2、明智秀頼はオタクに優しい

「はい、コーヒーお待ち」

「ありがとうございます!」

「どうもっす」


マスターからコーヒーを受け取りながら変な常連客を冷めた目で見ていた。

相変わらず変で濃い客の多い喫茶店である。


「うっ……、苦いよ秀頼ちゃん……!」

「慣れてないのにブラックはダメだよ……。エスプレッソは味整えないと」

「ミドリは……、コーヒー本来の味を楽しみたかった……!」

「刺身に醤油とか付けないタイプ?」

「減塩醤油を付けます!」

「じゃあいらないじゃんそのこだわり」

「味整えて……」

「しょうがないなぁ……」


ミルクや砂糖を使い、俺が甘いのを飲みたい時に作る時の適量を入れていく。

個人的にはスティックシュガー丸1本は甘すぎるので、半分ちょい程度を調整するようにかき混ぜる。

慣れた手付きに、ミドリちゃんは「慣れてる!」と興奮している。


「はい、完成」

「わーい!ありがとう秀頼ちゃん!あ、全然違う!美味しいです!」

「そっか。良かった良かった」


俺とマスターはミドリちゃんの反応にほっこりする。

可愛い子が動いているだけで、とても人生の癒しになる。


「モテたい……!モテたいっす、マスター……」


一方、幸せな気分になっている左側ではメガネの常連客の悲しい嘆きが聞こえてくる。

ミドリちゃんの癒しと相殺された気分である。


「千春君……。モテたいなら、モテモテオの恋愛指南書男の磨き方編がオススメだよ」

「あんなヤリヤリのヤ●●●インフルエンサーのことなんか信じられるか!俺はヤ●●●が世界で1番嫌いなんだ!」

「秀頼君。恋愛指南書の18ページを読んであげて」

「『男は女と会話する際は目を見て話す!』……すげぇ、流石モテモテオだ!」

「言葉の重みが違うね。おっちゃんに刺さるなぁ……」


マスターが本の言葉を祈るように噛み締める。

俺もモテるのにこんなテクニックがあるのかと目から鱗である。


「ぐっ……、確かに俺は人の目を見て話すのが苦手だ……。よく長女の妹に『なんで目反らすの?』と注意を受ける」

「合ってんじゃん!自覚あるじゃん!モテモテオのモテテクすげぇじゃん!」

「くっ!なんで俺は知らん年下の学生からタメ口されているんだっ!」

「まあまあ。この喫茶店と同じカウンターに並んだら同士みたいなもんっすよ」

「この店はバーかなんかか?」

「ウチはお酒の提供はしてないよ。バーみたいな距離感の人しか来ないだけ」


「ミドリの知ってる喫茶店と違う……」と、ミドリちゃんが隣で呟いていた。


「まぁ、でも秀頼君も彼女持ちだし千春君の恋愛アドバイスには地味にもってこいだよ」

「恋愛アドバイスを出来るほど恋愛経験をした記憶はないんだが……」

「彼、謙遜の塊だから聞かなくていいよ」

「マスターは誇大広告の塊だから聞き流してください」

「俺にどっちを信じろと……?」


常連客の千春さんは矛盾を突き付けられて圧倒されている。


「でもモテモテオの言葉があると自分もモテモテオになった気分になるな」

「ただの虎の威を借る狐ではないのか?この学生は本当に恋愛アドバイスが出来るのか?」

「でも千春君にもわかって欲しい。その狐になりたくなる魔力がモテモテオにはあるんだ」

「それな」

「呪いの書物かなんかか?」


俺とマスターは子供のように童心に戻った気分で女にモテることについて真面目に語り合っていた。


「これ凄いな。『女性と歩く際は歩幅を合わせる』『車道側を男が走る』だってよ」

「細かい気遣いが出来る男は違うね」

「秀頼ちゃん、ソレ普段から出来てない?秀頼ちゃんいつも歩幅合わせてくれるし、さっきも車道側を歩いてくれてたよね?」

「え?嘘!?」

「なんだよお前、無自覚紳士かよぉ」

「変なアダナを付けるなよ。マスターだからってそれが許されると思うなよ」


でも無自覚にモテモテオと同じ行動が出来ていたと思うとなんか嬉しい……。

もう内容もほとんど覚えてないが、来栖さんに片思いしていた時に読みまくった恋愛ノウハウの本が活きているかもしれない。


「俺にはそもそも女性と一緒に歩く機会がないんだが……」

「それはアレっすよ。男だからとか女だからみたいな壁無くすと良いっすよ」

「そんなこと出来るのか?」

「んー……。やっぱり目を見て話すに回帰するんすよ。モテモテオみたいに形から入るっす。あとは常に大人の余裕みたいなのを持っておく感じじゃないですかね?」

「秀頼君が大人の余裕を持っているなんて初耳だし、そんな自覚してる?」

「してるよ!?多分!?」


これでも俺は同年代より人生経験が2倍ほど経験したアドバンテージがある。

俺はそれにより、同年代よりクールな人物として演じている。


(クール、ねぇ……)


中の人がボソッとなんか呟いた。

失礼なモノだと思ったので、あえて深入りしなかった。


「大人の余裕か……。ふっ、出来てる?」

「そんな鼻で笑って冷静キャラクター演じているだけでは大人の余裕なんか生まれないですよ」

「ダメか?」

「ダメですよ」


千春さんはドラマとかに出てきそうな俳優を意識しているだろうが、普通にそんなのではなにも変わらない。


「千春さん、地は良いと思うんだけどなぁ……。メガネ外してコンタクトにしないですか?あとはちょっと黒髪染めて印象変えると良くないですか?夏休みデビューしましょ!」

「なっっっ!?目にレンズを入れる真似をしろと!?髪を染めろだと!?君はコンタクトか!?その茶髪も染めたのか!?」

「いえ、裸眼と地毛です」

「ちくしょぉぉぉ!我が家は地味家系なのか!」

「君の妹たち全員可愛いじゃないか。家系じゃなくて千春君が地味なんだよ」

「マスターまで!?」


俺も前世の高校時代。

剣道のため、コンタクトレンズを入れて試合をしていた。

メガネの豊臣少年は「オタクメガネ」として、クラスの底辺扱いをされた中学時代がある。

オタクメガネな俺は、周りもオタクメガネで固めた思い出もある。

あれはあれで楽しいものである。


「千春さんがコンタクトにするなら今度眼科に付き合いますか?すぐ慣れますよ」

「知った口を!」

「知ってます。たまにカラコン入れるので」

「コンタクト童貞を卒業しているだとぉ!?…………オタクが憧れる神そのものか……?」

「なんすかオタクが憧れる神そのものって?きっしょいなぁ……」


「秀頼ちゃん、カラコン入れるの?」とミドリちゃんから尋ねられて頷く。

たまにデートの際、服に合わせてカラコンを入れたりしている。


「君みたいなオタクが憧れる神が妹の旦那になれば良いのにと強く思うよ。将来、妹の旦那がクズで俺が舐められたらと思うと死にたくなる」

「なんの心配してんすか?コンタクトを目に入れたことないのに病気のこと気にして行動しない奴と一緒じゃないですか」

「君のことを神と呼んでも良いだろうか?」

「さんざん呼んでるじゃないですか。あと、神は重いのでNGで」


変なアダナがまた増えそうになるのを防ぐ。

変な常連客である千春さんと知り合いになった……。


「秀頼ちゃんって女ならオタクに優しいギャルだよね……」

「え?マジ……?」


大学院の人脈は意外にもはじめてであった。











秀頼が秀頼を演じている際は少し大人っぽいことに気を付けています。

光秀になると口が悪くなるのは見た目通りの年相応になるので素が出る。

ちなみに周りから誰1人秀頼がクールだとは思われていません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る