第17話 僕達は常に誰かに見守られている ☆
「今回お主に加護を捧げる事は出来ない。それを伝える為にここに呼んだ」
「…………」
白い世界。
この世とは思えない場所で僕は今飛竜神さまに出会っていた。
飛竜神さまに出会えるなんて、孫の代まで自慢できる名誉ある事なのに……僕は飛竜神さまが何を言ったのか分からなかった。
……でも、ゆっくりと飛竜神さまの言葉が僕の中に染み込んでくると僕は思わず叫んでいた。
「――!!どうしてですか!!!」
加護を授ける事が出来ない!!
え!?
なんで僕が何をしたっていうんだ!?
思わず狂乱して神さまに対して不敬な言葉遣いをしていた。
けど、僕の失礼な態度にも飛竜神さまは気分を害する事もなく話しを続けた。
「取り乱すのも分かるが取り合えず落ち着け、お主に加護を渡さないのはお主の為だ……心当たりはあろう」
「…………」
心当たり?加護を受け取れないような事をした?でも、そんな事した覚えは……
「ふむ、自覚なしか……いや、忘れていると言った方が正しいか」
忘れてる?僕は、昔何をした?
ダメだ、思い出せない。雁字搦めになったみたいに思考がまともに定まらない。
「お主の身にはすでに特殊な加護が刻まれている。幸い、角の神の祝福は受け入れられた様だが、私の加護も受け入れられる保証はない。もし失敗すれば、廃人となり今までの生活が送れなくなってしまう。最悪の場合、人の姿をした獣となってしまいお主の大切な物を傷付ける事になるぞ!」
それは嫌だ!いや、だけど……じゃあ、僕はどうすればいい?
加護を受け取れば廃人・受けとらなかったら僕はどうなるんだ――
「……本来なら、加護を与えず強制的に儀式を終了させるつもりだった。だが、加護を与えず、何も見返りを返さないのでは、捧げてもらった莫大な魔力がお主にとって無意味になってしまう。だからせめて、私から今回の件を説明させてもらった。許せ」
ウチの村は飛竜神の加護があるからこそ、なりたってる。
なのに加護を授けられなかった僕は不信信者……いや、異端だ――
「また数年後、心も体ももっと成熟した時、また来られよ。そうすれば私も加護を渡す事が出来ると思う」
そうなれば僕は村から追い出される。
エーデル姉さんやアドレット達と一緒に居られなくなる!そんなのいやだ!!
「また会えるのを楽しみにしてるぞ――」
「いや、僕は――!!」
声が出せない!なんだこれは!?
いつの間にか僕の周りには霧が立ち込めていて、それが僕の周囲に渦巻いてる。
この霧のせいで声が!?
飛竜神さま!待って下さいお願いします!!
僕は村から追い出されたくないんです!!
エーデル姉さんやアドレット、アドルフさん達と別れたくないんです!!
廃人になっても構わない!!
だから、お願いします。
エーデル姉さんやアドレット、アドルフさん達と別れたくないんです!!
廃人になっても構わない!!
だから、お願いします。
神さまー!!……いし、き……が……
―――――
―…………
……
な
ら
そ
の
願
い
私
が
叶
え
て
や
ろ
う
――!!
その唐突な声で僕は意識が覚醒した。
周囲を見渡すとここはまだ白い世界、目の前には飛竜神さま……?後ろに誰か――
「振り向くな、少年。死ぬぞ」
「――!!」
殺意が込められた声。
唐突にかけられたその声で僕は振り返るのをやめて、正面に向き直る。
この殺意が込められてる声、さっき聞いた声!?
……でも、この声何処かで聞いた事が――
「急に人の神域に侵入するなど、穏やかではないな」
飛竜神さまの声音が僕に向かって話し掛けていたものよりも低い声で僕の後ろに問いかける。
「それについては謝罪しよう」
「して、何故に我の神域に来た」
「ふむ……☓☓☓ ☓☓☓ ☓」
「……☓☓☓ ☓☓ ☓☓☓☓」
えっ!?なんだ!全く聞いた事のない言語。
飛竜神さまと後ろの存在は僕に構わず、この謎言語で話し続ける。
言語学者の両親からこんな言葉を聞いたことがない。
……解読できるか?
断片的に聞いた事がある単語があるから、もしかしたら解読できるかもしれない…………上位、神…………使者かな?
そうやってなんとか聞き取れた単語を解読しながら、他にも聞き取れないかと耳を澄ましていた。
けど、いつの間にか二柱の会話が終わっていた。
「……人の子よ」
「は、はい!」
飛竜神さまに呼ばれて僕は内心慌てていた。
神さま達の話しを聞き取ろうとした事を咎められるかと思っていると飛竜神さまは、ため息をついた。
「あなたに私からの加護を授ける事に致しました」
「……え」
不敬ながら思わずそう呟いてしまった。
僕に加護を授けている?飛竜神さまの加護を……本当に?
「ほ、本当ですか」
「あぁ、ほんとうだ。……それでは受け取りなさい人の子よ」
飛竜神さまはそう言うと黄金のブレスを吐きかけて来た。
そんな温かい風のブレスをしばらく受けていると右手の甲には飛竜神さまの加護の紋章が現れた。
「――!!ありがとうございます。飛竜神さま」
「うむ、励めよ。人の子よ。また会える事を願っている」
僕の周りにまた霧が立ち込めて来た……けど、不安は感じなかった。
本当にありがとうございます。
飛竜神さまそして、後ろの存在もありがとう……ござい……ます。
僕は抵抗する事なく、ゆっくりと意識を手放した。
☆ ★ ☆(???)
エルリーヒが居なくなった神域で飛竜神はため息をついた。
「本当に大丈夫なのあの子?」
「ククク。口調が崩れておるぞ」
飛竜神は声の主に向かって片目で睨み付ける。
「お前に威厳がある様に話すだけ損だろ」
「確かにそうだな」
「それであの子は――」
「さっきも説明はしたろ、心配性だな」
「……私の眷属を丁寧に扱っている人の子を無下にできないだろ。貴方もそうだろ?」
「確かに」
「お前の言葉を信じるしかないな」
飛竜神は声の主に片目を瞑ったまま向き直る。
「……願いは果たしたぞ。私の話を聞いてもらおうか」
「あぁ、聞こうかお前の願いを」
☆ ★ ☆(アドレット・イデアール 視点)
「あの子まだ終わらないね」
「あの羊野郎、加護がもらえずに立ち上がれないんじゃないのか?」
「……」
エルが儀式を始めてどれくらいがたっただろ……普通の子の時間以上。エルは儀式を続けている。
きっとエルも神さまに会ってるんだ。
一体どんな話しをしてるんだろ。後で聞くのが楽しみだな。
私が内心ワクワクしながら、終わるのを待って居ると横から水をさす言葉が聞こえて来た。
「あの子まだやってるよ?遅くない?」
「きっと加護がもらえなくて誤魔化してるんだよ」
「あはは、女々しい。さすが角が曲がってるだけあるね」
「そうだね。角が曲がってるんだもん。きっと魔力の質も悪くて神さまが怒ってるんじゃないの?」
「あっ、ありえそう。質の悪い魔力しか送られてないから、加護をあげられないんじゃないの?」
……と女の子たちから小声でそんな陰口が聞こえて来た。すると――
「あの羊野郎いい加減にしろよ!」
男の子とイデルの方からも不満の声が聞こえて来た。
「意地をはらずに、早く儀式を終わらせろよ!まだ俺が終わってないんだぞ!!イデルもそう思うだろ!」
「……そうだな。意地であんな事をしてるならやめた方がいいな。時間の無駄だ。けど――」
「だとよ羊野郎!!いい加減諦めろ!!」
「二人共、静かにしないか。儀式中だぞ!」
サフィロスさんから叱責された二人は黙る。だけど男の子はどこか不満そうで、それをイデルが呆れた顔で見ていた。
……ふん、みんなエルの凄さを分かってないから、あんな事を言えるんだよ。
イデアルはまだ、諌めようとしてくれたみたいだからいいけど、他の女の子たちは小声だから注意されてないだけで、言ってることがひどい。
でも、エルなら大丈夫……ほら!
私が見守っていると魔法陣の光が消えた。
そして、ゆっくりとエルが立ち上がって、周りを見渡した後にこっちを向いて戻って来た。
その時、エルの安堵したような笑みを見て、エルが神さまに会ったことを確信した。
ふふ~ん、さすがエル!
「加護は得れたか?」
「はい」
エルはそう返事をすると右手を突き出して、手の甲に加護の紋章を浮かび上がらせた。
「おめでとう。それでは元の場所に……次は君で最後だな。ガトル・レッキング」
「よっしゃ!やっと俺の番だ!」
男の子と入れ替わる形でこっちに戻って来たエルはとても晴れやかな顔をしていて、私は思わず聞いてみた。
「どうだった?会えた?」
「会えたよ……実は――」
「よっしゃ!加護をゲット!」
エルが何かを言おうとしたら、男の子が加護を頂けたのか喜ぶ声が神殿に響いた。
普通の子以上に早かった事に、驚いているとエルが苦笑いしながら――
「……また後で話すね」
と言って姿勢を正した。
うん、確かにそうだね。
もう加護の儀も終わる。
早くエルから話を聞いてみたい気はするけど、今は我慢しないとね。
「うん、楽しみにしてるね」
エルは何を言おうとしたんだろ?ふふ、楽しみだな。神さまとどんなお話しをしたんだろうね。
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