86、占いの結果

「それにしても噂通り雰囲気あって良いですね!開運グッズとかワクワクします!」


スタチャが店内の開運グッズ置き場に興味を示す。

それをサーヤがガタガタしながら「ありがとうございます……」と小さくなりながら萎縮している。

こんな面もあるのか、とサーヤの意外な面が見えてくる。


「スタチャ、この店のこと知ってたの?」

「はい!美月先輩と美鈴先輩から噂はかねがね。ついたまに行っちゃうと」

「えっ?」

「あぁ!深森さん姉妹!そっか、彼女たち経由でまさかスタチャさんに妾のお店の情報が渡るとは……」

「えっ?」


美月と美鈴が常連客!?

知らない情報にドキッとして、意味もなく背筋がピンとなる。

聞いたことのない接点を知り、驚愕を隠せない。


「愚民も深森姉妹をご存知?」

「まぁ。……、美鈴とは去年同じクラスだったし……」

「あなた、意外と顔広いわね……」

「おに……、明智先輩は顔が広いですよ。人に対して遠慮しないし、遠慮されないので。常に人間関係のトラブルに巻き込まれます」

「愚民……、あんた元気で無作法な小学生みたいな扱いされてるのね……」

「いや、普通だよ普通」


明智秀頼という存在が悪目立ちしているだけである。

……いや、前世だともっと人間関係はあっさりしていたような気がする。

多分……、今がおかしいだけな気がする。

ただ、円とアヤ氏とか以外全員がかわいらしい後輩みたいに思えて父親面みたいになって助けたり、遊んじゃうとことかはあるかも……。

自分なりの客観的な視点で、人間関係を考察してみたのであった。


「じゃあこんな感じで挨拶は終了。佐山さんに属人性のある動画の伸ばしかたについてレクチャーしていこう」

「属人性?」

「つまり運営者が人だとわかるのが属人性。逆に運営者の人間がわからないのが非属人のチャンネルになる。いわゆる人工音声とかドラレコ動画とかそういう感じのやつ。伸ばしかたは全然違うんだよ」

「へー」


そう説明すると、ごにゃごにゃと解説をする達裄さん。

笑顔の広角を上げる練習をスタチャがサーヤにレクチャーをしている。

こんな有名アイドルにカメラ映えの練習を直接教えてもらえるなら30万なんか安すぎるんじゃないかと思う。

恐るべし、遠野達裄のコネコレクション……。

彼の中学からの知り合いらしいジャパンで絶大な人気を誇る有名美人テニスプレーヤーの星虹光とかもいるらしいし、どうなってんだこの人の人脈と尊敬するレベル。

ワンチャン悠久先生やアイリーンなんとかさんも星虹光とも知り合いなのかもしれない。


特にすることもないのでサーヤがスタチャからのレクチャーをされながら、達裄さんとオンラインのスマホゲームで対戦をしていた。

テトリスをしながら相手を妨害していくゲームだが3戦3敗と大爆死をくらうほどぼろ負けを喫したのであった。

そんなパズルゲームで1時間費やすと、「そろそろ撮影でもしてみるか」と勝ち逃げの達裄さんから打ち切られた。


「でも撮影ってなにするんだ?スタチャコラボ?」

「いきなりそんなのしないよ。チャンネルのためにならないし。スタチャファンを集めるのが目的じゃなくて、占いに興味を持ってもらうのが目的なんだから……。安易だな秀頼」

「なるほど……」


安易と冷たくバッサリ切られてしまう。

相変わらずクールな人である。


「そんなわけで俺がカメラをまわすから。秀頼が撮影に協力するお客さん第1号として店にくる感じにしよう。佐山さんから占ってもらい、後日その占い結果が当たっていたのかインタビューを秀頼にするみたいな構成だ」

「でも、そんなのヤラセみたいじゃない?」

「1回じゃヤラセだろうな。それを撮影協力可能なお客さんに対して定期的にこういった占い結果とインタビューをしていければ本当に当たるんだと演出できるだろ。あとは占いの知識を披露したり、風水とかタロットカードとかそういうことを色々コンテンツ化していく」

「そ、そうですね!」


半分何言ってんのかよくわからなかったが達裄さんにはもう成功のビジョンがあるらしい。

ならもうなにも言うまい。


「私も占ってもらいたいなー」

「むしろ占わせていただきたい!」


サーヤにはもうスタチャが師匠になったのか、かなり頭が下がってしまっている。

1時間、現役の人気アイドルに演技指導される占い師ってなに……?


「因みにサーヤさんはキャラクターとして毒舌も織り混ぜつつ、飴と鞭を使い分けるキャラクターにしてます。頑張って!」

「投げやり!?」

「あと、初対面的に振る舞ってね」

「俺も演技すんのかよ……」


スタチャから背中を押されつつ、お客さんとしてサーヤのところに歩む寄る。

達裄さんは文句を言わずにカメラを回しているがこれモザイクとかしてくれるんだろうか……?

簡単な流れはスタチャから教えられたのでそのように振る舞いながら声を出す。


「すいませーん。占って欲しいんですけど……」

「いらっしゃいませ。ようこそ、愚民」


ニコッと輝かしい笑顔で、いつもの罵倒文句が飛び出る。

因みにコレは、サーヤのリスナーを愚民と呼ぶ流れを作るらしい。

ドMがターゲットのコンセプトかこれ?


「なるほど。お名前と血液型と誕生日と家族構成を教えてください」

「7月7日生まれでB型の明智秀頼、家族は俺、おばさん、叔父、ペット?1匹」

「お名前が7月7日、B型で、誕生日が明智秀頼、複雑な家庭」

「そうじゃねーよ」

「順番通りに言ってもらわないとぉ!愚民がっ!」

「横暴が過ぎるぞ」


順番がサーヤの提示するものになっていないことに不満があったようだ。

そこからは手際よくいつもの手順で俺の手相を見たり顔を覗き込んだり、質問しながら、ふむふむと呟きながら真面目に占いをしていくサーヤ。


「サーヤの占いって当たりやすいから嫌なんだよなぁ……」

「なんで当たって嫌そうなのよ」

「悪いことばかり言い当てられるからだよ」

「日頃の行いが悪いのね」


そう言いながらバインダーに挟めた紙にごちゃごちゃと書いていき、占いの鑑定結果を告げるように口を開いていく。


「明智秀頼さん。あなたは自分で明智秀頼という仮面を被って傷付いても極力抑えられるように努力してますね」

「どういうことですか?明智秀頼だし当たり前じゃ?」

「要するにドラマの俳優さんが役にのめりこむように、愚民もなにか明智年という役にのめりこんでいますわね」

「…………」


本当に察しが良くてこちらも言葉に詰まる。


「あとは直近の占い結果を告げるなら女難の相が出ていますわね」

「ほう……」

「今月いっぱい、年下の女性には注意しなさい」


「いつも出てる……」と、女の子の声がボソッと聞こえた気がした。





──その占いから数週間後……。






「色々女性トラブルに巻き込まれた……」

「妾は常に正しい」

「もうお前の占いの的中率高過ぎて嫌……」

「来月までの占い結果教えようか?」

「いや、しばらくサーヤとは占いなしの関係でいたい」


達裄さんが笑いを噛みしめながらあの動画の後日談の撮影をしていたのであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る