第41話 精霊の国

どうしてこうなった。

外で弁当を食べようかと思って外に出てみたら。

ユリが誰も居ない虚空こくうに向かって話しかけていた。

「うんうんそれでね、先輩って強いの!だから、貴女の願いも叶えてくれるかも!」

………どうしよう、そっとしておくべきなのかしら。いやでも、誰かに見られたら余計に人が寄り付かなくなるし…

「ちょっと…ユリ?」

「あっ!先輩、ちょうどいい所に!この妖精さんがですね、助けてもらいたいそうです!」

「妖精……?何も居ないけど」

「えっ、先輩見えないんですか!」

ユリの話では妖精とやらが居るらしいけど…やっぱり何も見えないわね。いや、でも何か気配は感じる…

「えっと、なになに?姿が見えないのは心が純粋じゃないから?ですって、先輩!」

「喧嘩売ってんの?」

「違いますよ!妖精さんが言ってるんです!」

「だったらその妖精とやら、隠れてないで姿を見せなさいよ!」

私が怒鳴どなると、ユリはまた妖精とやらと話し始めた。

「見せる為には私達を精霊の国に連れていく必要があるようです」

「ふ〜ん…わかった、連れて行って」

承諾しょうだくすると、急に視界がぐるぐると回り始めた。

「っつ…!何よこれ!」

「うへ〜体が回る〜」

徐々に聞こえてくる声も薄れ、意識が完全に消えた。


身体の異変が収まると、そこは花が咲き誇るほこらの中だった。

ほこらの中でも花が咲いているのは、天窓から太陽の光だった。

「ようこそ、精霊の国へ」

声の方へ向き直ると、羽の生えた小人の女が飛んでいた。

「誰?」

「この子ですよ!この子が、さっきまで私が話して妖精さんです!」

「そうです。私は妖精のラワーです、よろしくお願いいたします」

そう言うとラワーは、ほこらの扉を開けた。

「着いてきてください、詳しい話はあるじからお聞きいただきたいのです」

あるじ…精霊の国と言っていたし、あるじは精霊かしら。

考えていても仕方ない、付いていく事にした。


ほこらを出た先も花だらけで、その上を妖精達が飛びっている。

周りに居る妖精達と目を合わせると、そそくさとどこかへ行った。人見知りなのだろう。

妖精に付いて歩いていくと、玉座の様な物が見えてきた。

そしてそこには、一人の女性が座っていた。

ピンク色の髪に、宝石の様な美しい瞳。さらには羽まで生えている。

その異質さから、どうやら人ではないらしい。

「フランシス様、人間の女性を二人連れてきました」

「ご苦労様。はじめましてリーナさん、ユリさん、私は花の精霊フランシスと申します」

「どうして私達の名前を?」

「精霊は特別な力を持っています、心を読む事は容易たやすい事です」

「なるほど、さすがは精霊。しかし、そんな精霊が私達に一体何の用があるのかしら」

「単刀直入に言います、今我が国は魔王軍に襲われています。どうかお助けいただきたいのです」

「ええっ!魔王軍に!?」

「はい…それも、幹部の一人が攻めてきています」

魔王軍の幹部…聞いた話によると、国一つ滅ぼす事も出来るとか。

「あなた、強いんでしょう?どうしてわざわざ私達を頼るの?」

「私は精霊の中では新参者ゆえ、まだ未熟。情けないですが、魔王軍の幹部には敵わないのです」

彼女の発言的に、他にも精霊が居るのね。

「リーナさんの考えている通り、精霊は他にもいますが、精霊は基本的にその場を動く事は出来ないのです」

「そこで、人間である私達に頼もうって事ね」

しかしどうするか、この精霊と私の力は多分同じくらいだ。その精霊が倒せないとなると、私じゃあ勝てないのでは…

「やりましょうよ先輩!!困ってる方がいるのに黙ってる訳にはいきませんよ!」

……こいつはまた能天気な。

だが、魔王軍幹部…そいつを討ち取れば、私も強くなれるかしら。

リスクは大きいが、この願いを聞いてみるべきかもしれない。

「いいわ、ただし貴女達にも戦いは手伝ってもらうわよ」

「もちろんです、ご協力感謝致します」

そうと決まれば早速行くか、まずは敵の情報から…

「そうと決まれば突撃!!妖精の皆さん、付いてきてください!!」

勝手に先走るユリを殴って黙らせた。

「じゃあ敵の情報を教えてもらえる?」

「敵は氷の魔女、ブルーフと呼ばれていました。聞き覚えはありますか?」

「……聞いた事はあるわね、国一つを一晩で氷漬けにしたとか」

氷が相手か、確かにこの精霊様には不利な相手ね。

勝てない理由が分かったわ。

「そしてブルーフの周りには、二体の魔物が付いています。そちらの二体は力を見せてなく、どういった能力なのかも分からないままです」

「なるほど分かったわ。それじゃあ私は、そのブルーフってのを狙うわ」

「随分と自信があるのですね」

「私の得意分野は炎よ、氷なんか敵じゃ無いわ」

「……わかりました。しかし、慢心はしないように……」

慢心するつもりは無い、敵が格上である以上全力でやってやる。

「ブルーフはここから北に居るはずです、氷の建物が目印になるでしょう」

氷の魔女らしく、氷で建物を作っているのか。

「さて…ユリ、起きなさい」

「ふぇ?あっ先輩、ひどいですよ殴るなんて!」

「悪かったわね。それよりも、私は幹部を狙いに行くから、あんたは妖精達と一緒に行動してなさい」

「それ、危なくないですか!?」

「無理だと思ったら帰ってくるから、そっちも気を付けなさい、敵に殺されないようにね」

というわけだ、気を締めて行こう。

気配を消し、なるべく音も出さない様にすばやく北へと進む。

道を変えながら、とにかく北へと向かっていく。

なるべくならブルーフだけと戦う為に、接敵は避けたい所だ。

初めての戦いだ、油断はしない!


なんの苦もなく、目的の場所まで着いた。

氷で出来た巨大な城…間違い無いわね。

しかし中に気配は感じない。消しているのか?

考えていても仕方ない、中へと進もう。

中へ入ると、大きな空間にいくつもの氷像が並べられており、その奥には上へと続く階段があった。

ご丁寧にシャンデリアや家具も氷で作られてある。

しかしこの氷像…妖精とやらにそっくりね。

私がそれに触れようとした瞬間、うるさい高笑いが城内に響いた。

「そこの君!困るね、僕のコレクションに触らないでくれたまえ!」

階段から一人の男が降りてくる。

派手な服に派手な武器、趣味の悪い奴ね。

だがこの男、気配が無かった…相当強い。こいつがブルーフとやらの部下かしら。

「誰よあんた」

「んん?君……美しい…!」

「は?」

「その髪、紅い瞳、美しい…だが残念な事に、私の芸術ではその色彩を再現出来ない」

「芸術…もしかしてこの氷像達は…」

「僕が殺した者達を氷を削って再現したんだ!どうかな?」

「悪趣味」

「そうかい…それは残念」

がっかりした素振りを見せると、一瞬でこちらへと飛んで来た。

派手に装飾されたナイフを右手に、私を切り裂こうと振りかぶってきた。

頭を狙ってきたナイフを紙一重かみひとえでかわし、私の目の前をナイフが通った。

「ひょおぅ!!」

奇妙な掛け声と共に、ナイフを振り回す。

言動はムカつくが実力は本物だ、動きに隙が無い。

だからといって黙って受けている私じゃない、ナイフを受け止めた。

「貰った!」

奴の腹に一撃くらわせようとしたその時、奴がふところに手を入れた。

「もう一本追加だ」

ふところからもう一本のナイフを取り出し、私のほおを切り裂いた。

「悪いね、僕は二刀流なんだ」

「ふん、それがなによ」

「一刀でも苦戦してたのに二刀に勝てる訳ないだろ?」

「誰が苦戦してたって?もう一度言ってみろや!」

ここまで言われたらもう黙ってられない、こっちも本気を出す。

足の一点だけに力を溜め、地面を蹴って一気に詰め寄る。

ふところに入った、そのまま足を振り上げる。

「早っ!」

奴は防ごうと、咄嗟とっさに腕を交差した。

だが既に遅い、私の本気のりは奴の腕ごとあごを粉砕した。

奴の身体は大きく吹き飛んだ。

「口ほどにもないわね」

私は勝利を確信した、しかし奴は立ち上がった。

あごを砕かれた為か何も喋らず、こちらをにらんでくる。

「まだやるつもり?」

私の問いかけに応じる様に、向こうの方からこちらへ突進してきた。

「望むところ!」

奴の動き合わせて、私も動いた。

真正面から来る奴の顔に、気合いを込めた拳を振りかざした。

見事に拳は当たった。しかし、奴は倒れなかった、それどころか私の腹に何かを刺した。

それは奴の腕の骨だった。

腕から突き破って出てきた腕の骨だった。

不意を突かれた、まずい!

完全に隙を突かれ、奴はもう一本の腕で私の心臓を貫こうとした。

骨が胸を貫いた。奴はそう思ったのか、笑みを浮かべた。

しかし骨が刺さる前に、私は手で心臓を守った。

なんとか奴の攻撃は防げた、一気にとどめをさす!

身体から強風を起こし、奴の身体を吹き飛ばした。

奴が大きく体制を崩したところを、ひざを狙ってりを放った。

ひざを着いた奴の顔をり上げ、宙に浮かんだところへ、力を込めた連撃を叩き込む。

『ショットバースト!』

炎をまとった足で放った無数のりは、奴の全身を焼いた。

黒焦くろこげになった奴は地面に倒れ、動かなくなった。

「ふぅ……勝てた」

これが殺し合い…何でもありって事か。正直甘く見てたな。

だがまだ終わっていない、早く次の戦いに…と思ったが、お腹空いたな。弁当を持って来ていてよかった。


「はぁ…はぁ…!」

先輩の後を追いかけ始めてどれぐらいの時間が経ったのだろう、お腹が空いてきた。

「大丈夫ですか?」

「お腹空いたよ〜!妖精さん、何か無い?」

「この辺の食物は氷の魔女のせいで駄目になってしまったので、食べれる物は何も無いです」

「そんなぁ〜…じゃあ雑草食べる」

「えっ?」

雑草おいしい。

それにしても先輩はどこまで行ったんだろう、こんな時に敵と遭遇そうぐうしたら……

そんな事を考えていたら、動物のうなり声が聞こえてきた。

「……なに今の」

声の聞こえた場所へ向かうと、巨大な獣がそこに居た。

白い毛並みに、鋭い牙に爪。

四足歩行で歩くその獣は、獅子ししの姿をした魔物のようだった。

「に…にげないと…!」

声を抑えながら、ゆっくりと後ずさる。

音は出さずにいたはずだが、魔物はにこっちに気が付いたのか、いきなりえた。

そして次の瞬間、こっちに向かって走り出した。

「逃げて!!」

妖精さんの言葉で、私は狭い森の中へ逃げ込む。

しかしあの魔物は、木々をぎ倒しながら進んで来る。

「どうしようどうしよう!!このままじゃ追いつかれる!」

恐怖で足が震えながらも、必死に策を考え始めた。

しかしあの魔物は、私が策を講じるより前に仕掛けてきた。

魔物の咆哮ほうこうが衝撃波となり、私の背中に突き刺さる様に当たった。

突然の痛みに声も出ず、地面を激しく転がった。

再び泣き出しそうになるも、ぐっとこらえた。

逃げようとすると、魔物が左手に噛み付いた。

痛みで叫びながらも、必死に魔法の詠唱をした。

「ぐうぅぅ!『マカルカル!』」

魔物に噛まれた左手から、炎の魔法を放った。

火球が魔物の口の長門で炸裂さくれつし、魔物は大ダメージを受けた。

左手を火傷していたが構ってられない。獣に向かって歩き、魔法を放った。

『マカルカル!マカルカル!マカルカル!』

何度も何度も火を浴びせ、魔物を追い詰めた。

しかし魔物は起き上がり、火だるまの状態で飛びかかってきた。

なんとかそれを紙一重かみひとえでかわし、再度魔法を放つ。

『マカルカル!ビランラ!』

片手には火、もう片方の手には風の魔法を。

火と風が合わさり、強大な炎となって魔物を燃やし尽くした。

「はぁ!はぁっ!勝った…!」

「ユリさん!早く怪我の治療をしないと!」

「へ…?……そうだった。でも不思議、あんまり痛くないや…」

「それ大丈夫ですか?死にそうなんじゃないですか?」

妖精さんが急いで傷を癒やしてくれたおかげで、大事にはいたらなかった。

「よし!この勢いで先輩の所まで行くぞー!!」

「あらあら、ひどいわねぇ…私のペットを殺すなんて」

「え?」

知らない声に振り向くと、私の前に二メートルはある魔物が立っていた。

全身が氷で出来ており、その冷たい手で私の顔に触れた。

体を動かそうにも、氷が私の体をむしばみ、視界が真っ黒になった。



















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