第23話 不穏な爆発音 ☆

☆  ★  ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)



「なんとか……契約が出来た」


 契約できた安堵感から、僕はその場に座り込んで、休憩したい気持ちで一杯だったけど、なんとか踏みとどまった。


 しっかりしろ、僕。


 ここで弱い所を見せれば、さっき見せてた強者だっていう勘違いが崩れかねない。


 まだ、サルワートとの関係が築けてないこの状況で、弱い所を見せるのは危険だ。


 何とか気力を振り絞って、背筋を伸ばす。


 そして、僕のパートナーになった赤紫色の飛竜、サルワートに向き直る。


「サルワート。これから僕のパートナーとしてよろしく」


『ふん、まぁこれからよろしく頼む。主人、ちゃんと我を使いこなす事が出来るか、楽しみにしてるぞ』


「あはは、お手柔らかに頼むよ」


 早速、自分からは従わない宣言。


 これは、サルワートとの関係を慎重に進めないと、大変な事になりそうだな。


 これからの事を内心不安に思っていると、サフィロスさんが拍手をしながら、こっちにやって来た。


「よかったねエルリーヒくん。最初はどうなるかと思ったけど、無事に契約が出来て…………ところで、エルリーヒくんは大丈夫だった?」


「ありがとうございますサフィロスさん。えっと……何がですか?」


「いや、エルリーヒくんが契約する時、なぜか異様な魔力の圧力を感じたから、大丈夫なのかと思ったが……大丈夫そうだな。とりあえず、飛竜の儀はこれからが本番だ」


 サフィロスさんは、懐から鈴を出して僕に見せて来た。


「最初に説明した通り、アレスタ山にあるこの鈴を拾って、村に帰るまでが試験だ。わかったら早く竜具を付けていきな。もたもたしていると日が暮れるからね」


「――!はい!!サルワートこっちについて来て」


『はいよ、主人』


 僕はサルワートと共に、木箱が積まれた場所に行って、最後に残った竜具をサルワートに付けていく。


 ……思っていたよりも大人しいというよりは、聞き分けがいいな。


 契約をする前、我を従わせることはできるかな?


 みたいな事を言ったから、てっきり何をするにも拒否すると思っていたけど、僕の杞憂だったかな。


「サルワート苦しくないか?」


『あぁ、大丈夫だ』


「よかった。それじゃあ乗るよ」


 竜具の具合を確かめながら、僕はサルワートに跨った。


 うん、鞍もしっかりしてるし。手綱も大丈夫そうだ。


 翼の邪魔にもなってないね……よし。


「よし、サルワート。い、こ――」


 飛ぶ号令を出そうとした途端、サルワートは一気にその場で羽ばたき、高度をあげた。


 うぐ!ここで仕掛けて来た!?


 でも、これぐらいならメルシアの離陸で慣れてる!


 メルシアよりも勢いは強いけど、耐えられる!!


 なんとか離陸の勢いに耐えて、飛竜の谷より高い所でサルワートは停止した。


『ガハハ!どうだ、主人。初めての飛行は?まさか怖くなって、地面に降りたいなんて言わないよな!?』


 ……こいつ、盛大に煽ってきやがる。


 よし、サルワートがその気ならこっちも乗ってやるよ!!


「ふん、これぐらいどうって事ないね。お前の力はこんなものなのか、サルワート!!」


 そう僕が挑発し返すと、サルワートは飛竜特有の不機嫌な時に出すガルルガルと音を発した。


『はぁぁ!いいだろう。だったら我の本気を見せてやる!目的地は何処だ!!』


「目的地はアレスタ山だ!あの北にある大きな山だ!!」


 僕が北にあるアレスタ山に向かって、指を指すとサルワートは、獰猛な笑みを浮かべた気がした。


『よし分かった。あの山だな!主人!!【リンケージ】をして、我に魔力を流せ!そうすれば、主人の望み通り、我の力を見せてやる!!』


 サルワートからの分かりやすい挑発に、一瞬迷ったけど、すぐに決意は決まった。


「あぁ、分かったよ!お前の力を見せてみろ、サルワート!!」


 すぐに、サルワートの要望通りに【リンケージ】をする為に角を生やし、右手でサルワートの背中に触れて――


「【リンケージ】!!」


 と呪文を唱えた。


 サルワートに魔力を流し込むと、サルワートは自身の翼に炎を纏わせ、同時に翼の指骨の先端には、いくつもの火球を出現させる。


 ……何をするつもりだ?


『しっかり掴まってな主人!!振り落とされても知らないぞ!!』


 サルワートがそう言った途端、火球が膨張して爆発。それを推進力にして、サルワートはアレスタ山に向かって、飛んで行った。



☆  ★  ☆(サフィロス・サージスト 視点)



「……まじか」


 今、俺は爆音と共にアレスタ山に向かって、流星の様に飛んで行った最後の試験者、エルリーヒくんを呆然と見送っていた。


「あんなじゃじゃ馬ならぬ、じゃじゃ竜を良く乗りこなすな」


 エルリーヒくんが竜具を取り付けて、ゆっくりとこれから飛び上がるんだろうな、と見ていたら。


 いきなり、ほぼ垂直に飛び上がって、飛竜の谷よりも高い位置まで飛び上がるもんだから、本当に驚いた。


 普通あんな急激な上昇をしたら、いくら加護の力があったとしても失神するのに。


 あのエルリーヒくんは、そんなそぶりも見せずに空中で静止するし。


 静止したと思ったら、まるで流星のように炎を吹き出しながら、アレスタ山に向かって飛んでいくし……本当に無茶苦茶だな。


「さすが、ライニング家の血筋ってことかな。全く末恐ろしいことで……そろそろ帰ろうか。大丈夫か?」


 いつのまにか自分の頭を、俺の背中に擦り付けているパートナーの頭を撫でてやりながら、声を掛けてやる。


「キュイ~」


「はは、今日はいつになく甘えん坊だな。さぁ帰るぞ!」


 俺はいつになく頭を擦り付けて甘えて来るパートナーの頭を撫でながら、村に帰る為の準備を始める。



◇ ◆ ◇



「ほう……さすがだな」


 村の広場。もう少しで夕方になる時間。


 そこには、二匹のワイバーンと二人の男女がいた。


 村長の子供達のイデルとヴィレを村長と妻達の三人で出迎えていた。


 俺がワイバーン達の背中に、空の木箱をのせて、自分の牧場にワイバーンから木箱を降ろしたり、片付けをしたのち。


 もうすぐ誰かが帰って来ると思って、村の広場まで来てみたが、もうすでに帰って来ていたか。


 そう感心しながら広場に近付くと、広場では村長達を見ていた村人達が――


 「飛竜の扱いが、達者の者が次世代にも居て安泰だな」


 「流石村長の子供だ。一番に帰って来たぞ」


 「やっと成人したか、今後が楽しみだな」


 などと楽しそうに談笑していた。


 でも、その姿に俺は少し意外に感じた。


 あの流星のごとく飛んで行ったエルリーヒくんや、先に飛び立ったアドレットちゃんなら、もう帰って来てもいいと思っていたが、休憩地点でのんびりしてるのかな?


 と疑問に思っていると、アドレットちゃんの父親のアドルフが来た。


「よう、案内役おつかれさん」


「よう、アドルフおつかれ。俺の仕事は終わりだ。後はあの子達しだいだな」


「そうか、ちなみに俺の娘はどうだった?」


「アドレットちゃんか?綺麗な琥珀色の飛竜と契約してたぞ」


「そうかそうか、琥珀色の飛竜か」


 そう満足そうに頷くアドルフの姿をみて、さっき疑問に思った事を聞いてみた。


「そういえば、アドレットちゃんは居ないんだな。他の子よりも先に飛び立ったから、もう村に帰って来てると思っていたが」


「うん?そういえば、イデアルの坊ちゃんが先に飛んでった奴を抜かしてやったと自慢してたな。それが娘か」


「抜かしてやったって……成人の儀は競争ではないんだがな」


 俺がやれやれと肩を竦めるとアドルフは苦笑いを浮かべていた。


「そうだ、お前は何か知らんか?」


「何を?」


「実は、仕事をしてる時。突然、轟音と共に村の遠くから、赤い帯を引きながら飛んで行く物があってな――」


 アドルフの話しを聞きながら、俺は絶対にエルリーヒくんの事だ!と思いながら、話しを聞いて――


「それであれは何だ?と思いながら見ていたら、突然赤い帯が消えて、垂直に落下したんだよ。それで、落下した物が気になって、墜落した場所に村の数人と見に行ったんだが、何もなかったんだよ。お前は何か知らんか?」


 それを聞いた途端、俺は頭を抱えたい気持ちになった。


 大方、調子に乗って飛ばしていたら、途中で魔力が切れて落下したんだろうな。

 仕方ない奴だ。


 苦笑いを浮かべながら、俺は知ってる事を話そうとした時――


 ドガアァン。


 と轟音が鳴った。


「「――!!…………」」


 村から東の方向。


 森の奥にあるフォルト山脈あたりから聞こえた轟音。


 何事かと思いながら、東の方向を見ていると、地面から直径50mはあろう火柱が上がった。


 な、なんだあの火柱は!?


 そう動揺していると、村長の力強い声が広場に響いた。


「男衆、直ちに自分の飛竜に竜具と軽い武装を付けよ!!そして、準備出来た者から順次、フォルト山脈に向かって原因を突き止めるのだ!急げ!!」


 村長のその号令によって、お祝いムードだった広場が一変して、一気に戦場の様な荒々しい空気になり、男達は急いで自分の家に帰って行く。


「…………」


 ……一体、フォルト山脈方面に何があったんだ。


 まさか、エルリーヒくんが関係してるって事はないだろうな……いや、まさか。


 俺は自分の考えを否定して、村長の指示通りに飛竜に鎧などの武装を付ける為に、急いで家に戻った。



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