100、佐々木絵美は背を向ける

「それで?詠美から聞いたけどお前、元気ないのか?」


話が落ち着いたところで茂に今日の本題についてストレートに切り出す。

詠美にはわかるらしいが、付き合いの浅い俺には普段の茂と取り繕った茂の違いがわからない。

だからこうして直接問いただすしか出来なかった。


「まぁ、そうですね……。元気ないっすよ……」

「それは俺にも言えないことか?」

「…………ショック受けますよ?」

「ショック?」

「はい。明智先輩に関係あることですから」


そう言うと茂の表情は曇り、俺の顔がまともに見れないらしく顔を背ける。


「僕は未来に行けるギフトなのはわかりますよね?それで、僕は死ぬ未来が回避されて気になって行っちゃったんです」

「お前……」

「確かに僕が死ぬ未来は変わっていました。……はじめて僕は未来の佐木茂に会えたんです」

「良かったじゃないか。大人になっても生きている未来が確定したじゃないか」

「良くないです!」


普段大人しい茂がピシャリと大声で遮るように叫ぶ。

それから「良くないですよ……」と弱音を吐く。


「明智先輩が死んでいたんです……。明智先輩が死んで……。この国の未来が暴力に支配される最悪の結末を見てきたんです……」

「最悪の未来……」

「未来の僕は『明智先輩を死なせるな……』って最後に言い残して、僕の前で息を引き取りました……。身体にたくさん銃みたいなので撃たれた傷が……、血も……」

「もう良い……。もう良いよ。忘れろ……」

「忘れたくても忘れられないですよ!姉ちゃんとか絵美姉ちゃんとか、お父さんやお母さんたちもどうなってるのかとか……、怖くて、頭から忘れられなくて……」

「そうか……」


結局、俺が5歳から色々やってきたことはなんの成果にも結び付かなかったらしい。

俺は死に、世界はヨルの生きていたような未来にたどり着くようだ。

ファイナルシーズンのハッピーエンドにすら、この世界はたどり着けないらしい。

なんというか、すべてがどうだって良くなるくらいに『生』ということに執着が消えていく。


「明智先輩……、僕はどうしたら良いんですかね……?こんな重荷耐えられないですよ……」

「ふぅ……。なら……」

「なら……?」

「【未来で見たことを忘れると良い。そして、もう未来に行けるというギフトを使うな】」

「え……?」


──俺は茂の記憶させた。

『命令支配』のギフトで終末に近付く世界と明智秀頼の確定的な死を知る者はもう俺しかいなくなった。


「あれ?明智先輩?」

「よぉ、どうした茂?」

「僕、何に悩んでたんですかね?」

「好きな女に踏まれたいって悩みだろ?」

「思ったことないですよ!?僕はそんな特殊じゃないですよ!」

「え?それって特殊じゃないのか?」

「え?明智先輩?まさか……」


これで茂の悩みは取り除いた。

これは、茂のぶんまで俺が死ぬまで背負うべきギフトを使った『罪』なのだ。

俺はこのことを誰にも漏らすことなく、抱えて生きていく。

確定した死の瞬間まで、封印するべき未来。





─────





「おらぁ!変な下ネタで盛り上がってないかー男子共ぉ!」

「茂の性癖意外とニッチだな」

「無理矢理下ネタ話してる風に装う必要はないからね?もー、シゲルはひぃ君のヤ●●ンオーラに当てられてないよね?」

「だ、大丈夫ですよ……」


詠美に詰め寄られてしまい「あはは……」と苦笑いの茂。

側にいる絵美が「ヤ●●ン……」と小さく呟いていた。


「あれ?シゲル、元気になった?」

「え?ずっと元気だよ?」

「ひぃ君としゃべって悩み解決した?」

「う、うん。明智先輩と会話してモヤモヤした気分は晴れたよ」


俺のギフトがきちんと効いていることを確認する。

本当に茂はもう見てしまった未来の惨劇の記憶は消えているようだ。


「どんな話したの?」

「普通の話ですよね明智先輩?人間関係とか好きなゲームとか芸能人の話題とか」

「そうそう」

「私たち姉弟ですら解決出来ない悩みをひぃ君が解決しただと……?」

「俺と茂は兄弟みたいなもんなんだよ。な、茂?」

「明智先輩!僕を弟にしてくれるんですか!?」

「兄弟みたいだよ。弟ではないだろ……」


実際男兄弟の存在は今まで存在したことないので憧れはある。

いたらこんな感じなのかと接している。

茂には嫌なところがないからつい優しくしてしまう。

溺愛する詠美の気持ちもわからなくない。


「じゃあそろそろ帰りますか」

「そうだな。帰るわ」

「はいよー」


詠美と茂に別れを告げて絵美と一緒に佐木家を後にする。

嫌な気持ちを引きずったまま、絵美の前では冷静な自分を演じる。


「どうだった?詠美となにしてたんだよ?」

「普通に化粧品のトークとか、……コイバナとかですよ」

「コイバナ……」

「あ、ちょっと嬉しくなった?」

「うるせぇよ……」


彼女同士が同じ男を対象としたコイバナとはどんな気分なのか……。


「見たらわかる通りわたしと詠美ちゃん、どっちも小柄なんですよ。胸も小さいし!血筋・遺伝の問題です」

「ほう?」

「そこで秀頼君の長身な明智家の血が入るとわたしの娘はモデルのような長身の子になるわけです!佐々木家、佐木家の小さい女というジンクスが壊れるのです!」

「そんな上手くいくか?実の妹の星子だってお世辞にも長身とは言えないし……」

「え?」

「え?」


だからギフトを使いスターチャイルドとなり長身・巨乳アイドルで活動しているのだから。


「娘から身長も胸の大きさ抜かされて虚しくならない?」

「…………(スカスカ)、わたしたちの家の悲願……。やっぱりわたしくらいな娘が良い。頼子に似ないで欲しい」

「そんなダメージ受けなくても……。あと、頼子の名前出すな」


自分の娘がギフトで女になった自分の姿と似ているとかそれはそれで俺の悲しみがデカイ……。

星子と絵美に似た娘ならもう溺愛しそうである。


「……なんか茂君は元気になって秀頼君が落ち込んでない?」

「そ、そんなことなくない?」

「秀頼君が落ち込む度にわたし気付いちゃうんだよ?茂君に何言われたの?」

「別に……」

「また『別に』が始まったよ」


絵美が口を尖らせてつまらなさそうに呟く。


「いつになったら……」

「え?」

「……なんでもない」

「なんだよ?」

「やだ。絶対教えない」

「なにムキになってんだよ?」

「コンビニでアイス買って!甘いの食べたい!」

「え?あぁ、アイス買うか」


お金を絵美から渡されてパシられるようにコンビニに入店させられる。

なにか彼女も誤魔化していたが、それを追及する資格は、ない……。


コンビニの外で待つ絵美は俺から背くように背中を向けている。

本当は誰かに茂から奪った記憶を明かしたい……。

でも、それは多分やってはいけない俺の罪なんだ……。

特に守りたい相手には誰にも口に出せない。








『いつになったら秘密を打ち明けてくれるの……?わたし、足引っ張っているのかな……?』


背中を向けている彼女はぼそっと呟くが、その声は風に流され誰にも届かない。











終わるのか、2年編……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る