81、エニアは探す

『…………』


先ほどたちまでは少年少女らの活気に包まれていた山であったが、その数時間後には静寂が広がっている。

意図しない限り、こんな山奥まで人が来ることはあまりない。

そんな中、1人の幼女がバスや車などの移動手段もなくすたすたと歩いていた。

地層が人工的に壊された箇所を見付け近寄って行く。


『くはっ?この窪み……、愛紗が封印した箱の形状か……?』


なにか悪い予感をしたエニアは1人、山奥へと引き返していく。

そこへ、かつてホムンクルスである彼女が封印した同族の座標へと訪れると掘り返されてしまっていた。

そして封印の証である黒い箱まで丁寧に持ち帰られてしまっている。


『……』


そして、どことなく懐かしい神の残り香のようなものまである。

この場所で、誰かがその箱を見付けてしまい封印を解いてしまったようだ。


『くはっ。20年ほどしか持たなかったか……』


同族殺しを企む神の中でもイレギュラーな神。

平等とされる神の柱の中で、頂点を狙いそして駆逐されし愚かな神。

選択を司る神・エピレゴ。

傲慢を司る神以上に傲慢を働き、布切れになり果てしアホ。


『…………くはっ!なにも見てないし、気付いていない。面倒ごとはやめだやめ』


そして気まぐれな概念を司る神は考えるのをやめた。

エピレゴ程度どうとでもなるし、現在は封印されて布切れの存在。

そんな布切れに思考のリソースを使うことすらエニアという神は拒否するほどに怠惰であった。


『見付けたら潰す。見付けなければ放置。くははっ……』


エニアは面倒になり、そのまま街へ帰還することを決める。

この世界の神は人々が思い描く以上に人間味に溢れていて俗物なのである。






─────






「サンドラさぁ、どれくらいの間封印されてたん?」

『あへっ。2年程度だ』

「意外と短い!」


封印なんて大それた表現をするくらいだ。

500年とか数百年単位の封印かと思っていたが、そんなお手軽な封印もあるらしい。

刑務所で2年過ごした程度の罰のようだ。

まぁ、体感する方は長いんだけどね!

数字にするとそんなに長く感じない不思議!


『あへぇっ!2年ぶりの風呂だぜっ!』

「……なんか汚いなぁ」

『汚いとか言うな!普通に傷付く!洗濯機でびちゃびちゃになったんだからもうキレイだろ!?』

「あ?サンドラ、水で濡れた雑巾を拭いただけでキレイとか言うタイプ?」

『そんな派閥は知らぬが……。あへっ』


ジャージを脱ぎ、下着を脱ぐ。

雑談をしながら風呂に入る姿になった俺はサンドラを摘まみながら風呂場に入っていく。


『あへっ!?おい、なんでヒデヨリが裸になっている!?』

「風呂入るに決まってるからだろ」

『待て待て待て待て!?オレ女神、女神。男神じゃねぇんだぞ!?』

「はぁぁ?何言ってんだお前?お前のどの辺が女神なんだよ?せいぜい布神じゃねぇか」


女神というのは永遠ちゃんみたいなオアシスしか名乗ることの許されない最上級の褒め言葉である。

猫かもよくわからないぬいぐるみに対して女神とか呼んでいたら頭がおかしい人である。


「グダグダ言ってんじゃねぇよ。行くぞ」

『あへっ?摘まむな!?そこヘソ!?ヘソだから!貴様、ヘソフェチだな!?』

「残念。足フェチと腋フェチでした」

『うわっ、キモッ!』

「キモくて結構」

『身体を取り戻したらお前に足コキしてやる。無様に喘ぎさせてやる!』

「はいはい。是非お願いしますねー」


サンドラの冗談を受け流しながら本物の猫のように暴れまわるサンドラを捕まえて、風呂場を開ける。

おばさんが用意してくれた1番風呂はちょうど沸き上がっていてとても気持ち良さそうな湯である。


『あへっ!良いではないか!良いではないか!オレのプロフィールの好きなものにお風呂が追加されるぞ!』

「お前のプロフィールさっきからしょっちゅうアップデートされてないか?あと、絶対プロフィール表出すなよ?」

『出すな出すなは出せフラグ』

「要らん要らん。誰もサンドラのプロフィールに興味ないんだから」


自由気ままなサンドラに振り回されつつ、シャワーを出す摘まみを捻る。

最初は冷たい水が放出される我が家のシャワーは、お風呂の温度調節のために使われる。

かき混ぜながら、良い具合の温度を作っていく。


『あへっ!シャワーも良いな!おい、風呂にばかり入れてないでオレにも掛けろ!』

「ん」


サンドラの命令に従い頭から冷水をぶっかける。

その温度で跳ね上がったのを見て、まだお湯になってないのに気付きまた風呂にシャワーをぶっこみお湯になるのを待つ。


『あへっ!?冷たいな!?凍える!?』

「ウチのボイラーボロいからお湯出るの時間掛かるんだよ……」

『わかってるなら忠告とかそもそも水を掛けないとか気遣いが出来ないものかね?』

「あ、そろそろお湯だ」

『聞いてねーなこいつ……。あとさ!そのデカイ息子をタオルで隠すくらいしろよ!』

「なにをカマトトぶってんだよ。お前なんか出会った時からずっと全裸だからな」

『はっ!?エッチヒデヨリ!』

「なんでそうなるんだよ!?そういうのは俺じゃなくて絵美やアリアに言ってやれよ!」


箱に封印され、薄汚れた布切れのサンドラとこのまま一緒に風呂に入るには抵抗がある……。

やっぱり最初は人間と同じく風呂に入る前に身体を洗うところからスタートする必要がありそうだ。

…………ぬいぐるみはボディソープとシャンプーのどっちで頭を洗ったら良いのか本気で悩みの案件である。


「とりあえずお前、今日だけは桶に貯めたお湯で風呂入れよ」

『あへっ!?なんだよその生殺し!?オレにも大きい風呂に入らせろぉ!ぬいぐるみの抵抗するぞ、拳で』

「今のお前汚いし……。あと、風呂入ったら溺れないか?」

『オレ様、溺れない』

「洗濯機で死にかけたのに……?」


今後の生活で色々と揉めることが増えそうな気がする、そんな夜が始まっていく。










Q.これから神とか関わるの?

A.別に……。

この辺のやたら複雑そうな世界観は全部桜祭こと綾瀬翔子のせいである。


綾瀬の悪い癖……彼女の創造するゲームの世界はラブコメ・ファンタジー・SF・伝記・ラノベなどすべて世界観が繋がっているというふざけた設定こだわりのせい。

神云々はジャンルすら違う別ゲー、なんだろうね……。

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