第26話 高揚の遠吠え

☆  ★  ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)


『……お兄ちゃん。この先にお兄ちゃんが探してる人の匂いが続いてるよ』


「ありがとうキサラギ……そしてここが山賊のアジトか」


 今僕達は、木の陰に隠れながら観察している。


 そこは、崖の麓で人工的に森が切り開かれていた。


 切り開かれた場所には十数人の見るからに山賊という身なりの男達と、檻に閉じ込められている飛竜が三匹いる。


 そして、その一匹は琥珀色の飛竜、ムートがいた。


 やっぱり、アドレットは山賊に捕まっていたんだ。


 ……それに、崖には洞窟らしき横穴が開いていて、数人が出入りしてる。


 あそこが間違いなく、飛竜狩りをしている山賊のアジトだ。


 まさかこんな所にあるとは、思ってもみなかった。


「……繋がるかな?【コネクト】」


〔……主人、聞こえているか?〕


 繋がった。離れていても【コネクト】をする事は出来るんだな。


 凄い呪文だな、アドレットには感謝しないと。


〔あぁ、聞こえてる〕


〔そうか……これは凄まじい呪文だな……それで何かあったのか?〕


〔あぁ、山賊のアジトをみつけた。こっちに合流してくれないか?〕


〔おぉ、すごいではないか!……それで、どこにいけばいい?我は今、山脈の近くを飛んでいる所だ〕


 ……山脈?山脈って言ったらこの近くには、今僕達がいるフォルト山脈しかないよな?


 ……それともサルワートは別の場所にいるのか?


 僕は疑問に思って空を見上げるとそこには、高い位置に赤紫色の物が飛んでいるのが分かった。


 あれは確実にサルワートだよな?


 もしかして、見落としたのかな?


〔サルワート。今、森の中から君が見えた。崖の近くに不自然にひらけた場所はないか?〕


〔あぁ、確かに不自然にひらけた場所が一つだけあるな。なんだ?その場所に横穴があって、そこに山賊達でもいたのか?〕


〔……確かに横穴というか、洞窟はあるけど……サルワートからは、外で作業してる山賊達は見えないの?〕


〔なに!?……移動したが、何かがあるようには見えんぞ〕


「――!!……どういう事だ?」


 改めて切り開かれた場所をみると、数人の山賊達が空をさしながら、何かを話している。


 多分、サルワートをみつけて何かを話しているんだろうけど……


 なら、尚更なんでサルワートからは見えないんだ?


〔……サルワート。試しに今見えてる切り開かれた場所に、ブレスを打ってみてくれないか?〕


〔――!!……主人本気か?我がブレスを吐いたら、そこら一帯が火の海になるぞ?〕


〔……大丈夫。もしもの時は、僕が何とかするから〕


〔わかった。主人の指示道理にしよう〕


「……これでどうなるかな」


 僕は【コネクト】の接続を切って、空を見上げてサルワートを探すとサルワートは、切り開かれた場所の、ほぼ直上を陣取っていた。


 そして、僕が見つけた時には、もうブレスの準備が終わっていたのか、火球のブレスを吐きだしていた。


 さて、どうなる?


 飛竜達に見つからないように何か細工してるなら、何かにぶつかるはずだけど……


 そんな僕の勘に等しい事を考えながら、火球を目線で追っていると、地面から約10mぐらいの高さの位置で、いきなりブレスが空中で霧散した。


 火球が消えた!?サルワートが加減でもしたのかと思ってサルワートをみると、すでに次のブレスを打っていた。


 でも、そのブレスもさっきのブレスと同じ高さで霧散した。


 やっぱり、何かあの場所に仕掛けがあるんだと思った僕は、切り開かれた場所をみると山賊達が目に見えて慌てているのが見えた。


 この状況は山賊達も予想外だったのか、まともに統率が取れてなかった。


 もしかしたらこの状況なら、奇襲をかければ山賊達を制圧できるかもしれない。


 そのためにもサルワートには、このままブレスを吐き続けてもらおうと思って、再度【コネクト】を唱えた。


〔サルワート――〕


〔わかっている!!我があの結界をぶち破ってやる!!少し待っておれ!!〕


 サルワートはそれだけ言うと、一方的に【コネクト】の接続が切れてしまった。


 まぁ、僕のやってほしい事はやってくれるみたいだから、それでいいかな?


 ……でも、奇襲を掛けるとしても武器が――


『お兄ちゃん、今なら奇襲を仕掛けられるよ!どうする?』


 どう奇襲を掛けるべきか迷っていると、切り開かれた場所の方向をずっと警戒していたキサラギから、そう提案されて僕は頷いた。


「うん、行こう。アドレットを助ける為に、でも――」


『わかったよお兄ちゃん。さぁ、早く乗って!』


 駆け寄って来たキサラギは、僕が乗りやすいように伏せてくれた。


「……ありがとうキサラギ。でも、武器が無いんだよ」


『大丈夫だよお兄ちゃん!私の爪であの男達を殺すから!!』


「――!」


 キサラギのその言葉に、息を呑む……だけど、キサラギからしたら、人を殺す事に忌避感何てあるはずが無いんだ。


 こうして、僕に親しく接してくれるけど……キサラギは狼系の魔獣なんだから。


 本来なら、魔獣は人なんてただの餌にしか思ってない。


 だけど、森の主さまは僕を認めてくれて、その娘のムツキとキサラギは、兄と言って慕ってくれたから忘れてた。


「…………」


 確かに、キサラギの言う通り、キサラギに任せた方が、山賊の対処は出来るし、すぐに無力化出来る。


 だけど――


『どうしたの?お兄ちゃん』


 それは、何かが違う気がする。


 キサラギだけを戦わせるのは……


 でも、僕には戦闘能力はないし、武器になりそうなものもない。


 キサラギに全部任せて、僕はキサラギの背中で、指示を出すだけの方が効率はいい……でも、そのやり方は、僕の中で何かが引っかかる。


 キサラギはいいのかもしれないけど、僕は許せない。


 キサラギ任せじゃなくって……少しは、キサラギの助けになりたい。


 せめて……キサラギと一緒に……業を背負いたい。


 だから、なにか。キサラギの助けになりそうな物はないか?


 そう思いながら、何か武器になりそうな物はないかと探していると、自生してる竹が目に留まった。


 竹……そうだ!竹ならある程度丈夫だし、キサラギの背中から敵に向かって、突き出すだけでも、牽制にはなるはずだ。


「キサラギ、ごめん。あの竹をいい感じの長さに切り裂いてくれない?」


『……?それくらいいいよ?』


 キサラギはどうして僕が、そんな事を頼むのか分からない顔をしていたけど、すぐに目の前の竹を切り裂いて銜えて持って来てくれた。


『お兄ちゃん。これぐらいの長さでいいの?』


「うん、ありがとうキサラギ」


 キサラギが持って来てくれた竹を握る――


「――!!…………」


 握った途端、何かが脳裏を過った。



 棒を持った僕と、同じ棒を持った竜人族の男性との光景。


 そして、同い年の子達と一緒に、その竜人族の男性から武術を習ってる光景。


 そして……竜人族の男性が、何かと戦ってる光景。


 まるで、夢で起きた事の様にうろ覚えで…………でも、実際に経験した事があるような感じがする。


「…………」


 僕は軽く竹を振り回してみる。


 竹は淀みなく回って、綺麗な軌跡をつくり――


「ふん!」


 さらに、近くの木に打ち込んでみる。


 上段打ちに、中段打ち、下段打ち、そして突き。


 この動作も淀みなく打ち込めた。


 僕は覚えてないけど……体が覚えてる……なんだろ、この不思議な感覚は――


『……ねぇ、お兄ちゃん』


「うん?どうした?」


 淀みなく動けることに不思議に思っていると、キサラギがキラキラした目で僕を見ていた。


『お兄ちゃんって、なんか棒術の武道か武術を習ってた?棒の振り方が経験者っぽい感じで、カッコ良かったよ!』


 キサラギは尻尾を楽しそうに振りながらそう聞いて来た。


 武道や武術か……そっか、あの光景は武術を習ってる時の記憶か…………だけど、一体いつの記憶だろう。


 でも、今は――


「ありがとうキサラギ……だけど、今は山賊を倒そうか」


 あそこに居る山賊を早く無力化するんだ。


 今アドレットがどういった状況に居るのか分からないけど……早く助けないと。


『うん、分かった。乗って!!』


 そう言って、伏せてくれるキサラギの背中に乗ると――


「ホォオーーーーーーーーーーーーーン」


 唐突に、キサラギが遠吠えを始めた。


「――!?キサラギどうした!」


『ごめんなさい、高揚しちゃって、つい』


 苦笑いを浮かべるキサラギについ僕は、微笑ましく思ってしまった。


 けど、今はしっかりと緊張感を持たないと。


「そっか……行こう」


 キサラギは普段優しそうな顔から、獰猛な肉食獣の顔になり、走り出す。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る