第51話 新たなる縁
四人はそれぞれ回避し、
「ヘルガン、あいつはなんだ?」
「クソ親父です!化け物に吸収されてああなりました」
「そうか。ラックルは助けたのか?」
「いえ……ラックルは僕を
「そうか……悪かった」
ラックルの死を聞き、アクスも悲しんだ。
アクス達にとっても、ラックルは大事な仲間だったからだ。
しかし、敵はその
その動きに対し、アクスは
「炎を吐いてきます!避けて!」
「え?」
ヘルガンの言葉に驚き、思わず振り返ってしまう。
その次の瞬間、ヘルガンの言葉の通り、
「危ねえ!!」
炎を避けたアクスは、後ろに居たヘルガンを抱えてその場を離れる。
「なんで炎を吐くって分かったんだ?ラックルの能力は使えないだろ?」
「いえ、色々あって能力を引き継ぎました」
「それ早く言え!」
命の危機に面したアクスは、思わず
「他に何か情報はあるか?」
「あいつは色々な姿に変身出来るようです」
「分かった。じゃあその事を二人にも伝えにいくぞ」
ヘルガンを抱えたまま、二人の元へと急ぐアクス。
そこへ再び、
地上から二人を狙って、炎を吐き出す。
炎に弱いアクスを守るために、リーナが動く。
バラバラになった身体はコウモリに変身し、リーナへと飛びかかる。
「変身して攻撃を回避?厄介ね」
敵の能力を分析し、迫るコウモリを冷静に落としていく。
ほとんどのコウモリが叩き落されたが、残ったコウモリが集まって、再び変身した。
今度は硬い肉体を持つ、像へと変身した。
当然ただの像ではなく、二足歩行で立つ、五メートルほどの像だ。
リーナを狙って、長い鼻を縦に振り降ろす。
リーナはかわしたが、その攻撃の衝撃でいくつもの建物が崩れ落ちた。
「さすがに当たったらまずいわね……」
その場から大きく跳び、距離を取る。
すると今度は、像から竜へと変身した。
リーナの後を追いかけ、空を飛ぶ。
動きは素早く、大きく開かれた
「今よ、サリア!」
リーナの動きは、罠だった。
竜の頭上に、無数の光る玉が並んで浮いていた。
『スターレイン!!』
光る玉が、竜に向かって一斉に放たれた。
流星の
光は竜の身体をもいとも
竜はコウモリに変身し、逃れようとするも、圧倒的な数の光の玉に、次々と撃ち落とされていく。
「ぐおおおおお!!」
叫び声と共に、コウモリが姿を変える。
狼へと変身し、街の外周を走り出した。
走りながら口から炎を吐き出し、壁にぶつける。
炎で壁に穴が空き、大量の水が街の中に入り込む。
穴は一つだけではなく、次々と空いた穴から水が流れ込む。
「まずい!ここが水で一杯になったらこっちが不利になりますよ!」
「その前に
水の勢いは凄まじく、
「アクス!氷で
「今やってる!」
アクスは目を閉じて、集中していた。
胸元で腕をゆっくりと交差し、それを一気に解き放った。それと同時に冷気が辺りに広がる。
壁から流れていたすべての水を凍らせ、水の侵入を防いだ。
「おのれ…!やはり先に潰すべきは貴様か。だが、どいつもこいつも厄介で仕留めにくい……」
四人を同時に相手するのは、ノルガンには
「これならどうだ!」
ノルガンは再び姿を変える。
竜になったかと思えば、そこからさらに首を生やし、八つ首の竜となった。
「視界を増やしたか」
「それだけではない」
数本の首がゆらりと動くと、一気に加速し、
避けはしたが、その巨体から生まれる破壊力と速さは凄まじく、アクスも冷や汗をかいた。
「まずいな…これは」
攻撃はさらに加速し、アクスを
二人の攻防に、リーナが横槍を入れるが、アクスと同様の攻撃を受け、吹き飛ばされた。
「くそっ!まだだっ…!!」
リーナは
しかし竜の身体は、熱線も爆発も
「これなら効くかしら」
ノルガンの背後に周り、背中に指を当てた。
『ショックウェーブ!』
魔力がノルガンの体内を巡り、内蔵を破壊する。
内蔵が潰されていく痛みで、大量に血を吐いた。
「ぐぎゃぁぁぁぁ!!」
人ではない叫び声をあげながら、
全身から鋭い
「今ので倒れないの!?しつこいわね!」
再び攻撃を仕掛けようとリーナが動く。
それを察知して、竜は身体の
巨体から一斉に発せられる
「幹部なだけあって、さすがに厄介ね」
遠くから見ていたサリア達は、ノルガンの戦いを見て、作戦を練っていた。
「サリアさん、少しいいですか?」
「何か思いついた?」
「ええ…リスクはありますが、必ず奴を倒せる方法があります」
「すぐに教えて」
作戦のすべてをサリアに伝えた。
「……という訳なんですが」
「……わかった、貴方を信じるわ」
許可を得たヘルガンは、ひとり先にアクス達の元へと向かった。
「……アクス、聞こえる?」
残ったサリアは、テレパシーでアクスの脳内に直接語りかけた。
「ヘルガンがそっちに向かってる。足止めはヘルガンがするから、確実にとどめを刺せるよう準備しておいて。いいわね?」
答えを聞く前にテレパシーを終え、
戦いは
竜の肉体は
加えて、あらゆる攻撃を防ぐ
「これならどうだ!」
アクスは自分の足に、分厚い氷を
その足で、空高くから竜を踏みつけた。
分厚い氷はノルガンの棘を通さず、竜を空から落とす事に成功した。
「よし、今の内に……」
「させるか!」
いくつもある首を分裂させ、蛇へと変化する。
地面を揺らす程のスピードで、アクスに飛びかかった。
力の溜めを止め、蛇の攻撃をかわす。
「くそ!せめて少しだけでも時間を稼げれば……ヘルガンはまだか!?」
「別にあいつが来たところで戦況は変わんないでしょ」
「いや…ヘルガンが足止めしてくれるらしい」
「は?なによそれ、私聞いてないわよ」
「アクスさん!」
「来たか、ヘルガン!」
「僕が足止めします!その
「分かってる!頼んだぞ!」
「え…?は、はい!」
アクスの言葉に
ヘルガンは自分が持つ力のすべてを、目に集中した。
大量の魔力を帯びた目は、その負荷に耐えきれず出血した。
痛みを感じながらも、その目を竜に向けた。
「む?」
竜が何かを感じ取り、ヘルガンに目を向けた。
するとそこには、なにかを投げようとするヘルガンが映った。
投げつけられたそのなにかは、光を発した。
「やはり魔石か!」
竜は目を閉じ、光から目を防ぐ。
ヘルガンから感じた魔力に違和感を感じたノルガンは、いち早く目を防ぐ事が出来たのだ。
「そんな
光が収まると、竜はヘルガンに向かって手を振り下ろす。
「死ねぇ!」
その瞬間、再び大きな光が辺りを照らした。
もろに受けた竜は、視界を失い、大きく体勢を崩した。
「何故だっ!?魔石は一つしか感じなかったのに!」
その疑問に、ヘルガンが答える。
「その通り……魔石は一つだけだ…!」
「ならば何故……」
「僕がお前に……未来を見せた……」
「なんだとっ…!?」
ラックルから受け継いだ力。
それを応用し、他人に未来を見せる事に成功した。
だがその代償で、ヘルガンは目や鼻から血が流れ続けていた。
「まだだ!すぐに新しい目を作れば……」
「そんな時間、無いと思いますけどね」
その言葉の後に、ノルガンの身体が氷に
必死の時間稼ぎの間、アクスが力を溜めていたのだ。
「今だやれ!」
「たくっ!事前に説明しておきなさいよ!!」
文句を垂れながら、リーナは必殺の一撃を放つ。
『スーパーノヴァ!!』
巨大な炎の玉が、アクスの氷ごと、ノルガンを燃やし尽くす。
「ぐおぉぉぉぉ!!まさか、この俺が!」
竜となったノルガンだったが、炎に体力を削られ、少しずつ人間の身体に戻っていった。
「さっさとくたばれ、クソ野郎!!」
勝利を確信したヘルガンが、最後に
「ぐぅぅぅ!!まだだっ!!」
ノルガンは最後の力を振り絞り、炎から脱出をする。
「しぶといけど、もう終わりね」
全身は炎で焼けただれ、生きているのも不思議な状態だった。
それを見て、ヘルガンが前に出る。
「こんな……こんな雑魚共にこの俺が……!」
『ノルガン……手こずっているみたいだな』
「大神官……様…私はまだやれます…」
独り言を始めたノルガンに、ヘルガンは気味悪がって
『貴様に力を貸してやろう』
「ああ……ありがたき
その言葉と共に、ノルガンの身体から不思議にも力が溢れ出る。
「っつ!!なんだ!?」
邪悪で、強大な力に、アクスは眉をひそめる。
「ぐうぅぅぅ……はあぁぁぁぁ!!」
高まっていく力に恐れ、アクスがとどめを刺そうと飛び出る。
「駄目だ、逃げて!!」
嫌な未来をその目で見たヘルガンが、アクスを止めようとするが、
ノルガンが再び姿を変え、アクスとヘルガンに襲い掛かった。
ヘルガンは未来視を使って回避しようと試みるが、速すぎる攻撃に対応出来ず、胸を切り裂かれた。
それを見たアクスが、すぐさま防御の構えを取るが、防御を無視して
「これで俺は誰にも負けん…!殺してやるぞ雑魚ども!」
それと同時に、地下に大きな警報が鳴り響く。
『自爆装置を作動。三分後に起動します』
「あまり……ゆっくりしてる
「あれやるぞ」
「ぶっつけ本番でですか!?」
「何度も練習しただろ。いいからやるぞ!」
アクスとジベルは同時に魔力を溜め始めた。
氷の力を持つアクスに、ジベルの魔力が合わさっていく。
二人の力が融合し、アクスに新たな変化を与えた。
胸の辺りから徐々に身体が白く変化し、つま先から髪のてっぺんまで真っ白に染まった。
「いくぞ!」
アクスはノルガンに向かって腕を向ける。
お互いの距離は離れており、この距離から何をするつもりなのか、ノルガンは首をかしげた。
「伸びろ!」
ノルガンに向けた腕が一気に伸びて、ノルガンを殴った。
「なっ……!?」
それを見て、皆が驚く。
「ちょっと!何よそれ!?」
「説明は後だ!時間がねぇ!!」
アクスは続けて攻撃を仕掛ける。
しかし一度は通じたものの、二度目はかわされ、腕を切り落とされた。
「まだだっ!」
切り落とされた腕が氷となり、ノルガンに突き刺さらんとした。
「ぐはぁっ!!」
変幻自在の肉体に、ノルガンは圧倒された。
「とどめだ!!」
さらに氷を操って、とどめを刺そうとした。
「ダメだ防がれる!」
ヘルガンの言葉の通り、ノルガンは全身から炎を発し、攻撃を防いだ。
その行動は、攻撃を防ぐだけではなく、アクスへの攻撃にもなった。
全身が氷と雪の様になったアクスは、熱に対してさらに弱くなっていた。
今の反撃で、アクスは
アクスが動けない中、リーナがノルガンに向かっていく。
しかしそれを無視し、ノルガンはアクスに襲い掛かる。
「もらった!」
その時ノルガンの視界が歪み、アクスが視界から消える。
視界が元に戻ると、ヘルガンに向かって怒声を浴びせる。
「またお前か!」
再びヘルガンが、ノルガンに未来を見せたのであった。
その
腹が沈み込む程の
「まだだ……これしきの事で!」
しかし、天はアクス達に味方した。
「終わりよ……『スターダストエクスプロージョン』」
サリアの必殺の一撃が、頭上より降り注ぐ。
悪を滅する光に、ノルガンは身を焼かれる。
「ああぁぁぁぁぁ!大神官様!魔王様!神様!!」
最期の言葉を叫び、ノルガンは光の中に消えていった。
完全に消え去った後、一行は、今までの疲れが一気に
「終わった………」
「って!それどころじゃないわよ、爆発するから早く逃げないと!」
「悪いサリア……ちょっと動けなくて…」
「回復してあげるから!」
『爆発まで、残り十秒』
「まずい!間に合わない!」
「おい!」
一人の男が救世主として現れた。
「え!?誰?」
「父ちゃん……」
「え!?お父さん!?」
「ぐだぐだ言ってる場合か!」
アクスの父親であるラースが四人を
地面を突き破り、外へ出ると、急いでそこから離れた。
その直後、地下で大きな爆発が起きた。
爆音が外にまで鳴り響き、地震が起きたが、幸いな事に爆発は地下だけで収まり、地上への被害はほとんど無かった。
こうして、アクス達は完全勝利を収めた。
ラースは四人を安全な所へ運ぶと、改めて話を始めた。
「そっちの二人は初めましてだな。俺はラース、息子のアクスが世話になってる」
「いえいえ…むしろ私の方こそ息子さんには世話になってまして…」
サリアとラースが言葉を交わす中、ヘルガンがアクスに耳打ちする。
「あの人がアクスさんの父親なんですか?」
「俺もついさっき初めて会ったけど、そうらしいな」
「そっくりですもんね」
二人してラースの顔をじろじろ見つめていると、ラースが声を掛けた。
「さっきのはすごかったなアクス。お前の母さんそっくりだったぞ」
「そうなのか?というか、俺の母ちゃんっていったい何者なんだ?今どこに居るんだ?」
「そうだな…まずはそこから説明するか」
ラースは近くの切り株に腰掛け、事の始まりから話し始めた。
「お前の母さんは雪と氷を司る精霊、今もここから北東の雪山で暮らしている」
「ちょっと待った!!」
ジベルが慌てて、アクスの懐から飛び出した。
「
「あいにくだが、俺達ルーフの一族は普通とは違うんだ。ご先祖様なんか、神との子供をつくったとか」
「え?そうなの?」
「ルーフの一族……アクスも言ってたわね。いったいどういう一族なんですか?」
「その辺の話は悪いが後にしてくれ、時間もあまり無いんでな」
そこで話を切り、話を戻した。
「十九年前、あの山に魔王軍が攻めてきた。その時、お前は母さんと一緒に逃げたんだが、その途中で離れ離れになっちまったんだ」
「そうだったのか……」
話しを聞いたアクスは、どこか悲しげな表情だった。
「言っとくがな、母さんは当然お前を探していた。だが精霊は、自分の領域の遠くへは行けねぇ、今まで会えなかったのはそういう事だ」
「…!なんだ、それなら良かった」
「母さんに会ったら
「うん…分かった。絶対会いに行くよ」
「頼んだぞ」
二人が会話を終えると、ラースの話に興味しんしんのリーナとヘルガンが一斉に話しかける。
「あの!ルーフの一族とか、色々教えてください!」
「それは……」
元から透けていたラースの身体が、さらに薄くなった。
「時間か……」
「どういう事だ?」
「神様の話だと、三十分しか地上に居ちゃ駄目だってさ。神様もケチだよな」
その言葉に、サリアが目を
「母さんに本を預けてる。知りたい事はそれに書いてある」
「ありがとう父ちゃん、助けてくれて」
「………礼なんかいいさ。俺はお前の父親なんだからな」
消える直前、アクスに笑みを向けた。
アクスにとってそれは、父からの最高の贈り物だった。
戦いを終えた四人は、長い時間を掛けてようやく家にたどり着いた。
「ようやく帰ってこれた〜〜!」
「疲れた……ヘルガン、今回の事は一つ貸しよ」
「はい、本当にありがとうございました」
「腹減ったし、早く飯にしようぜ」
「アクスさん、少しいいですか?」
「ん?いいぞ」
アクスとヘルガンは家に入らず、玄関の前で二人きりで話し始めた。
「改めてお礼をと思って…ありがとうございました」
「いいよ別に。それよりも、お前は大丈夫か?」
「僕は……大丈夫です。全部終わってすっきりしました」
「そうか。ならいいけど」
「………ただ一つ、お願いしたい事があって」
「なんだ?」
「もし僕がこの先、道を間違えたら、僕を殺してください」
「お前が道を間違えるって?」
「ええ。あいつは死んで当然だったとはいえ、僕にとっては実の父親です。その実の父親が死んで、それを喜ぶ僕は、はっきり言ってまともじゃないでしょう。
だから僕がに間違えた時は……」
「分かった。ただなヘルガン……そうなる前に、俺が止める。お前にあいつと同じ道は進ませない」
「アクスさん………」
アクスは手を差し出した。
「だから、これからもよろしくなヘルガン」
ヘルガンはその手を握り、大きく頷いた。
「はい!どうかお願いします、アクスさん!」
二人はお互いの間に固い絆を感じた。
これからも仲間として、そして親友として、二人は旅を続けて行くだろう。
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