97、佐木茂は推す
自分がジョーカーを名乗るお姉さんから手品を教わっていたことはなんとなく思い出してきた。
師匠というほどかはわからないが、先生というくらいには影響はあったようだ。
先ほどの過去の豊臣光秀にではなく、現代の明智秀頼に声を掛けてきたのはなんなのだろうか……?
今更彼女の存在を思い出したことの後ろめたさから産み出された幻想だったのかもしれない……。
「秀頼君、着きましたよ」
「あ、あぁ……」
詠美と絵美の後ろに並び玄関をくぐる。
絵美と「おじゃましまーす」とハモりながら佐木家で靴を脱ぐ。
「あ、シゲルもいるね」と、彼が帰宅していることに詠美が気付く。
家の鍵が開いていたし、誰かが家にいるのはお邪魔する前から察していた。
逆に両親はまだ不在らしく、詠美から「遠慮すんな」と声を掛けられた。
そのまま直行で茂の部屋に案内されていく。
「とりあえず最初だけシゲルにひぃ君をお披露目して、私とエミは消えるから」
「なんで?」
「何故かはわからないけど、シゲルはひぃ君を兄のように慕っているからね。男同士の方が語りやすいのもあるでしょ」
「秀頼君は女だけじゃなく男にも取り入るのが上手いから」
「ちょっ!?嫌な言い方するなよ!?」
「ひぃ君は時代が違えば英雄か逆賊の才能あるよね」
「現代なら詐欺師ですかね?」
「詐欺師ってなに!?もう何回も聞いたよこういうくだり!」
シゲルの部屋前でこそこそと変な言い掛かりをされるのを適度に流していく。
2人に言いたいことをある程度言わせて、遺恨が無くなった状態にする。
準備が整うと、詠美が全員の顔色を伺ってドアを開いた。
「ヤッホー!元気かよぉ、シゲルゥ!」
「……あ、姉ちゃん。おかえり……」
「お、おう……」
確かにシゲルの態度がなんかいつもより暗い。
詠美が無理にピエロを演じているのが見事空回りで滑っている。
口に出すのも可哀想なので心の中に留める。
「詠美ちゃん、盛大に滑りましたねー……」
「お前が言うんかい……」
「でも滑ったよね?」
「滑ったな」
結局絵美も同じことを思ったらしく、客観的に見たら滑っていたようだ。
「こらこらこら!なにを詠美ちゃんギャグを冷静に分析してるんじゃい!」
「いや、今のはギャグですらないですよ」
「ヤッホー!元気かよぉ、エイミィ!」
「早速弄るなバカ!なんだこいつ!?」
美月みたいにポンコツに成り下がった詠美を黙って見ているわけもなく、絵美と2人でつい弄ってしまった。
そのやり取りを見て茂が「あ、明智先輩」と俺に気付いたようだ。
「わたしもいますよ」
「絵美姉ちゃんまで!?明智先輩と知り合いだったんですか!?」
「知り合いよりも深い関係だよ」
「えぇっ!?まさか絵美姉ちゃん、明智先輩と付き合ってんですか!?…………(チラッ)」
「おい、なんで私見た?」
「だって姉ちゃん……。明智先輩のこと……」
「余計な心配要らんわ」
やや暗いながらも俺と絵美の顔を見て少しだけ普段の茂に戻ったように見える。
「えぇ……。ど、どうなっているんですか明智先輩!?」
「え?なにが?」
「茂君。そういうこと秀頼君にぼかしても絶対通じませんよ。ストレートに尋ねないと」
「?」
ストレート……?
髪型の話だろうか……?
茂が『えっ!?』って顔である。
「まぁ、そういう話は後で。とりあえず茂、ひぃ君とお話してなさい」
「え?」
「私は絵美と部屋にいるから。男同士、健全なトークで盛り上がりなさい」
「お前のおかず誰だよ」
「私の前でシゲルになに聞いてんだよアホンダラ!」
「いだい!」
腹に蹴りを入れられた……。
「大丈夫ですか明智先輩……?」と茂が心配してくれた。
「秀頼君は大丈夫です。その蹴りは苦い薬です」
「うん!」
「姉ちゃんたちの明智先輩に対するその雑さはなんなんですか!?大丈夫ですか明智先輩!?」
「お前、良い奴だな……」
俺に1番優しい男・タケルみたいだ。
「そんなに優しくしなくてもひぃ君は強いよー?」
「明智先輩に嫌われても良いんですか!?本当に姉ちゃんはがさつなんだから……」
「なんだと弟!?」
「大丈夫だよ、茂……。ちょっと痛いくらいじゃ嫌わないから」
「どうして笑顔なんですか!?明智先輩、ちょっと喜んでないですか!?」
「別に……」
とにかくその程度で詠美も絵美も茂も嫌いにならない。
絵美が「既にバレ掛かってるじゃないですか」とこそっと俺にだけ聞こえるように囁いてくるが、なんでいつの間に痛みで喜ぶみたいなレッテルを貼られてしまっているのかが甚だ疑問である。
俺が痛みから復活すると、「とにかく!ひぃ君はシゲルと話して!」と言い残し絵美を消えて部屋から消えてしまった。
部屋の持ち主が「いったいなんなんですか!?」と驚いている。
「詠美が俺に茂と会話して欲しいんだってよ」
「相変わらず僕が姉ちゃんに振り回されているのだけはわかりましたよ……」
「詠美の弟は大変か?」
「大変ですよ……。本当にあの調子で男に負けないんです……」
「強かな姉じゃないか」
「強かで片付けて良いんですかね?ちょっと姉ちゃんに甘いですよ」
「別に……。そんな甘いかな……」
甘やかしているつもりは毛頭ない。
でも詠美の元気さには毎日パワーをもらっているのも事実である。
昔から頭が上がらない。
「姉ちゃんには明智先輩みたいなもっと強い人じゃないと付き合いきれないと思うんですよ」
「ほう」
姉を猛烈に押してくる辺り、俺と似たシスコンの空気を感じる。
「逆に絵美姉ちゃんは誰とでも合わせられる優秀な人だと思うんです」
「絵美は優秀だよな。色んな意味で優等生だよな」
「だから僕は明智先輩は絵美姉ちゃんよりも、姉ちゃんの方が……」
「姉ちゃん連呼され過ぎて誰が誰だかわかんなくなってきたよ。なに?姉ちゃんが何したって?」
「あ、なんでもないです!ただ、明智先輩が僕の兄ちゃんになってくれたらなって……」
「そんなに詠美を猛烈に推すのか」
弟公認で詠美とは俺しか付き合えないとまで推されると悪い気はしない。
心なしか言葉には出てないが中の人も嬉しそうにしている。
「そしたら僕も明智先輩ともっと会いやすくなるじゃないですか」
「可愛いなぁお前」
「あ、ありがとうございます!」
「でも気にしなくても来年同じギフトアカデミーに通うしもっと会いやすくなるぞ」
「そ、そうですね……。(そういうことじゃないんだけど……)」
よくよく考えたら茂も来年はギフトアカデミーなのか。
城川千秋などのヒロインたちと同じ学年ということになるな……。
気が早いが茂とも学校で会う日が近いのをひしひしと感じていく。
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