第25話 アドレットを助ける為の行動 ☆

☆  ★  ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)


「主さま!森の主さま!!居ませんか!」


 僕はいつもの森の奥にある祠に辿りつくと、そう声を荒げていた。


 いや、今は落ち着かないといけない事は分かってるけど……つい、アドレットの事を考えると、声を荒げずにはいられなかった。


「主さまお願いします!!出てきてください!!」


『お兄さん、どうしたの?』


『お兄ちゃん、慌ててる。何があったの?』


 声を荒げて主さまを呼んでいると、ムツキとキサラギが出て来てくれた。


 なら、主さまもいるはずだ!と思って周りを見渡すけど、主さまの姿は見えない。


「……ムツキとキサラギ。主さまは?」


『今は出かけてるよ、お兄さん』


 ムツキからそう言われた僕は、思わず座り込んだ。


 ……だめだった。


 主さまが居ないんじゃ、どうやってアドレットを助ければ……


『お兄ちゃん、どうしたの元気出して』


「ありがとうキサラギ。実は、これの持ち主を探しているんだ」


 僕はキサラギに向かって、髪飾りをみせた。


 すると、キサラギは髪飾りの匂いを嗅いで――


『お兄ちゃん、これぐらいなら匂いは追えるよ?』


 と言ってくれた。


 その言葉に少し、希望を見出した僕は話した。


「本当か、キサラギ。実は――」


 髪飾りの持ち主であるアドレットが、飛竜狩りをしてる山賊達に捕まってるかも知れない事を、ムツキとキサラギに話した。


 そして、アドレットを助ける為に、主さまの力を借りる為にここに来たことも。


『お姉ちゃん』


『言いたいこと、わかるよ。でも……』


『でも、お姉ちゃん。私お兄ちゃんの力になりたい』


 そう言われたムツキは、考える素振りをすると、すぐにキサラギに向き直る。


『……分かった。お母さんには私から言っとくよ。行って来ていいよ』


『お姉ちゃんは来ないの?』


『お母さんに留守番を頼まれてるでしょ。だから私は残るよ』


『ありがと、お姉ちゃん!』


「……二匹とも本当にありがとう」


 僕は思わず、二匹の頭を撫でて感謝を伝えた。


 二匹共、それに答えるように自分の頭を僕に擦り付けてくれる。


 ずっと、この二匹の頭を撫でていたい衝動に駆られるけど、今はそれ所じゃないよね。


「それじゃあ、ムツキいって来るよ。行こうキサラギ!」


『うん!いこう、お兄ちゃん!』


『行ってらっしゃい!でも、無茶だけはしちゃ駄目だからね!』


「分かってるよ。キサラギ、こっちに来て」


 ムツキに見送られながら、祠を後にしてサルワートが待機している場所まで戻って来た。



『……主人その犬ころはなんだ?』


「キサラギだよ。今回アドレットを探すのを手伝ってくれる事になったんだ。キサラギ、この飛竜はサルワート。僕のパートナーになってくれた飛竜だよ」


『サルワートさんよろしくね。私キサラギ!一緒にお兄ちゃんを支えようね…………それと私は、犬じゃなくって狼だからね!!』


『……そうか、悪かったな。我はサルワートだ。よろしく頼む』


 グイグイくるキサラギに戸惑うサルワートを、僕は微笑ましい気持ちで見ていた。


 サルワートって、案外押しに弱いんだなと思いながら、サルワートに話しかける。


「二匹とも仲良くしてる所ごめんね。とりあえず、サルワート。空から山賊のいる場所を探してくれないか?僕とキサラギは、地上からアドレットの匂いを辿って探すから」


『了解した主人。……だが、離れていては連絡の取りおうがないがそれはどうするんだ?』


「それは…………そうだ!アドレットが言っていた【コネクト】が使えるかも!!」


 僕は意識を集中させながら、加護の紋章に魔力を流して【コネクト】と呪文を唱えた。


 すると、サルワートと何かが繋がった感覚を感じる。


〔 サルワート。聞こえるか? 〕


〔 うぉ!?主人の声が突然、頭の中から聞こえて来たぞ、どうなっておる!! 〕


〔 よかった、成功した。これなら連絡は取れるな 〕


〔飛竜神さまの加護はこんな事も出来るのだな。初めて知ったわ 〕


 うん、これは本当にすごい。


 普通の人は確かに使い道はないかもしれないけど……言葉がわかる僕なら、この力を最大限に発揮できる。


〔 それじゃあ、よろしく。サルワート 〕


〔 ……了解した 〕


 飛び去って行くサルワートを見送って僕は、キサラギの背中に飛び乗った。


「それじゃあキサラギ、頼む」


『うん、任せて。何処に行けばいい?』


「とりあえず、あっちの方向に走ってくれ、あっちにアドレットの髪飾りが落ちてたんだ」


『うん、分かった!』


 そう答えてくれたキサラギは僕が示した方向に向かって走り抜ける。


 待っててくれ、アドレット。必ず助けるから。




☆  ★  ☆(アドレット・イデアール 視点)


「そこ!琥珀色の飛竜なんて滅多に捕まえられないんだ!丁寧に扱え!」


「へい!」


「……ムート」


 山賊のアジトに連れ込まれた私たちは、今私だけ檻から出されて、ムートは他の掴まってる飛竜達の一角に、檻ごと運ばれていった。


「リギュン!ウィン!!」


 山賊達に連れていかれるムートは、檻の中で出来るだけの抵抗をしていた。


 ……ムート、ごめんね。


 こんな戦う力がないパートナーで。必ず助けが来るはずだから……今は我慢してね。


 私は今にも泣きそうな気持ちで、ムートが連れて行かれる姿を見ていた。


 そして、ムートは他の飛竜達が掴まっている所に連れていかれると、不自然なほどおとなしくなった。


 ――!?あれだけ興奮してたムートが一瞬で大人しくなった!!


 ……もしかして、あの穴の開いた大釜のせい?


 ムートや飛竜達が掴まっている檻の中心には、下側に無数の穴が開いている大釜が置かれていて、その巨釜の口から青色の煙が出ている。


 あの青色の煙はもしかして、鎮静効果のあるお香の煙?


 基本的に鎮静効果のあるお香を使う時は、気性が荒かったり、暴れだしたワイバーンや飛竜に使う。


 でも、効果が出るのにだいたい真上にあった太陽が、夕方になる前ぐらいの時間が掛かるはずなのに、あのお香はちょっと嗅いだだけで一瞬で、ムートが大人しくなった。


 いったい、どんな特別なブレンドをしてるの?


 でも、あんなに即効性のあるものが、安全なわけがない。


 事実、檻に入れられている飛竜の中には、ぐったりと横たわって虚ろな目をしてる。


 早く助けてあげたいけど……どうすれば――


「ほら、パートナーの見送りは、もう終わりっすぅよ」


 突然、そう後ろから声をかけられて、私は強く背中を押された拍子に、バランスを崩しそうになる。


 後ろをみると、新人と呼ばれていた男が、緊張感のない顔で、私を見ていた。


「ほらほら。さっさと歩くっすぅよ。お嬢ちゃんも、痛い目にあいたくはないでしょう」


 そう言って男はまた、私の背中を押してくる。


「……はい」


 渋々男に背中を押されながら進んで行くと、そこには他の山賊達よりも一回り大きな男が、他の山賊達に指示を出していた。


「頭領~。さっき捕まえた琥珀色の飛竜の付属品を連れて来たっすぅよ」


「おう、そうか……ほうほう」


 頭領と呼ばれた男は、山賊達の指示を出すのを中断すると、私を舐めまわすように見回して来る。


 いやらしい笑みを浮かべて――


「中々の上物じゃねぇか。おい、リスティーヒ、この女を例の部屋に入れておけ。今から入れて置けば、今夜にはいい感じに仕上がってるはずだ」


 そう言いながら、頭領は私をみて、さっきとは別の意味を含む笑みを浮かべる。


 それを見た私は全身に鳥肌が立つのを感じた。


 ……私は、これから何をされるの?


「へぃ、了解しやした。これから準備をしまっすぅね」


「その必要はないぞ。お前達から連絡が来た時点で、アイツが準備している」


 頭領がそう言いながら、親指で後ろを指し示す。


 示された場所には、崖に不自然な大きな洞窟の入り口があって、そこには白衣を着た猫背の男がニヤニヤと笑いながら、こっちを見ていた。


「……相変わらずっすぅね。じゃあ、頭領俺はこの付属品を連れて行きまっすぅね」


 リスティーヒと呼ばれた男は、頭領に頭を下げると、すぐに私の背中を押して洞窟の方へ誘導してくる。


「…………」


 この場で抵抗しても状況が悪くなるだけと思った私は、大人しく洞窟に入って行く。


 その時すれ違った白衣の男から、小声で――


「今夜が楽しみだねぇ」


 とネットリとした視線を向けられながら言われた時は、全身に悪寒が走った。


 その後も、洞窟の奥に連れて行かれている時にすれ違った男達から、嫌らしい目線を送られて、私は精神的に疲れ果てていた。


「ほら、この部屋に入るっすぅよ」


 そして、私は洞窟の奥の部屋の一室。


 天井の高さまである鉄の箱の様な物が置かれてる部屋に入って、その奥の部屋に連れ込まれた。


 連れ込まれた部屋の中にはパッと見何もなかった。


 松明の光があるけど、それでも薄暗くって、見渡す事が出来ない。


 ただ、甘い香りがする部屋。


 私は、この部屋で何をされるの?


「それじゃあ、夜までこの部屋で大人しくしておくんっすぅよ」


 男はそう言って、部屋の扉を閉めると施錠する音が聞こえた。


 ……何もしないの?


 扉を施錠するだけで、拘束されなかった事に私は拍子抜けした。


 確かに手錠はされてるけど、それでも普通なら魔法が使えない様な、特殊な拘束をすると思っていたから。


 ……まぁ、私は魔法が使えないから意味がないんだけど。


「いや、今はこの部屋から脱出する方法を探さないと、あの男たちに何をされるか分からない。……そのためにも手錠を外さないと」


 手錠を外す為に、何か使える物はないかと部屋を散策したけど、松明の火だけでは薄暗いのもあって、めぼしい物は見つからなかった。


 唯一あったのは、部屋の中心に設置してある飛竜用のお香の器だけ。


「……どうして、この部屋には飛竜用のお香の器が置かれてるの?……そういえば、この部屋の甘い匂いって、このお香から?」


 でも、この匂いは何処かで嗅いだことがある様な……


「え?もしかして、この匂い……嫌ァァアア!!お願い出して!!早くここから出して!!」


 大声を出しながら、私は扉を強く叩いてこの部屋から出ようとしたけど、さっき施錠された扉はビクともしなかった。


 私は、この甘い匂いのする、お香をしってる!


 このお香はワイバーン用のお香で、男性は大丈夫だけど、女性が嗅ぐと酷い目にあう。


 昔、興味本位で嗅いだ時は本当に酷い目にあった。


 でもあの時は、エルやお姉ちゃんが居てくれたのもあって、大事にはいたらなかった……でも、今回は――


「嫌、嫌ァ!!早くここから出して、お願い!!」


 私は必死に手錠をかけたままの手で扉を必死に叩くけど、誰も返事はしてくれない。


 それどころか、大声を出したせいでお香を吸い過ぎたのか、意識が朦朧としてきた。


「お、願……い……だ、し……て」


 私はそのまま、膝から崩れ落ちる。そして、意識が、遠のいて、いく。


 エル……お願い……たす、けて…………



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