第37話 紅い悪魔

紅い悪魔。

魔王軍がリーナに付けた異名いみょう

体から吹きでる血で体はれ、綺麗きれいな銀髪が真っ赤に染まった。

その姿を見て、魔王軍は名づけたのだろう。

それをの当たりにしたダバンは、即座にその場から飛び去った。

背中から発する魔力を使い、一気に距離を取る。

それを地面から眺めていたリーナは、姿勢を低くすると、手と足で地面に強い衝撃を与えた。

その反動でリーナの体は宙を飛び、一瞬でダバンに追いついた。

リーナが視界に入った瞬間に、ダバンの体は地面へと叩き落とされた。

勢いは地面深くまで続き、地面を突き破る音が大きく鳴り響いた。

そこへリーナは、長く続く穴に向かってエネルギー波を放った。

エネルギーは巨大な光の柱となり、空高くまでそびえ立った。

やがて光の柱が消えると、リーナは穴の中を覗き込んだ。

顔を覗かせた瞬間、ダバンが勢いよく飛び出した。

奇襲を狙ったのだろうが、リーナさ後ろにって避けた。

ダバンはそのまま空に留まり、リーナに怒りを向けた。

「よくもやってくれたな…!この俺を怒らせた事を後悔するといい!!」

背中に力を込めると、背中が変形し始めた。

肉が盛り上がり、そこに出来た穴から大量の魔力が溢れ出した。

魔力の噴射によってスピードを上げ、超高速で空を飛び回った。

飛んだ跡には噴き出した魔力の輝きが残り、リーナはそれを嬉々とした顔で眺めていた。

そちらに目を向けている最中に、ダバンは自慢の鋭い爪でリーナの顔に切りかかった。

金属に切りかかった時の様な重い音が鳴った。

ダバンは自分の爪を見ると、たったの一撃で割れていた。

攻撃を受けたリーナは傷一つ負っておらず、攻撃を受けた所を痒そうにかいていた。

「なっ!?なんだと…!!」

リーナの態度に、そして異様な頑丈がんじょうさに腹を立て、ダバンは爪に力を込めた。

「これならどうだぁ!!」

爪を赤く染め、再び飛びかかった。

真正面から向かったダバンは、腕を振りかぶるが、爪が届く前に正面から殴り飛ばされた。

地面に叩きつけられ、地面を跳ねながら飛ばされていく。

大きく跳ね上がったところを、リーナが空へ向かって大きくり上げた。

ダバンの体はあっという間に雲を抜けた。

それを追ってリーナも雲を抜け、ダバンの尻尾をつかんだ。

つかんだ尻尾を振り回しながら、地面へと落ちていく。

地面がすぐ近くにまで迫った時、リーナはダバンを地面に向かって投げ下ろした。

その衝撃で地面は砕け、大きなくぼみが出来た。

リーナの手は止まらず、動かなくなったダバンを何度も何度も殴った。

拳が体を貫通し、手を引き抜く度に血が飛び出す。

やがて満足したのか、リーナは勝利宣言をするかのように叫んだ。

「アッーハッハ!!アヒャヒャヒャ!!」

恐怖の笑い声が辺りに広がった。


サリア達も異変に気づいた。

本来ならばサリア達は感じ取れない力を、リーナが暴走した瞬間に感じ取ることが出来たのだ。

「なっ…なんなの!この異常なパワーは!」

「魔王軍に決まってますよ!こんな邪悪なパワーは!!」

「いや…これは…!まさか先輩が!」

ユリだけが、この異変の正体がリーナであると結論付けた。

するとその場から突如とつじょ走り出した。

「ユリさん!そっちは危険ですよ!」

ヘルガンが追いかけようとするも、さきほどの地面の揺れが影響し、地面が崩れ始めた。

「あっ!待ってユリ!!」

そんな中でもユリは走った。

崩れる地面の上を全速力で走り抜けた。


リーナとダバンの戦いが終わり、少しの時間が過ぎたころにアクスが目を覚ました。

体中の痛みにもだえながらも、立ち上がった。

周りを見ると、炎が燃え広がり、元の地形が跡形あとかたも無く消えていた。

「なんだこれ…リーナがやったのか?」

遠い所にリーナの気配を感じ取り、その強大な力と辺りの惨状を結びつけた。

さらに周りを調べると、くぼんだ地面の中心にダバンの死骸しがいを見つけた。

体中に拳程の穴が何個も空いており、グチャグチャの状態で形が崩れていた。

リーナの行動を不可解に思いながらも、アクスはリーナの気配のする方へ向かって行った。

炎に囲まれた道を歩き続け、アクスの目に人影が映った。

「リーナ!無事だった…か…」

体に強い衝撃を受け、体が宙に浮かんだ。

地面を強く転がりながら、アクスは痛みに苦しんだ。

勢いが落ち、アクスは何とか止まることが出来た。痛みで意識を失いかけるが、朦朧もうろうとしながらも辺りを見回した。

ぼんやりと映る視界には、腕らしき物が見えた。

アクスはそれに気づくと、左腕の感覚がないことにも気づいた。

目の前に落ちている腕は、まぎれもなく自分の腕だと気づいたのだ。

たまらず叫び、痛みでその場にうずくまった。

立って逃げようとするも体は動かず、地面をってその場から離れようとした。

しかし、アクスの前に何者かが立ちふさがった。

アクスが顔を上げると、リーナの異様な姿があった。

「リーナ…だよな…?」

問いかけに無視し、リーナは落ちていたアクスの左腕を拾い上げた。

理解出来ない行動に、アクスは釘付けになった。

次の行動。見て、アクスの体全体に怖気おぞけが走った。

なんとリーナは、アクスの腕から流れ出る血を飲み、こぼれた血をも手で拭って舐めた。

アクスは初めての感覚に襲われた。

人や動物、魔物とは違う、正真本命の化け物と対峙たいじし、体が震え上がった。

やがてリーナが血を飲み終えると、腕を放り投げてアクスに近づいた。

せまりくるリーナに恐怖し、アクスは直視することもままならない。

しかし、まだ諦めてはいなかった。

ゆっくりと呼吸を整え、噴き出す汗を拭い取った。

やがて目の前にまでリーナがせまると、大声で恐怖をごまかし、アクスが渾身の蹴りを放った。

りは見事に、腕に命中した。

鋭いりだった。だがびくともしなかった。

アクスは足を引っ込め、顔の真ん中にこぶしを放った。

振り抜こうとするも、リーナの体はびくとも動かなかった。

攻撃はまるで効かず、アクスは再び恐怖のドン底に落とされた。

震える腕をつかまれ、リーナの元へ手繰たぐり寄せられると、腹に穴が空くほどの重たい一撃をくらった。

アクスは防ぐ事すら出来なかった。

森をなぎ倒し、岩山を貫通し、はるか彼方かなたへとふっ飛ばされた。

やがて止まると、アクスは奇妙な笑みを見せていた。

「……まいったなぁ…つよすぎるぜ…」

その笑みは、諦めの笑いだったのだろう。

あまりの強さにとうとう音を上げ、目を閉じて眠りにつこうとした時だった。

体中に激痛が走り、口から黒い血が吹き出した。

痛みで目を覚ますと、口から溢れる血を地面に吐き捨てた。

黒龍こくりゅう死骸しがいに近づいた時と同じ様子だった。

「がはっ…!なんで…また…!」

運の悪い事に、吹き飛ばされた場所が黒龍こくりゅうの場所に近かったのだ。

その場から離れようと立ち上がるも、追い付いてきたリーナに、さらに蹴り飛ばされた。

さらに黒龍の近くへと吹き飛ばされ、症状は悪化していった。

腰から尻尾がえ始め、アクスの体が変化していく。

しかしそれは、アクスにとって好都合だった。

月で変身した時と同じ様に、アクスの力は普段よりも何倍にも伸びていた。

アクスは口から血をこぼしながら、正面からリーナに向かっていった。

鋭いこぶしがリーナを吹き飛ばし、リーナが地面を転がる。

続け様に、下から大きく蹴り上げた。

雲に穴を開け、雲の上まで飛んでいった。

リーナを追ってアクスが跳び上がり、こぶしを振り下ろす。

だがリーナが黙って攻撃を受けるはずがなく、こぶしが当たる寸前に、リーナは足でアクスの腕を挟んだ。

二人は身動きの取れぬまま、地面へと落ちた。

地面に激突するも、二人は取っ組み合ったまま地面に転がった。

リーナがアクスの上に馬乗りになり、顔面を殴り続ける。

顔をかばおうと、アクスが腕を顔の前に構えた。すると、リーナの手がアクスの左肩へと伸び、肩の関節を無理やり外した。

片腕が使い物にならなくなり、防御が薄くなった所で、リーナが渾身の一撃を叩きつけた。

放ったこぶしの衝撃がアクスの体を突き抜け、地面が大きく割れた。

顔は血にまみれ、ぴくりとも動かなくなったアクス。

倒れたアクスに、リーナが嬉々とした笑みを浮かべ、とどめをさすためにこぶしを放った。

こぶしが当たる寸前で、アクスが目を覚ました。

目の前にまで迫っていたこぶし間一髪かんいっぱつでかわし、リーナの腕をつかんだ。さらには氷で、動きを封じた。

動きを止めた所を、長い尻尾で殴り飛ばした。

長い尻尾から繰り出された一撃をまともにくらい、痛みで気でも狂ったのか、リーナは恐ろしい悲鳴を上げた。

「キィィヤァァァァ!!!」

後ろへ大きく跳び、勢いを付けてアクスに向かってまっすぐ走ってきた。

アクスは激しい痛みを感じながらも、リーナを止めるために、こぶしに最後の力を込めた。

地面をり、リーナに真っ向から勝負を仕掛けた。

二人は同時にこぶしを振りかぶり、互いに全力を出した。

しかし、二人の拳がぶつかる寸前すんぜん、アクスの右腕に亀裂が走った。

異常な速度で血が巡り、血管が大きく浮き出た。

やがて亀裂が右腕全体に広がり、アクスの右腕ははじけ飛んだ。

それをの当たりにしたアクスの顔から、一気に血の気が引いていくのがわかる。

右腕は使い物にならなくなり、左腕は肩の関節を外され、まともに動かせない。

そのため、リーナの拳をまともにくらう事になった。

無情にも、リーナの一撃が胸をつらぬいた。

胸の傷から血があふれ出し、アクスは行動不能のダメージを受けていた。それでも、アクスは決してひざを突かなかった。

「はぁ…!はぁ…!………先輩!!!」

激しく息を切らしながら、ユリが現れた。

声に反応し、リーナが次の標的にと、ユリをにらみ付ける。

アクスの胸から腕を抜こうとするが、アクスが決して離さなかった。

「今だぁ!!俺ごとやれぇー!!」

さらにアクスは尻尾でリーナを押さえ込み、逃げられないように抑え込んだ。

「はい!いきますよ!!」

『ノムクス!』『ミイラーゼ!』

闇と光、二つの魔法を唱えると、両手からそれぞれ別の魔法陣が現れた。

その二つの魔法陣を一つにし、両手をアクス達に向かって突き出した。

『ノムラーゼ!!』

白い光と黒い光が混ざり合い、一つの魔法として放たれた。

魔法が二人の身体をおおい尽くし、さらには遠くの山をも吹き飛ばしたり

光が収まると、ユリが二人の元へ駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

「…だいじょう…ぶ…げぼっ!!」

アクスは全身から血が流れ、血で汚れていた。

「…リーナは…?」

「先輩は気絶しています。ですけど急いで運ばないと!」

「サリアを……げほっ!……呼んで…」

「サリアさんですね?わかりました!」

ユリは急いで走り出した。

すると、山の瓦礫がれきの中から光が現れた。

その光の中から、一筋ひとすじの光がユリの顔の前まで迫った。

咄嗟とっさに、アクスがユリを地面へと押し倒した。

光は二人の上を通り過ぎ、大きな爆発を起こした。

「助かりました〜〜!!」

「礼はいいから!リーナを連れて逃げろ早く!!」

リーナをユリにたくし、アクスは二人をかばうように瓦礫がれきの前に立った。

「その怪我けがでまだ動けるのか…とんだ化け物だな」

瓦礫がれきの中から、倒れたはずのダバンが現れた。

「なんで生きてやがる!お前はリーナにやられたはずじゃ!?」

「あれか、あれは抜け殻だよ。咄嗟とっさに脱皮をして、攻撃から逃れたんだ」

あまりの事実に、アクスは言葉を失った。

「さて…だいぶダメージを受けたが、貴様らを倒すぐらい訳はないぞ」

その言葉を聞いてアクスが構えるも、次の瞬間大きく吹き飛ばされた。

もはや動きを追うことも出来ないほどに弱ったアクスに、勝ち目は無い。

それでもなお、ダバンはアクスを痛め続けた。


「うっ…」

「先輩!起きたんですね!!」

「ここは…?」

肩にかつがれたリーナが、辺りを見回す。

「痛っ!」

「動かないでください!怪我けがが酷いですから!」

「そうか…私は結局…」

自分の身体を見て、何かを察して黙ってしまった。

「アクスは…アクスはどこ?」

「アクスさんは…!大幹部と戦ってます…」

「なっ!今すぐ戻って!!」

「駄目ですよ!これ以上動いたら死にますよ!!」

まともに身体も動かせない中、リーナは弱りきった手でユリの肩を思いっきりつかんだ。

「………お願い!!手を貸して!」

「!!……先輩」

ユリは足を止め、アクスの元へと戻っていった。


一人残ったアクスは、とうに限界を超えてもなお、立っていた。

「そのしぶとさだけはめてやろう。しかし、それももううんざりだ」

ダバンは空へと飛び立ち、指先から巨大な炎の玉を作り出した。

「さぁどうする?けてもいいが、けたら貴様らの仲間が居るとりでまでこの玉は飛んでいくぞ!」

「くっ…!」

玉はさらに大きさを増すと、アクス目掛めがけて落ちてきた。

片腕を失った状態で、アクスは炎の玉を受け止めようとした。

手で押したほんの一瞬、炎の玉の動きが鈍くなるも、すぐに押されていった。

「……まだっ…!まだだぁ!!」

残った力を振り絞り、押し返そうとするも、アクスの体に異変が起きた。

あまりの熱量に、体が溶け始めた。

残っていた腕は溶けて無くなり、完全に止める手立てだてを失った。

体全体を押し付けて止めようとするが、徐々に溶けていくのが目に見えた。

「………ちくしょう…!!」

「アクス!そのまま抑えてて!!」

背後からの声にアクスが振り向くと、リーナがユリに背負われながら向かって来ていた。

「ユリ!」

「はい!先輩に、私の力を!」

ユリは自身の魔力をリーナに渡し、その力を受け取ったリーナが最後一撃を放とうとしていた。

人差し指の先、その一点に力を集中させていく。

指の先には様々な色の光がまとい、それが一つとなった。

炎の玉の先に居る、ダバンに向かって指を向けた。

『パニッシャー・アロー!!』

指先から放たれた光は、炎の玉を突き抜け、ダバンの心臓を貫いた。

それだけにとどまらず、一筋の光は空高くまで進み、空を覆う暗雲を吹き飛ばした。

心臓を貫かれたダバンは、胸に空いた穴から徐々にちりへと変化していき、最後はちりすら残さず消滅した。

「はぁっ!はぁっ!げほっ!げほっ!」

戦いが終わった途端に、リーナが血反吐ちへどを吐いた。

「リーナ!大丈夫…か……」

駆け寄ろうとしたアクスも、気を失ってしまった。

「ああっ!先輩しっかり!アクスさんもしっかりしてください!」

一人無事なユリだが、重症の二人を前に叫ぶ事しか出来なかった。

「アクスー!!リーナー!!ユリー!!」

慌ただしい声に振り返ると、サリアとヘルガンが走って来ていた。

「サリアさん大変ですぅ!!先輩が血を吐いて、アクスさんが溶けていますぅ!!」

「溶けてるってなに…って!本当に溶けてる!」

「早く治療しましょう!」

その後三人は、急いでとりでへと二人を連れ帰り、治療に一日をついやす事となった。

















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