第38話 炎の傷

すべてを燃やしつくさんと、燃え広がる紅き炎。

ひとみの中にはそれだけが映っていた。

「リーナ」

名前を呼ばれて振り返る。

「…返してくれリーナ。私からうばったものを」

人の形をした炎が、リーナに手を伸ばす。

「うわぁぁぁ!!」

ベッドの上からリーナがね起きた。

大きな叫び声に、そばに居たアクスも思わず椅子いすから飛び退しさった。

「大丈夫か!?」

リーナはアクスの言葉に気づかず、自身の頭をぐしゃぐしゃにきむしった。

「痛っ!」

腕から肉の切れる音が鳴り、リーナがたまらず押さえる。

「バカ!まだ完治してないんだぞ!」

回復魔法ですぐさま治し、リーナを横にさせようとした。

しかしリーナは、アクスの手を払いけ、ベッドから飛び出した。

「………悪いけど、これ以上ここには居られない」

「何でだ」

「何でもなにも……あんたの怪我けが、私がやったんでしょ?」

アクスの両腕には、びっしりと包帯が巻かれていた。

「ああ、これは別にお前のせいじゃ…」

「嘘言わないで!自分がしたってことぐらいわかるわよ!」

するとその場で、リーナは泣き始めた。

「どうして責めないの…全部私が悪いのに。怒ってよ…うらんでよ……!」

「?……とにかくベッドに戻れ、な?」

腕を引っ張ってベッドに戻そうとするも、リーナは断固として動かない。

やむをず、抱きかかえてベッドに戻した。

泣き続けるリーナをなんとかなだめ、話をし始めた。

「えっとだな…この腕は溶けちゃったから新しく作ってもらったんだよ。包帯を付けてるのはまだ新しい腕が馴染なじんでないからだ」

「…………他に怪我けがは?」

「他は全部治してもらったぞ」

「……爪痕つめあとみたいなものは?」

「爪?いや、無いぞ」

「はぁぁぁ……よかった…」

長いため息をどっと吐き出し、ベッドに顔をせた。

「…いや、それでもあんたとはもう一緒に居られないわね…」

「だから!何だってんだよ!?無事だったからいいだろ?」

「……だから、どうしてうらまないのよ…」

理解しがたいリーナの言動に、アクスは必死に頭を使った。

「あっ!もしかして…お前の姉ちゃんの傷もお前が付けたのか?」

そのいに、リーナは長いを置き、話し始めた。

「ええそうよ、私が十歳のころに付けた傷。今回の様に私が暴走してね」

「やっぱそうだったのか…暴走ってのは何だ?」

「…人間は普段、本来の力を一割も出してないと言われていて、私は脳に魔力を送ってそのちからのリミッター外す事を可能にしたの。

結果、膨大ぼうだいな力を制御する事は出来ず、暴走した訳よ」

「へぇ〜、じゃあ爪痕つめあとってのは?」

「私の魔力が爪に宿やどり、猛毒もうどくの様に人体を傷つけてしまう。だから姉さんは眼帯がんたいに封印の魔法をほどこしてそれを抑えているの。理解できた?」

「……イマイチわかんないな」

「まぁ…説明はもういいでしょ?私はもう行くわ。もし謝礼が欲しかったら言ってくれれば……」

「馬鹿野郎!」

アクスはリーナのほおに、平手打ちをかました。

「わかんないやつだな、大丈夫だって言ってんだから気にすんな!」

リーナは痛むほおを押さえながら、震えた声で言葉を出す。

「…でも、私は下手したらあんたも姉さんと同じ様に…一生残るかもしれない傷を…」

「俺はサリアと一緒に旅に出たときから死ぬ覚悟すら出来てんだ、傷ぐらいなんだってんだ!」

「でも…でも…」

いまだに震えるリーナに、アクスはかがんで視線を合わせた。

「リーナが、冒険者になった理由ってなんだ?」

「……姉さんの傷を治す方法を探すため…」

「だったら誰かと一緒に居たほうが色々楽だろ?だから一緒に居ろ」

アクスは傷ついたリーナの手を優しく握りしめた。

「次はああならないよう、俺も強くなるから。だから無理しないでくれ」

らしくもない言動に、リーナはくすりと笑った。

「………そう、わかったわ。あんたがそこまで言うのなら…もう何も言わない……」

アクスの言葉にすっかり諦めさせられ、リーナは全身の力を抜いて、アクスの胸にもたれかかった。

「ごめんね………」

謝罪をべると、リーナはそのまま眠りについた。


魔王城にて、大幹部ダバンの敗北が知らされた。

「…という事でございます魔王様」

報告を受けた魔王の側近である大神官、名をラーチという。

彼は機嫌の悪そうに、手にしていた書物を破り捨てた。

「……もういい、下がれ」

「は…はい!」

配下の魔物はおびえながら立ち去っていった。

「あの小僧共め…!まさかここまでとは…!」

自身の顔をきむしり、血が出ても指を止めなかった。

「憎き勇者の末裔まつえいめが…!そろそろめる頃合ころあいのようだな」

きむしる手を止め、テレパシーでとある魔物に連絡を取った。

「聞こえるかオンミゴ。……貴様の能力で、ある冒険者共を殺せ」

『ある冒険者とは…?』

「こいつらだ」

テレパシーを用いて、トーチの頭にあるイメージを送った。

『!…わかりました。このオンミゴ、必ずやげてみせます…』

次なる刺客しかくが、アクス達に襲いかかる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る