第14話 契りの儀式の儀式のやり方 ☆

『お兄さん、契りの儀式って知ってますか?』


「契りの儀式?何それ」


 ムツキとキサラギと森の奥でのんびりと遊んでいた時に、唐突にムツキにそう言われた。


 僕が契りの儀式の意味が分からず、首を傾げているとキサラギが説明してくれた。


『契りの儀式って言うのは、心を通わせている者同士がいつまでも一緒にいるって約束する事なんですよ!』


 いつまでも一緒にいる為の儀式……契りの儀式って、結婚みたいなものかな?


 そう、契りの儀式の意味を自分の中に落とし込んでいると――


『私たちで契りの儀式をしよう!お兄さん』


 キラキラした目でムツキが、おねだりをしてきた。


 契りの儀式ってそんなに簡単にしても、いいものなのか?


「主さまに言わなくていいの、それ」


『別に大丈夫だよ。お母さんも「本当にこの人とずっと一緒に居たい。そう思った人が出来たらするんだよ」って言ってたよ!!だから私は契りの儀式がしたい!!』


『お姉ちゃんずるい、私もしたい!』


『じゃあ、キサラギもしようね!だから、しようよお兄ちゃん!!』


「う~ん」


 ムツキとキサラギの期待を込めた眼差しを受けて、僕はほんとに儀式をしてもいいのか考え込んでしまった。


 これは……して大丈夫なものなのかな?


 結婚みたいなものだと思っていたけど、主さまがムツキに言った事の意味が僕が思ってる意味となんか違う気がするな…………でも、この二匹のお願いを断るのもな……よし。


 ごっこ遊びみたいなものなら大丈夫かな?


「わかったよ、やろうか」


『やったー』


『わーい』


「ははは、それでムツキ。どうすればいいの?」


 あまりの嬉しさにその場で飛び上がって、喜んでいた二匹に僕は契りの儀式のやり方を聞いた。


『そうだった。はい』


 飛び跳ねるのをやめたムツキは僕に向かって、頭を突き出すとキサラギもそれにならって頭を僕に向ける。


 これから先、どうすればいいか分からなくて困惑した僕は、ムツキに何をすればいいのか聞く。


「それでムツキ、どうすればいいの?」


『うん?私たちの頭に手をのせて……えっと【リンケージ】をするんだよ!』


「あの【リンケージ】?」


『うん、たぶんそれ!』


「たぶんそれって……」


 【リンケージ】は昔父さんがパートナーの飛竜の力を使うためにその呪文を唱える所を見たことはあるけど……でも、【リンケージ】って神さまの加護がないと使えない呪文じゃなかったっけ?

 でも、二匹とも期待を込めてこっちを見てるし……やるだけやるか。


「わかったよ、やるよ」


『『うん』』


 多分失敗するとは思うけど、やるだけやってみるか。


 僕は二匹の頭に手をのせて――


「【リンケージ】」


 と呪文を唱えた。


『『「…………」』』


 ……けれど何も起こらなかった。


「ふぅ、やっぱり……え?」


 予想通り何も起こらなかったと思った途端。


 急に背中から何か熱い物が流れて来て、僕とムツキとキサラギと何かが繋がった感覚がした。


 そして、僕の体の中に僕の魔力とは別の物が入ってくる。


「――!!うそ、これは!?」


『やった【リンケージ】出来た!!』


『さすがお兄ちゃん!』


 本当に【リンケージ】が出来た!!


 でも、どうして【リンケージ】が出来たんだ。加護もないのに?


 ……これは本当に【リンケージ】なの――


『お兄ちゃん早く、早く!!』


『契りの儀式をしよ!』


「……そうだね」


 それもそうか。


 考えても分からない事を考えても意味はないし、今は二匹の要望通り、契りの儀式をしてみるか。


「それじゃやる……ガァ!?」


 契りの儀式の続きをしようとした途端。


 突然、心臓に強い痛みが走って、僕は倒れて蹲ってしまった。


『どうしたのお兄……グァ!?』


『お姉ちゃん……バァ??』


 二匹とも苦しそうに吠えたあと倒れてしまった。


 多分、僕が【リンケージ】をしたせいだ。


 早く【リンケージ】を解除しないと……うそ!解除ができない!


 【リンケージ】自体が初めてだから解除のしかたも良く分からない……どうすれば――


『娘達、エルリーヒ。今騒ぎ声が聞こえたが何を――何をしておる!!』


 ……主さまの声が……聞こえるけど。ダメだ……意識が…………。


………………


…………


……


「ガハァ!!」


『お兄ちゃんよかった!目を覚ました!』


『お母さん、お兄さん起きた!』


 意識が戻った途端、僕の目の前にはムツキとキサラギが顔を覗き込んできていて、目が合ったと思ったら二匹は主さまを呼びに行ってしまった。


 僕はゆっくりと体を起こして、自分の身体を確認するけど、特に何もない。


 心臓の痛みもないし……もしかして【リンケージ】をしたのは夢で、遊んでいる途中で寝落ちした?


『起きたか馬鹿者。祝福なしで契りの儀式の前準備をやろうとしたあげく、作法を間違えて【リンケージ】の呪文を唱えてしまうとは。……本来なら失敗するはずなのに……【リンケージ】が何故か【ヘルツゼーレ】になるとは驚いたぞ……末恐ろしい』


 そう愚痴をこぼしながら主さまが、ムツキとキサラギを連れてやって来た。


 ……ほんとにあれは、夢じゃなかったんだ。いや、それよりも――


 僕は姿勢を正して、主さまに向き直って頭を下げた。


「すみませんでした主さま。……それと僕はどれぐらい寝てましたか?」


『ほんの数分じゃ、心配するな。それにしてもまさか契りの儀式をしようとして【ヘルツゼーレ】になってしまうとは予想もしてなかった。良く出来たものだな』


「……あの主さまその【ヘルツゼーレ】ってなんですか?」


『……やはり知らずにやったのか』


 主さまはそう言うと呆れたようにため息をついて僕をジッと見る。


 ……これは何か罰があるのかな。


 今回は完全に僕が悪い。ムツキとキサラギに危険な目に合わせちゃったし……一体どんな罰なんだろ。


 そう身構えていると主さまはまたため息をついた。


『無知の方が危険か……はぁ、全く。娘達も契りの儀式のやり方をうろ覚えだったようだし教えよう』


 ……どうやら特にお咎めはないみたいでよかっ――


『だが、私がこれから伝える事は禁忌に等しい事だ。心して聞くんだぞ』

「――!はい!!」


 主さまにそう言われて緩みかけていた気持ちを引き締めた。


 そんな僕の態度に満足だったのか頷くと話しを続けた。


『よろしい。【ヘルツゼーレ】とはどういった物なのか、そして契りの儀式とはどういった物なのかをしっかりと覚えておくんだぞ。そして今後は緊急事態以外は【ヘルツゼーレ】を使うではないぞ――』





『――というわけで、エルリーヒ』


「――!!あ、はい!」


 主さまに声を掛けられて、現実に引き戻された。


 そうだヤバい!昔の事を思い出していて全く話を聞いてなかった。どんな話しをしてた!?


『娘らはまだ成人しとらんから、もしこの子らから契を結ぼうと言ってもしっかりと断るんだぞ』


「はい!わかってます!!」


 よかった。まだ返事の出来る事で……二匹は……あっ。


 二匹はどうしたのかと思って、周りを見て状況を確認するとムツキとキサラギがシュンとしているのを見つけた。


 どうやらガッツリと説教されたみたいだ。


『それとあの時から【ヘルツゼーレ】はしてないだろうな?あの時は契と【ヘルツゼーレ】の意味を教える為に使い方を教えて、危険な時は使っても良いと言ったが……まさか遊びで【ヘルツゼーレ】をしとらんよな』


 主さまの言葉に冷や汗が出る。


 実際、先日薬草を取りに行く時に【ヘルツゼーレ】を使用した。


 しかも、あの時以外にも結構な回数【ヘルツゼーレ】を使ってる。


 ……姉妹がいうには【ヘルツゼーレ】で繋がってる感覚は気持ちよく、高揚感があって楽しいらしく、ことあるごとに【ヘルツゼーレ】をせがまれて使ってる。


 今では【ヘルツゼーレ】の接続にもかなり慣れてきて、どんな状況でも【ヘルツゼーレ】が出来るかって遊びをしていたぐらいだ。


「もちろん使ってませんよ」


 でも、正直に言って怒られるのは目に見えていたから、僕はつい誤魔化してしまった。


『……まぁ、よい。エルリーヒの言葉を信じよう。嘘だった時はきっちりと責任を取ってもらうからな』


 と主さまに眼光鋭く言われてしまった。


 引くに引けなくなってしまった僕は――


「その時は責任を取ります!」


 と、その場の勢いで言ってしまったが……どんな責任を取るのか全く想像が出来ない。何をさせられるんだ僕は!?なら――


「主さま、すみません!今ワイバーン達の飛行訓練兼、散歩中なので僕は行きますね。失礼します!」


 これ以上主さまに問い詰められて、ボロが出る前に僕は急いでワイバーンに乗り込んで飛んで帰る事にした。



☆ ★ ☆(???)



『はぁ、全くエルリーヒにも困ったものだ』


エルリーヒが逃げる様に去って行ったのを森の主は呆れた表情で見ているとキサラギが不思議そうに見つめて来た。


『お母さん?』


『何でもない。明日少し行かなければいけない所がある。二匹とも留守を任していいか』


『うん、わかった』


『任せて!』


『うむ、頼んだぞ。……ではそれぞれ役目を果たすのだ』


 森の主がそう言うとムツキとキサラギは頷き、三匹の狼はその場から消えた。


 それぞれ森の主としての役目を果たすために行動を始めた。



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