第22章 過去からの復讐者

1、ミドリは遊びたい

「秀頼ちゃん!もうちょっと!もうちょっとだよっ!」

「ぐぐぐぐ……!俺はイカサマは得意だがこういうゲームはあんまり得意じゃないんだ……」

「それ誇れまるの!?」

「あっ!?いけるいける」


今日は学校帰りに彼女とのデートである。

島咲葵の妹であるミドリちゃんと共にゲーセンに遊びに来ていて、その流れからUFOキャッチャーでハラハラスリリングな体験をしていた。

7枚の100円玉が吸い込まれ、8枚目の投入。

ゲームオーバーまで残り2枚の状況。

そこで良い感じに掴んだぬいぐるみがようやく出口に吸い込まれていく。


「きたぁぁぁぁ!」

「秀頼ちゃん凄いっ!」


ミドリちゃんにせがまれるまま、最近SNSで流行っているクマのぬいぐるみがようやく手元にやってきた。


「はい、あげる」

「ありがとう!秀頼ちゃん!」

「うん」


茂から語られた未来について、思うところはあるが気にしたって仕方ない。

もう、死ぬまでの間自分の好きなことをする程度しかもう俺には選択肢がない。

だから俺が死ぬ前に、彼女たちといっぱい絡んで楽しかった記憶で埋まって死にたいとそんな欲が出てきた。

茂の宣告から俺の人生はもう余生と変わらない認識だった。

前世含めて35歳前後。

ちょっと短いけど、そんなもんなのかもね……。


ぬいぐるみを手に持って喜ぶミドリちゃんが可愛くて、俺の虚しさに幸せのピースがはまっていくのを強く感じる。

やや大きめのビニール袋をもらいながら、用は済みそのままゲーセンから帰るという流れになる。


「久し振りの登場なのに、出番が少ないよ……」と、ミドリちゃんはやや不満げである。

普段、島咲さんが身体を動かしているのでガチで俺も彼女と会うのが久し振りだったりする。


「秀頼ちゃんとミドリは彦星と織姫だね」

「年に1回以上は会ってるけど……」

「あ!七夕って秀頼ちゃんの誕生日!」

「そういうの知ってんだ……」


そんな雑談をしながら時間が過ぎていく。

そう思っているとミドリちゃんが「よし!」と声を上げる。


「あの喫茶店に行きたい!」

「え?喫茶店?」

「だって久し振りに出たんだもん、もうちょっと遊びたいよ!このまま別れたら次いつ出れるかわかんないもん!お姉ちゃんも全然出てないじゃん!」

「わ、わかったわかった……!ミドリちゃんは久し振りだもんな!あと、島咲さんとは毎日会ってるよ!?」

「嘘だぁぁぁ!いつもポッと出てすぐいなくなってるもん!」


ミドリちゃんには何が見えているのか。

島咲さんともいつもガッツリ部活で遊んだりしゃべったりして、みんなでさよならしているのに……。

むしろ悠久先生とか達裄さんとかの方が会う頻度が少ないはずである。


「いこっ!いこっ!」

「う、うん!」


グイグイとミドリちゃんに引っ張られる。

しかし、行き慣れていないため違う方向に向かおうとしていたので「喫茶店はあっちだよ」と彼女の方角を修正させる。

ミドリちゃんの提案でデートコースがお馴染みの『サンクチュアリ』になった。

その道すがら『もっと出番が欲しい!』という悲しい呟きであった。

ある意味島咲葵ルートの明智秀頼のことで姉妹間が拗れるルートと近くなっているような気がする……。

が、別に姉とは仲良しであるらしい。

1つの身体に2つの精神って大変な体質だな……。

生活も色々と苦労しそうである。


(お前、俺のこと忘れてるだろ?)


あ……。

俺も、島咲姉妹とだいぶ同じ特殊な体質だった。


そんな嫌なことに気付いた道中が終わり、もはや第2の実家ぐらいに見慣れた喫茶店にやって来た。


「どうして急にここに来たがったの?」

「コーヒー飲んでみたい!ミドリも大人になる!」

「そんな……。大人になるなんて悲しいこと言うなよ……」

「ミドリにずっと子供のままになれと!?」


みんなが成長していて悲しいなぁ……。

大人になりたいという青春が、俺にはとても眩しい。

「入るよ」とミドリちゃんに引っ張られながら喫茶店へと入店する。

中に入ると「いらっしゃい」という聞き慣れたマスターの声が店に響き渡る。


「おや?君は?」

「お久し振りです!島咲葵の妹のミドリです!」

「こんにちは」


マスターが咲夜よりも背の低い女の子に余所行きの顔で優しく接している。

まったく俺には見せたことのない胡散臭い笑顔にうわぁと見てはいけないものを見た気持ちになる。


「いきなり早々嫌そうな顔だな、君!?」

「お久し振りです……。細川星子の兄の秀頼です……」

「今更君の自己紹介されてもなぁ……」


いつも通りのマスターである。

よく知っている人の余所行きの顔はやっぱり面白い。


「今日はミドリちゃんがコーヒー飲みたいんだってよ」

「へぇ、コーヒーに挑戦するんだ」

「はい!ミドリが死ぬ前にインスタントコーヒー飲んだ時は不味かったので嫌いだったのですが、大人になるに連れてそれの払拭にきました!」

「ごめん、笑顔で生前トークされても笑えないよ……」

「僕、死ぬ前は剣道好きでした」

「君も笑えないから!」

「秀頼ちゃんも死んだことあるの!?」

「前世なんてものがあるなら死んだからここにいるんだよ」

「へー!」


マスターにしか通じないブラックジョークである。

何気に俺とミドリちゃんで死んだことがあるという共通点に仲間意識が強く芽生えてしまう。


「コーヒー嫌いな女の子にコーヒーを提供する。これ、マスターの腕の見せどころじゃん!」

「確かに!僕のコーヒー熱心な心を燃やすねぇ!」


マスターを焚き付けながら、この店の本が仕舞ってある棚を見る。

クロスワードに週刊誌のマンガ、有名どころのマンガ、ガジェット系雑誌といつ来てもラインナップは同じである。

めぼしい本はないかと思っていると、1冊だけ真新しい本があり手に取る。


「こ、これは……!?今話題の恋愛系インフルエンサーであるモテモテオの恋愛指南書男の磨き方編!?」

「モテモテオの新章突入だと言うからね。僕も興味あってつい読んじゃったよ」

「つい見ちゃうよな、モテモテオ……」


30代男性を中心に動画サイトやSNSで話題のモテ過ぎる恋愛インフルエンサーのモテモテオ。

男も女も憧れるモテテクはまさにこのジャパンを動かしている。

こういう類いのものに一切興味はないが、モテモテオだけは特別なんだよな。

最近サンドラにギャルゲーを奪われがちなので、今までギャルゲーをしていた時間でモテモテオのコンテンツに触れていた。


「モテモテオ……?誰ですかそれ……?」

「ミドリちゃん知らないの!?モテモテオが街中を歩く度に人が集まるんだよ!?」

「普段はお姉ちゃんの中にいるので知りませんよ。……あ、お姉ちゃんも知らないみたいです」

「そっか……」


モテモテオの本を持ちながら席に戻る。

70年童貞男子に恋愛指南して30分で童貞を卒業させたコンサル企画の動画、面白すぎて3回は観たもんな。


「なんか見ちゃうよな、モテモテオ」

「僕はバイト先の接客で女の子100人に連絡先聞いたら98人がライン交換してくれた回好きだよ」

「ミドリちゃんにネタバレすんなよー。企画的には『100人に連絡先聞いた』がネタなんだから内容バレは死刑だろ」

「別に見る機会もないのでガンガンネタバレしても良いよ?」


スタチャやリーチャほどプライベートは気にならんが、新しい動画があがったらつい見ちゃう魔力が秘められている。

まさかマスターもモテモテオのファンとは知らなんだ。

そんなトークを繰り広げていると、近くの席からバンっ!と机を叩く音がする。


「ふんっ。くだらないね……、モテモテオだかなんだから知らんが彼女5人いるを公言しているインフルエンサーなど極刑に値する」


たまに見かけるが名前も知らない常連客がモテモテオのアンチらしく、俺とマスターのトークを遮るように現れる。

この店の客、よく知らん人も声を掛けてきてマスターみたいな奴ばっかりである。


「誰?」

「あぁ、彼は今年から大学院に通ってる常連客の千春君だよ。兄妹で通ってくれているんだ」

「あぁ、そう……」


知らん常連客の知らん情報を渡されても、5分もすれば忘れてしまいそうである。


「因みに妹さん、サーヤの友達だよ」

「マジで!?サーヤの友達はどんな人!?どんな妹さんなのっ!?」

「ウチの店の常連客で5本の指に入る美人な子。ちょっと残念なとこあるけど……」

「なんだよ、そのめちゃくちゃ紹介してもらいたくなるハイレベルな常連客……!サーヤの奴、そんなレベル高い子と友達なのかよ……!」

「食い付き方が露骨に違うなぁ……」


机を叩き威嚇されたと勘違いしたミドリちゃんが怯えている。

なんだよ、このメガネという気持ちで彼を強く警戒する。












今回より、新章突入します!

今章はクズゲスをやるに辺り、連載前から決めていたシナリオでもあるので原点回帰みたいなお話になります。

今見てもなんで描いたのかよくわからないハーフデッドゲーム編など脱線しちゃったなぁとたまに思います。

モテモテオに合わせて新章の区切りにしてます(※強い要望がなければモテモテオは本編に出ません。出せと言われても困ります)。


過去からの復讐者編、はじまります。

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