94、佐木詠美もブラコン

「己はいつになったら相談に乗るんじゃぁぁぁぁぁぁい!」

「あっ!?待って!?待って待って詠美様!話を聞けばわかる!」

「お前は行動が遅いんじゃぁぁぁぁぁぁい!」

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!?」


明日香のサボりに付き合った放課後。

絵美と雑談をしていると、プリプリと怒った詠美がチョークスリーパーホールドを仕掛けて俺を窒息しに掛かる。

詠美から女性特有の女性らしい甘い匂いが鼻に掛かるが恋愛的なドキドキは一切なく、殺されるかもしれないというドキドキが胸を支配する。


「てか、ころぉぉぉぉぉぉす!」

「まあまあ、落ち着いてくださいよ詠美ちゃん」

「……絵美」

「止めないでエミ!私はこの男を殺すの!」


そのやられた姿に見かねた絵美が助けに入る。

味方されると、嬉しい気持ちになる


「あー、ダメですよ詠美ちゃん……。秀頼君はこの程度では死にません。痛がってる感出してますが、この人普段から達裄さんに半殺しにされるほど鍛えられているので頑丈なんです」

「絵美……」

「なんだい、なんだい!特性頑丈かい!」


嬉しかった気持ちを返してくれ……。

あと、それはそれとして痛いのは痛いんだ……。

ややキレ気味の詠美はつまらなそうにホールドを外す。

外された直後、身体が空気を求めて呼吸が少し早くなる。

その姿を見て絵美が近付いてきて背中をさすってくる。


「大丈夫ですか秀頼君?」

「絵美は心配が遅いんだよ……」

「だって決闘の時とかもっとボロボロだったし……」

「シリアス時とこんな日常の時を比べるのもおかしくない?普段からあんな張り詰めた雰囲気出すわけないでしょ!?」


シリアスの時と俺と、バカやってる俺は別人として扱ってもらいたいものである。

それくらい今は気の抜けた状態のちゃらんぽらんな男性でしかない。


「大体殺すとか言われてましたが、秀頼君は詠美ちゃんに怒ったりしないんですか?」

「別に……。詠美からすると『おはよう』ぐらいの感覚でしょ?」

「全然重く見られてない!ひぃ君のこういうとこイラッとしない!?あと、『別に……』が口癖だけど、それそんなに万能な言葉じゃないからね」

「別に……」

「秀頼君はそういう指摘されるとわざと使いまくりますよ」

「そういうところっ!そういうところなんだよなぁ!世界史サボり!」

「わかりますよぉ。落ち着いてください詠美ちゃん。もはや、あなたが怒っていたことすら脱線してしまいそうです」

「別にアレはサボりたくてサボったわけじゃない。巻き込まれサボり……。つまり、巻きサボだ」

「いや、知らねーよ」


絵美と詠美の幼馴染み2人に詰め寄られていた。

仲が悪そうだが、こういう時だけ結託して仲が良く息のあったやり取りをする辺り、付き合いの長さがよくわかる。


「巻きサボとか言ってますがどうせ女と一緒にいたんだよ。ねー、ひぃ君」

「失礼な。そんなことないよなー、絵美?」

「いえ、どうせまたわたしたちに飽きて違う女に靡いてたんだなとしか思ってませんよ」

「飽きてない!全然飽きてないよ!俺はもう全員と同棲しても良いと思ってるくらいに好きだよ!」

「1年同棲したらひぃ君の女同居人が5人くらい増えてそう……」

「1年で5人で済みますかね?もう2人は見積り建てた方が良いですよ」

「その家のキャパ、逆にどうなってんだよ……」


達裄さんから遊びに来られる度にからかわれそう……。

そもそもそんな家で遊んではくれなさそうでもある。

『秀頼が毎晩ヤってる部屋に出入りしたくないわ……』とかヤってないのにしれっと傷付く暴言吐かれそう……。

いや、あのドS兄ちゃんはそもそもその程度暴言とすら認識してなさそう……。


「それで詠美の相談ってアレだろ?茂がなんか元気ないとかってやつ」

「わかっててシカトしてたんかい」

「シカトじゃない!スポット当たる暇がなかっただけ!」

「めちゃくちゃ時間あったでしょ!」


サンドラが家に来た辺りから茂の様子がおかしいらしい。

しかし、そもそも本人に会わないと悩みがわからない。

そもそも悩みすらないかもしれない。

茂本人に会わないと事情がわからない。


「茂君がなんかしたんですか?」

「なーんか最近様子がおかしいんだよ。お姉ちゃん心配……」

「相変わらずブラコンですね。ブラコンというと秀頼君から初対面の時にブランコと字面が似ているという話を思い出しますね……」

「よく3ページ目のエピソードなんか覚えてるな……」

「あの頃はまだ彼女はわたしだけでした……」

「いや、初対面でまだ付き合ってすらいなかったろ!……ってそれより、絵美って茂のこと知ってんの!?」

「いとこですが……?」

「あぁ、そうか。詠美がいとこなら茂もいとこになるのか。盲点」

「それよりもひぃ君がなんかしれっとメタ的なこと言ったことにしか注目がいかないんだけど!」


初期のエピソードよりも、最近のエピソードの方が記憶に残っていない辺り俺ももう年なのかもしれない。

身体は若いが、魂がもう中年である。


「悩みなんてよぉ、健康か夢か恋愛か金のどれか4択なんだよ。年頃だし、好きな子がクラスにいんだよ。な、察してやれよ詠美」

「茂に好きな子がいるかぁぁぁぁ!」

「ブランコこわっ……」

「ブラコンじゃぁぁぁい!」


詠美が熱くなってる……。

内気な茂だが、好きな子ぐらいいてもええやん……。

そんな弟の恋愛に口出しせんでも……。


「こんなんじゃ、セーコに愛想尽かされるよ。セーコならすぐ彼氏できるよ」

「星子に彼氏ができるかぁぁぁい!」

「同族ですね」

「よく私に怖いとか言えたね」


そのまま詠美に押しきられ、茂の悩みについて考えさせられることになった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る