第40話 友達

学校へ行くと、あのゴミ共がこちらをにらんできた。

だが何かするわけでもなく、うらめしそうににらんでくるだけだった。

母さんの言った事が本当に行われたとしたら、あいつらもただでは済まなかったのだろう。

「おはようございます先輩!!」

またあいつか、朝から元気ね。

「昨日はありがとうございました先輩!よかったら荷物持ちますよ」

「必要ない」

「だったら肩を揉みましょうか?」

「別にってない」

「じゃあ…」

「ああ!もう!しつこい!何の真似!?」

「わ…私はただ、昨日の恩を返そうと…」

「別にいいわよ、お礼が欲しくてしたわけじゃないし」

「そうはいきません!恩を返さないなど、人としていけないと思います!!」

めんどくさいなぁ…悪い奴じゃないんだけど。

「わかったわよ、礼は受け取る。でも、今はまだその時じゃない、私が困った時に助けてちょうだい」

「そうですか…わかりました…」

あれ?急に元気が無くなった?まあいいか。

これでようやく解放されるかと思うと、こっそり後ろから付いてきている。

「なに?」

「あっ…いえ!なんでもないです!」

わからないわね、一体何がしたいんだか…

だけどうるさいのも収まったし、これで安心して学校生活を過ごせる。


昼休みになった。

今日は外で食べたい気分だったので、裏山へと向かった。

裏山は綺麗きれいな場所だけど、奥地にはくまなどの危険生物が居る。

結界が張られているから、動物達が学校には近づく事はないだろうけど。

おかげで綺麗きれいな裏山で、身の危険を感じる事なく食事にありつけるのはいいわね。

と…思っていたら、またあいつが来た。

「お腹空いたの?」

「!…いえいえそのような事は…」

しかしあいつの腹は正直だった。

「少しならいいわよ」

あいつの顔が明るくなり、嬉々ききとして駆け寄ってした。

「すみません、今日は草しか食べていなくて…」

「そういえば昨日がご飯食べられる日だって言ってたわね、そんなにまずしいの?」

「自慢じゃないですが、家に大きな穴が空いてますよ」

「そりゃ自慢にはならないでしょ」

薄々うすうす感じてたけど馬鹿なのかしら、でもここにいる以上最低限の知能はありそうなんだけどなぁ…

そんな事を真面目に考えていると、あいつはチラチラとこちらを見てくる。

「何か言いたい事でもあるの?」

「えっと…その…今のジョークはつまらなかったですか?」

「ジョーク?」

「はい!本に書いてあったんです、ジョークを笑い合える人が友達だって!」

まさか…こいつが貴族達に反抗しなかったのも、私に付いてくるのも、友達になりたいから?

だとしたらこいつ馬鹿ね。

「その本の事は忘れなさい。これからは、そんな本なんかに頼らず自分の考えで友達を作ってみなさい」

「ええ!?えっ、じゃあ友達になってくれませんか!?」

「……考えとくわ」

私は弁当を片付け、その場を後にした。


その日の帰り道、あいつの事がずっと頭に残っていた。

「友達か…私には無理ね」

あいつには悪いが、私は友達を作る様な資格が無い。

私が居なくても、あいつはちょっと変だけど根は良いやつだし、友達も出来るでしょう。

そうすれば、私に執着しゅうちゃくする事もなくなるだろうし。

よし決まり、明日申し出を断ったら近づかない様にしよう。

そうと決まれば、今日発売の“勇者伝説 宇宙からの侵略者”を買いにいくとしますか!


………あった!よしよし、早速帰って勇者様の勇姿を…

「あれ?先輩?買い物ですか」

なんでここに居るのよ。

「あっ!私、このお店でバイトしてるんですよ!」

よりによってここの本屋かぁ…

「その本…“勇者伝説”の最新巻ですね!先輩も好きなんですか?私は前巻の“破壊の子”が好きなんですよ!

人間達に利用され、神に祭り上げられた少女を救う展開!素晴らしいと思いません!?」

「わかる。でもあの話で一番いいのは遅れてやって来る勇者様よ!相棒の女神様に任せていても、いざ危なくなったら駆けつけてくれる勇者様と女神の関係がまたいいのよね!それから…!」

「先輩ってすごいファンなんですね!」

しまった!!つい語ってしまった……

「よかったらなんですけど先輩…今度一緒に本の感想を話し合いませんか?」

「なっ!?」

語りたい…!けど…これ以上ボロを出してしまったら…

「ダメに決まっているでしょう!!」

「えっ!?先輩!!」

私は必死に走り、一目散に家へと向かった。


次の日の朝、本を買いそびれた事に気づいた。

あいつがあの本屋で働いている以上、他の本屋に行くしかないな。

だが今日は休日なので、遠くの本屋に行っても時間に余裕はある。

というわけで早速さっそく出かけよう。


普段の本屋から離れ、王都の中心部にある本屋へとやって来た。

さてさて、肝心の本はと…売り切れてる!

嘘でしょ…いや!まだ他の本屋にあるはず!

今度は西の本屋へ。

「“勇者伝説”の最新刊?悪いね、売り切れちゃったよ」

…ならば北へ!

「“勇者伝説”?さっき売り切れたよ、人気だからね」

………東…

「無いよ」

クソが…ちくしょうが…!

こうなったら、近所で買うしかないか…

観念して近所の本屋へと来たが、やはりユリが仕事している。

………背に腹は変えられないし、さっさと買ってさっさと帰るとしよう。

「あっ、先輩!おはようございます!」

「あ…うん、おはよう」

「昨日はびっくりしましたよ、急に帰っちゃったので何事かと思いましたよ」

「別になんでもないわ。それより、“勇者伝説”の最新巻はあるかしら?」

「ああ、それでしたら昨日の夜のうちに売り切れたって店長が…」

「ちっくしょう!!」

こんなことがあるか!!

私の数少ない楽しみが…勇者様の栄光を見ることが出来ないなんて…!

いや……そうか、これも私にくだされたばつなのだろう、それならば甘んじて受けるべきか…

「待ってください先輩!実は私、最新巻買ったんですよ、なので一緒に見ませんか?」

「一緒に読ませてください!!」

もうプライドとかどうでもいい!とにかく読みたい!私は必死に頭を下げた。

「はい!もちろんです、先輩!」

だが、誰かと一緒に“勇者伝説”の本を読むのはビクビクする。興奮しすぎて変なところを見せないように気をつけなくちゃ…

「それじゃあ大変厚かましいんですが、先輩の家を教えてください!」

「えっ…?なんでうち?」

「だって…私の家は壁に穴空いてますよ」

「ジョークなんじゃないの?」

「大きな穴ではありませんが、中ぐらいの穴は空いてます」

どうしよう、家に連れて行きたくはない!でも、穴の空いた家だと声が外に漏れて周りにバレるかも…

「先輩、どうしました?」

「ん〜〜〜〜……いいわ、あんたの仕事が終わったら連れてってあげる…」

「やったぁ!ありがとうございます先輩!」

これも…“勇者伝説”を読むための犠牲…、甘んじて受けよう。


「すごい…ここが先輩の家ですか、大きいですね」

「そう?そうでもないと思うけど」

「大きいですよ!私の家と比べたら」

「穴の空いてる様な家と比べられても…」

玄関の扉を開けて中に入ると、母さんが出迎えてくれた。

「おかえり。ユリさんもこんにちは、今日は何の用?」

「こ…こんにちは!あの、今日は先輩にお呼ばれされまして。そうだ!よかったらどうぞ」

するとユリは、高そうな菓子折りを母さんに渡した。 

「ちょっと、いつの間に菓子折りなんか用意したの?というか、無理しなくていいのに」

「大丈夫です!こういう時の為に、菓子折りを買うお金は確保していますので!」

「それはそれで申し訳ないわ」

「そう、ありがとうねユリさん。今日はゆっくりしていってね」

「はい!ありがとうございます!」

正直、ユリの家の状況を聞くと、これを受け取るのは心苦しい。

「リーナ、こういうのは素直に受け取っておきなさい。そしてお礼も言いなさい」

「………わかった。ありがとうユリ」

「えへへ…!喜んでもらって嬉しいです!」

「お茶を用意するから、後で部屋に持っていくわね」

「うん、ありがと。ユリ、こっちよ」

私が先に二階へと上がり、後ろをユリが付いてくる。

「入って」

「失礼します…ここが先輩の部屋ですか!いい匂いがしますね!

それじゃあ早速、一緒に読みましょう!」

「…思ったんだけど、一緒に読むってどうやって?」

「ええと…先輩が声に出して読むとか?」

「……それしかなさそうね」

少々嫌だが、一刻も早く読む為だ。

私がベッドの上に座ると、リーナが恐る恐る隣に座ってきた。

私はリーナから本を受け取り、“勇者伝説”を読み始めた。


《勇者伝説 宇宙からの侵略者》

「地球の危機を何度も救ってきた勇者ラード。この日は、家で農作業に精を出していた。

そのそばには、金髪の美少女が。

その子はかつて敵として戦った、破壊の子セイラ。その子も今は、ラードの家族としてすっかり馴染み、農作業を手伝っていた。

「ラード!にんじんとれたよ!」

「おお、大きいのが取れたな」

ラードは優しく微笑み、セイラの頭を撫でた。 

「そういえば、弟はまだ帰ってこないの?」

「弟じゃなくて兄な」

「でも!私の方が長生きしてる!」

「心はガキだろ」

「ガキじゃない!!」

癇癪かんしゃくを起こし、畑の上で寝転がるセイラに、ラードはため息を吐く。

かつて邪神を倒した勇者でも、子育ては慣れないようだ。

「おっと…そろそろ学校が終わる時間だ。ラッドを迎えに行こう」

「ついでにお菓子買おう!」

「菓子は昨日買った」

ラッドを迎えに、二人は町へ出かけた。


「ねぇねぇラード、ラッド居た!」

セイラが指差した先に、ラードの子供ラッドが居た。

「あっ、お父さん!こっちこっち!!」

元気に手を振る子供の姿を見て、ラードの口元が緩んだ。

しかしそれもつかの間、ラードはけわしい顔で空を見た。

空はいつの間にか暗雲あううんが漂い、大きな渦を成している。

渦の中から現れたのは、巨大な飛行船。

飛行船には何千もの宇宙人が乗っており、武器を持っている。

その兵士達が、下に居る人々を一斉に襲い始めた。

町中まちじゅうの人々の悲鳴を聞き、ラードは飛行船へと飛んだ。

一度に何百もの宇宙人が、ラードを迎え撃つ。

「秘剣、ヘルフレイムカッター!」

炎をまとった斬撃が渦を作り、敵を切り刻む。

敵の陣を抜け、船はすぐ目の前にまでせまった。

「お父さん助けて!!」

下からのラッドの声で振り向くと、敵の宇宙人にラッドとセイラが捕まっていた。

「ラッド!!セイラ!!」

「ふははは!!貴様の子供は貰っていくぞ、いい細胞が取れそうだ!」

宇宙人はその場から一瞬で姿を消したかと思うと、飛行船に乗り込んでいた。

「船を出せ!」

船の周りにバリヤーが張られ、空高く飛んでいってしまった。

捕われた子供を助ける為に、勇者は遂に宇宙へと進出する。果たして勇者は、二人を救い宇宙人を倒す事が出来るのか!」


リーナは熱のこもった声で、プロローグを読み上げた。

「いきなりの急展開ですね…これからどうなるんでしょうかね?」

ユリがリーナに問うが、リーナは本に目を向けたまま、黙々と読み進めていった。

「ちょっと先輩!ずるいですよ、一緒に読みましょうよ!」

「へ?……ああ、ごめんごめん」

「先輩って意外と面白いですよね」

「以外?どういうこと?」

「えっと…先輩のお家って魔法の分野で有名じゃないですか、だから皆さんエリートで真面目な印象があったんですよね」

「………実際は、そうでもないわ」

エリートか…そうなのは母さんと姉さんだけだ。

「そうですね、だから最初は怖いイメージがあったんですけど、実際に話してみたら面白い人だなって思った訳です」

「そんなに面白いかしら?」

「面白いですよ、学校の人達にも知ってもらいたいくらいです!」

「それはやめて」

家での様子が知られれば、絶対に面倒くさくなる。

「えー!?先輩面白いのに…」

「くだらない事言ってないで、さっさと続き読みましょ」

「そうですね!読み終わったら一緒に感想言い合いましょうね!」

「それは…まぁいいけど…」

ユリの距離感には未だに慣れないけど、まぁ…面白いしいいか。


本を読み進め、時計の針が昼を指した時だった。

「あっ!すみません先輩、私この後仕事が入ってたんでした!」

「今から仕事?お昼ご飯は、食べないの?」

「今日は食べない日ですので」

「ふーん……ちょっと待ってなさい」

確か一階の冷蔵庫に……あった。

「これあげる」

「菓子パン?駄目ですよ、さっきあんなにお茶菓子ごちそうしてもらったのに!」

茶菓子?…本に夢中になってて気づかなかったけど、こいつもしかして全部食ったのか。

「いいわよ、仕事場で倒れたりなんかしたら面倒でしょ貰ってちょうだい」

「うぅ……それじゃあ、いただいていきます」

「あと、はいこれ、本。あんたが持っておきなさい」

「えっ?でもそれじゃあ、先輩が読めませんよ?」

「また家に来ていいから、その時一緒に読みましょ」

「………せんぱぁい!いいんですか!?」

「ただし今度茶菓子独り占めしたらはっ倒すから」

「ひぇっ!ごめんなさい…」

「冗談よ。仕事、頑張ってね」

「はい!!」

そうしてユリは、こちらを向き、手を振りながら走っていった。木にぶつかるまでは。









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