89、津軽和は授ける
「この主人公の夢にだけ現れるこの少女は果たして幻!?それとも存在する!?ミステリアスなラブロマンスってわけよ!」
「なるほど……。既にファンタジーなあらすじを入れておくことで物語にもファンタジー要素を匂わせておくと……。お主もクリエイターよのぉ」
「持ち上げるでない、和氏。以上、綾瀬翔子でした」
パチパチパチと微弱な拍手が和氏から送られる。
なにか意気があったような感覚になり、自分の作品のプレゼンまでしていた。
「やるじゃない、綾瀬。感動させてもらったお礼に私からペンネームを送るわ」
「え?なにそれ、おもろ」
桜祭という13秒で考えた字面だけは柔らかそうという理由で決定したペンネームより良い出来のものならそちらを名乗るのもありである。
こういう名前の送り合いみたいなのもお笑い芸人みたいで憧れもある。
「そうですね。綾瀬翔子の綾瀬に、遥香先輩から遥香を取って綾瀬はる……」
「いや、無しでしょ!?」
「え?なんで?」
「その……、原初を司る神が統治する世界にそんな有名人がいたようないなかったような……」
「???……綾瀬も、秀頼先輩と似たこと言うんだね。てじなー……、きゃん?だっけ?」
「にゃ、だなそれ」
てじなーきゃん。
『手品できるよ』みたいなニュアンスが伝わるし、ありっちゃありかもしれない。
「他!他のペンネームないのかよ!」
「そうだねー……。なら姉者と私の本名から……」
「おぉ!それっぽい!」
円和とか、和円とか、エンワとか。
姉妹から名前を送られるなんてそれはそれで縁起が良さそうな響きである。
「津軽円なんてどう?」
「なんで和氏の名字を送るんだよ!姉妹で合体した結果和氏が消滅してるじゃん!」
「あと、こういうやつに姉者は自分の名前を使われることに激しく拒否反応が出るタイプの人」
「姉に嫌がらせするなよ……、かわいそうだろ……」
ペンネームを送り合うことに憧れはあったが、和氏はふざけていてなんかもういいやってなる。
素直に桜祭を名乗るよ、という気分になる。
「もういいよ……。自分が使ってるペンネームあるから……」
「もうペンネームあるんかい。なら作る必要ないじゃないか」
「素敵な名前なら喜んで改名するよ。それか別名義の名前でも良いしね」
特にオレっちはこだわりがないので、一般年齢のゲームでも大人向けゲームでも桜祭に統一したライターで発表をしていたけど。
「私の作品は熱い友情?親愛?どっち!?という揺れる想いが交差する百合もののラノベを執筆していてね」
「ゆ、百合ものだとぉ!?」
「最近異世界転生のラノベを300ページで完結させてね。ガラッと雰囲気を変えてみたのだよ」
「ば、バカ野郎っ!執筆するジャンルを変えやがって!ファンを捨てる行為だぞ!?」
「逆だよ。異世界転生のラノベが1日8PVしかいかないからファンを捨てて新しいジャンルを開拓中なのですぜ」
「み、自らファンを捨てると!?」
オレっちですらやらなかったファン切り行為を平気でする……?
もしかしたらオレっちはヤバい才能の持ち主を今まで見ていなかったのかもしれない。
「聞こうか和氏……」
「これは商才溢れる津軽家の嗅覚が突き動かしていてね……」
お互いオタクの盛り上がりを見せながら食い付いていた。
『こら、ずっとサボるじゃんサワルナ!』
『あの2人、危険人物感バリバリです!見てくださいよ源先輩!あの怪しい笑み!この店を爆破する顔してます!』
『そうやって無駄にシフト入るだけでサボってばかりいると本気でクビになるわよ?店長、あんたの勤務態度に怒ってるんだからね?』
『昨日それについて説教されましたが店長(33歳)は結婚してるのにバイトリーダーの子(27歳)と不倫しているのを脅したんで大丈夫になりました』
『ちゃっかりしてる……。てか、この店やばぁ……』
『人間のグズめっ!サワルナ!って言いながら金●蹴っておきました』
『お前もやばぁ……』
『千夏先輩には黙ってくださいね』
『結構千夏もあんたの本性気付いてるからね!?』
『サワルナも源先輩もサボらないでくださいっ!ちょっとお客さんが今どっと来てるんですよ!?』
こうして、スタヴァの店内も賑やかな時間になってきたのであった。
─────
「そんなこんながあり、和氏とはソウルシスターになりました」
「あそ」
「うわ……、明智氏はオレっちに対して一切興味なさそー……」
「だって和とアヤ氏のタッグなんて面倒……、賑やか過ぎて」
「面倒って言った?面倒って言った?」
後日、スタヴァから津軽家に上がり込むくらいの仲になったらしきアヤ氏の報告が俺に届く。
わざとこの2人をあまり繋げなかったのに、知らぬ間に繋がったらしい。
正直この2人がいた中でスタヴァに行かなくて良かったと安心する。
変な知り合いはいないというスタンスでスタヴァには通いたい。
「明智氏もオタクなんだからなんとなく和氏とオレっちが合うってわかってたんじゃないのー?」
「なんとなくはわかってたよ。ただオタクと思われたくないんだよな……」
「いやいやいや!それは無理!それは無理!明智氏はオタクなんだから!」
「だからやめろって!」
「なにをそんなオタクに拒否反応があるのさ?」
「そう、あれは前世の高校時代だ……」
忘れもしないトラウマが蘇ってくる。
『オタクキモッ……』
俺に対して軽蔑する目でキモがられた過去が頭を過る。
そのことをアヤ氏に告げるとゲラゲラと笑いだした。
「ギャハハハハハハ!人ってのはみんななにかのオタクなんだよ!それを明智氏に直接言うってのはオタクがキモいんじゃなくて、明智氏そのものがキモいって意味だから!イケメンはオタクでも許されるっての!」
「うっせぇよ、はっ倒すぞ」
「ただし、イケメンに限る。つまり、明智氏はイケメンじゃない」
「よし、蹴り入れとくか……」
「おいやめろ、首絞めてんじゃねぇか!オレっちはか弱い乙女っ!」
「っるせぇ!中身はただのおっさんがっ!」
「オレっち、男からぼでぃたっちされてるよー!」
バカやりながら、綾瀬翔子と津軽和のコンビだけは相手にしたくないと心の底から願ったのであった……。
「あー、やっぱ明智氏はオモロ……。今度、先輩が授業するみたいなイベントあるみたいじゃん?明智氏、出なよ」
「出ない出ない」
俺は目立つが、目立ちたがりやではない。
アヤ氏からゲラゲラとからかわれながら時間が過ぎていく。
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