第50話 未来へと進む一歩

「さっきの大きな音……アクス達、大丈夫かしら」

敵地にて、離れ離れになった仲間を思いながら、サリアは戦場へと進む。

「サリアさん!」

「その声は……ヘルガン!?」

行方ゆくえをくらましていた仲間の声に、サリアは喜々として振り返る。

「って…!どうしたのその姿!?」

透けているヘルガンの身体に、サリアは心配の声を上げる。

「あはは……まぁ、色々あって死んじゃって」 

ヘルガンは、ここで一度殺されていた。

普通ならあの世に行くべき魂が、執念しゅうねんでこの世にとどまっていたのだ。

「すぐ蘇生そせいしたいところだけど……ヘルガンの肉体がここにないと難しいわね」

「何故です?」

「肉体がまだ存在する場合、蘇生そせいした途端魂が肉体に戻っていくの。もし蘇生そせいされた直後、敵がいたら危険でしょ」

「危険でも構いません!早くラックルを助けたいんです!」

ヘルガンと共にいたラックルは、敵に捕らわれ、ヘルガンの肉体の横で眠らされていた。

サリアは悩んでいた。

何故ならば、一度死んだ人間は二度とよみがえる事は出来ない。それがこの世界のルールだからだ。

安全を確認出来ない以上、サリアはヘルガンの頼みをむことは出来なかった。

「お願いしますサリアさん!!」

ヘルガンが必死に頭を下げる。

「…………分かったわ、蘇生そせいする…」

「ありがとうございます!」

「アクスかリーナにこの事を伝えるから、二人のどっちかが助けに行くまで無理しちゃ駄目よ」

「恩に着ます」

サリアは杖をヘルガンに向け、蘇生そせい魔法を唱えた。

『リバスター!!』

ヘルガンの魂が空高く飛び、天井をすり抜けていった。

そうして魂がたどり着いた先に、ヘルガンの肉体があった。

死んだ肉体に魂が戻り、全身に再び血が巡り始める。

そうしてヘルガンは、目を覚ました。

「戻った…」

自身の身体をペタペタ触り、幽霊でないことに安堵あんどする。

すぐさま、そばに捕まっていたラックルを救い出した。

「ラックル!」

ラックルはひどく弱っていた。

「急いでサリアさんの元に戻らないと」

弱ったラックルを回復してもらおうと、再び下へ降りようとした。

しかし、ヘルガンの前にある男が立ちふさがる。

「もう一回殺されに来たのか?ヘルガン」

そいつはヘルガンの父、ノルガン。

ヘルガンからしてみれば母の敵の様なもので、その顔を見るやいなや怒りをあらわにする。

「何度も殺されてなるものか!逆に僕が殺してやる!!」

短剣を抜き、ノルガンに向ける。

その動きに迷いは無く、ヘルガンの覚悟が垣間かいま見える。

「学習しないやつだ……それだから死ぬんだよ」

ノルガンの目は息子に向ける様なものではなく、ゴミでも見るかのようだった。

「うるさい!!今度は負けない!!」

己を鼓舞し、ノルガンに向かって突き進む。

すさまじい気迫きはくだが、動きはただよ一般人。当たるわけがなかった。

短剣の突きをかわされ、雷のやりに胸を貫かれた。

致命傷ちめいしょうだった。ヘルガンは血を大量に吐き、地面に倒れた。

無様ぶざまな……血の繋がった息子とは思えんな」

ヘルガンの身体につばを吐き捨て、その場を後にしようとする。

「まだ……だ……」

動けるはずのないヘルガンが、その場に立ち上がった。

「お前だけは……絶対に許さない…!」

たとえ死にかけようとその怒りはおとろえず、その怒りをノルガンに向け続ける。

しかしノルガンは意にもかいさず、立ち去ろうとする。

「お前に見殺しにされた……母さんのためにも!そして…巻き込んでしまった仲間のためにも!絶対に!」

「うるさいやつだ」

ノルガンが振り返ると同時に、雷の矢を放つ。

ヘルガンにける程の体力は無く、確実な死がせまった。

「きゅー!!」

ラックルがめいいっぱい叫びながら、ヘルガンをかばう様に前に飛び出る。

雷の矢はラックルに突き刺さり、ヘルガンを助けた。

「ラックル!!!」

ヘルガンが叫ぶ。

地面に倒れたラックルを抱きかかえ、必死に声を掛ける。

「ラックル!!しっかりしろ!!」

自身の怪我など気にせず、ラックルを気に掛ける。

そんなヘルガンの姿に、ラックルは優しく微笑んだ。

それを最後に、ラックルは光のつぶとなった。

命が尽きたと、ヘルガンは思った。

しかし、ラックルはきてはいなかった。

光となったラックルは、ヘルガンを包み込んだ。

まばゆい光の中で、ヘルガンは気を失う。


ヘルガンが目を覚ます。

「ここは!?」

あたり一面、真っ白な世界。

「まさか、ここがあの世?」

「違うよ」

誰も居ないはずの空間で、誰かの声が聞こえてくる。

「誰!?」

「僕だよ、ラックルだよ」

ヘルガンの前に、死んだはずのラックルが浮かび上がる。

「ラックルが喋ってる!?っていうか、生きてる!?」

「驚くよね。ここはね、僕の世界。だからある程度ていど、いろんな事ができるんだ」

「そうなんだ……」

ヘルガンは驚きの連続で、頭の中ではすべてを理解しきれていなかった。

「でもね、残念ながら僕は死んでしまった。それはくつがえせない事実だよ」

「……ラックル!ごめん…!」

「謝らないで。そもそも、君を守るのが僕の使命だったんだ」

「使命?どうして僕なんかを?」

「約束したんだ、君のお母さんと」

「母さんと?」

「うん、そうだよ」

ラックルは語り出した。

「君のお母さんには世話になってね、その恩返しをしたいと、僕から申し出たんだ」

かつてラックルが魔物に襲われ死にかけていたところ、ヘルガンの母親によって助けられていた。

「それで君のお母さんは僕に頼んだ。君を助けてくれってね」

「母さん……」

ヘルガンは今にも泣きそうだった。

「っつ!」

ラックルの身体が、薄くけ始めた。

「どうやら……時間のようだね」

「そんな!どうにもならないの!?」

「僕は人間とは違う生き物だ、人間と同じ様に簡単によみがえる訳じゃない。仕方のないことなんだ」

「僕は君に助けられたのに……僕は君に何も返せてない…」

「そう思い詰めないで。それに、僕の魂は消えない。君と共に生き続ける。だから、前に進んで」

その言葉を最後に、ラックルは消滅した。

そしてヘルガンは再び、光の中で気を失った。


ヘルガンは再び目を覚ますと、ラックルの最後を思い出した。

辛く、涙が出そうになるが、ラックルの最後の言葉が、ヘルガンに前を向かせた。

元の世界に戻ってきた途端、ノルガンが興味を示した。

「何があった?さっきの光はなんだ?それに傷も治っている……」

不思議なことに、ヘルガンの傷は完治していた。

その事を問い詰めるも、ヘルガンはそれを無視し、自分の胸に手を当てた。

「ラックル……確かに伝わったよ、君の言葉」

ヘルガンは短剣を手に、ノルガンに再び向かっていく。

「馬鹿が、勝てる訳がないだろう!」

雷の矢をヘルガンに放つ。

今までは対応の出来なかったそれを、ヘルガンはかわした。

「かわした?いや…今の動きは……」

「うおぉぉぉ!!」

勢いづいたヘルガンが、ノルガンにせまる。

だが突然、その場で動きを止め、左から回り込む様に動いた。

その直後、ノルガンの前に天井てんじょうから雷が落ちた。

「やはりそうか!未来が見えているな!」

あの世界でラックルは、消える間際まぎわにヘルガンに力をたくした。

未来を見る力。それがヘルガンのものとなった。

「もらったぁ!!」

再び短剣で、ノルガンの心臓を狙う。

「甘いわ!」

雷の刃が、一瞬でヘルガンの右手を切り落とした。

右手と共に短剣が地面に落ちる。

「それも見えてるんだよ!」

痛みを我慢がまんし、左手をノルガンに伸ばす。

伸ばした左手は、ノルガンの眼球に突き刺さった。

「うぐぁぁぁ!!」

その一撃でノルガンは倒れ、地面でのたうち回っていた。

ヘルガンは落ちた短剣を拾い、ノルガンの側に寄る。

「これで……終わりだ!」

「ぐっ……!」

短剣を胸に振り下ろし、決着を着ける…はずだった。

ヘルガンの頭に、嫌な未来が流れた。

「なんだ……?こいつは…」

それが判断を鈍らせた。

「来い!EX-ゼロ!!」

ノルガンの叫びの後に、大きな地響きが起きた。

ヘルガンが急いでとどめを刺そうと、再び短剣を振り下ろす。

しかし地響きはさらに大きくなり、ヘルガンは地面を転がった。

そのすきにノルガンは逃げ出した。

「待て!!」

後を追ったその時、地響きの正体がヘルガンの前に現れた。

三メートル程の巨体の化け物。

顔には六つの目があり、口には細かく鋭い牙が生え並ぶ。

体には厚い毛皮や鱗があり、さまざまな動物を混ぜたようなその化け物に、ヘルガンは吐き気をもよおすほどの恐怖を感じた。

「こいつ……さっきの予知のやつ!」

その化け物にノルガンが近づき、高らかに叫んだ。

「EX-ゼロ!俺を取り込め!!」

命令を受け、化け物はノルガンをその身体からだに取り込んだ。

ノルガンを取り込んだ化け物の姿に、変化が現れる。

身体からだが変形し、おぞましいものだったそいつは、大猿へと変化した。

化け物は、流暢に語り出した。

しかしその声は、ノルガンのものだった。

「これが俺の最高傑作完成形キメラ。姿形を俺の思うがままに操り、意のままに操る事が出来る」

そう言うやいなや、大猿の背中からつばさが生える。

「よくも私に傷のを付けたな!殺してやるぞ!」

大きく羽ばたき、空中からこぶしを振り下ろす。

「まずい!」

ヘルガンは全速力でそこから離れた。

攻撃はかわせたが、地面が破壊された。

大穴が空き、アクス達が居る地下へとヘルガン達は落ちていく。

その光景はアクス達三人の目にもしっかり映っていた。

「あれは、ヘルガン!」

「リーナ!」

「分かってる!」

アクスとリーナが同時に走り出し、上へと跳び上がる。

アクスはヘルガンは助け出し、リーナはノルガンに攻撃を仕掛ける。

「駄目です!かわされる!」

ヘルガンは再び未来を見た。

そしてその言葉の通り、リーナの攻撃はかわされる。

「速っ…!」

三人の頭上をとったノルガンは、三人を地面に叩きつける。

「みんな、大丈夫!?」

サリアが駆けつけ、三人に回復魔法を掛ける。

「痛ってぇ……あいつ、強いな」

「すみません皆さん。僕がはやくとどめを刺しておけば……」

「上で何があったのか知らないけど、ぐちぐち言ってるひまがあったらさっさと動きなさい。ほら、来るわよ!」

ノルガンは地上へと降り、アクス達を睨む。

「魔王様に歯向かう愚か者ども、我が国に来て生きて帰れると思うな。全員、われのモルモットにしてやる!」

再び姿を変え、獅子ししとなって四人に襲い掛かった。






















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