第42話 暴走する力

ユリの気配が消えた。

何かと戦っている気配を感じた後、敵の気配が消えた。

なのに今度は急にユリの気配が消えた。

とにかく急いで行かないと、無事でいなさいよ。


気配があった場所はひどく荒れた森だった。

おそらくここで戦闘があったんだろう。

「ユリ!返事しなさい!!」

呼びかけるも返事は無い。

荒れた森を進んで行くとひらけた場所に出た。

そこで私は目をうたがった。

ユリそっくりの氷像がそこに立っていたのだ。

「え…?うそ…」

「あら、来てくれて嬉しいわ」

上から声が聞こえた。顔を上げると、氷の体の女が宙に浮いていた。

「あんたが氷の魔女!?」

「そう、魔王軍幹部ブルーフよ。よろしく」

「ふざけんじゃないわよ!ユリを戻しなさい!」

「嫌よ。全員殺すつもりなんだから」

「さっさと戻せ!!」

その場から跳びかかろうとした。なのに私の足は動かない。

自分の足を見れば分かった。いつの間にかこおらされていた。

「悪いけど、まともに殺り合うつもりは無いわ」

こおった足からどんどん体がこおっていく。助けを呼ばないと……声が出ない!?のどこおってる。

「助けも呼ばせないし、これで魔法も使えないわね。大人しく死んでいきなさい」

氷が…全身に…意識が………

「だああああっ!!」

「燃えた!?」

危なかった……!普通の魔法使いだったら死んでた。

「なるほど…古い魔法の使い方ね。って事は、のどを潰しても無駄って訳か…」

するとブルーフはすかさず、指先から氷の弾を打ち出してきた。

真っ先に足をやられ、動けない所に連続して弾を撃ち込まれた。

やばい…このままじゃ私もユリも死ぬ。

「さようなら、おじょうちゃん」

やつが再び攻撃体制に入った。

私はボロボロの足で走り出し、ブルーフへ向かって行った。

すると足元の地面が大きく盛り上がり、私の動きをさえぎった。

地面は私達二人を飲み込み、どこかへと運んでいく。

しばらくすると動きが止まり、地上へと出された。

「間に合って良かった…」

花の精霊フランシスがそこに居た。

「さっきのは貴女が?」

「ええ…厳しい状況の様でしたので、ここまで運び出させていただきました」

「……そうだ!ユリが氷漬けに!」

「分かっています。既に、妖精達に解凍を頼んでいます」

氷漬けとなったユリの周りに多くの妖精が集まり、暖かな光を浴びせている。

とりあえずは大丈夫……かな?

「貴女の怪我も今治します」

フランシスに頭を触られると、体に空いた穴がふさがっていく。

「ありがとう、これでまた戦える」

「お待ちなさい。あなたは行ってはなりません」

「………どういう事?」

「予想以上に敵は強い。現に、あなたも簡単に負けてしまった……」

「私はまだ負けてない!!」

私がその場を立ち去ろうとすると、地面が私の足をつかんで離さなかった。

「これ以上貴女方に負担をかける訳にはいきません、ユリを連れて元の世界へとお帰りなさい」

「それを決めるのは私よ!あんたじゃない!」

足に絡みつく土を引きがし、ブルーフの元へと向かう。

「お待ちなさい!!………仕方ない。妖精達よ、力を私に分けてください」

「もしやフランシス様、直接戦うおつもりですか!」

「不利なのは分かっていますが、あの子を放ってはいられません。ユリさんの治療が済み次第、私も行きます」


「ブルーフ!!私と戦いなさい!!」

気配を追って、再びブルーフとあいまみえた。

「あら、逃げたんじゃないの?」

「誰が逃げるか!さっきの続きを始めるわよ!」

「大人しく逃げておけばいいものを」

「その薄ら笑いがいつまで続くかしらね!」

奴への対策は考えている。氷でこおらされるのなら、全身を炎で包めばいい。

血液と共に体を流れる魔力を、炎の力へと変えた。

「へぇ、すごいわね。でも知ってるのよ、その魔法の使い方じゃ身体にもダメージがいくから、同時に魔力でバリアを貼ってるんでしょ?」

「だとしたら?」

「すぐに体力が無くなるんじゃないの?」

「その前にあんたをぶっ殺してやるわよ!」

空に浮いている奴に目掛めがけて、炎を放った。

やつは氷の力でそれを押し返そうとした。

でも私の炎にそんな小細工は通じない。奴の氷を溶かした。

「さすがにこの火力はまずいわね…」

「どうした、怖気おじけづいたか!」

奴の後ろを取り、こぶしを振りかざす。

「おっと」

奴はこぶしをかわしたが、私は足で宙をり、空を移動しながら再びやつの後ろの取った。

「くらえ!!」

それでもやつは簡単にかわした。

「あらあら?どうしたの、当ててみなさい」

やつは私から一気に距離を取った。

「なっ、待てっ!」

その動きは速く、私が空を進むよりも速い速度で飛んでいた。

「はあっ…はぁっ…!」

まずい…このままじゃ魔力が切れる…

「もうスタミナ切れ?案外早かったわね」

急にこっちへ引き返す動きを見せた。

ここがチャンス。私の間合いに入った瞬間、フルパワーの一撃をくらわせてやる。

右腕に全部の力を溜めて……奴が間合いに入った今だ!

「くたばれ!!」

「……だと思った」

あいつは急に動きを止めた。そのせいで攻撃が空振からぶった。

「今度こそ終わりね。バ〜イ」

ちくしょう…!こっちの考えなんて全部見透かされていた。

もう一度攻めようにも、いつの間にか私の体がこおり始めている。

………まだ死ねない。

私の体が勝手に動き、頭に手を置いていた。

それは、死にたくないという感情から起こった本能による動きだろう。

ごめんなさいお姉ちゃん……こんな所じゃ、まだ死ねないの!

残った魔力で脳のリミッターを無理矢理外した。

その瞬間、体中からだじゅうに激痛が走る。

頭の中が爆発でもしたかの様に震え、全身の血が沸騰ふっとうしたかの様に体が熱い。

「ぐあああっ!!ああっ!!」

「!?………何?」

「………あ、アヒャヒャ…」

こらえろ…こらえて…!制御さえすれば、せいぎょ……すれ…ば………


「ユリさん!ユリさん!目を覚ましてください!」

近くで妖精さんの声が聞こえる。

何がどうなって……思い出せないな…

「妖精さん…?」

「良かった、目を覚ましましたか」

重いまぶたを上げ、妖精さんを見上げた。

妖精さんの背後には、黒雲で埋め尽くされた空が見えた。

「何、この雲は!?」

「それが……!」

妖精さんは何か知っているそうだけど、話しそうにない。

「先輩の所へ行ってみる!」

「駄目です、行かないでください!」

やっぱり先輩が何かしたんだ。でもいったい、何がどうなって……

「あれは!」

空に、浮いている人が居た。

一人はブルーフだ、私をこおらせたやつ。もう一人の人に追い詰められている。

もう一人の方は先輩かと思ったが、白い髪ではなく赤い髪だったため違うと思った。

それになにより……

「アッヒャヒャヒャア!!」

先輩はあんな怖くないし、こんな奇妙な声は上げない。

「ユリさん、体はもう大丈夫ですか?」

「フランシスさん!あの…先輩は?」

「……今、空に浮いているあの赤毛の人がそうです」

「えっ……!?」

「信じられないかもしれませんが、うそではありません。何故ああなったのかは私にも分かりませんが、早くリーナさんを止めなければ」

「……いや、でも勝ってますよ。むしろ倒してもらった方が」

「あのまま放置しておくと死にます」

「死…!?あの、私はどうしたらいいでしょう?」

「ここは私がなんとかします。貴女は下がって、避難ひなんしてください」

フランシスさんは、先輩達の元へ向かって飛んで行った。

どうしよう……私、このままじっとしていて大丈夫なのかな。

「グギャギャアー!!」

先輩の声だ。なんかさっきより苦しそう。

「死にぞこないが!」

氷の波が先輩に襲いかかった。

だが先輩は止まることなく、氷の波に突っ込んで行った。

ただの体当たりで氷が崩れ落ち、先輩がブルーフの目の前まで迫った。

ブルーフの両腕をつかみ、足で胴体を踏みつけた。

ブルーフの体は耐えきれず、腕が引きちぎられた。

地面へと落ちていくブルーフに、先輩は炎の玉を放った。

溶けていくブルーフを見て、先輩は高らかに笑った。

怖かった、でも同時に期待があった。敵が居なくなった今、先輩も元の姿に戻るんじゃないかと。

でも違った、先輩はこちらへと目を付けた。

宙をり、真っ直ぐに私に向かって飛んできた。

「先輩、元に戻ってください!!」

危険だと分かっていても、私は逃げずに先輩に呼びかける。

それでも先輩は元に戻ってくれない。

「下がってユリさん!」

フランシスさんが私の前に出た。

両手を地面に置き、回復魔法を唱えると、大きな木の根っこが地面を突き破って出てきた。

根っこはタコの足の様にうねうね動き、先輩を捕まえた。

それでも先輩は不気味に笑い、体に巻き付いた根っこを軽々と引きちぎった。

フランシスさんは更に魔法をとなえる。

引きちぎられた根っこをすぐさま再生し、再び先輩を捕まえた。

さらに根っこで巨大な玉を作り、先輩を閉じ込めた。

何重にも木の根っこを重ねて作られた玉は、先輩の攻撃にも耐えていた。

「ギャアオォォ!!」

先輩の叫び声と共に、ドゴンと大きな音が鳴る。

木の玉が激しく揺れ続け、今にも壊れそうだった。

「どうするんですかフランシスさん!」

「………」

フランシスさんにもどうしようもなかった、私も何も思いつかない。

とうとう先輩が木の玉をやぶって出てきた。

獣の様な咆哮ほうこうを上げ、こっちをにらみつける。

「来ます!」

だけど先輩がこっちへ来る直前、巨大な氷像が先輩の背後に現れた。

その氷像には見覚えがあった、魔王軍幹部ブルーフにそっくりだった。

「私が簡単に死ぬと思うな!!」

その巨体からは信じられないスピードで、先輩を空から叩き落とした。

だけど先輩はすぐに復活した。

氷像の頭の位置まで跳び上がり、ただのパンチで頭を粉々にした。

氷像はすぐに再生を始め、先輩に再び攻撃を仕掛ける。

先輩が圧倒的に勝ってる様に見えた、でも先輩の体から大量の血が吹き出していた。

「このままじゃ先輩が…」

先輩を止めて、ブルーフも倒さなきゃならない。でもどうやって?

「ユリさん、私に作戦があります」

「作戦?」

「おそらくリーナさんは今、脳に何らかの異常が起きている状態です。それを、私の力なら何とか直せるはずです」

「本当ですか!」

「ただし魔力を溜める時間が必要です。ですので溜めている間、リーナさんとブルーフに狙われないよう時間稼ぎをしていただけませんか?」

「やります!先輩を元に戻してくれるのなら!」

「では…どうか死なない様に」

「はい!」

その直後激しい地鳴りがした。

ブルーフの氷像が地面に倒されたんだ。

という事は、先輩は今フリー。

「アハハハハハ!!」

「こっちに向かってきます!」

「ここは私が止めますので、フランシスさん!」

「ええ、お願いします!」

今の先輩に聞くか分からないけど、引き付けるにはこれしかない!

「先輩のお姉さんのデベソ!!変態!!シスコン!!」

「えっ?」

どうだ!?

先輩の動きがピタリと止まり、私をにらんだ。

「グギャアギャギャ!!」

「効いた!よし逃げる!」

先輩が私を追って来た、できるだけ時間を稼がないと。

「……あれで効くんだ」


「ひゃあぁぁぁ!!」

現在森の中で先輩に追いかけられ、恐怖と疲労で足がすくむ。

「あと何秒稼げばいいんですかフランシスさーん!」

「ユリさん、せめてあと二分はえてください」

一緒についてきた妖精さんの言葉を聞いて絶望した。

「もうダメ、追いつかれる!!」

「ギャギャギャッア!!」

鬼の形相の先輩がすぐそこに迫ってる、私は頭がこんがらがってその場にしゃがみこんでしまった。

すると先輩は、勢い良く私の上を通り過ぎていった。

「やった、ラッキー!」

と言っていたら、木をった反動でこちらへ帰ってきた。

先輩は私の上に乗りかかり、さっき見たあのパンチを放ってくる。

『ビランラ!』

とっさにとなえた風の魔法で先輩の体制を崩し、攻撃の軌道きどうをそらした。

その結果、代わりに地面が砕けた。

がけだったこの場所は崩れ、私と先輩が下へと落ちていく。

でも先輩は宙をって自由に移動し始めた。

「ズルい!」

先輩は再び私にこぶしを振り下ろす。

「妖精さん、私の背中に風の魔法を!」

「わかりました!」

そばに居た妖精さんが私の背中に風の魔法陣を作り出す。

『ビランラ!』

風の魔法を受け、私の体は先輩へと向かって押し上げられた。

先輩が攻撃をする前に密着する事ができ、先輩ごと下へと落ちていく。

落ちた先は大きな木の上だった。

葉っぱで多少は勢いが減るけど、ぶつかって背中が痛い。

でも今は先輩から手を放す訳にはいかない。私は必死に先輩にしがみついた。

「ガアアアアアッ!!」

「先輩!大人しくしてください!!」

あと何分かかる?お願い、急いで。

そんな事を考えると、敵がそれを邪魔してくる。

私達の真上にブルーフが覆いかぶさってきた。

「見つけたぞ、二人まとめて死ねぇ!」

その巨体で私達を押しつぶそうと手を伸ばす。

絶体絶命の時に、仰向あおむけになっていた先輩が口からビームを吐いた。

氷像は再び砕かれ、氷の破片が降り注いだ。

「みんな!今のうちだよ!」

今度は空から妖精さん達がやって来た。

沢山の妖精さんが手を取って繋がり、一つの輪になった。

「フランシス様〜!準備出来ましたよ〜!」

妖精さんが合図を出すと、突然妖精さん達が光った。

光は徐々に強くなり、私達はまばゆい光につつまれた。

眩しくて目も開けられなかったが、少しすると光が弱くなり、ようやく目を開ける事が出来た。

すると、あれだけ暴れていた先輩が大人しくなっていた。おとなしすぎて怖いくらい。

「大丈夫ですか先輩!」

「………う…」

先輩は目を開け、私を見た。

「私はまた……しくじったのね……」

「意識があったんですか?」

「少しだけ………ごめんなさい…」

「謝らないでくださいよ!先輩だってブルーフを倒す為にやったんですよね、だったら何も文句は無いです!」

「………………本当にごめんなさい」

しおらしい先輩はめずらしいな…

「二人とも、ブルーフがまた来ますよ!」

小賢こざかしいゴミ共が!さっさとくたばれ!!」

「ぎゃあああ!巨大な腕が降ってくる!!」

「私が…!」

先輩が立ち上がろうとしたが、その場でこけた。

「くそっ…まだダメージが」

「危ない!」

咄嗟とっさのところを、大きな木の根が攻撃を防いだ。

「元に戻れたようですね、リーナさん」

「……その……ごめんなさい」

「元はといえば私が不甲斐ふがいないばかりに、貴女に危険な力を使わせてしまった。申し訳ありません」

「そんな…私が…」

「今はそれを気にするよりも、ブルーフを倒してしまわなくては。ですが今の私に力は残っていないので、お二人に任せもよろしいでしょうか?」

「もちろんです!先輩は?」

「もちろん…迷惑かけた分、しっかり返させてもらいます」

「それでこそ先輩です!」

「ユリ、手を貸して。フランシスさん、木で私達を上へお願いします」

「わかりました」

すごい…もうすでに作戦とか決まっているんだ、先輩はすごいなぁ…

「ユリ、準備はいいわね」

「もっちろんです!ぶちかましてやりましょう!」

「では、上へ送ります。お気をつけて」

私と先輩はフランシスさんが操る木の根に乗り、ブルーフの上へと目指した。








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