84、遠野達裄は伝え忘れる

事前に提出していたらしいサーヤの紹介文の資料を読み始める達裄さん。

こういうのは事前に読み込むべきものではないのかとなんとなく思っていたが、あえて口には出さない。


「なるほどねぇ……。佐山ゆり子、占い師しながらビジネスの展開を狙っていくと……。現役女子大生!はぇー、若くてガッツがあるな!」


ガッツがあるという、サーヤの評価としては甚だ疑問があるのだがそもそも将来を考えていないし、なんなら将来とかくる前に死んでいるかも……と直視するのをやめている俺に比べたら100倍凄い人である。


「まぁ、確かに人を教育するために動画コンテンツを使うというのは最強なんだよな。動画のチャンネルを育ててもっとこの店の売り上げアップをしていこうか」

「凄いコンサルの先生みたい……」

「今はコンサルの先生してんだよ」

「愚民と先生はどんな仲なの?」

「たまに身体を鍛えてもらう程度だよ」

「え?物理?体育会系にマーケティングとかわかるのっ!?」

「あ、大丈夫よ。俺、体育会系とか嫌いなタイプだから。だらっと生きることに全力なタイプ」

「もっと不安なんだけど……」


信頼も信用もないサーヤは達裄さんを不安げに眺めるが、そんな心配は一切必要ないことに気付いている俺はフォローに入る。


「この人、天才肌だからなんでも出来るんだよ……。サーヤもこの人に関わればわかるよ」

「秀頼はそう言うけど、俺は器用貧乏なんだよ。なんでもそこそこしか出来ない欠陥人間ってわけ……」

「なんでもそこそこが全部最強レベルな奴が一体なにを……」

「だからぁ、変な持ち上げ方やめろっての」

「愚民、先生のこと好きなの……?」

「めっちゃ好き」

「きっしょいなぁ……。好きなんて言葉軽々しく使うもんじゃないよ」


達裄さんを褒めただけなのにすっげぇ嫌な顔をされた……。

多分数少ない彼のファンであり、彼の理解者でいたいのにそういうのをこの人は簡単に拒むのだ。

そういうところが憧れるんだけどね。


「とりあえずアカウントの添削に入るか。毎日大凶チャンネルねー……」


サーヤのチャンネルに難色が混ざった声を出して、うーんという顔の達裄さん。

言いにくいことが溜まったのが、この時点で察してしまった。


「佐山さんのアカウントだけど……」

「はい!」

「まるでダメだね」

「なんですと!?」


重くならないようにしれっとした感じで突き付ける。

彼なりの優しさである。


「まずチャンネル名の●●チャンネルみたいなチャンネル名にチャンネルって名前付けるのはダメ。芸能人とかの真似し過ぎなんだよ。なんの記憶にも残らない。毎日大凶チャンネルとか見ているだけで毎日ネガティブになりそうなチャンネル名めダメ!アイコンもなにこれ?なんで大凶のおみくじをアイコンにした?アイコンにロゴとかマークとか絶対ダメなやつだから。写真または人が描かれたイラストにしな。人が運営していることをアピールするべきなんだから」

「はい……」


その優しさも一緒。

次から次へとダメ出しをしていく。

先ほど俺が撮影した動画を再生すると「ぎこちない笑顔」と一蹴される。


「顔出ししない方が良いレベルでぎこちない」と本職のコンサルタントのようにあれこれとアドバイスをしていく。


「別に顔出しは必須ではないんだよ。普通にスライドを読み上げるナレーションチャンネルでも良いわけだしね。笑顔が苦手ならV路線でも良いか?でもV路線だと変なファンが付いて占いのサービスを受ける目的から変わるか……?」


達裄さんもあれこれと考えては、答えは出せないところもあるようだった。

こういう面を見ると、彼もロボットではなく普通の人間だと思い出させて親近感が沸くのであった。


「でも笑顔なんて妾にはとても……」

「じゃあなんで笑顔キャラでいこうとしたの!?」

「んー……。ちょっと待って。今、暇かな?」


そう言うと達裄さんはどこかへ電話を掛けた。

その電話がすぐに出て、「もしもし、今暇?」と声を掛けている。

「メッセージを送るからその格好でここまで来て」と淡々と指示出しをしている。

通話を終えると、チャンネルのダメなところを再び挙げつつサーヤに修正の指示を送っていく。


「最近はAIで占いさせて儲けるノウハウも出回っているから、それに負けないファン作りをしていく」などなどサーヤに向き合っていき、彼女も疲れた顔をしながらパソコンに向き合っていた。

特にすることもない俺はサーヤのパソコン画面を見つつ、ちょくちょくと彼女たちにラインの返信を出したりしていた。

そんなことが30分も続くと、達裄さんのスマホがバイブを鳴らす。


「お?来た来た」と誰かがこの場に来たことを告げた。


「あまり妾の店にお客さん以外を呼ぶのはやめて欲しいのだけれど……。ただでさえ金の落とさないカメラマンがいるのに……」

「俺のこと言ってるー?」

「あら?自覚あるんだ?」

「ここでも立場が下か秀頼……」


なにか酷い言い掛かりをつけられる。

サーヤも相変わらず毒舌なのは久々でもまったく変わらない。


「で、誰呼んだんすか達裄さん?」

「え?お前が崇拝している身近なアイドル」

「…………は?」

「お前、ちょくちょくインスタ見てるあの子」

「…………」


なんでだろう……?

思い当たる人物が1人しか思い浮かばない。

そんなバグで脳がフリーズ状態になりかけた……。


「え?彼女、俺いるの知ってる?」

「あ、伝えるの忘れてたよ」

「あぁ、そう……」


あー、マジかぁ……。

なんとも言えない気分にさせられるのであった……。









秀頼のように達裄の後方理解者面している者は案外多い(悠久も達裄の妹たちにも当てはまる)。

悠久と秀頼で達裄を語り合ったら一晩では終わらないほどわかりあえる。


因みに秀頼も西軍のメンバーやタケルからも同じ目で見られている。

師弟揃って人泣かせである。

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