93、江波明日香の推し
「えぇっ!?明智センパァイもスタチャフォロワー!?同士じゃないっすか!?」
「急に馴れ馴れしいな……。なんだ?フォロワーだったらなんだ?」
「同士じゃないっすか!」
「さっき聞いたよ」
気が合うことなんか多分無いだろうとか思ってた矢先から気が合いそうな話題が出てきて複雑な気分である。
いや、待て!
もしかしたらアンチという可能性もある。
まだ完全にスタチャ信者という確信がない。
「本当、スタチャを推すのが最近の楽しみなんです……。引き込もってた時、ずっとスタチャだけが生きがいだったんです……」
「…………」
アンチか信者なら信者寄りだった。
くっ、スタチャ好きというだけで何故か俺の好感度が爆上がりしそうな態度になる自分が憎い……!
でも、推しアイドルにマイシスターが褒められると邪険にはしたくない……。
変なジレンマが俺の中でバー●ャファイ●ーし始めていた。
「スタチャが単発ドラマの主人公やってた『朝顔が泣いた日』あったじゃないですか!あの時のスタチャが尊すぎてもう鬼リピしてますよ!」
「あれはヤバいな……。喜怒哀楽すべてのスタチャが見れることからファンの入門書扱いされている。鬼リピも何回もした。当然俺もデータが消えても良いように複数のメディアにわけて保存している」
「いや、そこまでされるとちょっと引きますよ……」
普段ドラマ見ない俺ですら、あの2時間の単発ドラマ中はCM中以外スマホを手放さなかったし、放送終了後は感想と実況ツイートを遡らせていった。
そういえば、前に会った時自分はドラマのヒロイン的なのを自称していたのもスタチャへの憧れだったのかもしれないな……。
「またスタチャドラマしないかなー……」
「ないだろ」
スタチャ本人が『いや、演技下手だからもうオファー受けないよ』と言っていたのでよほどがないともうしたくないらしい。
彼女はアイドルになって歌ったり踊ったりするのが好きで業界に入ったのであり、俳優で目立つ気はサラサラないらしい。
放送直後はスタチャでトレンド1位と周りが盛り上がったのに本人があっさりしている辺りなんか俺の妹って感じがする……。
このプライベートがまるでわからない神秘的な存在感もまたスターチャイルドのブランドである。
俺はプライベートを大体把握してるが、見なかったことにして雲の上の人物扱いしている。
「なんであんなに肌スベスベなん!?全然嫌味とかも感じないし、次元が違う人とかそういう存在!」
「そう。君、わかってるじゃないか。出来る口だね?」
「誰目線なんですか?なに、スタチャの理解者気取りしてんですか!」
因みに本人に対して『肌もキレイだけど、普段からなにか気を付けているのか?』ということも聞いたことがある。
その際の返答が『うん』とだけ返ってきた。
相変わらずスタチャは俺に対してはファンの中で1番塩である。
これ、理沙とかが質問すると『手入れがどうこうでー、オススメのコスメやクリームがどうこうでー』みたいなキラキラした返答がもらえるので少し羨ましかったりする。
まだタケルの方が『私、明智さんと同じで肌弱いので手入れに工夫がー』みたいに柔らかい返事をもらえる。
俺が質問した時だけ明らかにテンションがストンと落ちる。
「スタチャのライブとか行ったことあります?」
「近所ですれば毎回行ってるよ。そもそも初期からずっと応援してるし……」
「なんでチケット取れるんですか!?人気のわりに箱小さくて回数も少ないし、毎回即売り切れてばかりで泣き見るんです!もう悔しい!チケットサイトに張り付いてもサーバー落ちて取れないし、アクセス出来る頃には完売だし!取れるコツとか教えてください!」
そもそもスタチャは未成年なのでそんなにライブも出来ないし、地方をまわることも少ない。
ファンの中では事務所がスタチャを出し惜しみし過ぎていると叩く者もあるが、単にキャパがないだけである。
ギフトアカデミーの中でも彼女は休みが多いのを認めてもらっているが必要最低限は出なくてはならないという決まりの元アイドル活動をしている。
大学生になるか、そのままアイドル活動を本格的にメインにするかはわからないが後数年はこのままである。
そんなわけでファンクラブ優遇とはいえ、所属していてもチケットの倍率はそこそこ高い。
……が、ここ最近は達裄さんや妹にいえばチケットはくれるので(お金はむしろスタチャのために出したいので払っている)大体タケルと理沙とヨルというメンバーでライブには出向いている。
「まぁ、あれだ……。安定にチケットを取るならコネだ」
「うわっ、ずるっ!最低っ!悪魔だ!悪魔っ!なにそのコネ!?」
「あー、まぁ……。スタチャのマネージャー?的な人と知り合いだし……」
「ええっ!?じゃあ、本人と会ったことも……?」
「ライブ行ってるから会ってはいるよ……。……インスタでスタチャと相互フォローしてるし」
なんならDMでやり取りもするし。
ラインだと星子、インスタだとスタチャで対応してくれると知ったのはわりと最近である。
「選ばれし者……?」
「なにがだよ?」
恐る恐るといった表情で謎の問いかけをしてくる。
「はぁー、凄いなぁー」と明日香が俺を見上げて言う。
「なんなら今度そういうライブでもあったら行くか?」
「良いんすかぁ!?」
「チケットが絶対取れる保証はないけどな……」
達裄さんから助けられつつ、助け合うWin-Winな関係だからこそ用意してくれるのでこの辺りは俺の努力次第である。
「その変わり、人を傷付けたり騙すとかそういう行為はダメだ。スタチャファンの民度が下がる」
「う……。がんばる……」
首輪を絞めないとすぐ調子に乗って女王様に戻るポテンシャルがありそうだ。
彼女こそ、本来の明智秀頼のように尊厳破壊をさせた方が効果的な人物だと言える。
俺にはそういう度胸はないのだが……。
「大丈夫だよ。明日香ぐらいのコミュ力があって人に好かれるような態度になれば誰かしら見てくれるよ」
「今のアタシ、友達からすら逃げられたんだけど……」
「じゃあそいつは友達じゃなかったんだよ」
「割り切りが早いなぁ……」
「信頼していた先輩に腕を壊されると気にしなくなるよ」
「物騒過ぎっ!腕、壊れてないじゃん!」
おっと。
口が軽くなって、前世の円しか知らないエピソードトークを語ってしまった。
スベらない話でされたらドン引きされる自虐なのでこれは封印していよう……。
「センパァイ、なんか本当に先生みたいだね……。学校の先生より、よっぽどアタシを心配してくれる……」
「心配してねーよ。俺はただ明日香のサボりに巻き込まれただけだよ」
「なんですかそれ!?ひどっ!」
「ほら。そろそろ授業終わる」
壁に掛けられた時計を差すと、彼女は憂鬱そうに「はぁ……」と嫌そうなため息を吐き出す。
「今日の最後の授業くらい出なよ」
「センパァイの連絡先くれたら行く」
「現金な奴……」
「だってスタチャのライブ行く時、待ち合わせするなら連絡先あった方が便利じゃん!」
「行く気満々だな……」
タケルたちになんて紹介したら良いんだ?
押し掛け後輩……?
こうして授業に出るという約束をして、お互いのラインの交換をする。
特に必要はないが江波明日香の連絡先が1つスマホに追加されたのであった。
「センパァイ!またサボりましょうね!」
「俺を不良に巻き込むな」
「えー!?今日楽しかったぁ!もっと手品見たいよ!」
「その内その内」
こうして、違う意味のトラブルメーカーと知人になったのであった……。
もっと普通の子はこの学校にいないのか……?
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