第19話 飛竜の儀と契約の呪文
「それではみんな。感動するのは分かるが、これから飛竜の儀の説明をするぞ!」
「…………」
アーラ神殿の裏手にある、飛竜の谷と呼ばれている場所に僕達は来ていた。
この場所で飛竜の儀が行われて、僕達のパートナーになる飛竜が決まる。
……必ず、飛竜をパートナーにして、大人として村の人達に迎えられる為に!その思いの一心で僕達は姿勢を正していた。
これから言う言葉を絶対に聞き逃さない様にするために。
「みんなそれぞれ飛竜神さまの加護の紋章をいただいたな。その紋章に魔力を流して、飛竜神さまに魔力を奉納するとここに集まってる飛竜の中から飛竜神さまが相性のいい飛竜を選別してくれる。場合によっては、複数の飛竜が自分のもとに来るから。その時は、自分の気に入った飛竜と契約するんだ」
魔力の奉納、飛竜神さまが直々に選んでくれるのか……大丈夫だよね。
僕、なかば渋々って感じで加護を渡されたけど……さすがにパートナーの飛竜が現れないって事はないよね。
「今の所質問は?」
「もし相性のいい飛竜がここにいなかったらどうなるんですか?」
「いい質問だ。基本的にはないが、その時は裏技みたいな方法がある。でもそのやり方は他の人にも干渉して失敗する可能性があるから。必要になったらその時順番に試してもらう」
そんな方法があるんだな……もしかしたらその裏技のお世話になるかもしれないな。
「他に質問は?……では続きを説明するぞ」
「飛竜が来たら、紋章に魔力を込めながら【リンケージ】と唱えるんだ。そうすれば自分の魂と飛竜の魂に繋がりが出来る。そうなった後は流れに身を任せれば大丈夫だ。無事に契約が成功すれば、飛竜に名を付けてやれる。名前を付けてやればその飛竜はパートナーになる。……なんだ?」
サフィロスさんは黙って手を上げていた女の子に発言を促すと「質問があります!」と元気よく言った。
そんな女の子にサフィロスさんは、苦笑いしながら「どうぞ」と言う。
「【リンケージ】をした後流れに身を任せるってどういう事ですか?」
「う~ん。すまない、そうとしか言えないんだ。【リンケージ】を成功させた後、飛竜との繋がりを強くする為に飛竜神さまの仲介で契約が行われるんだが、その時の契約の呪文が自然と頭の中に流れて来て、口にしてしまうんだ」
「その呪文って、どんなのですか?」
「それがさっぱり、昔呪文を解読しようと頑張った奴が居たが、分かったのは人によって言っている呪文や契約の種類が違うってだけで、解明は出来なかったらしい」
人によって呪文や契約の種類が違うか……そこまでくるともしかして、人によって言語も違うかもしれないな……でも、この話って――
そう考え事をしながら、サフィロスさんの話しを聞いているととなりにいるアドレットが話しかけて来た。
「……これってエルのお父さんのこと?」
「多分、そうだと思う。昔、言語学者になるきっかけを聞いた時、大人になる前に知りたい言葉があって、それを知る為に言語学者になったって父さん言ってたから」
そうか、これが父さんの言語学者の切っ掛けか……そういえば父さん言ってたな、言葉が分かれば世界を知ることができるって。
……人は神さまのせいで一つの言語に囚われてしまったって、口癖のように言ってたな。
「……それでは他に質問もないね。では飛竜の儀の説明を続けるよ。とは言っても飛竜の儀はこれからが本番だ」
「――!!」
これからが本番!?
僕たちがそう驚いているのに気付いたのかサフィロスさんは楽しそうに笑う。
「そうだ、これからが本番だ。飛竜をパートナーにした子から、あっちに置いてある木箱の中に入っている鞍や手綱などの竜具を付けてもらう」
サフィロスさんはそう言って、僕達の後ろの方を指をさす。
そっちの方向をみるとたしかに木箱が山積みになっている。
「あの竜具は村から大人になった君たちへのプレゼントだ。好きなものを選んでくれ。……そして、竜具を付けたら順次、ここから北にあるアレスタ山まで行って、この鈴を取ってきて貰う」
懐から鈴を取り出してサフィロスさんは僕達に見せてくれる。
「この鈴を取ったら、村の広場まで帰ってもらう。そうすれば飛竜の儀は終了……はれて君達は大人の仲間入りが出来る!」
「……」
大人の仲間入りが出来る。
その言葉に僕達の緊張感は高まる。
「では、それぞれ適度に離れなさい。それと力み過ぎて角を出すなよ!お互い干渉しあって、失敗する可能性があるからな!」
……頑張らないとな。
もし飛竜の儀に失敗すれば、本当にやれる仕事がなくなる。
そうなってもアドルフさんなら、見捨てずにいてくれるかもしれないけど、甘えるわけにはいかない……頑張ろう。
そう意思を固めていると左手に暖かい感触が伝わって来た。
突然の事に少し体をこわばらせた僕に左側からクスクスと笑い声が聞こえる。
そちらを振り向くとアドレットが声を押し殺して笑っていた。
「エルったら緊張し過ぎ。手を握っただけで、ビック!って」
まだ笑い続けるアドレットに何処か、気恥ずかしさを感じてそっぽを向いてしまう。
「緊張だってするさ。アドレットだって緊張するだろ」
「うん、確かに私も緊張はしてるよ」
「だったら――」
そんなにからかう事はないだろう、と言葉を続けようとするとアドレットが人差し指で僕の唇に当てて――
「そんなに心配することはないよエル。エルなら大丈夫だよ。もしエルに飛竜が来なかったら、私が養ってあげる」
いたずらっぽく笑いながら、アドレットはそう言った。
「……それは魅力的だね。でもいくら何でも情けないから頑張るよ」
「うん、力を抜いて頑張ってね」
「でも、驚いた」
やられっぱなしはちょっと癪だから、仕返ししてやろう。
「何が?」
「まさかアドレットから結婚しようって、告白されるとは思わなかった」
「……へぇ?」
「だってそうだろ?養うってそういう意味しかないだろ」
「え?……へぇ!?い、いや、違う。違わないけど、違うの!」
予想以上にアドレットがワタワタ慌てているのを見ると悪戯心がくすぐられる。けど、そろそろ切り上げないとな。
他の子達がもう行動し始めちゃってるし。
「ハハ、分かってるよ」
「分かってない!エル分かってないでしょ!!」
「分かってるよ。もし何か会っても家族として支えてくれるんだろ?」
「うん!それ!!……あれ?何かおかしくない?」
「そんな事ないだろ。ほら、早く行こう」
「う、うん」
からかうのもほどほどにして、僕達も他の子達と同じ様に、ある程度の距離を開けると、それを確認したサフィロスさんは、頷いて号令を出す。
「よし。それでそれぞれ加護を発動させてパートナーとなる飛竜を呼ぶんだ。焦らず、ゆっくりと魔力を紋章に注げ!」
サフィロスさんの号令で、それぞれ加護の紋章がある場所に魔力を流していく。
僕も右手の甲に魔力を流して、加護を発動させる。
紋章は淡く光り出し、点滅する。
多分、今自分に合うパートナーの飛竜を探してるんだろうけど……神さまは、ちゃんと僕のパートナーを決めてくれるのかな。
若干不安に思っていると琥珀色の飛竜が、飛竜の谷から僕達に向かってやって来た。
琥珀色の飛竜か、初めて見たな。一体誰が呼び寄せたんだろ?
気になった僕は、琥珀色の飛竜の動向を見守っているとアドレットの前に降り立った。
「……あなたが私のパートナー?」
「キュルルイ」
琥珀色の飛竜はアドレットの言葉に答える様に誇らしげに鳴いた。
そっか、アドレットのパートナーかあの飛竜もアドレットに会えてうれしそうに見えるし、相性がいいのかもね。
「琥珀色の飛龍……初めて見た」
「お父さんの持ってる書物には記載されてたけど、本当にいたんだ」
「琥珀色の飛龍って、治癒系の魔術が使える希少種じゃないか。くそ〜やるな。俺だってカッコ良くって、強い飛龍をパートナーにしてやる!」
アドレットと飛竜の姿を見た他の子達は、より一層気合を込めて紋章に魔力を送り始めていた。
けど、僕はアドレットと飛竜の契約の姿が気になって、飛竜を呼ぶのを中断して、アドレットの姿を見ていた。
「それじゃあ行くね【リンケージ】…………××× ×× ×〇△×――」
「――!?」
アドレットは琥珀色の飛竜の頭に左手を乗せて、【リンケージ】の呪文を唱えた途端、アドレットの雰囲気が変わって、聞き覚えのない言葉で呪文を唱え始めた。
……この言葉。飛竜神さまと後ろの存在が話していた時とイントネーションが似てる気がする。
契約の言葉って神さまの言葉と一緒なのか?
アドレットの儀式は順調に進んで行って、最後の名付けまで進む。
「――△××〇 〇〇△……ムート。×× ××…………これで私とあなたに繋がりが、出来たね……これからよろしくねムート」
アドレットは安堵した笑みを浮かべると、ムートと名付けた琥珀色の飛竜の頭を撫でる。
ムートもアドレットに撫でられるのが、嬉しいのか甘えるように頭を擦り付けているように見える。
良かったねアドレット。パートナーが見つかって、それとムート。これからアドレットの事よろしくね。
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