4、明智秀頼は復讐される
俺は自室の鏡の前に立っていた。
自分の私服とズボンを合わせながら、ダサくないかとおしゃれなのを気にする。
普段家に引き込もっている時はおしゃれよりも機能性を大事にしていて、絵美から『まともな服はないの?』と煽られることがたまにあるので出掛ける時はきちんと身だしなみを確認するようにしている。
その結果、デートで着ていく私服の8割以上は絵美のセンスに寄っていってしまい、俺の服のセンスも自然と絵美と似たものになっていた。
おしゃれ=絵美先生であるとはいえ、彼女に頼り過ぎるのもそれは良くないとも思う。
たまには絵美のセンスじゃない服装で、彼女をドキッとさせたいなんて企みもある。
あの俺にだけ生意気な娘をたまにはわからせてやりたい。
「……こんな服でいっか」
散々絵美の名前を出していたが、今日は彼女との約束ではない。
絵美は理沙と円の3人でなんか約束があるとかで遊びに行っているようだ。
付き合っている彼女同士で仲良しなのは嬉しいが、自分の愚痴や悪口も言い合っているかもと思うとあまりその内容を尋ねることに躊躇する。
俺はいつまで本命を1人に絞れないままなのか、たまに胸が痛くなる。
俺は全員を幸せにしたい。
なにか方法はないのか。
それ以前に、俺はもう生き残る未来は閉ざされているといのに。
そんなことを考えていると、刻一刻と時間が過ぎていく。
「時間か……」
そろそろ家を出る時間になり、スマホの時計を見る。
『出掛けるのか坊や?』
「あぁ」
暇そうに俺が普段寝ているベッドでだらぁと伸びていた我が家の猫が尋ねてくる。
俺が返答すると、身体をストレッチさせるように背中を伸ばしはじめた。
『じゃあオレも猫らしく散歩されようかな』
「誰が家からお前を出すか!」
『なんだと!?ふざけんなアケチヒデヨリィィィ!』
「ふざけているのはお前の存在だよ。散歩するのは犬だよ」
『猫は散歩に連れ歩かないのか?』
「猫のぬいぐるみにリード付けて近所を歩くわけないだろ。不審者だよ」
せめて猫そのものなら……。
ダメだ、猫を抱いて外に出るおばちゃんは見たことあるがリードを付けた猫は見たことない。
やっぱり誰もしないみたいだ。
『猫はリードも着けず散歩するみたいだな。ならオレも猫らしく気ままに独り散歩にしゃれこもう』
「絶対ダメ。家から出ちゃダメだよ」
『オレが車からはねられたりする事故などを心配してくれている!流石ご主人様だぁ!』
「お前、逃げる気満々じゃん」
『くそぉ……、監禁ご主人様ぁぁぁ……』
サンドラが絶望したように崩れ落ちる。
テンションがラノベでざまあされたチンピラみたいなリアクションでちょっと笑ってしまいそうになる。
「逃げたら居場所ないのわかってんのか?行ってくるぞ」
『行ってらっしゃい……。お土産キボンヌ……』
「アイスで良いなら。てか、ぬいぐるみってアイス食べるの?」
『大丈夫だよ、アイス好きだし』
お土産アイスでサンドラの機嫌を取りながら外に出掛けていく。
今日の用事はデートである。
「…………」
……最近デートが多いような気がする。
客観的に見た自分を思い返すと、彼女で出掛けていることが多い。
ちょっとだけ、リア充みたいで気恥ずかしくなり、少し顔が熱くなる……。
こんなことを考える顔を見られたくないので、やっぱりサンドラを置いてきて正解である。
そのまま駅に直行し、電車に乗り込む。
数分の移動で待ち合わせよりも10分ほど早く待ち合わせ場所の駅にたどり着く。
まだ待ち人来ず。
「一応連絡入れとくか」
待ち合わせをしている彼女に連絡を入れておく。
そのままスマホを弄りながら時間を潰そうとした時であった。
「探したぜぇ、そこの茶髪?」
「え?」
俺を指したような悪意ある声に反応して顔を向ける。
そこに知らない3人組の男がいた。
…………誰?
知らない人であり、またスマホに戻った。
「ちょ、待てよ!なんでスマホ見てんだよ茶髪男!?」
「え?誰?」
「てめえとの因縁のある相手だ。過去の因縁を断ち切る復讐者といったところだ」
「この地を支配する最強自警団とは俺らのことよ!」
「いや、それより誰?」
新章のタイトルになっている過去からの復讐者面してるけど誰なんだ?
知らない顔ぶれ過ぎて、彼らの会話が頭に入ってこない。
「忘れたのか?俺たちと接戦のダイス合戦をしたあの時を」
「ダイス合戦……。……あー、あのイカサマ野郎!」
「イカサマ野郎じゃねぇ!ハイテク野郎だっ!」
「物は言い様だな……」
「半殺しにして、その姿をインスタであげちょる」
「コワッ……」
みんなをナンパしにきていたDQN3人組である。
わざわざ因縁を付けにやってきたようだ。
「俺たちはお前に復讐を誓った。それで気付いたんだ、わざわざダイス合戦をしなくても3人でリアルファイトに持ち込んだら、と……」
「それで山奥に籠って」
「打倒お前を掲げて鍛えてきたってもんよ」
「恥ずかしくないの?……まぁ、正当防衛ってことなら相手になるけど……」
駅前で人通りが多いので、人目が少ないところを顎で指す。
「わかってんじゃねぇか」と何故かノリノリである。
「あと、山奥程度でイキるなよ。せめて、文明のない無人島で生き延びてからかかってきなよ」
─────
「明智さーん!」
「おはよう、三島」
「ごめんなさい……、服が決められなくて遅れちゃいました……」
「5分ぐらい気にしねーよ」
ちょうど良かったし……。
路地裏で殴りかかってきた自称最強自警団を名乗る3人を返り討ちにしてきて、写メ撮って、彼らのインスタに自分たちが地面に倒れている画像を『正当防衛されて負けた!』と加工してアップロードして尊厳を破壊しておいた。
中の人的にはまだまだ足りないみたいであったが、彼の限度はないので俺の限度に留めておく。
「……ちょっと息切れしてます?それに疲れてるような……」
「着慣れない服で走ったからね。俺も電車乗り遅れそうになって走ったんだよ。ギリギリまで服に悩んでた」
「ボクと同じですね!」
こうして、三島遥香とのデートが始まるまでに面倒ごとに巻き込まれまくった朝であった……。
†
Q.
このDQNら誰やねん?
A.
第18章砕かれた正義
56、津軽和の信頼
この辺りに出てきた3人組である。
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