24、無敵VS最強
「どこの回し者か知らんが俺は女、子供であっても遠慮はしない主義でね。人間平等を掲げている世界に失礼ってものだろう?」
「やっちまえ、兄貴!」
ジョンは『鬼の遠慮なし』の異名の名の通り、振り絞った右拳を前衛にいた五月雨茜の右頬をかする。
皮膚の表面が削れ、一筋の血の糸が垂れてくる。
「くっ……!?」
「落ち着け。そんな傷じゃハエだって死なないよ」
「これは警告だ。次に拳を振る時は頭を吹っ飛ばす」
ターゲットの威嚇攻撃に茜は心の底から恐怖の感情が支配する。
ギフト狩りに身を置くという決意がまだまだ足りていない。
瀧口の赤坂乙葉の殺害をわざわざ彼女に命じたのはその一点をすでに見抜かれていたからであった。
「でも、自分は……。それでもギフトが嫌いです……」
「何をちっさい声で呟いてんのよ!?」
「岬先輩、作戦続行です」
茜は血を指で拭いながら、尚も戦う意志を見せる。
手を構えながら、自分もギフトをいつでも発動出来るように準備していく。
「よし、警告は済んだ。さぁ、次は本気で気絶させてお前を売りさばく」
「兄貴のロックオン発言さぁ!やっちまえっ!」
ジョンの2発目の素早いパンチが繰り出される。
茜はそのパンチを敢えて前に出て行きながらかわしていく。
そのまま兄を素通りして後ろにいた弟に向かっていく。
「なんだこのガキ!?俺に犯されたいってか!」
弟のアフォルスは、茜を掴む姿勢で手を振り下ろす。
彼のギフトの間合いは、茜と同じである。
それを理解していた茜は捕まれないようにしながら、また避けながらアフォルスの身体に触る。
「自分のギフトで仲間割れしてください。『絆断ち』」
「っ!?」
茜は弟に触りながら掌から『絆断ち』を発動させる。
五月雨茜のギフトは、言うなれば触っている人間の好感度調整である。
好感度というのは、見えないパラメーターでこれまで歩んだ人生の積み上げで出来ている。
そのパラメーターを自由自在に操れるのが茜の真骨頂だ。
『絆断ち』なんて名前をしているが、当然わざと好感度を無理矢理上げて本来の絆を破壊するやり方も可能だ。
茜はアフォルスに対して、マイナスの好感度を注入していく。
これで仲違いをさせるのが、彼女の作戦である。
完了すると、茜は手を離し成り行きに任せた。
「兄貴ぃぃ……。あんたのナチュラルに俺を見下しているところが嫌いなんだよぉぉぉぉ!」
「ほぉ……」
「3年前、俺の女を寝取ったあの時からずっとずぅぅぅっと殺す機会を伺っていたんだよぉ!」
「!」
バギッ!バギッ!と、兄であるジョンが弟を殴りつける。
「ぐあっ!?」と言いながら仰け反る弟の服の掴みながら、兄が睨み付ける。
「そういう話は後だ。優先順位はこの女らだ」
「てめぇ!誰に命令してっ──」
「聞こえねぇか!愚弟!」
「っ!?」
ライターの炎を躊躇いなく弟に向ける。
『服従猛獣』の異名を持つ彼にとって、先ほどの味方が敵に寝返ったケースは30を越える。
その全ての寝返りをこちらに引き戻してきた彼にとって、裏切りのやり返しなど他愛もなかった。
だから、簡単に茜の作戦は打開されてしまった。
「てめえの話は後で聞いてやる。まずは女のガキを蹴散らせ」
「わ、わかったよ」
「なっ……!?」
自分の描くシナリオが大きく外れ、茜の目の前に殺気だった弟がこちらに向かってきた。
上手くいかない新人の作戦計画に麻衣が舌打ちをする。
「チッ……。茜、あんたは本当にポンコツだな」
「ごめっ、ごめんなさい岬先輩……」
「だからクソ雑魚なんか足手まといだってんだよ。アタシじゃなくて関が出向けっての……」
主人公のタケル並みの茜の無能っぷりを晒す茜に麻衣は呆れたため息を吐き出す。
次の作戦に移行を告げる指パッチンを鳴らす。
それを聞いた茜は麻衣に頷く。
第2作戦『各個撃破』になる。
麻衣は脅威の方である兄と向かい合う。
「俺はもうギフトを使う。容赦なしだ」
「クソ雑魚は何してもクソ雑魚なんだけど?」
「口が悪い子にはお仕置きだ」
ジョンは取り出したタバコを口に咥えて、ライターに火を付ける。
準備完了。
彼の本気モードの始まりだ。
「へぇ。それがあんたのギフト発動条件か」
「
タバコを吸っている3、4分の間、彼は無敵になれる。
車に轢かれても車が壊れる。
戦車のミサイルが放たれてもミサイルが粉々になる。
文字通りの無敵なのだ。
文字通りの無敵なのだ。
今の彼は、アイリーンの100倍の強さを誇る。
タバコの火と煙が、彼の強さの象徴なのだ。
「死に晒せぇぇぇ!アチョぉぉぉ!」
鋼鉄をも粉砕するパンチが麻衣に放たれる。
しかし、彼女は余裕の笑みは崩さない。
何故なら……、やはり彼女にとっては……。
「だから──クソ雑魚だっての」
電気の壁が麻衣の前に現れて無敵のパンチを防ぐ。
これが麻衣の暴力の化身のようなギフトであった。
「ほぅ。ギフトが無ければ感電してただろうな」
「アタシは電撃を自由自在に操る最強のギフト使いなの。あんたが無敵なら、アタシは最強。無敵と最強はどっちが強いのか、争ってみる?」
岬麻衣の最強の自信はすべてギフトが由縁である。
彼女のギフトは、かなり稀少性が強いほぼ一切制限がないのだ。
その破壊力は、数年前とある村の住民をすべて消す程度のものだ。
もうその村は地図からも消えている。
それの元凶が岬麻衣という女であった。
その破壊力は、ギフト狩りであっても敬遠するものであり、瀧口が彼女が嫌いであっても野放しが出来ないという原因である。
諸刃の剣の強さであり、腫れ物扱いされている原因にもなっている。
「無敵VS最強。憧れるシチュエーションではないか。……だが、無敵は文字通り『敵が無い』から無敵!無敵の方が強い!」
連続して拳を振り回すと電撃の壁が徐々に綻んでいく。
「なっ!?」と、麻衣も不測の自体に目が見開く。
「それに俺は拳より、蹴りの方が強い!」
バシュ!、と途切れた音がする。
麻衣がギフトを操っていないのに、電撃の壁は消失する。
無敵の名は伊達ではない。
「ふっ。『無敵のジョン』の異名は捨てたもんじゃないだろ?」
ふぅー……と、タバコの煙を口から吐き出す。
わざと麻衣に吐きかけると、プッチーンと怒りを露にする。
「くっせぇんだよクソジジイが!」
「タバコの残りから制限時間は2分30秒程度か。1分はお釣りがくるな。無敵タイムは終わらない」
「バカかよ。制限時間?アタシの最強は制限時間などない。最強が無敵より上!」
「はっ。単細胞が。制限時間なんて言っているが耐えられた奴なんかいないんだよ!」
「なら、試してやるよ!『電撃砲弾』」
バリリリリリッ!
麻衣がギフトを行使すると、ジョンに直撃で落雷が起こる。
しかし、彼は涼しい顔をしてその場に立ちっぱなしだ。
雷程度、無敵の前では蚊が止まった程度だ。
「無敵だ!残念だな。俺はまだ立ち上がれる」
「残り制限時間2秒といったところか」
「なっ!?」
彼が吸っていたタバコは既に灰になっていた。
それもその筈。
彼はギフトで無敵になっていたが、タバコは無敵ではない。
落雷により、タバコは燃えてしまい黒い煤になり、消失した。
「ぐああああああ!?無念んんんん!?」
無敵能力が消えた瞬間、雷の余波で感電してジョンの身体はバチバチと跳ねた。
悲鳴を上げながら無敵は崩れた。
『無敵の艦隊人間・ジョン』の異名を持つ彼は、最強に破れたのであった。
白目になり、失禁してズボンの真ん中が濡れた彼を見下ろした麻衣は、まだ戦っている茜の方向へ視線を送った。
「はぁはぁはぁ……」
「すばしっこいなぁ、女の子!」
「ぐっ!?」
「俺は兄貴と違ってじわじわ女をいたぶるのが大好きでなぁ!」
麻衣の視界に写っているのは、アフォルスに追いかけまわされ、無様に地面に転がされた五月雨茜の姿であった。
「あっちゃあ……」と出来の悪い後輩の姿など見ていられないと目を瞑りため息を吐いた。
「俺のギフトが何かわかってここに来たんだろ?『次元牢獄』、人を次元の狭間に引きずり込む力だ!」
「あ……」
『次元牢獄』。
五月雨茜のギフトと同じ触った相手を対象にするギフト。
次元の狭間という人が行き来出来ない場所に人を監禁する能力を持つ。
彼らが人拐いを簡単に出来るのも、アフォルスのギフトが関係していた。
8人もの人間を牢獄に引きずり込む彼は、世界の大富豪からは重宝されている力であった。
「まずは、1人ゲット!」
「この馬鹿っ!」
「え…………?」
アフォルスがギフトの発動と同時に1人の女子生徒が消えていく。
呆然と動けなくなった朱と蒼の瞳は確かに、人が消える瞬間を目撃した。
「岬先輩……?どうして?」
「なんだよ、庇って次元に落ちてったか。でも大丈夫だよ。俺が後で暗い次元からお友達を出してやるからさ」
「先輩……」
「ほら、次はお前だ。チョロチョロ逃げやがってよぉ!」
「あ……」
麻衣が消えたショックから抜け出せないまま、茜も捕まれてしまい、次元に落ちていく。
4人がいた地は、白目を向いて倒れているジョンと汗をかきながらも生き残ったアフォルスの2人が残された。
「兄貴は失ったが別に良いや。俺のギフトありきなのに報酬7:3とかふざけた取り分しやがってよぉ!」
茜のギフト『絆断ち』の効果は、未だ途切れていなかった。
◆
「てかさ、先輩に助けられて5秒で次元に飛ばされるあんたふざけてない?」
「仕方ないじゃないですか……。自分も怖かったんですよ」
8人を閉じ込める『次元牢獄』の中で麻衣と茜は早すぎる再会を果たしていた。
本当に何もない空間であり、茜は『1億年ボタンなんてものがあるならこんな場所に飛ばされるのだろうか?』と他人事のように考えてしまう。
岬麻衣の姿は確認出来るも、周りは漆黒ばかりの異空間。
アフォルスに出してもらえるころには、売られるか殺されるかするだろう。
「岬先輩はなんで自分を庇ったんすか?ご自慢の電撃ぶっぱなしてたら殺せましたよね?」
「あれ範囲攻撃だから。出したら茜も巻き込んで殺してたわよ」
「躊躇ったんすか?」
「味方は殺さない主義なの。クソ雑魚だけど、生意気だけど、弱虫後輩だけど味方認識くらいはしてあげたってのに。普通そこは覚醒するとこっしょ」
「それは悪かったですね先輩」
寝そべりながら麻衣も茜も諦めたように宙に浮かばれていた。
外に出る手段もないし、無駄な体力を使わないようにしていた。
「因みに、ギフト狩りの仲間が誰も応援に来ないって本当ですか?自分たち、このまま見捨てられるっすか?」
「マジマジ。ギフト狩りの仲間なんか助けに来ないよ。断ったし」
「敗因、先輩の傲慢じゃないっすか」
「ただ──」
「ただ?」
麻衣も茜に合わせるように淡々と事実を述べていく。
「──ギフト狩りじゃない仲間は配置してる」
─────
「うし。じゃあ次の獲物狙いに行くか」
兄の亡骸に興味なさそうに立ち上がった時だ。
また新たに2つの影がアフォルスの前に姿を現す。
「まったく。岬は何やっているんだ。我はもうギフト狩りに関係ないのに」
「あたしがまさかギフト狩りの手伝いをすることになるとはな……。が、こういう悪党はあたしの獲物だ」
「なっ!?新手か!?」
長髪の黒髪を伸ばし、くノ一装飾に身を包んだ少女と、赤髪のポニーテールを伸ばし胸元に光るペンダントをぶら下げた少女が彼の前に立ちふさがっていた。
「OH!ジャパニーズHENTAI!」
「変態ではない忍だ」
驚いた外国人であるアフォルスへゆりかは戦闘体勢の構えをとった。
上松ゆりか、久々の忍スタイルで参上馳せ参じる。
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