101、サンドラが殺しにくる

──死ぬ未来は回避出来なかったか……。


やっぱりなぁ、そんな気はしてたんだよなぁ……。

絵美と自宅前で別れてから、よりそんなネガティブな思考が強くなってくる。


これまでただバカになって遊んでいたわけではない。


(お前のプライベート9割バカやってるだけじゃねぇか!)


修正と試行錯誤を色々と実践してきた。

そこで俺はある共通点を見付けていた。


確かに未来はある程度は変えられることはこれまでのことでわかる。

宮村永遠の両親の死亡、佐々木絵美の奴隷化などフラグを踏まなければ回避出来る系の事象。


逆に変えられない展開がこれまであったのも事実。

十文字タケルをはじめとしたギフト所持者はギフトアカデミーに通う、細川星子がスターチャイルドとなりアイドルとして人気になる、ヨル・ヒルが未来を変えるために過去を飛んでくる。

おそらく原作の舞台の核となるところはどうやっても変えることが出来ないのだ。


明智秀頼の死亡はおそらく後者。

原作の核となっているらしい。


「…………」


正直もう俺の死が確定事項ならもう必死になって原作の明智秀頼の死亡フラグ回避なんて面倒なことをすることもなくただ黙って時間の流れに身を任せても良いのかもしれない。

別にファイナルシーズン以降のヒロインを見殺しにしたって……。

したって…………。


「…………」


ヨルを見殺しにするのもなぁ……。

メスガキなアリアにも情みたいなものもあるちゃある……。

そもそもアリアってどんなシナリオだっけ?

凄くギャルゲーみたいな物語だった気がする(当社比)。


なんだろ……。

酷い孤独感がある……。


(俺がいる時点で孤独でもなんでもねぇだろうが)


……なんでこんな悪霊もどきに取り憑かれているのだろうか?

センチメンタルを茶々入れてぶっ壊してくる存在に頭を悩ませながら自宅の階段を登っていく。

ごちゃごちゃごちゃごちゃと俺の思考と中の人の弄りが脳内に広がりカオス状態である。


「はぁ……、来栖さぁん……」


弱音を吐きながら部屋のドアを開ける。

来栖さん、もとい円にだけでもその弱さを吐露したいという気持ちが膨らんでいた時だった。


『あへっ!来たなアケチヒデヨリ!殺人フライングボディアタァァァァク!』

「……」


ドアを開けた位置の死角から奇声を放ったぬいぐるみが俺を圧死させようと布の身体を大の字に広げて襲い掛かる。

しかし、その布の身体はフワフワしていて死角にいながらも容易にキャッチが可能であった。


『あへっ?』


ぬいぐるみを顔面ごと掴む。

膨らんだ弱音の気持ちはサンドラとかいうペットもどきのせいで吹き飛んだ。


「なぁ、サンドラ?熱いの寒いのどっちが好き?」

『オレは断然寒い派だ!酒飲みながらスキーなんて最高じゃないか!』

「酒こぼれるだろ」


サンドラに冷静に突っ込みながら部屋から引き返し、20秒前に歩いていた廊下を引き返す。

そこから台所に向かって冷凍庫の製氷する引き出しを開けて布をぶっこみそのまま引き出しを締めた。


『あへっ!寒いぞぉ!?寒過ぎるぞぉ!あれ、開かない……。ねぇ、開かないんだけど!オレ死んじゃうよ!?神なのに死んじゃうよ!?お姉さんが死んで坊やは悲しくないの!?』

「悲しくないよ。あと、そんなに元気な神は死なないよ」

『偏見!偏見だろそれぇっ!あへぇっ!やだぁ!死にたくないぃぃぃ!』

「殺人フライングボディアタックとか言って俺を殺そうとしていて何言ってるんだお前?」

『正論んんんん!そうだ、ならお前も神にしてやろう』

「だから要らないんだわ、そういう勧誘サービス」


いつかのエニアも同じ勧誘をしたのを思い出す。

神って勧誘で増えてるの?という謎の疑問が膨れ上がる。

5分冷凍庫に入れたままサンドラを氷結の牢獄に封印して、懲りたくらいで解放してやる。


『はぁはぁはぁ……。神をこんなに乱雑に扱う人間風情はお前がはじめてだ……。このサディスト野郎』

「あ、お前には俺がサディストに見えるんだ……」


ここ5年、周りからマゾとし思われていないので珍しい評価である。


『あへっ、ヒデヨリは好きな女には虐めたくなるタイプぅぅ!』

「だからお前は女どころか男ですらないよ」

『オレは一体何者なんだぁぁぁ!』

「布切れだよ」

『布切れの神ってなんなんだよぉぉぉ……!オレだって信じられねぇよ……!自分で自分を信頼できねぇよ!』

「よくそんなシリアスな空気になれるね……」


サンドラを肩に乗せて部屋に引き返す。

途中でおばさんから「兄弟みたいに仲が良いわね」と声を掛けられるも、サンドラと一緒に「別に」とハモった声で否定する。

殺そうとしてきたのを返り討ちにしただけである。

おばさんは俺が誰とでも仲良くなれる陽キャみたいな認識をしているので困る。

やたら俺を評価していて期待値が高い。

もっと見た目通り不良の評価をして欲しいのに難しいものである。

部屋に戻ると『ヨッ』と言いながら肩から飛び降りるサンドラ。

封印が解かれたサンドラはここ数日で、自由気ままにぬいぐるみ生活を堪能している。


『なぁ、もっと甘々な恋愛経験の出来るゲーム紹介しろよ。幼馴染みが可愛い作品がやりたいぞ』

「これなんかどうだ?『ハートドレイン』。幼馴染みのルイちゃんが可愛い過ぎて悶絶な砂糖のように甘い一品だ」

『最高じゃないか、ヒデヨリ』

「ちゃんと明るい部屋でゲームしろよ。目、悪くするから」

『あへっ』


中古で買ったゲーム機をサンドラはありがたりながら、最近ゲームにはまっている。

もはやニートである。

ゲームをしている間は特に暴れることはないので、静かに生活を出来る。

サンドラの生活ポジションである押し入れに設置した、自分が封印されていた黒い箱に引きこもっていく。

自分が封印された期間が長すぎて、封印されていた箱が自分の住みかになったようである。

色々と突っ込みどころ満載な存在である。


『ヒデヨリー』

「なに?」


黒い箱に引きこもったサンドラは、顔を見せずに俺の名前を呼び、聞き返す。


『選択から逃げ出したくなったら、オレがお前に新しい選択をプレゼントしてやるよ』

「…………え?」

『あへへっ』


そう言うと、かすかに漏れるゲームのBGMが押し入れから聞こえてくる。

何故か急にあのぬいぐるみは洗濯機をプレゼントする発言をするが、それは多分おばさんの方が喜ぶ気がする。

……が落ち込んでいる俺へのエール的なものだったのだろうと思うと、ちょっとだけ可愛いぬいぐるみだなとおかしくなって笑いが込み上げてきた。

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