91、江波明日香は叱られる

嫌われ者女王様構ってちゃんギャルの江波明日香に付きまとわれた……。

「センパァイ!」と演技のような猫なで声でじゃれてくるのを突き放すと「つめたーい」と文句を浴びる。

本物の明智秀頼であればそのままお持ち帰りでもするのかもしれないが、俺にはそんな度胸は1ミリもない。

そもそも俺には大事な大事な彼女がたくさんいるのに、江波さん1人に構う時間はないのだ。

世界地理の授業に参加したいのに、彼女が邪魔をしてきて扱いに困っているとカツカツという人の足音が響いてくる。

俺ら以外にもサボりが……?という目を向けると全然違う環境の人が俺に近付いてくる。


「こらこら明智、サボりか?あんまりそういうのはよくないぞ?」

「あはー……、すいません瀧口先生……」


よりにもよってギフト狩りのリーダーである瀧口先生が取り繕ったような表情で軽く叱り付けてくる。

なにをしでかすかわからない黒幕であり、いつギフト狩りが暴走するかわからない時期である。

常にダイナマイトのスイッチを握っている人物には違いないので変な緊張感が走る。


「まぁ、僕も教師なんてしているが過去にはサボりなんてよくあったからお互い様だがな」


メガネを弄りながら人の良さそうな顔で笑う。

彼がどんな心境でこういった優男のような擬態をしているのか、俺にはわからない。


「明智は良いとして……。江波、お前はサボれる立場なのか?」

「っ!?」


江波と呼ばれた瞬間、彼女の肩がびくっと上がる。


「久し振りに学校に来たかと思えば初日からサボりか……。君がギフト所持者でなければ停学か退学になって欲しいものだよ」

「……」

「サボって自分1人が底辺に堕ちるのは構わないが人を巻き込むものじゃないよ。それに明智は君と違って優等生なんだ。足を引っ張るのはやめたまえ」


「はぁー……」と、瀧口先生は失望したタメ息を漏らす。

この永遠ちゃんや理沙などの優等生には優しく、落ちこぼれに厳しいのはゲームの瀧口らしい。

何故か明智秀頼には成績は良いのに落ちこぼれ扱いをしていたゲーム版瀧口が、俺を優等生扱いをしているのはよくわからんが……。

問答無用で明智秀頼を嫌い側の人間だと思っていたので、ちょっと謎である。


「ご、ごめっ……」

「すいません、瀧口先生!自分が江波さんを呼び止めちゃったんすよ!」

「……え?」

「明智が……?」


瀧口先生が江波明日香を嫌っている視線に耐えられなくてそんな声を上げていた。

庇うとかそういうわけではないが、名前も顔も知っている人が目の前で叱られていることが気分が悪くなってしまっていた。


「久し振りに学校で見掛けたからちょっと声を掛けたら昼休みギリギリだったみたいで、時間過ぎてましたよ」

「はぁ、まったく……。話が長いのがお前の悪いとこだ」

「自覚はあるんすけどねー」

「直す気もない奴の言い分だな」


瀧口先生からビシッと突っ込まれる。

話が長いのは前世からよく注意されていたことであり、おしゃべり将軍なんて言われたこともあった。

そういうことも知っている彼も『またか』という反応である。


「まったくお前は……。まぁ、気を付けろよ、明智。江波は男に取り入るのが上手くて、平気で人に寄生するタイプの人間だ。そういう生音声も広めらられたりと、教師の間でも風紀を乱す問題な生徒として扱いに困っている。知り合いだとしても関わるべきじゃない」

「っ……」


本人目の前に釘を刺す辺り、やっぱりサディストだよなこの人……。

もしかしたらワンチャンギフト狩りとして江波明日香を処分する対象にしているのかもしれない。


「問題な生徒なら先輩として指導しますよ。俺、そういうの得意っす」

「ははっ、お前は教師向けの性格だよ。将来、学校の熱血教師なんか似合うかもな。お前が教師の資格を取った時まだギフトアカデミーがまだ残っていたら僕が推薦しても良いんだぞ」

「ありがとうございます!」


教師ねぇ……。

考えたこともない進路が瀧口以上から提案されて、満更でもない気分になる。

その将来がまだ何も決まっていないのだから困る。


「じゃあな、今からでも授業行けよ2人共」

「うぃーす!」


瀧口先生がそのまま別れて階段の方へ歩いていく。

ギフト狩りのリーダーの顔を持つ男との対峙は心臓に悪い。


「センパァイ……!庇ってくれてありがとうございまずぅぅぅぅ!」

「うおっ!?なんだお前っ!?」


泣きつきながら俺の手を引いてくる。

まったく構えていないところから引っ張られて、身体が右に傾く。


「アタシのこと指導するってことはこれからどんどん会ってくれるってことですよね!?」

「……え?いや、あの。え?」


単に瀧口先生から江波明日香への意識を反らすための言い訳でそんなつもりは一切なかったのだが……。

なんでこんな真に受けて……?


「瀧口先生、アタシのこと入学時からめっちゃ目の敵にしてるんですぅぅ!クラスの津軽とか細川とかとは態度が段違いなんですよあのサディスト教師!」

「…………君、クラスなん組?」

「5組っす」

「そう……」


聞いたことのある名字が出たかと思えば星子たちと同じクラスかい。

あの文芸部女子からも嫌われているのか……?

だとしたら相当ヤバい子なんじゃないだろうか……?


「明智センパァイが瀧口先生に気に入られているってことは、アタシも優等生になれば優しくされますかね?」

「男に取り入るのが上手いとか言われてたけど、もしかして俺もそういう男にカウントされてる?」

「もう男に媚びるのはやめました。もうこりごりですよ」

「なら、良いんだけど……」


本当にそれで良いのかは知らんけど、考えるのをやめた。


「だから1人に絞って明智センパァイ狙いにしました。センパァイだけに媚びて純愛にします!」

「いや、普通に無理。態度にしてないけど君に幻滅してるから」

「セーンーパァーイー!アタシはセンパァイしか相手にしてくれないボッチなんですぅぅぅ!」

「知らねぇよ!同じボッチ紹介するから俺に媚びるのやめろっ!」

「ボッチなんか嫌だぁ!ボッチ同士の集まりとかマジ底辺じゃないですかぁ!アタシはクラスカースト上位に返り咲きたいんですぅぅ!」

「こ、このクズ女ぁぁぁ!無理だよ、もう!君は高校デビューに失敗したんだよ!底辺で燻ってろ!」

「どうせクズだもん!メンヘラだもん!センパァイが優等生ならクズで中和できるじゃないですか!」

「なにその中和!?」


ぎゃあぎゃあと騒ぎたてる江波明日香の声にまた違う先生が通り掛かるとヤバいと思った俺は諦めて彼女の好きにさせることにした……。

グッバイ、俺の世界地理の内申点……。







─────






秀頼の中の好感度


サンドラ>サワルナ>>襲撃してきた際の初期ゆりか=襲撃してきた際の初期ヨル>>>>>江波明日香


ここまで女性を露骨に嫌がる秀頼も珍しい。

ただ、演じている明智秀頼よりも若干性格が悪い地の部分である豊臣光秀の面が1番濃く出ているのは明日香だったりする。

円に対して明日香への態度を取ったら惚れ直しそうな気がする。

楓が茜のギフトを使って罵倒されたいと画策した際も、これくらいの悪口を言われるのを期待していた。

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