90、明智秀頼は構われる

和とアヤ氏が意気投合をした。

からかい者とからかい者(2人共俺にだけ)がタッグになり混ざるという化学反応的に大失敗である。

サーヤの占い結果である年下女性に対して出ている女難の相が示した結果だろうか……?

アヤ氏を教室に送り届けて、後輩のエリアを歩いていた。

自分の教室に向かいながら、占い結果を噛み締める。


「…………」


極力2人が一緒になっているところには近付かない方が安心かも……。

君子、危うきに近寄らずである。

前世を含めて30年。

ようやく俺にもトラブル回避能力を得たものである。

ヤンキー同士がバチバチに揉めあっていても近付かない、授業でなんとなく俺が指摘されそうな空気を悟ったら存在感を消す、家のペットになっているサンドラがニッコニコな態度の時は塩対応をする。

こうやって俺はギャルゲーの主人公のような災難トラブルに巻き込まれない処世術を習得した。

達裄さん曰く『面倒ごとはどんな人間にも来るんだから一時しのぎにしかならないよ』という持論をこないだサーヤの店で別れ際に聞かされたが、あんな風に俺はならない。


あ、なんか坊主男子の後輩が2人で口論している。

スッと心はバレリーナになりながら華麗にその口論を避けていく。

存在感を消さなければ、『どっちが悪いと思いますか!?』的な仲裁をされそうにな雰囲気を感じ取ったので大成功である。

そんな仲裁をしていたら、次の授業に間に合わなくなる。


スタスタと1年フロアを縦断していると、なんとなく見覚えのある子の背中が見えた。

多分1年生なのだろうけど、なんで1年フロアから出て行こうとするのだろうか?

もう少しで授業なのに、トイレか?

ギリギリトイレダッシュと称して中学時代に授業開始残り1分で教室からトイレに行き戻ってくるチキンレースを山本とするが純粋に2人で遅刻したバカエピソードが思い起こされた。

どうでも良い記憶が頭に過っていると、その後輩の子が足を止めた。

目の前で「はぁぁぁ……」としんどそうなため息を漏らす。


月曜日はしんどいよね、わかるわかる。

学校大好き=月曜日も元気とはわけが違う。

しみじみと共感しながら、その後輩を抜かすように歩いていく。

名前なんだっけこの子と思いながらチラッと顔を覗いてみたが、顔を見ても名前が思い出せなかった。

4年前に1回だけやった思い入れのないギャルゲーのヒロインの名前が出なかった感覚にとても似ていた。

そして、偶然にも彼女眼が動き俺と目が合った。

この瞬間、ようやく彼女が誰だったのか思い出す。


あぁ、悠久先生のパソコンの名簿で見付けた江波明日香だっけ?

一回だけなんか会話したが、そんなに良い子のイメージなかったんだよな……。

知り合いといえば知り合い。

知らんといえば知らん。

この知り合いと知らんの狭間の関係性である。


「センパァイ……」

「こ、こんにちは……」


彼女が嫌なところを見られたって感じに目を細める。

このちょっと嫌な気分になったところで、そういえば変な告白をされて断ったら舌打ちされたことを思い出した。

ここ最近サワルナさんとセレナの瀬川家と関わり、洗濯を司る神に一方的に懐かれたりといつものゴタゴタのせいで完全に記憶から忘却していたことが頭に降りてくる。


「ここ、1年フロアじゃないけど大丈夫?授業始まるよ?」

「……久し振りに学校来てもう嫌なんですよ。ほっといてください……」


…………?

会話が噛み合ったようで、噛み合ってない気がする。


「え?しばらく休んでたの?」

「……クラスに居場所ない」

「そ、そう……」


なんか前に会った時は『自分ドラマのヒロインなんで』的な女王様オーラのある元気なギャルだったのに、だいぶイメージの変わる発言だ。


「なんですか?アタシを憐れんでいるんですか?ざまぁって嘲笑っているんですか?あれからクラスどころか学校中に嫌われてどこにも居場所ないのに……」

「いや、別に……」

「そもそも、その表情はどういう表情なんですか!?『別に』ってなにっっっ!?」


多分遠い目をしているんだと思う。

これ、多分なんかのトラブルを引き当てた気がする……。

サワルナさんのように周りをトラブルに引き込む側の人間特有の絡み方をしてくる……。


「別にというか、学校中に嫌われているとか始めて聞いたし……」

「はぁぁぁ!?アタシの知り合いでよくアタシの噂が耳に届かなかったわね!?」

「後輩に疎くて……」

「アタシ、2年3年からも嫌われているんですけど!」

「そう……。てか、俺って知り合いって括りなんだ……」


なんとなく学校中から嫌われた理由を察した。

全部今の言葉に詰まっていたのを見逃さなかった……。


「楽しい!人と話せるのってこんなに楽しいなんて思わなかった!」

「どんな餓え方……?」

「クラスのボッチ男子ってなんでこんな虚しさに耐えられるわけ?」

「口を開けば敵を作るね君……」

「突っ込まれるだけで嬉しさで泣けてくる……」


なんかまた変な子に目を付けられてしまった。


「明智センパァイ……、もっとアタシに構って……」

「なんだ面倒な女だな。今から授業始まるんだよ」

「アタシ、クラスに居場所ない……。センパァイが久し振りの話し相手なんです!」

「知るかよ!嫌われるような日頃の行いをしていたのが悪いんじゃないの!?」

「待って!ねぇ!明智センパァイ!」

「離せっっ!」


俺の動きを止めるように腕に抱き付いてくる江波さん。

ほぼ初対面近い女の子に乱暴も出来ず引き剥がせないまま、数メートル移動する。

それを嘲笑うかのような無常な学校のチャイムが鳴り響く。


「…………」

「あ、授業始まったねセンパァイ」

「…………」

「アタシ暇なんで」

「俺は授業に行くんだ!うおおぉぉぉ!世界地理うおぉぉ!」

「やだ!やーだ!待って待って!」


逃げ出せば良かったという後悔が支配する……。

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