第18話 アドレットが、飛竜神さまから聞いた事
☆ ★ ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)
「無事にみんな加護を得れた事――」
「ふぅ……」
アーラ神殿。加護の儀の最後の男の子が終わって。
サフィロスさんは無事に加護の儀を終えた僕達に、労いの言葉をかけていたけど、僕は放心気味に聞いていた。
なんとか無事に加護の儀を終えられた事に安堵していた。
一時期は本当にどうなるか分からなかったけど、あの後ろにいた存在のおかげで加護を得れた。
それに飛竜神さまが言ってた廃人になるとか、獣のようになるといった。そういった兆候は今の所ない、飛竜神さまがしっかりと自分のものになった感覚がある。
……それにしてもあの時の後ろにいた存在は何だったんだろ。
味方だとは思うけど……
「それでは次は飛竜の儀だ、移動するぞ!!」
「「はい!」」
サフィロスさんの号令でアーラ神殿から出た僕達は神殿の裏手の方に向かって行く。
次は飛竜の儀か、一体どんな飛竜が僕のパートナーになってくれるかな。
そう考えていると隣にアドレットがやってきて声を掛けて来た。
「エル、どうだった?神さまと何話した?」
「え、え~と」
……あの時の事……どこまで話しても大丈夫なんだろ。
僕は加護の時に起きた事をどこまで話しても大丈夫なのか迷っていた。
素直に何があったのか話すのは簡単だ。だけど、アドレットに無用な心配をかけちゃうかもしれない……だったら。
「ごめん、神さまと話した内容は覚えてないや」
「そっか」
僕がそういうとアドレットは悲しそうな顔をしてしまった。その姿を見て内心。
ごめんねアドレット。嘘をついて。
そう心の中で謝りながら、何か明るくなる話題はないかと探す。
「でも、飛竜神さまの姿は覚えてるよ。綺麗な藍色の飛竜だったよね」
「え!?」
僕がそう話しを振るとアドレットは、目を見開いて驚いていた。
「エルは飛竜神さまの姿を見れたの!?」
「え?う、うん。アドレットは会ったんだよね」
「そうだけど……私は緊張しちゃって、まともに飛竜神さまをみれなかったから。そっか、飛竜神さまって藍色の飛竜なんだ」
目を輝かして自分の世界に入ってるアドレットを見てほっとする。
アドレットってほんと動物が好きだよね。神さまを動物扱いするのは、どう考えても不敬だけど。
アドレットの機嫌が良くなって良かった。
「そういえば、アドレットは神さまとどんな話しをしたの?」
「あ、そうだった」
声を掛けると我に返ったアドレットは、少し恥ずかしかったのか咳ばらいをしてから話し始めた。
「えっとね神さまと話したことはね加護の意味とその使い方で……」
そこまで話すとアドレットは急に話すのをやめて、目線があっちやこっちにいってる。
これ、話しを忘れたかな。
「……アドレット」
「大丈夫、大丈夫。覚えてるから……そうだ!!」
アドレットは神さまとの話が、思い出せたのが嬉しかったのか手の平を打って、ニコニコと僕に話しかけた。
「飛竜しんの加護の紋章には大きく分けて、三つの力があってね。一つは飛竜と心を通わす事が出来る力。この力があるから飛竜をパートナーに出来たり、【リンケージ】をすることが出来るんだって!!」
「それは村で言い伝えられている通りなんだね」
「それだけじゃないよ!加護があると【コネクト】って呪文も使えるんだよ!!」
「【コネクト】?……なにそれ?」
「ふふん、知らなかったでしょ!……私も神さまに聞いて初めて知ったんだけどね」
アドレットはそう言って苦笑いをするのを見て、僕もつい笑ってしまった。
「あはは、それで【コネクト】ってどんな呪文?」
「そうだった、【コネクト】わね。【リンケージ】と同じで共有する力で、ただ違う所は【リンケージ】は力や魔力の共有なのに対して【コネクト】は意識の共有だって」
「へぇ~、それは凄いな。自分の考えを伝える事や飛竜の考えを知る事ができるのか」
「うん、そう。でもね、問題もあってね」
「何?」
「飛竜の考えが分かってもその意味自体が分かるかどうかは別問題だって、だから【コネクト】で意識を繋いでも私たちにはただの鳴き声と変わらないんだって」
「あ、なるほど。だから村でも言い伝えが無いのか」
【コネクト】をしても飛竜の鳴き声にしか聞こえないなら【コネクト】をする意味は確かにないな。そりゃあ村でも言い伝えられない。
……でも、ワイバーンや飛竜の言葉が分かる僕なら、使いこなせるかな?
「そうだと思う。二つ目はワイバーンや飛竜に乗ってる時どんなに高く飛んでも息苦しくならないし、頭痛する事がなくなるって、これは知ってるよね」
「うん、村でも大人達によく言われたね……」
子供は極力ワイバーンに乗らない、乗っても森の木より高く飛んではいけないと言われてる。
ワイバーンと一緒に高く飛び過ぎると頭痛や吐き気を起こしたり、最悪の場合死ぬ事があるってことで禁止されてる。
……僕が東の森まで行ってるのはアドルフさん達は黙認してくれてるけど、本当なら森まで行っちゃいけないんだよな。
特に東の森には、危険な魔獣が出るから行っちゃいけないって、言われてるけど……定期的に東の森に行ってるけど、そんな危険な魔獣は見た事ないんだよな。
まぁ、森を歩く時はムツキとキサラギと一緒に出歩いてるから、襲われないのかもしれないけど…………思考が逸れた、話しを戻さないとな。
「……それであともう一つは?」
気を取り直して、アドレットにそう聞くとアドレットは固まった。
……もしかして。
「え、え~と」
「忘れた?」
「ちょっと待って、今思いだしてるから……」
こめかみをグリグリと押しながら、アドレットは頑張って思い出そうとしていたけど、結局思い出せなかったのか、しょぼくれた顔をする。
「ごめん、エル忘れちゃった。体と心が関係していて、成功すれば何倍もの力が出せるって、言うのは思い出せたんだけど……呪文とか使うための条件とかは、思い出せなかった」
「そっか、それは残念だったね。でも、また次会った時に聞けばいいよ。だから、気にしなくていいよアドレット」
「うん……うん?エル今なんて言った?」
「え?次あった時に聞けばいいって所?」
「そう、それ!!」
もの凄い勢いでアドレットは、言い寄って来る。
ただでさえ真横に居て近かったのに、アドレットの顔がかなり近い所にきた。
「アドレット、落ち着いて」
「落ち着いていられないよ!ねぇ、エルどういう事!?また会った時に聞けばいいって、会いかたを知ってるの!?」
「いや、会いかたは知らないよ。ただ、飛竜神さまが帰る時に、また会えるのを願っているって、言ったのを思い出しただけ……だから、また会える可能性はあると思うよ」
「……なるほど」
そう呟くとアドレットは、やっと離れてくれた。
「でも、会う方法はあるかもしれないんだね。……一緒にもう一度、飛竜神さまに会おうね」
「そうだね。一緒に飛竜神さまに会う方法見つけよう」
お互い顔を見合わせると僕とアドレットもつい笑ってしまう。
うん、見つけよう。僕とアドレット、エーデル姉さんと一緒に飛竜神様にまた会う方法を。
僕が決意を固めているとサフィロスさんが立ち止まった。
「到着だ!みんなにはここで飛竜のパートナーを見つけてもらう」
「わぁ、すごい!」
アドレットのその言葉はみんなの気持ちを代弁していたと思う。
僕達の目の前には、数え切れないほどの数の飛竜が空を飛んでいたり、崖の岩肌で休みこっちを見ている個体や、昼寝している飛竜もいる。
目測でも100~200匹以上の飛竜がいる。……飛竜ってこんなにいるんだ。
「驚いたろ、ここは飛龍の谷と呼ばれていて。この時期になると成獣してる飛龍達がこの谷に集まってくるんだよ」
「「おお~」」
この中に僕達のパートナーになってくれる飛竜がいるのか、一体どんな飛竜が仲間になってくれるのかな、今から楽しみだ。
これからの事に思いをはせているとサフィロスさんから――
「年々集まる飛竜の数が減っているな。やっぱり、飛竜達の数を人工的に増やす計画を進めないと……このままじゃ絶滅してしまう」
そうぼそりと言っているのが聞こえた。
「――!!」
飛竜の数が減っている!?僕はあらためて、飛竜の谷にいる飛竜達を見た。
サフィロスさんが言ってることが本当なら、昔はもっとこの谷に飛竜が居たってこと?
……飛竜達になにかあったのかな?
パートナーになった飛竜に聞いてみよう。
もしかしたら、事情を知ってるかもしれない。
「それではみんな。感動するのは分かるが、これから飛竜の儀の説明をするぞ!」
「…………」
僕達はサフィロスさんの言葉に姿勢を正した。
これから言う言葉を絶対に聞き逃さない様にするために。
……必ず、飛竜をパートナーにして、大人として村の人達に迎えられる為に!
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