25、空に誓う
「お前ともなんだかんだ長い付き合いになっちまったもんだな」
「まったく……。師匠といると知り合いが更新されてばかりだな」
ヨルとゆりかが並び、麻衣から事前に聞かされていたアフォルスと向き合う。
「でも、お前の露出が高過ぎるその衣装はなんなんだよ!」
「露出が高いのではない。動きやすい我の本気スタイルなのだ」
「事情を知らないとただの痴女だよ」
味方なのにゆりかの忍装飾にはヨルも突っ込まざるを得なかった。
秀頼の初対面時に現れた時のくノ一スタイルはゆりかにとっても色々な意味で特別なのだ。
「HENTAIガールにポニーガールと驚かされたが、今ここはアフォルス様無双タイムだ。邪魔されたくなかったらそこを退け、ガールたち」
「残念だが岬たちを返してもらう」
「あたしはあの2人はどうでも良いが悪人は見捨てておけない」
「そうか……。ならお前らも商品にするまでっ!」
ザッ、と素早い一瞬で間合いを詰めるとゆりか目掛けて触ろうと接近するアフォルス。
ひらりとゆりかがかわしながら、ギフト『アイスブレード』を使用して氷の刃を2弾射出する。
「がっ!?そ、そんなギフトが……!?」
隙だらけのアフォルスが避けることも出来ず、腕でガードをすると、右腕と左腕に1本ずつの刃が刺さり流血した。
「いてぇ……。いてぇよぉ……」と喚いて、アイスブレードを抜いていく。
「良いねぇ!グッド!グッドっ!!グゥッド!!!これは高い嬢ちゃんが揃いも揃ってる!ラッキーデイ到来じゃん!」
顔が良い女。
プラスして今次元に引き込んだ2人はギフト使い。
電撃と好感度操作というレアギフト。
それだけでも儲けものなのに、氷の刃を無から生成するゆりかのギフトもまた珍しい能力のギフト。
この3人だけで、非ギフト所持者20人分と釣り合うほどの金が手に入る。
ゆりかを捕まえない理由はなかった。
「触ってやるぜぇぇぇ!『次元牢獄』!」
ギフトを発動しながらゆりかに向かっていった時だ。
ゆりかとヨルの位置をスイッチするために彼女らは動き出す。
先ほどまでは前衛にいたゆりかが退いて、後衛に陣取ったヨルが前に出る。
「チッ。まあいい。ポニーガールから次元に引きずり込んでやるよ!」
『次元牢獄』が発動し、男の手から現れる次元の狭間にヨルの身体が引っ張られそうになる。
──が、それだけ。
アフォルスはその違和感と同時に異変を感じ取る。
「な、なぜ吸い込まれない!?ブラックホール!?WHY!?WHY!?」
「残念だが、あたしにそんなちんけなギフトは効かねぇ!」
「ホワホワWHY!?」
「アァァァンチギィフゥトォォォ!」
ヨルはサディスティックに嗤う。
その笑顔はアフォルスにとって舐める対象であった女を
後ろから眺めていたゆりかは「どっちが悪役かわからないな……」とぼそっと呟いた。
ヨルの顔を見なくても顔芸をしているんだろうなと親友のことが手に取るようにわかってしまったのである。
「てらてらりー」と鼻歌を歌いながらヨルは次元に手を突っ込んでみせると思いっきり何かを引き出してみせた。
次元から引っ張ったものが地面に落ちると「うわっ!?」「ひっ!?」と2つの悲鳴のような声が上がった。
「もっと優しく扱えっての……」
「初対面の奴を助けてあげてる優しいあたしに何を文句言ってんだよ」
「自分は初対面じゃないでーす」
「岬!五月雨!」
ヨルは『アンチギフト』の力で次元に引き込まれないどころか、ギフトで犠牲になっていた2人も救出してみせた。
アフォルスはギフト所持者である自分以外に『次元牢獄』から人を出し入れする例など見たことないし、あり得ない光景に絶句した。
「うわっ!?うわわわっ!化け物!化け物デェース!」
「あと、テメエはすっこんでろっ!」
「ゴールド!?」
ヨルがアフォルスの金の息子を狙い蹴りあげた。
白目を向いて、カニのように口から泡を吐きながらうつ伏せに倒れた。
『歩くカタストロフ』と呼ばれた2人の兄弟は仲良く地面で眠りに付いた。
「なんて恐ろしい先輩なんだ……。自分コワコワっすよ……」
「お前もあたしの目が黒い内に余計な手段を取ると拷問して殺すからな」
「ひぃぃぃ!?死亡宣言ですか!?冗談っすよね、ヨル先輩!?」
「…………」
「なんで自分から目を反らすんすかぁ!」
ボタンの掛け違いが少しでも起こっていればヨルの拷問の被害者になっていた茜はヨルの存在にぶるっと震えたのであった。
「あとは岬と五月雨に任せる。あとはどうせギフト狩りの息がかかったギフト管理局が2人を逮捕する手筈なんだろう」
「あぁ。茜がする」
「ちょっと岬先輩!?自分、ギフト狩りの息がかかったギフト管理局の電話番号なんか知りませんけど!?」
「何あんた?先輩に焼きそばパン買ってこいみたいな
「してないですぅー!」
「後輩イジメはほどほどにしろよ岬……」
ゆりかが釘を刺すと、麻衣は舌打ちをしながらスマホを取り出して後処理をはじめる。
「今からギフト狩りの事後処理班の番号をラインに送るわよ」と麻衣が告知すると「そもそも岬先輩のラインも知りませーん」と茜が返事をしていた。
「案外仲良さそうだな……」
「ほっとけほっとけ。帰るぞ、ゆりか」
ヨルが帰路に付くと、ゆりかも彼女について行く。
彼ら兄弟はこれから裁判によって処遇が決まるが、誰の目から見ても、もう自由に悪事は出来ないだろうという見解であった。
「さっき夕食食ったばっかりなのに腹減ったな。パフェ食いてえな。ファミレス行こうぜゆりか」
「あぁ。パフェ食べに行くか。それは別に構わないがお前の奢りなんだよな?」
「は?なんでだよ?むしろギフト狩りと無関係なあたしを連れ出しておいてなんでこっちが奢りなんだよ!ゆりかの依頼こなしたんだからゆりかの奢りじゃないか!?普通はよ!」
ヨルはゆりかに奢ってもらう気満々でいたが、割り勘を通り越してなんで自分が金を払う流れになるのか一切理解出来ていなかった。
だが、ゆりかにはヨルに奢ってもらえる1つの材料があった。
「ヨル。お前は師匠──明智が好きなんだよな?」
「けらけらけら。当たり前だ。というか明智はあたしの彼氏だ」
ヨルがわざとらしく笑いながらゆりかを見る。
……が、ゆりかは墓穴を掘った揚げ足を取るように得意げな表情を浮かべる。
その顔にヨルは嫌な予感を感じた。
「そういえば、我とヨルで前に賭けてたよなー」
「…………え?」
「ヨルが明智に惚れるかどうか。確かパフェとケーキバイキングと1ヶ月ぶんの寮で支給される夕食のおかずを賭けたんだよ」
「…………」
「そういえば我、どれももらってないな。愛しの明智にヨルが惚れたってのに」
「……してないんじゃないか?うんしてないよ」
「ほう……」
ヨルは額に滝のように溢れた汗を浮かべながら「知らねぇなぁ!」と白々しく頷いてみせる。
「そんな覚えてないこと時効だよなぁ。証拠があるなら認めたのに残念だぁ」とわざとらしい言い訳をツラツラと並べはじめる。
ゆりかは白い目になりながら、スマホを操作するととある音声が流れた。
『じゃあ、ヨルが師匠に惚れるに我は賭ける』
『ぜってぇねーし!そんな無謀な賭け乗る方がバカだって後悔させてやるぞ!けらけらけら』
『か、賭けに負けた方がパフェを奢る約束だ!期間は半年以内だっ!』
『おー、おー、虚勢張っちゃって。半年間、明智に恋しないだけだろ?楽勝だぜってんだ!』
『け、ケーキバイキングも奢りだぞ!?』
『おー、良いぜ!』
『い、い、い、1ヶ月間!寮で支給される夕飯のおかずも勝った側に全部渡すも追加だぞ!』
『逆にどんな自信があるん?』
そのやり取りは確かにヨルとゆりかの会話であった。
あの時、ゆりかはこんな状況もあろうかと録音をしていたのであった。
因みにゆりかが賭けに負ければこの音声を削除する予定であったが……。
「ガッツリ言ってたな」
「…………と、取り消し!取り消し!ムリムリムリ!あたし金ないし!」
「こんなしょうもないことで保護者の悠久から金貰えないし!」と必死に訴えるヨル。
先ほどの男の金の息子を蹴りあげた
「あ、因みに取り消すと……」と呟きながらゆりかは続きを再生する。
『取り消すって言った方は1週間の夕飯全部渡せよ』
『ぐ……』
この録音の会話では主導権を握っているのはヨルであった。
しかし、この現場では優位に立っているのはゆりか。
完全に立場が逆転してしまっていた。
「…………」と、何も喋れないままヨルは顎に指を置きながら考えて足を動かしていた。
2分も考えたあとに「取り消すから1週間ぶんのおかずで許して……」とゆりかに頭を下げた。
「やれやれ」と、こうなる気はしてたとゆりかは呆れの目でヨルを見ていた。
「わかった、わかった。1週間のおかずで許してやるから」
「すまねぇ、ゆりか……」
「じゃあ、パフェ行くぞヨル」
「あ、あたしに奢らすつもりか!?鬼め!?」
「我が奢ってやるから」
「もう優しい!ゆりかちゃん大好きぃ!」
「チョロいなお前……」
スタスタ歩くゆりかに抱き付くヨルを引き剥がしたりしながら2人はパフェを目的にファミレスを目的地に移動した。
なんやかんや、ゆりかも義理固いのであった。
「ふぅ……」とゆりかは息を吐き出しながら空を見上げた。
(見ていてくれましたか師匠!?我は、あなたに近付いているでしょうか!?いつか、絶対に我は師匠越えを果たしますぞ)
彼女は空に誓った。
「あと、恥ずかしいからそのHENTAI衣装脱げよ」
「え……?」
心外そうなゆりかの声が辺り一帯に響き渡った……。
──一方、その頃の師匠。
「秀頼きゅぅぅぅぅぅん!なんで!?なんで秋菜ちゃんは死んじゃうの!?こんなのないよぉぉぉ!」
「でも、見ろよ絵美。ほら、秋菜ちゃんは笑顔だぜ……」
「うぇぇぇぇん!やだぁ、マサキのヒロインは秋菜ちゃんじゃなきゃダメだよぉぉぉ!」
「でも美樹ちゃんルートの秋菜ちゃんは生存する!」
「違うのぉぉぉ!秋菜ちゃんが彼女に相応しいのぉぉぉ!」
絵美と一緒に泣きゲーと呼ばれるギャルゲーの初見プレイを感動しながら楽しんでいたのであった。
†
ゆりかが流した録音はこちら。
第11章 悲しみの連鎖
9、上松ゆりかとヨル・ヒルの賭け
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