83、サーヤの挑戦

「こんにちはーっ!毎日大凶チャンネルのサーヤでーす!今日から毎日、あなたをズバズバ占っていきまぁす!」


レンズの向こうで怪しい占い師のハピハピとした猫を被った声を上げている。

いやぁ、元気元気。

それしか感想がなかった。


「……どう?」

「いや、普通にキモい」

「潰すぞ、愚民がっ!」

「さっきの笑顔は何処に!?いでででっ!?ちょ、やめろっ!?」

「妾渾身のドロップキーック!」

「ただのコブラツイストじゃねぇか!?いでででっ!?あ、ちょっ、やめて!?カメラ落とすから!壊すぞ、カメラ!」

「カメラ壊したらグレードアップしたカメラ買わせる!コブラツイストーっ!」

「いでででででっ!カメラ投げつけつて鈍器にすんぞっ!?」


1分ほど、サーヤから理不尽コブラツイストをくらいながら関節を攻撃されてしまった……。

攻撃から解放されると「っぅ……」と少し涙目になる。


「良かったーっ、カメラ無事……」

「カメラマン、無事じゃないんだけど……。なんでカメラの心配すんの……?」

「愚民ごときが心配されたかったら、もっとクラスチェンジするのね。おほほほほ」

「くっ……」


久し振りだがサーヤ節全開である。

今回はいきなり彼女の店である暗黒真珠サーヤの店内で、動画の撮影をさせられていたのである。

やらなきゃいけないことが山ほどあるはずなのに、サーヤとこんなしょうもない遊びをすることになった理由は大事な用があると呼び出されたらこんなことをさせられたという流れがある。


「大体なんで俺がカメラマンなんだよ!他にも友達とかいるだろうがっ!あ、友達少ないのか……」

「失敬ね、愚民。確かにカメラマン候補のフレンズならたくさんいるわよ。ただ、動画撮影を数年に渡り長期間行うことを加味すると将来旦那にする奴にやらせた方がコスパ最高なのよ」

「ナチュラルにサーヤの旦那にされてるんだが……。コスパでカメラマン決めるなよ……」

「むふふふふっ。妾の夢はファミリーで仕事をして、仕事中もファミリーと離れない家族像をすでに浮かべているの」

「意外と甘々なんだなお前……」


普段のなに考えているのかよくわからないサーヤの家族像が至極まっとうで驚かされる。

こんな糖分の無さそうな彼女から、糖分高い甘々な夢を聞かされて風邪をひきそうである。


「そんなわけで、愚民には妾専属カメラマンに認定する」

「すんなよ。どんなわけだ」

「コスパ最高!」

「コスパでカメラマン決めんな。別にコスパってそんな万能な言葉じゃないからな?」


コスパと言えば納得するほど魔法の言葉でもなんでもない。

いつから世の中、こんなにコスパを考える若者だらけになったのか。

前世では、そこまでコスパみたいな思考はなかったはずなのに……。

カメラを弄りながら、サーヤの傍若無人っぷりにタメ息を漏らすのであった。


「大体、妾の笑顔がキモいってなによ?」

「いや、君そんなキャラじゃないでしょ?ズバッと辛口にもの申す細●数●みたいな人でしょ!?スタヴァで働く店員さんを見習って!?」

「なんで妾がスタヴァの店員を見習わないといけないの!」

「そんなサーヤが笑顔キャラは無理あるよ!もっと自分にあったキャラで押し出さない!?辛口に見下すキャラとかそういう感じのさ!」

「愚民?妾のこと、女王様かなんかと勘違いしてない?」

「まさに女王様と思っているところだが……」

「愚民の中のサーヤというキャラに陽キャのスペシャリストという軌道修正が必要ね……」

「変わんないと思うよ。どの辺がスペシャリストなんだよ」


もうサーヤのイメージが出来上がっている。

今さらニコニコしたサーヤは違和感の塊である。


「毎日大凶チャンネルなんてネガティブな名前のチャンネル立ち上げる奴がニコニコなのがどうなのって話よ」

「笑顔でズバズバ切り刻む感じが出て良いじゃない!それに、チャンネル立ち上げに伴い、マーケティングのプロが今から来るのよ!」

「はぁ?マーケティングのプロ?」

「妾の占いの師匠の息子が来るの」

「サーヤの占いの師匠……?」

「遠野川江の息子よ」


なんか聞いたことあったな……。

世界的に有名な占い師遠野川江の弟子が自称なのか、本当なのかはまったくわからないが……。

そんなことを考えていると、暗黒真珠サーヤの来客を告げるドアが珍しく開いた。


「こんちゃーす……。あ、秀頼じゃん」

「げ……。遠野ってやっぱりあんたかい……」


見覚えのあるイケメンストレートの染めた感バリバリの金髪兄ちゃんが現れた。


「彼がマーケティングのプロよ!」

「あ、マーケティングのプロです」

「その人、マーケティングのプロじゃないよ」


いつも暇そうにしているフリーランスだよ。

何故か今日はマーケティングのプロを名乗っていた。

いつも神出鬼没な謎の男である。


「あんた……、よく見ればサンクチュアリでよく見るお客さんじゃない……」

「どーも、遠野達裄です。君もよく突っ込み役の友達と一緒にサンクチュアリに出入りしてるよね」

「サーヤに本当に友達がいた……?」


よくよく考えたらサーヤの記憶を失う前の友達もいるのだが(サーヤがラスボスのギャルゲーのキャラクター)、それとはまた別に友達がいるという事実に謎の衝撃が走る。

何故か咲夜と同じボッチオーラが見えてしまうからだ。


「なにに驚いてるのよ、愚民!?」

「え?サーヤの友達ってどんな人?」

「すっげぇまつ毛が長いめちゃくちゃレベル高い美人なんだけど薄幸そうな子」

「当たってんのがムカつくわね!って、なんでマーケティングのプロが愚民の友達なのよ!?」

「別に友達なわけじゃないけど……。師匠……?」

「あ、秀頼の師匠です」

「自己紹介の仕方がさっきと同じ!」


この軽さがザ・遠野達裄!って持ち上げたくなる。


「愚民の知り合いというだけで不安が大きいのだけれど……。あんたにコンサル代30万注ぎ込んでいるのだけれど大丈夫なんでしょうね?」

「それはあんたの頑張り次第だよ」

「しれっとサーヤに責任転嫁してんな……」

「あのねぇ、コンサルは確かに稼がせるのが仕事だけど俺はその方法と環境を提供するだけ。稼がせてもらう意識だったら成功しないのよ?わかる?」

「そんなもんなんだな」

「なにこれ?愚民にコンサルしてる形になってない?」


こうして、なんかよくわからないがサーヤのコンサルの先生として遠野達裄が呼ばれたみたいであった。

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