第27話 山賊らしくない山賊 ☆
☆ ★ ☆(兄貴と呼ばれてる男 視点)
「誰か早く、頭領を呼んで来い!」
「リスティーヒがすでに呼びに行ってやす、兄貴!」
クソ、どうして俺達の場所があの飛竜にバレたんだ!?
俺を含めて、同僚の奴らは慌てふためいていた。
アジトの前で今日も、楽な見張りの仕事をしてたら、アジトの上空高く、赤紫色の飛竜が居たのに気付いていた。
だが、新しく作られたこのアジトは、飛竜や近くの村人に、この場所がバレないよう、上空に幻惑の効果のある防御結界を張ってる。
しかも、その結界を張る魔動機械は、洞窟の奥に置いてあって、あの狂った博士以外は触れない様になってる。
だから、こっちから手を出さない限り、あの飛竜にはバレてないと高を括っていた。
でも、その結果はどうだ!!
高く飛行している飛竜がこっちに向けて、ブレスを打ってきてるじゃないか!?
辛うじて防御結界のおかげで、このアジトにまだ被害は出てないが、いつ破られるか分からない。
「くそ、あの駄竜いつまでブレスを打つつもりだ!!おい、誰か飛竜捕獲用の砲弾を打ち込んでやれ!!」
「ダメだ兄貴、あの高さじゃ、届かねぇよ」
「じゃあ、どうすりゃあいいんだよ!!」
クッソ、寄せ集めの集団だから、誰もが他人任せになっていやがる!
早く頭領に来てもらわねぇと――
「ホォオーーーーーーーーーーーーーン」
唐突に、狼らしき遠吠えが、森の方から聞こえてくる。
……どうして、この近くに狼がいる?それとも魔獣か?
「あ、兄貴。森から遠吠えが――」
「そんなの気にするな!今は上空の飛竜を対処するのが先――」
「ギャアーー!!!」
「「――!!?」」
突然、聞こえた同僚の悲鳴の声が聞こえた。
嫌な予感を覚えながら、声のした方向をみると、そこには背中を大きく切り裂かれた同僚と、背中を切り裂いたであろう狼……いや、あの毛並みと目は魔獣だ!
その狼系の魔獣が獰猛な顔で、こちらを睨んでいる。
そして、その背中には竹を構えている青年が乗っていた。
……なんだ、アイツは!?
魔獣に乗っているって事は――いや、そんなはずはない!
俺達に攻撃を仕掛けて来てるんだ!なら、敵だ!!
この異様な状況に俺を含めた同僚が戸惑っていると、それを嘲笑うように狼と青年は、動き始めた。
近場に居た同僚達が、次々と狼の爪に切り裂かれて倒れたり、青年が竹で頭を打ち付けて、気絶させていく。
その光景に更に俺達は狼狽える。
「なんだ!なんなんだアイツは!!どうしてこんなタイミングで来るんだ!!」
「おい!誰か近接武器を持って来い!」
「無理だ兄貴!あの武器庫には貴重な商品も保管してあるから、鍵がしてある。しかも、その鍵は頭領しか持ってない!」
「がああ!!こうなったら、これで捕まえてやる!!」
俺は思わず背中に担いでいた飛竜捕獲用の砲弾を狼と青年に向けて発射する。
発射された砲弾は狼と青年に向かって飛んで行く。
すると、弾が開き捕獲用の網が展開されて、狼と青年を襲うが、狼が後方に飛んで、それを回避する。
クッソ、外した。
でも――
俺が飛竜捕獲用の砲弾を、狼と青年に向けて発射するのを見ていた他の同僚達は、避けられたけど捕獲できる可能性があると判断して、まだ倒れてない同僚達は、狼とその背中に乗っている青年に向かって、一斉に飛竜捕獲用の砲弾を撃ち込んだ。
一斉に打ち込んだせいで、砂煙が立ち込めて、状況が一切判断できない。だが――
……よし、捕まえられた。
砂煙の向こう側から、動いてる気配はしない。
それに、一斉に飛竜捕獲用の砲弾を撃ち込んだんだ。
逃げられるはずがない!
そう確信していると、砂煙がゆっくりと晴れていき。
そこには、複数の網に捕まっている狼がいた。
「やった、狼を捕らえられた!」
「よっしゃ!俺達の勝ちだ!!」
同僚達が狼を捕らえる事に成功した事に、歓喜の声を上げる。
だが、俺は――
「……あの野郎は何処にいった?」
違和感に気が付いた。
狼の背中に乗っていたはずの青年が、居ない。
アイツは何処に――
「ぐぎゃあぁぁ!!」
「――!!チッ」
俺が違和感を感じた事を同僚に伝えようとしたが、遅かった。
姿を消していた青年が、いつの間にか、こめかみに角を生やして、俺以外の同僚達を気絶させていた。
俺は急いで臨戦態勢を取ろうとしたが、角を生やした青年はいつの間にか、俺の背後に回っていた。
……畜生。楽な仕事だと聞いて、ここまで来たのに失敗した。
こんな事なら、第一陣の奴らと一緒に帰ればよかった。
そう後悔の念を抱きながら俺は意識を失った。
☆ ★ ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)
「……これで全員か……ふぅ」
僕は辺りを見渡して、まだ無力化できてない山賊はいないかと探したけど、少なくとも今ここにいる山賊は、無力化出来た事を確認して、角をしまった。
「うぷ――!?」
気を抜いた途端、胃が締め付けられる感覚がするけど、なんとか抑え込む。
僕がやった奴は気絶させたけど、キサラギがやった奴は、多分……でも悪く思うな。
自分のやった事の…………報いだ。
そう、自分に言い聞かせる。
それでも、胃は締め付けてくる。
……大丈夫……気負う必要はない…………これは、相手の自業自得だ。
やったのはキサラギだけど……間接的にやったのは僕だ……でも、アドレットを助ける為……大切な人を守れるなら、僕は…………業を背負う。
そう思った途端、少し胃の締め付けが緩くなった気がする。
そして、僕は深く深呼吸をした。
しっかり自分の気持ちを整える為に、まだアドレットを助けられてないんだ。
気を引き締めないと。
「……なんとか無力化は出来た。サルワートは……まだブレスを続けてくれたんだね【コネクト】」
〔サルワートお疲れさま。もう表に出てる山賊は全部倒したから、こっちに降りて来てもらえる〕
〔……チッ、了解だ〕
「あはは、悔しがってたな、サルワート……それにしても」
サルワートのブレスを霧散させていたものはなんだ?
かなり大型な魔術……いや魔法かな、これは?上空からは、認識されない様に幻術が付与してあるし……
それに山賊達が使っていたこの筒状の武器。
最初向けられた時、なにをするつもりか分からなかったけど、まさか捕獲用の網が飛んでくるとは…………あっ。
「やばい、忘れてた!!」
急いでキサラギの所に向かうと、案の定キサラギは、悲しそうな瞳でこっちを見ていた。
『お兄ちゃん、私忘れられたのかと思った』
「そんなわけないだろ!今出してやるからな!」
少しキサラギの事を忘れかけていた事を誤魔化すために、急いでキサラギを網から出してあげようとしたけど、網が重なってるせいで、変に絡み合って、上手くキサラギを出してやれない。
「これ中々難しいな」
『……ごめんねお兄ちゃん。掴まっちゃって』
「何言ってるんだ。キサラギがあの時、おとりをかって出てくれなかったら今頃、僕達は負けていたかもしれないんだから」
実際こうして僕達が勝てたのはキサラギのおかげだ。
山賊たちがこっちに向かって捕獲用の網を発射する筒を向けた時、咄嗟に僕と【ヘルツゼーレ】をして別行動をするのを提案したのは、キサラギだ。
もしあの判断がなければ、どうなっていたか分からない。
……とりあえず今は、今回の戦いの功労者を出してあげないとね。
『主人……何をしておる』
「あ、サルワートお疲れ様。今キサラギを網から、出してあげてるところ」
『そうか……それにしても、この魔法の結界の魔術式はなんだ?この結界、我のブレスが一切効かなかったぞ?』
「…………」
僕はキサラギが掴まっている網を解く手を止めて自分の思考に集中した。
サルワートの言いたいことは分かる。
見た目は山賊なのに、武装だけは充実してる。
それだけ飛竜狩りは稼げるということなのか。
それとも、背後には何かいるのか……いや、今考える事じゃないか。
僕は思考を切り替えて、網を解きながらサルワートに答える。
「……さぁ、分からない。わかる事は、この山賊が山賊らしくないってことぐらい。それしか僕にはわからないよ……それとあっちに捕まっている飛竜達を助けれるかどうか試してもらえない?」
『……ふん。まぁ、よい。せっかくだし同胞達を助けよう』
そう答えるとサルワートは飛竜達が捕まっている檻の方に向かってくれた。
……サルワート、少し気落ちしてる感じだったな。
何かしら後でフォローしないとな、下手に放置していると、後で面倒くさい事になりかねない。
僕はサルワートにどんなフォローをしてやればいいかと考えながら、黙々と網を取り除いて、やっとキサラギを網から出してやる事が出来た。
『やった!やっと出れた!!』
「よかった。怪我とかはない?」
『うん、特にはないよ』
「目立った外傷はないか。うん、大丈夫そうだね。それじゃあサルワートに合流して、飛竜達を救出しよう」
『うん。分かった』
とはいってもサルワートなら、もう飛竜達を解放してそうだけどね。
キサラギの頭を撫でながら僕達は飛竜達が捕まってる檻の方向に向かったが――
「――!!サルワートが倒れてる!いくぞ、キサラギ!!」
『うん、分かってる!!』
サルワートが倒れるなんて何があったんだ!?
どうか無事で居てくれ、サルワート!!
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