3、上松ゆりかの親友……?

我は上松ゆりかである。

血液型はO型。

家族は誰1人もいなくて、天涯孤独という谷川咲夜曰く『ギャルゲーの主人公みたい』と言われた経歴の持ち主である。

ちょっとだけスリムで、大きい胸が密かな自慢である。

なんかよくわからんが、氷柱を生成しそれを射出するギフトが使えるごく普通の一般人である。


「上松さんすごーいっ!徒競走、クラスで1番早いんじょない!?」

「男子より凄いよ!」

「どうも」


クラスメートの女子から体育上がりにきゃあきゃあと囃し立てられる。

運動神経が抜群だと褒めてくれるが、これは生きるために必須だったものであり特に欲しくて磨いた身体能力ではないのだ。

どうも、我は体育になると目立ち、勉強になると凡才であるので周りからは体育会系の人物と見られているようだ。


「ナンパに困ってた木村さんを投げ飛ばして助けたこともあるんでしょ!?」

「そんなこともあったかもしれんな」

「すごーい!」

「やっぱり作ろうか!上松ゆりか親衛隊!」

「我より強いなら親衛隊あっても良いんじゃないか?」

「詰んだ!」


どうも我は男子人気はさっぱりらしく、宮村永遠から『ゆりかは女子にモテるタイプでしょ』と指摘されてから自分を客観的に見ると確かに女子からの人気が高いようだ。


「5組の明智君とか誘ってみる?」

「上松さんとどっち強いかな?」

「ヒルさんも強いって聞いたことあるよ」

「無理に親衛隊を作る必要もないと思うが……」


そもそも明智に足も及ばない我が彼を親衛隊のためにわざわざ巻き込むのは気が引ける。


「てか明智君は去年上松さんと同じクラスじゃん!仲良い!?」

「まぁ」

「秀ゆり!なんか絵に書いたような長身カップル!目の保養!」

「いや、幻覚で目の保養するなよ!上松さんも固まってるじゃん!」

「…………」


秀ゆり……?

よくわからんが良い響きである。

あと、目の前の木村たちには教えていないのに何故か我と師匠がカップルなのがバレていたようだ。


「明智君が彼女持ちだったらショックだし、上松さんが彼氏持ちならもっとショック!」

「でも何故か見たい秀ゆり!」

「はぁ……」

「そういえば去年同じクラスで、部活同じでしょ?しゃべる?」

「そりゃあ、喋るが……」

「きゃああ!ある!あるよこれ!」

「あり寄りのあり!」

「あり?」


バレてないのか?

よくわからん……。

周りの女子3人が我の席の周りから離脱していく。

ようやく解放されて、疲れたと息を吐いた。

ギフトアカデミーに入るまでロクに人と接することを避けてきて、絵美やヨルたちよりも深い仲ではないので距離感が未だ掴めない。

西軍は心地よいグループだが、それ故に1人で行動する積極性を失いそうで依存には気を付けたいとたまに冷静になる。


『こんにちはー、ゆりかちゃぁん?お元気ですかぁ?』

「……げ」


と、落ち着きを取り戻した我の席に聞き飽きた上から目線を叩き付ける目線と声に気付きげんなりする。


「なんだ麻衣……?」

「そんな露骨に嫌わないでよゆりかちゃぁん?アタシたちクラスメートで友達じゃない!」

「クラスメートしか合ってないが……」

「ギフト狩りから足洗ってからつめたーい」

「こんな教室で堂々とギフト狩りなんて単語出さないでくれ……」


元ギフト狩りということで接点だけはある岬麻衣がうざ絡みしてくる。

このメスガ……、ギャルは地が強すぎて苦手である。

他のクラスメートたちの前よりは素で要られるので嫌いではないが、それはそれとして苦手な部類だ。

口数が少ない我にとって、勝手にベラベラ喋る彼女とは相性が悪い。

それでいて勝手にベラベラ喋る師匠よりも性格が悪いので、喋る相手とは相性が良いはずなのにそれを一切感じさせない勢いがある。


「なんだ急に?」

「アタシにだけ冷たくない?麻衣様って呼んでも良いわよ?」

「だから呼ばないと……。麻衣様なんて呼ぶ奴いるのか?」

「アタシの親友にいるわよ」

「そんな馬鹿な奴がいるのか……」

「馬鹿じゃない!親友よ!親友を馬鹿にしないで!?」

「あ、すまん……」


麻衣の変な地雷を踏んでしまったらしい……。


「んーっ、もう!そんなに冷たくすることなくない!親友でしょ、アタシたち!」

「本気じゃないだろ……。絶対我のこと下に見て見下してるだろ……」

「えー、そんなことないよぉ」


うさんくさい演技がかった態度である。

瀧口先生曰く狂犬だの頭からっぽなどと陰口を叩かれるのもよくわかるメスガ……、ギャルである。


「にしてもぉ、ゆりかちゃん彼氏いるのぉ?」

「…………一応」

「えー、関ぃ!?」

「全然違う!」


甚だ不本意な誤解である。

我には明智という彼氏がいるのである。


「良いか!我の彼氏は強くて格好良いのだ!素敵過ぎて麻衣だって惚れるぞ!」

「えー?本当ぉ?」

「あぁ!我の彼氏は宇宙で1番格好良いぞ!」

「あぁ、はいはい。盲目になったねぇ、ゆりかちゃん……」

「残念そうな目を向けるな」

「バイバイ、ゆりかちゃん。今度宇宙で1番格好良くてアタシも惚れる彼氏紹介してね!ぷっ……」

「笑うな!」


これまでで1番麻衣に馬鹿にされた瞬間であった。







─────







「そんなわけで師匠には宇宙で1番格好良い男になってもらいたい」

「いきなり何を言ってんだ残念忍者?」

「残念忍者とはなにか!最近我は忍者姿を明智に見せてないじゃないか!」

「俺に見せてないってあの忍者姿にはなってるのかよ!?」

「…………はい」

「図星かい」


急にゆりかから愚痴が始まり、宇宙で1番格好良い男になれという無茶振りで着地して困惑する。

また、付き合っている彼女の中で咲夜の次に友人関係が不安な相手なので、一応そこそこ友達がいるみたいで安心する。

ゆりかからはあまりそういった対人関係がわかる話を聞かないから、ボッチじゃないとわかって杞憂だった。


「でも、聞いてる感じそのギャルの子と仲良さそうじゃん」

「は?」

「そんなキレんなよ……」


有無を言わせない食い付き気味の威嚇に萎縮する。

ゆりかの俊敏さに一瞬心臓がびくっと高く鳴る。


「ただ、宇宙一の自慢な彼氏だと!あの女にだけはギャフンと言わせたい!あの女に師匠は最強で格好良いと認めさせたい!」

「はじめてゆりかからそういう承認欲求を聞いたよ。あるんだな、承認欲求」

「クラスメートの言葉を使うならあり寄りのありだ」

「あり?」


普段ゆりかが言わなそうな言葉が飛び出されるとこんなこと言うのかというギャップがある。

あの女が誰かは知らないが、間違いなくゆりかとあの女は親友なんだと思う。

じゃないとこんなに張り合わないよ……。


「てかあの女って誰?俺の知り合い?」

「明智の知り合いならあの女を闇討ちしてる」

「怖いな……、初期のゆりか顔してるじゃん……」

「初期の我顔ってなに!?」

「シリアス顔的な意味……」

「そもそもシリアスなエピソードで我の出番が無いじゃないか……」

「そもそもシリアスするような性格でもないでしょ」


ゆりかからあの女という謎の女の話を聞きながら、なんとなく麻衣様とゆりかって相性が良いような気がするなぁと思う今日この頃であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る