第15話 飛竜神の神殿・アーラ神殿

☆  ★  ☆(エルリーヒ・ライニング 視点)



「エルリーヒ。そう言えば繁殖用のワイバーンの運動の時、随分と帰りが遅かったが何かあったのか?」


 僕が森の主さまに報告しに行った日の夕食の時間。


 みんなで夕食のパンを千切ってスープに付けて食べたり、おかずを食べているとアドルフさんがそう聞いて来た。


「あ、あの時は……」


 パンをスープに付けながら、僕はどうするべきか考えていた。


 ……素直に森の主さまに会いに行ったとは、主さまとの約束で言えないし、どうしようかな。


 なんかいい言い訳はないかな……そうだ!


「飛竜に乗る時はこんな感じなのかなって、考えながら飛んでいたら、遠くまで行ってました。すみません」


「別に謝ることじゃないさ。そうだよな、エルリーヒもアドレットも明日は飛竜の義だもんな。明日お前達がどんな飛竜を連れてくるか、楽しみにしているぞ」


「はい、僕も今から楽しみです」


「うん、任せてよお父さん……そういえば、お父さん達が飛竜の儀をした時って、どんな感じだったの?」


 そう言われたアドルフさんやプリッツさん、リリさんはお互いを見つめあうと気まずそうにアドルフさんが口を開いた。


「えっと、あの時はな――」


「ふふ、私は聞いた話だけど、この人ったら飛竜の儀の時。飛竜に翻弄されて、本来の目的地とは反対の方向に飛んで行ったらしいわよ」


 プリッツさんが楽しそうに話すとアドルフさんが驚愕した顔をして、手に持っていたパンを全部スープに落としてしまった。


「ちょ、プリッツどうしてその事を――」


「はは、私も覚えてる。村で誰が先に帰って来るのか話していたら、フラつきながら目的地と別方向に飛んで行くのを見たよ。あの時はあんな鈍臭い奴とだけは結婚しないようにしようと思っていたけど……人生何が起こるか分からないものだな!」


 リリさんは笑いながらそう話してくれた。


 へぇ、そんな事が……今では村一番の飛竜の使い手なんて言われてるアドルフさんでも、最初はそうだったんだな。


 と逆の意味で感心していると、アドルフさんは今の状況が気まずいのか咳払いをして、話しを戻そうとする。


「俺の話はいいんだよ。まぁ、とにかくワイバーンに普段から乗ってるからって、飛竜も簡単に乗りこなせるとは思うなよ。ワイバーンと飛竜は別物だ」


「お父さんが言うと説得力がすごいね」


「うっさい!今日はさっさと食べて、明日に備えてさっさと寝ろ!明日は加護の儀と飛竜の儀の両方あるんだからな!!……アッチ」


 自分の話しを誤魔化す為に話しを終わらせたアドルフさんは水没したパンを一気に食べようとして、口の中を火傷しかけるのを見て、思わずみんな笑ってしまう。


「アハハ、わかったよお父さん」


「はい、アドルフさん」


「……わかればいいんだ」


 僕達の返事にアドルフさんはどこか不満そうな顔をしていたけど、これ以上は自分が火傷するだけと察したのか、軽く返事をして食事を続けた。


 そして、それをみた僕達も食事を続ける。


 ……それにしても楽しみだな。


 一体、どんな飛竜が僕のパートナーになってくれるかな。


 僕は明日会うパートナーの飛竜とこれからどんな事したいかを考えながら夜を過ごした。



◇ ◆ ◇



 加護の儀と飛竜の儀が行われる当日。


 この二つの儀式を終えてやっと、一人前の大人と認められる。


 そして、今は加護の儀を行う為の神殿に案内してくれる人を待つ為に、村の広場に成人になりたての僕を合わせた10人の男女が集まっていた。けど――


「ほら、あそこに羊角がいるぜ」


「ホントだ。良く儀式に参加する気になれたね」


「だよな」


「…………」


 他に集まっていた同年代に陰口にしては大きすぎる声で、僕を馬鹿にする声が聞こえて来る。


 僕は角の儀の一件以来、一部の人以外の村人達に露骨に避けられていた。


 ……エーデル姉さんやアドレットのおかげで立ち直ることは出来たけど、さすがに他の同年代にここまで言われるとキツイな。


 どうしたものかと考えていたら右手が何かに包まれた。


 見てみるとアドレットが僕の手を握って微笑んでいた。


「気にすることはないよ。私達がいるんだから」


「そうだね。アドレット」


 そうだ。僕にはアドレット達がいる。他の人達が何て言おうともエーデル姉さんやアドレットがいれば乗り越えられる。


 そう思いながらアドレットを見てみると普段髪飾りを付けないアドレットが髪飾りを付けてるのに気付いた。


「アドレット、その髪飾りって昔あげたやつだよね」


「あっ、そう!昔エルが買ってくれた髪飾り。お守り代わりにしてるんだ」


 ニコニコと微笑みながらアドレットは髪飾りを触る。


「そっか、大事にしてくれてありがとうな」


「うん……そういえばこの髪飾りって、どこで買ったか覚えてる?」


「え?……ごめん、覚えてないや」


 そう言われればその髪飾りって、どこで買ったんだっけ?


 多分、両親とあっちこっちと廻った時に買ったとは思うんだけど、覚えてないな。


 アドレットは僕が覚えてないと言ったら、どこか寂しそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔になった。


「そっか。じゃあ、また買い物に行った時、髪飾りを買ってね」


「うん、いいよ」


「ふふ、ありがとう。そう言えばエル聞いた――」


 僕達はそのまま案内役が来るまで、雑談を続けた。


………………


…………


……


「遅れてすまない。準備に手間取ってしまった。こっちに集まってくれ」


「――来たみたいだね。行こう、エル」


「うん、行こうかアドレット」


 雑談を続けていると、木をイメージした模様の刺繍がしてある儀式衣装を着た中年の男性が、十匹のワイバーンと飛竜を連れてやって来た。


 僕達は呼びかけて来たおじさんのもとに向かうと、おじさんは全員集まった事を確認すると笑顔で頷く。


「それではみんな、こんにちは。俺は、今回加護の儀と飛竜の儀を見届け人兼案内役のサフィロスだ、よろしく頼む。儀式の詳しい話しは、神殿で行うから早速、このワイバーン達に乗ってくれ」


 サフィロスさんはそう言い終わると後ろに一列に並んでるワイバーン達に乗るように指示をした。


「それと、この子達は神殿の場所をしってる。乗るだけで目的地に着くから、余計な操作はしない様にな」


「「はい」」


 僕達は目の前に並んだワイバーン達に乗り込んで行く。


「今日はよろしくね」


『――!うん、お兄さん、よろしく』


 話し掛けられるとワイバーンは少し驚いた声を出したけどすぐに元気よく返事をしてくれた。


 うん。元気な子だ。鱗も綺麗だし、サフィロスさんはワイバーンを丁寧に飼育してるんだな。


「それではみんな行くぞ!付いて来い!!」


 サフィロスさんはパートナーの飛竜に飛び乗ると飛び立ち、それを追いかける様にワイバーン達も飛びたった。


 飛竜の神殿か……儀式の時以外は、部外者立ち入り禁止の場所だけど、どんな場所なんだろ。


期待に胸を膨らませて、僕達は神殿に向かった。


◇  ◆  ◇


「……あれが神殿か」


「すごいね」


 サフィロスさんの先導で、村の南東の方向にしばらく飛んで行くと、極端に木々が少ない場所に白い神殿とその後ろに、大きな切れ目が入っている崖が見えて来た。


 サフィロスさんは神殿に近付くと着陸軌道をとる。


 すると僕達の乗っているワイバーンもそれにならって着陸軌道をとって、神殿の前に着陸した。


 サフィロスさんはしっかりと10匹の飛竜が着陸したのを確認して、飛竜から降りると僕達に笑いかける。


「さぁ、到着だ。ようこそ!!ここが飛竜神の神殿、アーラ神殿だ」


 僕達はワイバーンから降りて、神殿を見上げる。


 アーラ神殿は白い石造りの神殿で、誰かが整備しているのか綺麗に整備されていて、汚れも全くない。


「凄いね、エル」


「そうだなアドレット。この神殿誰が手入れしてるんだろうな」


「確か村の人達が成人の儀式に合わせて綺麗にしにきてるって聞いたよ」


 へぇ、そうなんだ。と思っているとすでに神殿に向かって歩き始めていたサフィロスさんが振り向いて注意してきた。


「こら、後ろの二人早く来ないか!」


「ごめんなさい!いこう、エル」


「そうだな」


 僕とアドレットは小走りで、神殿に入って行ったサフィロスさん達の後を追いかけて、神殿に入って行く。


「……すごい」


 神殿に入った僕は思わず、そう呟いていた。


 神殿の中は神秘的でシンプルな作りをしていた。


 神殿の奥には飛竜神だと思われる神像が、その後ろには光を取り込むためのステンドガラス。


 そして、神像の前には祭壇がある。床には魔法陣が描かれているだけのシンプルな神殿。


 神殿特有の煌びやかさも、どこの派閥なのかを示すタペストリーも飾ってない。


 だけど……いや、だからこそ僕はこの空間が神秘的で美しいと思った。


「……ほんとに綺麗な場所だな。あの奥の神像、多分飛竜神だよね」


「そうだと思うよ。すごい迫力だね」


 僕とアドレットは、お互いの感想を言いながら歩いているとサフィロスさんは僕達に振り返った。


「それでは整列してくれ……加護の儀のやり方を説明する!」


 号令を聞いた僕達は適当に一列に並ぶ。それを見てサフィロスさんは、頷くと加護の儀の説明を始めようとする。


 これから加護の儀が始まる――そして、僕の長い一日も、始まった。



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