備を付けていく。
飛竜捕獲用のランチャーと砲弾……今回はあっちから攻撃を仕掛けてくるほど好戦的だ。
なら、空中での迎撃が必要だな。
そう思った俺は、空中浮遊の出来る下半身用の鎧と、それを運用するための魔術媒体の箱を背中に背負って、箱と鎧をケーブルで繋げる。
そして、自分の愛用の長物のメイスを肩に背負う。
「……そいや、これも実験しろって上から渡されてたな。まぁ、必要ないだろうから、お守り代わりに付けとくとするか」
最後に愛用のメイスと同じ棚に置かれていた水色の腕輪を左腕に付ける。
こういった装飾品は趣味じゃねぇが、仕方なねぇ。
これも上の命令だ。
装備が万全に整ったのを確認して、俺は洞窟の入り口へ向かって足を進める。
◇ ◆ ◇
「…………なんか、妙に静かな気がするな」
アジトの入り口へ向かってる途中、俺は違和感に気が付いた。
アジト内に部下達の声が聞こえない。
もし、入り口で部下達が飛竜の攻撃に対処してるなら、ここからでも聞こえて来るはずだ。
……いくら幻惑の効果が効かない飛竜でも、結界はブレスなどの魔法系の攻撃は防げるはずだ。
そしてもし、飛竜が結界内に入って来たなら、それこそ飛竜捕獲用の砲弾の餌食だ。
だから、入り口は大丈夫だと思うが――
「はぁ?誰だアイツ」
自分の不安を払拭するために考え込んでいると、武器庫の部屋の前で短い竹を持った青年が、こちらに向かって来るのに気が付いた。
――侵入者!アイツにやられたから部下達は静かなのか!!畜生――いや、まて。
臨戦態勢を取ろうとした時、よく見ると青年の後ろに白銀の狼が付いて来てるのに気が付いた。
……あの狼は魔獣か?
魔獣を連れてるって事は……上の奴らの使者の可能性が……あり得るのか、このタイミングで?
…………怪しすぎる……だが、使者に攻撃を仕掛けたら、俺の首が物理的に飛ぶ……念のため確かめるか。
「おい、お前は――!!」
突然、ガァアン!と硬いもの同士がぶつかる音が洞窟に響き渡った。
その音の中心では、俺と青年が鍔迫り合いをしていた。
「おいおい、随分な挨拶じゃねぇか侵入者!!」
「……チッ」
軽く舌打ちをすると、青年は狼の所まで下がっていった。
……警戒して正解だったな。
やっぱり、こいつらは使者じゃなかった。
なら、どうやって狼の魔獣を連れ歩けるのか不思議だが、どうでもいい。
今はこの侵入者を排除する。
戦いなれた動きじゃねぇが容赦がねぇ。
それに、あの隣にいる狼も、いつでも襲いかかれるように臨戦態勢を崩さない……これは。
久しぶりに楽しめそうだ。
「さぁて、侵入者。覚悟はできてるんだろうな!!」
俺は口角を上げながら、メイスを構える。
ここに来てから暇だったんだ。
楽しませてくれよ、侵入者。
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